外傷後VTE予防:出血を恐れて待つ間に、何を再評価するか

外傷後VTE予防 — PTD ZERO

外傷後の静脈血栓塞栓症(VTE)予防は、一律の開始日を決める問題ではない。出血の危険が下がったかを毎日見直し、薬物予防を始められない間は機械的予防でつなぎ、処方後の未投与も減らす運用の問題である。本稿は成人の入院外傷患者を対象に、頭部外傷・実質臓器損傷・脊髄損傷での開始時期、エノキサパリンの用量、下大静脈(IVC)フィルター、骨折患者のアスピリン(PREVENT CLOT試験)を原著の数値で整理し、国内の添付文書・指針との対応を示す。

  • VTE予防
  • 低分子量ヘパリン
  • PREVENT CLOT
  • 頭部外傷
  • IVCフィルター

医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。

目次

まず押さえる要点

  1. 待つ間も予防を止めない。WTA 2020は、防げる開始の遅れと未投与を避けることを、すべての外傷センターが重視すべき点とし、薬物予防が禁忌の患者には間欠的空気圧迫(IPC)を推奨する[1]。外傷・一般外科の入院患者202例では58.9%が1回以上エノキサパリンを投与されておらず、DVTは未投与ありで23.5%、なしで4.8%だった[2]。処方の有無ではなく、実際に投与されたかを毎日確かめる。
  2. 頭部外傷は、再CTの安定を条件に「24〜72時間」が指針の目安。WTAは、CTが安定した患者の大半は24時間以内に開始してよく、ほぼ全例が受傷72時間以内に予防を受けるべきとする[1]。AAST 2021は入院後24〜72時間、出血の安定と脳神経外科との協議を条件とする[3]。本稿で確認できた無作為化試験は、早期のエノキサパリンとプラセボを比べた62例の予備試験だけで、根拠の多くは観察研究である[4][5]。
  3. 実質臓器損傷の非手術管理(NOM)中は、止血の確認を開始条件にする。AAST 2021は、進行する出血がなければ受傷48時間以内に低分子ヘパリン(LMWH)を開始すべきとする[3]。一方、観察研究のメタ解析では、48時間未満の開始はDVTの減少(OR 0.36)と同時に、NOM失敗の増加(OR 1.76、95%CI 1.01〜3.05、確実性は低い)とも関連した[6]。grade IV〜Vの損傷のデータは乏しい[3]。
  4. 海外の「標準量」は、国内の添付文書の量とは違う。外傷の主な試験はエノキサパリン30mg 1日2回を用い[7][8]、WTAは多くの患者で40mg 1日2回を標準とする[1]。国内のクレキサンは1回2000IU(20mg)を1日2回で、効能は股関節全置換術・膝関節全置換術・股関節骨折手術と、VTEの発症リスクの高い腹部手術に限られ、外傷そのものは含まれない[9][10]。
  5. IVCフィルターとアスピリンは、対象を限って読む。抗凝固薬が禁忌の重症外傷240例の無作為化試験で、早期の予防的フィルター留置は90日の症候性PEまたは死亡を有意には減らさなかった(13.9%対14.4%、HR 0.99、95%CI 0.51〜1.94)[11]。骨折患者12,211例のPREVENT CLOTでは、アスピリンは90日死亡でLMWHに非劣性だったが、DVTはアスピリン群で多かった(差0.80ポイント、95%CI 0.28〜1.31)[8]。国内のアスピリンにVTE予防の効能はない[12]。

対象と扱わない範囲

対象:入院した成人外傷患者のうち、深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症(PE)をまだ診断していない患者の一次予防。救急外来から入院中までの、予防の開始・継続・中断の判断を扱う。多くの研究は18歳以上を対象とし、AAST/ACS-COT(米国外傷外科学会/米国外科学会外傷委員会)の2022年の入院中予防プロトコルは15歳以上を対象とする[13]。

扱わない範囲:

1.なぜ「出血が落ち着くまで待つ」だけにしないのか

予防を行わなかった外傷入院716例の前向き研究(Geerts 1994)では、静脈造影を評価できた349例のうち201例(58%)に下肢DVT、63例(18%)に近位DVTがあった。静脈造影の前に3例が広範なPEで死亡している。DVTは頭部外傷の91例中49例(53.8%)、脊椎損傷の66例中41例(62%)、骨盤骨折の100例中61例(61%)、大腿骨骨折の74例中59例(80%)にみられ、脊髄損傷はDVTの独立した危険因子だった(OR 8.59、95%CI 2.92〜25.28)[14]。症状の有無によらず静脈造影で探した頻度である。

国内では、日本外傷データバンク(JTDB)の2004〜2017年の155,525例で、外傷後のPEは772例(0.5%)だった。この登録には機械的・薬物的予防の有無が記録されていない[15]。

予防の効果は、主にDVTの減少として示されてきた。Cochraneレビュー(無作為化試験16件・3,005例、検索は2009年4月まで)では、予防はDVTを減らした(RR 0.52、95%CI 0.32〜0.84)が、死亡やPEを減らすという根拠は見つからなかった[16]。

本稿の解釈開始を遅らせる判断は「何もしない」ことではなく、DVTの増加を受け入れる判断である。保留するなら、その理由、代わりの予防、次に見直す時刻を決めておく。

2.毎日の再評価:何を確認し、何を記録するか

WTA 2020のアルゴリズムは、ISS 10以上ならできるだけ早く薬物予防を始めることが示唆されるとし、脊椎・骨盤骨折、静脈損傷の修復、VTEの既往、先天性の凝固異常を高リスクに挙げる。歩行でき短期入院の軽症患者は薬物予防が不要な場合があるが、歩ける能力があっても酩酊や抑制などでベッド上にいる患者には予防を行うべきとする[1]。

