PTD ZERO | 集中治療管理
ECMOの構造とカニュレーション完全解説|VV・VA・VAV、末梢・セントラル、挿入手順と合併症
回路の仕組みから血流方向、カニューレの位置、VA・VV・VAVの使い分け、末梢・中心送脱血、mixing pointと上半身低酸素、画像確認、導入後のトラブルまで。成人の救急・集中治療を想定した医療従事者向け実践ガイド。
著者:外傷外科医ベル(PTD ZERO)|作成日:2026年10月9日|AI編集による原稿:医師による最終確認前
注意:以下はECMOチームでの教育資料であり、カニュレーションを未経験者が単独実施するための手技指示ではありません。カニューレのサイズ、先端位置、アクセス方法、抗凝固量は患者の血管径、使用デバイス、心肺機能、施設手順書で決定します。
1.ECMOとは:回路を構成する6つの要素
ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)は血液を体外に導いてガス交換を行い、再び患者に戻す体外循環である。VV-ECMOは肺のガス交換を代替するが、直接的な心拍出量補助を行わない。VA-ECMOはガス交換と体循環補助の両方を担う。
図1:ECMO回路の血流(文字模式図)
患者の静脈(脱血) → 脱血カニューレ → 遠心ポンプ → 膜型人工肺・熱交換 → 送血カニューレ → VV:静脈/VA:動脈
図は血液の流路を示す。ポンプ・人工肺・熱交換器の実際の一体化や配置順序は機器ごとに異なる。青=脱血側、赤=送血側は便宜的表現で、回路の色を動静脈の判定に用いない。
- 脱血カニューレ:静脈から血液を回収。位置異常・容量不足で脱血圧過大、chatteringや流量低下が起こる。
- 遠心ポンプ:回転数で圧力差を作り血流を駆動。RPMを上げても前負荷不足では流量は増えず溶血などの危険が増す。
- 膜型人工肺:血液とガスを膜で隔てて酸素化とCO₂除去を行う。酸素供給・回路血流・sweep gas flowが重要。
- 熱交換器:血液温度を制御する。一般に人工肺と一体化した構造も多い。
- 送血カニューレ:VVでは静脈へ、VAでは動脈へ送る。
- 圧・流量モニター:回路血流、ポンプ前後圧、人工肺前後圧差、脱血側(人工肺前)静脈血酸素飽和度などを監視する。VV-ECMOでは再循環によりこの値が高く出るため、真の混合静脈血酸素飽和度とはみなさない。
血流量とガス流量は別:CO₂除去は主にsweep gas flowに依存する。酸素化は回路血流、人工肺性能、Hb、再循環、自己肺機能、心拍出量などの影響を受ける。sweepを上げることだけで血液流量不足は補えない。
2.VV-ECMO:末梢静脈カニュレーション
代表的な二管方式は大腿静脈から脱血+右内頸静脈から送血(femoro-jugular)、および両側大腿静脈方式(femoro-femoral)。単一のdual-lumen cannulaを右内頸静脈から挿入する方式もある。血管径、体位、頭頸部損傷、必要流量、リハビリ、画像ガイドの可否で選ぶ。
図2:VV二管方式(模式図)
大腿静脈内の多孔性脱血カニューレ → ポンプ/人工肺 → 内頸静脈から挿入した送血カニューレ → 右房へ向かう送血ジェット
注意:「大腿から入れるから先端は必ず右房」「内頸から入れるから先端は上大静脈」とは決めない。製品ごとの流入孔・送血孔の位置を参照し、経胸壁/経食道エコー・透視で位置を調整する。脱血と送血が近過ぎると再循環が増える。
大腿静脈―右内頸静脈方式
大腿静脈側の脱血孔を下大静脈系に配置し、頸静脈からの送血流を右房内・三尖弁方向へ向ける構成。穿刺部は二か所となるが、大腿―大腿方式に比べて脱血孔と送血孔の距離をとりやすい。ただしdual-lumen方式より再循環は生じやすく、先端間距離を画像で確認する。胸部・頭頸部外傷が強い場合、頸部アクセスの安全性を再検討する。
大腿静脈―大腿静脈方式
両側の大腿静脈を用い、適切な先端位置と脱血孔の位置関係をとる。成人でも実施可能だが再循環に注意する。「大腿静脈が2本だからVV」と短絡せず、各ラインの接続先を確認する。
右内頸静脈dual-lumen方式