開始を遅らせ得る理由として、活動性出血、凝固障害、循環の不安定、実質臓器損傷、頭部外傷、脊椎外傷を挙げるが、これらの患者でも遅れはごく短くてよいとする。手術予定を理由に定型的に保留するのは少数の例外を除いて脳・脊椎手術に限られ、術前の薬物予防は安全でVTEを減らすとしている。多くの外傷患者で、入院中は中断のない投与を標準とすべきとする[1]。

未投与は「予防していない時間」

外傷・一般外科の入院患者202例を前向きに追い、定めた手順でDVTを検査した研究(Louis 2014)では、全体のDVTは15.8%だった。58.9%が少なくとも1回エノキサパリンを投与されておらず、DVTは未投与ありで23.5%、なしで4.8%(P<.01)だった。ロジスティック回帰分析で独立した危険因子とされたのは、50歳以上と投与の中断だけだった[2]。WTAは、2回の未投与でDVTのリスクが8.5倍になり、頭部外傷では投与の中断でVTEが約600%増えると記載している[1]。

機械的予防の役割と限界

WTAは、薬物予防に禁忌がある患者にIPCを推奨し、中〜高リスクでは薬物予防と併用することも勧める。下肢静脈エコーによる全例のスクリーニングは不要とし、薬物予防を始められない・続けられない高リスク患者では週1回のエコーが有用な場合があるとする[1]。

効果には限界もある。Cochraneレビューでは、機械的予防はDVTを減らした(RR 0.43、95%CI 0.25〜0.73)が、薬物予防のほうが機械的予防より有効だった(RR 0.48、95%CI 0.25〜0.95)[16]。薬物予防を受けているICU患者2,003例(外傷に限らない)の無作為化試験PREVENTでは、1日18時間以上のIPCを追加しても近位DVTは有意には減らなかった(3.9%対4.2%、RR 0.93、95%CI 0.60〜1.44)[17]。

本稿の解釈IPCの主な役割は、薬物予防を使えない期間の代わりである。WTAは併用も勧め、併用で症候性PEが少なかったとする報告を挙げるが[1]、薬物予防への上乗せを無作為化で確かめた上記のICUの試験では、近位DVTの有意な減少はみられなかった[17]。

毎日の確認表

毎日の確認記録の例
何を予防しているかVTE予防であり、診断済みの血栓の治療ではない
今日始められる根拠再CT、Hbと輸血、循環、止血処置後の状態、担当科との協議
保留する理由具体的な出血の懸念と、次に確認する項目・時刻・担当者
実際に投与されたか未投与の回数と理由(処置、指示の保留、本人の拒否など)、再開の担当者
機械的予防IPCの装着時間、使えない部位とその理由
用量体重、腎機能(クレアチニンクリアランス)、年齢、抗Xa活性を測るか

この表は、上記の指針と研究を記録の項目に置き換えた編集部の整理であり、検証された評価法ではない。

3.頭部外傷:時計と再CTを一緒に見る

指針の目安

  • WTA 2020:CTが安定した頭部外傷患者の大半は24時間以内にエノキサパリンを開始してよく、ほぼ全例が受傷72時間以内に薬物予防を受けるべきとする。追跡CTで出血が進行した場合は、進行がないと確認されるまで保留する[1]。
  • AAST 2021:入院後24〜72時間での開始を支持し、条件に頭蓋内・頭蓋外の出血の安定と脳神経外科との協議を挙げる[3]。
  • ACS TQIP 2015(修正Berne-Norwood基準):低リスク(中等度・高リスクの所見がない)は24時間のCTが安定なら開始、中等度リスク(硬膜下・硬膜外血腫8mm超、脳挫傷または脳室内出血2cm超、1葉に複数の脳挫傷、CT血管撮影で異常のあるくも膜下出血、24時間での進行)は72時間のCTが安定なら開始、高リスク(頭蓋内圧モニター留置、開頭術、72時間での進行)はIVCフィルター留置を考慮する(表の注は、指針の本文に記載した代替策も考慮するとしている)[18]。2024年の改訂版にも予防開始時期の節があるが、本文を取得できず内容は未確認である[19]。

研究の数値

  • DEEP I(2012、二重盲検の無作為化予備試験):2施設で、受傷6時間以内に来院し、あらかじめ定めた小さな損傷で24時間のCTが安定していた62例を、エノキサパリン30mg 1日2回(34例)とプラセボ(28例)に割り付け、受傷24〜96時間に投与した。画像上の悪化は5.9%対3.6%(差2.3%、95%CI −14.4〜16.5%)で、臨床的な悪化はなかった[4]。例数が少なく信頼区間が広いため、安全性を示したとは言えない。
  • Byrne 2016(米国TQIP、傾向スコア解析):頭部AIS 3以上かつGCS 8以下の単独重症頭部外傷で、LMWHまたは未分画ヘパリンによる予防を受けた3,634例。43%が72時間未満に開始した。傾向スコアで揃えた2,468例で、72時間未満の開始はPE(OR 0.48、95%CI 0.25〜0.91)とDVT(OR 0.51、95%CI 0.36〜0.72)の減少と関連し、後日の脳神経外科的介入や死亡の増加とは関連しなかった[5]。
  • Shuja 2025(観察研究のメタ解析):20研究・87,726例。早期の定義は入院24・48・72時間以内のいずれかで、早期開始はVTE(OR 0.38、95%CI 0.30〜0.48)、DVT(OR 0.32、95%CI 0.25〜0.41)、PE(OR 0.39、95%CI 0.31〜0.49)、死亡(OR 0.71、95%CI 0.53〜0.97)の低下と関連した。ただし死亡の低下が有意だったのは48時間以内の区分だけで、24時間以内と72時間以内の区分では有意差に達しなかった。出血の進行には有意差がなかった(OR 0.98、95%CI 0.70〜1.37)[20]。
  • CLOTT研究の二次解析(2026):前向き多施設研究のうち、緊急の脳神経外科手術を受けた頭部外傷238例(97.9%が開頭術または減圧開頭術)。72時間以内の開始(58.8%)と72時間超を比べ、VTEは10.7%対16.3%(p=0.28)で、解析モデルでもVTEの有意な減少は示されず(OR 0.74、95%CI 0.33〜1.67)、出血(OR 0.79、95%CI 0.24〜2.57)や頭蓋内出血の進行(OR 1.10、95%CI 0.30〜4.03)の増加も示されなかった[21]。