1本で脱血・送血を行い、送血ポートを三尖弁方向に向ける方式。位置異常は致死的となり得るため、ELSOガイドラインはリアルタイムの透視または心エコーでの誘導を必須としている。ガイドワイヤーは三尖弁・右室へ迷入しやすく、下大静脈まで進んでいることを画像で確認してから拡張・留置する。右室穿孔、肝静脈への誤留置、再循環に注意する。
3.VA-ECMO:末梢カニュレーション
最も一般的なのは大腿静脈脱血→大腿動脈送血で、末梢VA-ECMO(femoro-femoral VA)。静脈カニューレは大腿静脈から下大静脈・右房方向に進める。動脈カニューレは大腿動脈から腸骨動脈方向に進め、逆行性血流として体循環へ送る。
図3:末梢VA回路(模式図)
右房・下大静脈(大腿静脈脱血) → ECMO → 大腿動脈送血 → 腸骨動脈・大動脈を逆行性に灌流
大腿動脈の太い送血カニューレは同側下肢への順行血流を減少させるため、遠位灌流カテーテル(DPC)を用いた下肢灌流を検討する。DPCは浅大腿動脈など下肢末梢方向へ送る。穿刺位置、回路の接続、側枝の流量・血栓閉塞を確認する。
大腿動脈送血にはDPCが必要?――下肢への順行性送血と予防的留置
大腿動脈送血の末梢VA-ECMOでは、太い送血カニューレが大腿動脈の内腔を占め、カニューレより末梢への血流を妨げる。さらにショック、末梢血管収縮、動脈硬化、血栓・解離が加わると、下肢虚血からコンパートメント症候群、筋壊死、切断に至り得る。その予防・治療に用いるのがDPC(distal perfusion catheter:遠位灌流カテーテル)である。[M1][M2]
図:大腿VA-ECMOと下肢への順行性送血
本稿オリジナルの機能模式図。具体的な回路接続、カニューレ先端位置と穿刺操作はデバイス・施設プロトコルに従う。
いつ留置するか:全例の絶対条件ではないが、予防的DPCを基本的に考慮
ELSOの成人VA-ECMOガイドラインは、大腿動脈送血時の同側下肢灌流を推奨している。DPCは一般に6–8 Fr程度を用い、超音波・透視または直視下に末梢側の浅大腿動脈へ留置する。可能ならVA-ECMO導入時に確保し、末梢のドプラ信号と灌流を確認する。15–17 Frなど比較的小径の動脈送血カニューレで末梢灌流が保たれる場合にはDPC不要と判断することもあるが、厳密な血流監視と迅速な救済的留置体制が前提となる。[M1][M2]
予防的DPCを検討する根拠として、22研究のシステマティックレビュー・メタ解析では下肢虚血のオッズが低かった(OR 0.31、95% CI 0.21–0.47)。一方、死亡率低下は示されておらず、主に非ランダム化研究からの推定である。「全例で必須」とも「NIRSが正常なら不要」とも短絡しない。[M3]
DPCが入っていても虚血は起こる
- DPC側枝の屈曲・閉塞・血栓、送血側枝flowの不足:回路が回っていても下肢灌流が確保されるとは限らない。DPC接続・流量と足側のドプラを再確認する。
- 下肢コンパートメント症候群:筋区画の緊満、腫脹、疼痛(覚醒患者)、運動・知覚障害、CK上昇などを評価し、遅れることなく血管外科・外科に相談する。
- ECMO低流量時・離脱試験中:本流からの分岐に依存するDPC流量も低下し得るため、離脱時にも下肢監視を継続する。
- VV-ECMOとVAV-ECMO:通常のVVは動脈送血がないためこの目的のDPCを要しない。VAVでも大腿動脈から送血している場合は下肢虚血に注意する。
下肢の監視方法は後述の「下肢NIRS・ドプラとDPC管理」にまとめた。[M1][M2]
VA導入後に見落とせない3つの病態
- 下肢虚血:ドプラ、皮膚所見、局所の酸素飽和度、乳酸、CKなどを総合し、末梢循環を継続評価する。
- 左室後負荷増加:大動脈弁が開かず左室拡張・肺水腫・左室血栓を生じる場合がある。脈圧、心エコー、肺うっ血を確認し、必要なら左室アンローディングを検討する。
- Harlequin syndrome:自己心拍出が回復しても肺酸素化が不十分なとき、上半身に低酸素血が灌流する。右橈骨動脈血液ガス・右手SpO₂・脳酸素化などで把握する。治療選択はV-AV ECMOの適応も参照。
3A.VA-ECMOの左室後負荷増加とLV unloading:いつ、どの方法で減負荷する?