本稿の解釈早く始められた患者は、もともと再CTが安定していた患者である(適応による交絡)。観察研究で出血の進行が増えなかったことは、進行中の出血を含む全例で安全という意味ではない。開始の条件(再CTの所見、神経所見、手術・頭蓋内圧モニターの予定)と、保留した場合に次に見直す時刻を記録する。

国内の電子添文の注意

ヘパリンカルシウム製剤の電子添文は、特定の背景を有する患者に関する注意(9.1.3)で、「中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者」に「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」とし、ヘパリンナトリウム製剤も同じ項に同じ文言を掲げる[22][23]。フォンダパリヌクスは「頭蓋内出血後」の日の浅い患者を[24]、エノキサパリンは「脳・眼科手術後日の浅い患者」を[9]、出血のおそれがある患者に挙げる。頭部外傷後に早く始める場合は、海外の指針の条件に加えて、こうした注意と照らした判断の理由と、脳神経外科との協議の内容を記録しておきたい。

4.実質臓器損傷の非手術管理中:止血の確認を条件にする

AAST 2021は、NOM中の鈍的実質臓器損傷では、進行する出血や他の禁忌がなければ受傷48時間以内にLMWHを開始すべきとし、grade IV〜Vの損傷の成績はデータが乏しいと注記している[3]。WTAは、12〜24時間以内の早期予防が、中等度のAAST gradeの肝・脾・腎損傷で、介入や輸血を要する出血を増やさず安全と思われたとまとめている[1]。

ただし、研究の結果は一方向ではない。

  • Lamb 2022(メタ解析):コホート研究10件(後ろ向き9件、前向き1件)・4,642例。入院から48時間未満の開始は、開始後に止血のための手術またはIVRを要した「NOM失敗」の増加と関連した(OR 1.76、95%CI 1.01〜3.05、p=0.05、確実性は低い)。DVTは減少し(OR 0.36、95%CI 0.22〜0.59、確実性は中等度)、PE(OR 0.58、95%CI 0.27〜1.25)、輸血(OR 1.56、95%CI 0.55〜4.48)、死亡(OR 1.50、95%CI 0.82〜2.75、確実性は非常に低い)には有意差がなかった。原著は、すべてが観察研究であること、開始が遅い群ほどISSやAAST gradeが高く適応による交絡を避けられないこと、症候性のVTEしか拾っていないことを限界に挙げている[6]。
  • Rafieezadeh 2025(米国TQIP、2017〜2019年):NOMを受けた成人の重症の鈍的実質臓器損傷23,668例で、48時間以内の開始は42.2%。傾向スコアで揃えた後、48時間以内の群と48時間超の群の比較で、死亡は1.9%対2.5%、NOM失敗は11.8%対14.6%と、48時間超の群で多かった[25]。抄録では「重症」の定義を確認できなかった。

本稿の解釈二つの結果は逆向きに見えるが、どちらも「出血が続いたので開始が遅れた」のか「開始した後に出血した」のかを、完全には切り分けられない。NOM失敗の多いgrade IV〜Vでは特に、循環、輸血の必要、Hbの推移、塞栓術の後かどうか、再画像の所見を開始の条件として毎日確かめる。臓器ごとの経過観察は脾損傷の非手術治療と塞栓術、肝損傷の初期治療を参照。

国内で用いる日本外傷学会臓器損傷分類2008は、脾・肝・腎の損傷を深さと形態でⅠ〜Ⅲ型に分け、脾門部の血管損傷をHVと表記する[26]。上記の研究はAAST gradeで層別化しており、両者の対応は本稿では確認していない。研究や指針と照らすには、AAST gradeと、造影剤の血管外漏出・仮性動脈瘤の有無も記録しておくとよい。

5.脊髄損傷・脊椎手術・骨盤骨折

  • AO Spine 2017(急性脊髄損傷):急性期に抗凝固薬による予防を定型的に行うことを提案する(弱い推奨、根拠の質は低い)。薬剤はLMWHまたは固定した低用量の未分画ヘパリンを提案し、用量調整した未分画ヘパリンは出血が増えるおそれから提案しない。開始は可能なら受傷72時間以内を提案する(弱い推奨、根拠の質は低い)[27]。
  • WTA 2020:脊椎手術後・脊椎損傷後はできるだけ早く開始すべきで、72時間を超える遅れはVTEを大きく増やすとする[1]。
  • 国内の2004年予防ガイドライン:脊椎周囲に血腫がある場合は短期的に抗凝固療法は禁忌、脊髄損傷患者は知覚障害があるため長期のIPCは潰瘍などの皮膚障害を起こし得るので避けるべき、予防は可能な限り続ける必要がある、としている[28]。
  • 骨盤骨折:WTAは高リスクに挙げる[1]。予防なしの時代の研究ではDVTが61%にみられた[14]。手術を受けた四肢骨折と、手術の有無を問わない骨盤・寛骨臼骨折はPREVENT CLOTの対象である(8節)。止血の考え方は骨盤骨折出血、脊髄損傷の急性期管理は急性脊髄損傷の初期診療と集中治療を参照。

6.薬剤と用量:海外の標準量と国内の表示量

LMWHと未分画ヘパリン

  • Geerts 1996(二重盲検の無作為化試験):ISS 9以上で頭蓋内出血のない成人344例を、受傷36時間以内から未分画ヘパリン5,000単位またはエノキサパリン30mgを12時間ごとに皮下注する群に割り付けた。14日目までの静脈造影を評価できた265例(ヘパリン136例、エノキサパリン129例)で、DVTは44%対31%(P=0.014)、近位DVTは15%対6%(P=0.012)だった。大出血は6例(1.7%)で、ヘパリン群1例、エノキサパリン群5例(P=0.12)だった[7]。
  • Tran 2022(系統的レビュー・メタ解析):無作為化試験4件(879例)の統合で、LMWHは未分画ヘパリンよりDVT(RR 0.67、95%CI 0.50〜0.88)とVTE(RR 0.68、95%CI 0.51〜0.90)を減らした(確実性は中等度)。観察研究8件(306,747例)ではPE(調整OR 0.56、95%CI 0.50〜0.62)と死亡(調整OR 0.54、95%CI 0.45〜0.65)の低下と関連したが、確実性は低い。有害事象(RR 0.80、95%CI 0.48〜1.33)とヘパリン起因性血小板減少症(RR 0.26、95%CI 0.03〜2.38)への影響は不確かである[29]。

EASTの成人外傷のVTE予防の実践管理指針は2002年に公表されたもので、ISS 9超で抗凝固薬を使える外傷患者にLMWHを勧めるなどの内容である(Level III)[30]。本稿では、より新しいWTAとAASTの記載を中心にした。

エノキサパリンの量と抗Xa活性

  • WTA 2020:30mg 1日2回では予防が不十分なことが多いとして、多くの外傷患者で40mg 1日2回を標準と考えるべきとする。18〜65歳・体重50kg超・クレアチニンクリアランス60超では40mg 1日2回、65歳超・50kg未満・クレアチニンクリアランス30〜60では30mg 1日2回で始める(クレアチニンクリアランスの単位は原文でmg/dlと表記)。体重に基づく量(0.5または0.6mg/kg 1日2回、あるいは50〜60kgで30mg・61〜99kgで40mg・100kg超で50mg)も挙げ、抗Xa活性の目標をピーク0.2〜0.4 IU/mL、トラフ0.1〜0.2 IU/mLとする。末期腎不全やクレアチニンクリアランス30未満では、未分画ヘパリン5,000単位8時間ごとを開始してよいとする[1]。
  • AAST 2021:よく使われる量として未分画ヘパリン5,000単位8時間ごと、エノキサパリン30mg 12時間ごとを挙げる。BMI 30超では体重に基づく量を許容できる方法とし、予防域の抗Xa活性を0.2〜0.4 IU/mLとする。一方で、抗Xa活性で量を調整してVTEが減るかを判断する根拠は不十分としている[3]。
  • Ko 2016(単施設、過去の対照との比較):30mg 1日2回を3回以上投与した後の抗Xaトラフ値で量を調整した87例と、調整しなかった過去の118例を比べた。調整群の83.9%(73/87)でトラフが予防域に届かず、65.5%(57/87)が40mg 1日2回を要した。症候性VTEは1.1%対7.6%(P=.046)で、輸血に有意差はなかった(6.9%対12.7%、P=.18)[31]。無作為化されていない比較である。

国内のクレキサン皮下注キットは1シリンジ(0.2mL)中2000IU(抗第Xa因子活性)で、1回2000IUを12時間ごとに投与する[9]。英国のClexane(同じエノキサパリンナトリウム製剤)の製品情報は、2,000IUを20mgと併記している[10]。つまり国内の表示量は、外傷の主な試験の30mg 1日2回[7][8]やWTAの40mg 1日2回[1]より少ない。この量で国内の外傷患者の効果と安全性を検討した研究は、本稿の検索では見つからなかった。

7.IVCフィルター:予防の代わりにしない

Ho 2019は、ISS 15超で抗凝固薬が禁忌の重症外傷240例を、入院後72時間以内のフィルター留置と非留置に割り付けた多施設の無作為化試験である。年齢中央値は39歳、ISS中央値は27で、全例に2週時の下肢エコーを行った。主要評価項目の90日の症候性PEまたは全死亡は13.9%対14.4%で、フィルター群で有意に低くはならなかった(HR 0.99、95%CI 0.51〜1.94、P=0.98)。副次評価項目として、7日以上生存し受傷7日以内に予防的抗凝固を受けなかった患者(フィルター群46例、対照群34例)では、8〜90日の症候性PEが0例対5例(14.7%、うち1例死亡)だった(相対リスク0、95%CI 0.00〜0.55)。フィルター内に捕捉された血栓は6例にみられた[11]。

指針の扱いは分かれる。WTAは予防的留置を推奨しない[1]。AAST 2021は、議論があるとしながら、出血リスクのため長期間化学的予防を受けられない超高リスク患者では考慮すべきとし、PEのリスクが過ぎたら留置後1〜2か月で抜去すべきとする[3]。ACS TQIP 2015は高リスクの頭部外傷で留置の考慮を挙げていた[18]。EASTはIVCフィルターの指針の改訂を作業中の一覧に載せている[32]。

本稿の解釈副次評価項目でのPEの差は仮説にとどまり、主要評価項目では差が示されていない。留置するなら、抜去の予定と担当を決め、抗凝固の開始を並行して毎日検討する。

8.骨折患者のアスピリン:PREVENT CLOTの読み方

対象と方法:21の外傷センターで行われた実践的な多施設非劣性試験で、非盲検である。18歳以上で、手術を受けた四肢骨折(股関節から足部中央、肩から手関節まで)または骨盤・寛骨臼骨折(手術の有無を問わない)の患者を対象とした。受傷から48時間を超えて来院した患者、同意前に3回以上の予防投与を受けた患者、受傷前に高用量アスピリンを内服していた患者、6か月以内にVTEと診断された患者、入院時に治療量の抗凝固を受けていた患者、慢性の凝固異常がある患者などは除外された[8][33]。入院中はエノキサパリン30mg 1日2回またはアスピリン81mg 1日2回を投与し、退院後の予防は各施設のプロトコルに任せた。入院中の投与回数は平均8.8回、退院時の処方は中央値21日分だった[8]。

主要評価項目:12,211例(アスピリン群6,101例、LMWH群6,110例、平均年齢44.6歳)。90日の全死亡はアスピリン群47例(0.78%)、LMWH群45例(0.73%)で、差は0.05ポイント(96.2%CI −0.27〜0.38)、非劣性マージン0.75ポイントに対してP<0.001だった[8]。96.2%CIは、2回の中間解析のために有意水準を調整したためである。マージンは患者232人の離散選択実験と外科医25人への調査から決めた[33]。

副次評価項目(アスピリン群対LMWH群):

  • DVT:2.51%対1.71%(差0.80ポイント、95%CI 0.28〜1.31)[8]。最終報告書では、近位DVTの差は0.25ポイント(95%CI −0.12〜0.62)、遠位DVTの差は0.58ポイント(95%CI 0.20〜0.96)だった[33]。
  • 致死的でないPE:最終報告書では各群90例(1.49%)で、差0.00ポイント(95%CI −0.43〜0.43)[33]。
  • 出血合併症:最終報告書では13.72%対14.27%(差−0.54ポイント、95%CI −1.78〜0.69)[33]。

研究者が挙げた限界(最終報告書):非盲検のため副次評価項目に診断の偏りが入り得ること、退院後の予防の基準と期間を定めていないこと、同意前に2回までのLMWHを許容したこと、主要評価項目を登録開始後(プロトコル公表前)にPE関連死から全死亡へ変更したこと[33]。

二次解析(2025年、事後解析):頭部・腹部・脊椎・胸部の損傷、多発外傷、肥満、高齢者の大腿骨骨折など11の集団で、多重比較で補正した有意水準(P<0.001)に達した比較はなかった。通常のP<0.05を下回ったのは、頭部損傷(死亡の差−3.2%、95%CI −6.1〜−0.3)と脊椎損傷(−6.0%、95%CI −11.7〜−0.3)でアスピリン群の死亡が少なかったこと、頭部損傷・胸部損傷・ISS 16超で遠位DVTがLMWH群で少なかったことである[34]。事後解析であり、仮説にとどまる。

本稿の解釈この試験が示したのは、比較的若い骨折患者での「死亡についての非劣性」であり、DVTはアスピリン群で多かった。出血が続いている患者や、頭部外傷・実質臓器損傷で開始を待っている患者の問題に答える試験ではない。WTA 2020は、この試験より前から、注射を拒む単独の整形外科外傷でアスピリンを考慮してよいとしていた[1]。国内ではアスピリンの効能・効果にVTE予防はなく[12]、比較対照のLMWHの量も国内の表示量(2000IU 1日2回)より多い[9]。結果をそのまま国内の処方に置き換えることはできない。

指針の比較表

表はスマートフォンでは横にスクロールして読む。「—」はその指針の対象外、「未確認」は本稿で確認できなかった項目。

指針(年)対象頭部外傷実質臓器損傷脊髄・脊椎用量IVCフィルター
WTA(2020)[1]18歳以上の外傷CT安定なら大半は24時間以内、ほぼ全例72時間以内。進行があれば保留12〜24時間以内が中等度gradeで安全と思われたできるだけ早く。72時間超の遅れでVTE増加エノキサパリン40mg 1日2回を標準。高齢・低体重・腎機能低下は30mg 1日2回。抗Xa活性の目標値を提示予防的留置は推奨しない
AAST合意文書(2021)[3]外傷ICU入院後24〜72時間。出血の安定と脳神経外科との協議進行する出血がなければ受傷48時間以内。grade IV〜Vはデータ不足未確認エノキサパリン30mg 12時間ごと、未分画ヘパリン5,000単位8時間ごと。BMI 30超は体重に基づく量も可長期間化学的予防ができない超高リスクで考慮。1〜2か月で抜去
ACS TQIP(2015)[18]頭部外傷修正Berne-Norwood基準。低リスク24時間、中等度リスク72時間のCT安定で開始——未確認高リスク頭部外傷で考慮
AO Spine(2017)[27]急性脊髄損傷——可能なら72時間以内(弱い推奨)LMWHまたは固定低用量の未分画ヘパリン未確認
国内の予防ガイドライン(2004)[28]日本人成人の入院患者意識障害の遷延する頭部外傷を高リスク群に含む止血が完了していない時期は弾性ストッキング・IPC脊椎周囲に血腫があれば短期的に抗凝固は禁忌。長期のIPCは避ける低用量未分画ヘパリン未確認

根拠の比較表

表はスマートフォンでは横にスクロールして読む。「主な結果」は「介入・比較」の列と同じ順に並べた。

出典(年)デザイン対象介入・比較主な結果限界と診療への意味
Geerts(1994)[14]前向きコホート外傷入院716例(予防なし)—静脈造影349例でDVT 58%、近位18%。脊髄損傷はOR 8.59単一の外傷ユニット。無症候のDVTを含む。予防が必要な理由の根拠
Geerts(1996)[7]二重盲検RCTISS 9以上・頭蓋内出血なし344例未分画ヘパリン5,000単位 対 エノキサパリン30mg(12時間ごと)DVT 44%対31%、近位15%対6%。大出血1例対5例(P=0.12)評価は静脈造影のDVT。頭蓋内出血例を除外
Barrera(2013、Cochrane)[16]RCTの系統的レビュー16試験・3,005例予防あり 対 なし、方法どうしの比較DVT RR 0.52。死亡・PEを減らす根拠なし検索は2009年まで
Tran(2022)[29]系統的レビュー・メタ解析RCT 4件879例+観察研究8件306,747例LMWH 対 未分画ヘパリンDVT RR 0.67(確実性中等度)。PE・死亡の低下は観察研究のみ(確実性低)量と開始時期の異同は抄録では未確認
Byrne(2016)[5]後ろ向き(TQIP、傾向スコア)単独重症頭部外傷3,634例72時間未満 対 72時間以上の開始PE OR 0.48、DVT OR 0.51。後日の脳神経外科的介入・死亡の増加なし観察研究。適応による交絡
Phelan(2012、DEEP I)[4]二重盲検RCT(予備試験)小さく安定した頭部外傷62例エノキサパリン30mg 1日2回 対 プラセボ画像上の悪化5.9%対3.6%(差2.3%、95%CI −14.4〜16.5)例数が少なくCIが広い。低リスク例に限る
Shuja(2025)[20]メタ解析観察研究20件・87,726例(頭部外傷)早期 対 遅い開始(区切りは研究ごと)VTE OR 0.38、死亡OR 0.71。出血の進行OR 0.98(有意差なし)すべて観察研究。早期の定義が不統一。死亡の低下は48時間以内の区分のみ有意
Wu(2026、CLOTT)[21]前向き多施設研究の二次解析緊急脳神経外科手術を受けた頭部外傷238例72時間以内 対 72時間超の開始VTE 10.7%対16.3%(OR 0.74、95%CI 0.33〜1.67)。出血・頭蓋内出血進行の増加は示されず例数が少なく、利益も害も確定しない
Lamb(2022)[6]メタ解析コホート10件・4,642例(実質臓器損傷のNOM)48時間未満 対 48時間以上の開始NOM失敗OR 1.76(95%CI 1.01〜3.05)。DVT OR 0.36すべて観察研究。遅い群ほど重症
Rafieezadeh(2025)[25]後ろ向き(TQIP、傾向スコア)重症の実質臓器損傷のNOM 23,668例48時間以内 対 48時間超の開始死亡1.9%対2.5%、NOM失敗11.8%対14.6%Lambと逆向き。抄録のみ確認
Ko(2016)[31]単施設、前向き群と過去の対照外傷205例抗Xaトラフで調整 対 30mg 1日2回の固定症候性VTE 1.1%対7.6%(P=.046)。調整群の83.9%がトラフ低値無作為化されていない
Louis(2014)[2]前向き観察外傷・一般外科202例未投与あり 対 なしDVT 23.5%対4.8%単施設。一般外科を含む
Arabi(2019、PREVENT)[17]RCTICU 2,003例(外傷に限らない)薬物予防+IPC 対 薬物予防のみ近位DVT 3.9%対4.2%(RR 0.93、95%CI 0.60〜1.44)外傷に特化していない。IPC単独の比較ではない
Ho(2019)[11]RCTISS 15超・抗凝固禁忌の240例72時間以内のIVCフィルター 対 なし90日の症候性PEまたは死亡13.9%対14.4%(HR 0.99、95%CI 0.51〜1.94)副次評価項目のPEの差は仮説
PREVENT CLOT(2023)[8]非盲検・非劣性RCT骨折患者12,211例アスピリン81mg 1日2回 対 エノキサパリン30mg 1日2回90日死亡0.78%対0.73%(非劣性)。DVT 2.51%対1.71%比較的若い(平均44.6歳)。退院後は施設任せ。国内の効能・量と異なる
Tarpada(2025)[34]PREVENT CLOTの事後解析11の高リスク・骨折部位の集団アスピリン 対 LMWH補正後の有意水準に達した比較なし事後の多重比較で仮説にとどまる

評価時点について:Geerts 1996は14日目までの静脈造影、DEEP Iは治療開始24時間後のCT、PREVENT(Arabi)はICU退室・死亡・完全な離床・28日目のいずれかまで週2回の下肢エコー、Ho 2019とPREVENT CLOTは90日で評価した。Byrne、Shuja、Lamb、Rafieezadehの評価時点は、確認した抄録の範囲では明記がないか、研究ごとに異なる。

日本で実施するとき

国内の指針と外傷の扱い

国内の資料外傷の扱い(確認できた範囲)本稿の確認範囲
肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン(2004年、10学会・研究会)[28]重度外傷と、運動麻痺を伴う完全・不完全脊髄損傷を高リスクとし、IPCまたは低用量未分画ヘパリン。VTEの既往や血栓性素因があれば最高リスクとし、低用量未分画ヘパリンとIPC(または弾性ストッキング)の併用。止血が完了していない時期は弾性ストッキング・IPC、受傷部位の一次止血を確認したら低用量未分画ヘパリンを開始日本血栓止血学会サイト掲載のダイジェスト版
日本循環器学会ほか「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」[35]予防の章は一般外科・泌尿器科・婦人科・産科・整形外科・脳神経外科・内科の節で構成され、外傷の独立した節は目次にない目次のみ。外傷の扱いは未確認
日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会ほか「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」(現行版)[36][37]第4章「VTEの予防」(リスク評価、予防方法、各診療科での予防法、内科系入院患者)。解説論文によれば、周術期の外科・泌尿器科・婦人科領域で中リスク以上の予防法の推奨クラスがIIaからIへ変更された目次と解説論文。外傷の扱いは未確認
日本整形外科学会 症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017[38]各論に「大腿骨遠位部以下の単独外傷」「重度外傷(急性脊髄損傷,脊椎外傷,骨盤骨折,多発外傷)」の章がある目次のみ。推奨内容は未確認
JATEC(外傷初期診療ガイドライン改訂第6版)[39]改訂概要にVTE予防の記載は見当たらない改訂概要のみ。本文は未確認

本稿の解釈国内で外傷に特化した予防の記載として確認できたのは2004年の予防ガイドラインで、低用量未分画ヘパリンとIPCが中心である。海外の指針が重視するLMWHの早期開始、増量、抗Xa活性による調整について、確認できた範囲の国内の指針・電子添文には対応する記載がなかった。

国内の予防薬・関連薬と電子添文

「外傷での位置づけ」の列は、電子添文の効能・効果と照らした本稿の整理である。

薬剤(販売名、電子添文の版)予防に関わる効能・効果用法・用量開始時期・期間腎機能・主な注意外傷での位置づけ
エノキサパリン(クレキサン皮下注キット2000IU、2020年1月改訂 第1版)[9]下肢整形外科手術(股関節全置換術、膝関節全置換術、股関節骨折手術)、VTEの発症リスクの高い腹部手術1回2000IUを原則12時間ごとに1日2回皮下注原則、術後24〜36時間に手術創等からの出血がないことを確認して開始。15日間以上の有効性・安全性は未検討クレアチニンクリアランス30mL/min未満は禁忌。30〜50は慎重に判断し、出血の危険が高ければ1日1回。低体重・高齢で出血に注意外傷は効能にない。股関節骨折手術は効能内。量は海外の外傷試験(30mg 1日2回)より少ない
フォンダパリヌクス(アリクストラ皮下注1.5mg・2.5mg、2023年9月改訂 第1版)[24]VTEの発現リスクの高い下肢整形外科手術・腹部手術2.5mgを1日1回皮下注。腎障害では腎機能に応じて1.5mgに減量術後24時間を経過し、出血がないことを確認して初回投与。下肢整形外科手術は15日間以上、腹部手術は9日間以上の有効性・安全性は未検討クレアチニンクリアランス20mL/min未満は禁忌。20〜30は1.5mg、30〜50は2.5mgまたは出血の危険が高ければ1.5mg。頭蓋内出血後の日の浅い患者は出血に注意外傷は効能にない。術式の限定がないため、下肢の骨折手術は「下肢整形外科手術」に当たり得る
未分画ヘパリン(ヘパリンナトリウム注「AY」ほか、2024年12月改訂 第4版[23]/ヘパリンカルシウム皮下注「モチダ」、2024年7月改訂 第3版[22])血栓塞栓症(静脈血栓症、肺塞栓症、手術中・術後の血栓塞栓症等)の治療及び予防ナトリウム:皮下・筋注は1回5,000単位を4時間毎。カルシウム:手術後などに続発する静脈血栓症の予防には5,000単位を12時間ごとに7〜10日間皮下注—中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者には、治療上やむを得ない場合を除き投与しない効能に血栓塞栓症の予防を含む。海外で予防に使う皮下注5,000単位8時間ごとは、国内の皮下注の用法の記載とは一致しない
エドキサバン(リクシアナ錠、2025年11月改訂 第8版)[40]下肢整形外科手術(膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折手術)30mgを1日1回経口術後12時間を経過し、出血がないことを確認して初回投与。原則として術後の入院中に限る。15日間以上の有効性・安全性は未検討この効能ではクレアチニンクリアランス30mL/min未満は禁忌。30以上50未満は15mgへの減量を考慮外傷は効能にない。股関節骨折手術は効能内
アスピリン(バイアスピリン錠100mg、2026年1月改訂 第4版)[12]VTE予防の効能はない(狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管障害などでの血栓・塞栓形成の抑制など)———PREVENT CLOTの81mg 1日2回は国内の効能・用量と異なる
ダルテパリン(ダルテパリンNa静注「サワイ」、2025年5月改訂 第4版)[41]VTE予防の効能はない(血液透析時の凝固防止、汎発性血管内血液凝固症)静注——LMWHだが、予防の効能はない(静注製剤)

国内で処方するときの注意:海外の指針・試験の「エノキサパリン30〜40mg 1日2回」や「抗Xa活性を見た増量」は、国内の電子添文の用法・用量(2000IU 1日2回、腎機能による減量と禁忌)と一致しない。今回確認した予防薬の効能・効果に、外傷そのものを挙げたものはなかった。量と適応を施設のプロトコルで決め、腎機能と出血の状況を毎日確認する。

保険と施設体制

  • 肺血栓塞栓症予防管理料(B001-6、305点、令和8年度の点数表):PEを発症する危険性が高い入院患者に、弾性ストッキングまたは間歇的空気圧迫装置を用いて計画的な医学管理を行った場合に入院中1回算定でき、薬剤のみの予防管理では算定できない[42]。
  • 効能外の使用:効能・効果の外で使う場合は、院内の手続きと患者・家族への説明を確認する。保険審査での扱いは本稿では未確認である。
  • 毎日の再評価の担当:開始・保留・再開を誰が判断するか(外傷チーム、脳神経外科、整形外科、IVR)を決め、処置の後の再開指示が漏れない仕組みを作る。
  • 抗Xa活性:院内で測定でき、結果が投与の判断に間に合うかを確認する。国内での測定体制と保険上の扱いは本稿では未確認である。
  • IVCフィルター:留置した患者の一覧と抜去の予定を管理する。
  • 高齢者:腎機能と体重で量や禁忌が変わる。高齢者外傷の初期診療と回復支援も参照。

国内のデータ

JTDBを用いた入れ子型症例対照研究では、外傷後PEは0.5%で、PE 719例と対照3,595例の比較で、脊椎損傷(OR 1.40、95%CI 1.03〜1.89)、下肢の長管骨開放骨折(OR 3.69、95%CI 2.89〜4.71)、中心静脈カテーテル(OR 2.17、95%CI 1.44〜3.27)、何らかの手術(OR 4.48、95%CI 3.46〜5.81)がPEと関連した。登録に予防の有無は記録されていない[15]。国内の外傷患者で予防の開始時期や薬剤を比べた無作為化試験は、本稿の検索では見つからなかった。

まだ分からないこと

  • 頭部外傷での最適な開始時期。中等症〜重症の頭部外傷で、受傷3暦日以内の開始と7日目より後の開始を比べるベイズ適応型の無作為化試験のプロトコルが公表されている(LMWHはダルテパリン、共同主要評価項目は8日目の臨床的に重要なVTEと頭蓋内出血)[43]。米国TQIPの58,418例から早期予防に向く低リスク群を選ぶEViTBIも提案されたが、著者自身が関連を示す仮説生成的な結果で、前向きの検証が必要としている[44]。
  • grade IV〜Vの実質臓器損傷。早期開始とNOM失敗の関係は、観察研究で逆向きの結果があり[6][25]、無作為化試験はない。
  • 国内の量で足りるか。2000IU 1日2回での外傷患者の成績と、抗Xa活性の分布は確認できなかった。
  • IVCフィルターの位置づけ。EASTの指針の改訂が作業中である[32]。
  • 退院後の予防。AAST/ACS-COTは2024年に退院後予防のプロトコルを公表したが、本稿は抄録のみ確認で、推奨の詳細は未確認である[45]。
  • 国内指針での外傷の扱い。現行のJCS 2025の予防の章で外傷がどう扱われているかは、本文を取得できず未確認である[36]。確認でき次第、本稿を見直す。

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医学的内容の最終確認日・確認範囲

文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月25日)

医学的内容の最終確認日:2026年9月25日(著者確認)。文献照合日:2026年9月23日(文献検索も同日)。PubMed・PMCのページは開けなかったため、書誌と抄録は出版社、学会、Semantic Scholar、OpenAlex、Crossref、公的機関・データベースのページで確認した。OpenAlex(文献データベース)が公開する抄録の単語データから復元した抄録は語順が乱れることがあるため、数値が内部で整合するもの(例:62例のうち34例・28例と各群の割合)に限って用いた。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月25日に著者(医師)が確認した。検索記録は編集部で保管している。

  • 全文または該当箇所の全文を確認:[1] WTA 2020(学会公開PDF)、[3] AAST 2021(出版社サイト、オープンアクセス)、[6] Lamb 2022(出版社サイト、オープンアクセス)、[15] Iriyama 2021(出版社サイト)、[18] ACS TQIP 2015(修正Berne-Norwood基準の表)、[27] AO Spine 2017(推奨文)、[28] 国内の予防ガイドライン2004(ダイジェスト版)、[33] PREVENT CLOTの最終報告書(NCBI Bookshelf)、[37] 池田 2025(本文)。
  • 抄録のみ確認:[2] [5] [8] [11] [13] [17] [20] [21] [25] [29] [34] [43] [44] [45]。本文中の数値は抄録にある範囲に限った。ただし[20]の出血の進行のORは出版社ページの本文から、[21] [43] [44]は出版社ページの抄録で確認した。
  • 抄録のみ確認(OpenAlexの単語データから復元した抄録):[4] [7] [14] [31]。明瞭に読める数値だけを用いた。
  • 公式情報を確認:電子添文 [9] [12] [22] [23] [24] [40] [41](KEGG MEDICUS掲載分)、[10] 英国の製品情報、[16] Cochrane Libraryの抄録、[19] ACS公式PDF(VTEの節は取得できず)、[26] 学会公開PDF、[30] EASTの推奨ページ、[32] EAST公式ページ、[35] [36] ガイドラインPDFの目次、[38] 出版社の書誌・目次、[39] 改訂概要PDF、[42] 点数表の掲載ページ。
  • 未取得:AAST/ACS-COT 2022の本文(出版社サイトで閲覧できず、抄録のみ)、ACS TQIP 2024のVTEの節、JCS 2017・2025の予防の章の本文、日本整形外科学会ガイドライン2017の本文、PREVENT CLOT原著の本文と補足資料(PEと出血の差は最終報告書の値を用いた)。
  • 訂正・撤回:WTA 2020、PREVENT CLOT、Ho 2019、Tran 2022、Arabi 2019について、Crossrefの記録に訂正・撤回の登録はなかった。

更新履歴

更新履歴を開く(全4件・最新:2026年9月26日)
  • 2026年9月26日(表記):確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
  • 2026年9月25日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。
  • 2026年9月23日(改訂):原著と指針の照合にもとづき全面改訂した。冒頭の要点(条件つき5項目)と対象・扱わない範囲、未投与と機械的予防の数値、頭部外傷の指針(WTA・AAST・ACS TQIP)と研究(DEEP I、TQIP、メタ解析、CLOTT)、実質臓器損傷での逆向きの結果、脊髄損傷の指針、LMWHと未分画ヘパリンの比較と用量・抗Xa活性、IVCフィルターの無作為化試験、PREVENT CLOTの対象・非劣性マージン・死亡の差と信頼区間・DVT/PE/出血の差と信頼区間・限界・二次解析、指針と根拠の比較表、「日本で実施するとき」(国内の予防ガイドライン2004・JCS 2017/2025・日本整形外科学会2017・JATECとの対応、国内の予防薬6剤の電子添文、保険、施設体制、JTDBのデータ)、文献ごとの確認範囲を追加し、初稿の表示を外した。理由:国内の電子添文・指針との対応がなく、主要試験の効果量と信頼区間、文献の範囲、確認日と更新履歴が不足していたため。
  • 2026年9月23日(初回公開):ナラティブレビュー初稿として公開(WTA 2020、AAST 2021、PREVENT CLOTの3文献)。

本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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