大腿動脈送血の末梢VA-ECMOは、逆行性に大動脈へ血液を戻し、全身灌流を代替する。一方で、大動脈圧が上がるため自己左室が駆出するための抵抗(afterload:後負荷)が増加する。重症左室機能障害があると、aortic valve(AV)の開放が弱くなり、脈圧低下、左室拡張、左室・大動脈基部の血液うっ滞、左室血栓・大動脈基部血栓、PCWP上昇、肺水腫、冠灌流・心筋回復障害につながり得る。ECMOのflowが確保されていても、左室が適切に空になっているとは限らない。[LV1][LV2]
図:末梢VA-ECMOによる左室負荷の変化(独自概念模式図)
二つの作用は同時に起こる。よって左室後負荷が増えても、PCWPが全例で増えるとは限らない。矢印は量的効果を示さない。講演写真・既存図を転載したものではない。
① ECMO blood flowを上げるとLVEFは下がり、PCWPは上がる?
実験や心血管モデルでは、末梢VA-ECMOのflow増加による後負荷上昇が左室駆出量・LVEF低下を招き得る。LVEFはその時点の負荷条件に左右されるため、ECMO導入後のLVEF低下だけで心筋収縮能の不可逆的悪化と判断できない。左室の仕事量・収縮力と全身灌流を両立させるため、エコー・肺うっ血・脈圧・MAP・乳酸をセットで見る。[LV1][LV2]
ここで重要な更新がPAPO-Flow(Sauraら、JACC 2025)である。成人心原性ショック80例でECMO流量を2→4 L/minへ段階的に変化させたところ、後負荷は上昇したが、PCWPが20%以上低下したのは29/80(36%)、大きな変化がなかったのは46/80(58%)、20%以上上昇したのは5/80(6%)だった。静脈脱血に伴う右室前負荷・肺血流の低下が、左心系充満圧への影響を相殺したと解釈される。これは安定してflow変更に耐えられる患者を対象とした生理学的介入研究であり、「常に高flowが安全」「肺水腫を心配せず流量を上げてよい」という根拠ではない。[LV3]
要するに、VA-ECMOのflowは「必要な臓器灌流を満たす最低限に落とせばよい」という単純な操作でも、「上げれば必ず左室圧が悪化する」という決めつけでもない。心機能、血管抵抗、左室コンプライアンス、右室流出・肺血流、ECMO脱血量を評価したうえで個別に調整する。
② Unloadingを検討する所見:エコー・臨床・循環動態
unloadingの判断は単一閾値で決めない。 以下はCirculation 2023の専門的レビューに挙げられた評価の目安(expert review)であり、前向き試験で厳密に検証された「実施の絶対基準」ではない。[LV2]
| 評価 | 異常所見・参考値 | 何が問題か |
|---|---|---|
| 心エコー | AVが開放しない/間欠的、LVOT VTI <10 cm、左室径増大 | 左室駆出不十分、後負荷増加と左室拡張 |
| 心エコー | 左室・大動脈基部のspontaneous echo contrast(もやもやエコー)、左室血栓 | 血液うっ滞・塞栓症のリスク。血栓がある場合、デバイス選択にも制約 |
| 臨床 | 新規・増悪する肺水腫、泡沫状喀痰、胸部画像のうっ血、難治性心室性不整脈 | 左房圧・左室圧上昇と酸素化悪化の可能性 |
| 循環動態 | pulse pressure <15 mmHg、PCWP >18 mmHg | 拍動不足、左室充満圧上昇を疑う。ただし流量・血管抵抗・測定条件に依存 |
| 全身 | 低灌流・乳酸高値、乏尿などが並存 | 全身補助を犠牲にした安易なflow低減を避ける |
脈圧は末梢VAでは拍動性(native cardiac output)の代理指標になるが、心拍出量の正確な計測ではない。脈圧が15 mmHg以上でも血栓や肺水腫を否定できず、PCWPが18 mmHg以下でも肺水腫の全原因が消えるわけではない。AVの開放頻度、LVOT VTI、LV/RV径・機能、胸部画像、MAP、肺うっ血、PaO₂、必要に応じ肺動脈カテーテルを組み合わせ、時間変化を重視する。[LV1][LV2]
③ Unloadingの方法:まず保存的調整、必要時に機械的減負荷
酸素化・臓器灌流を保ちながら、まず原因治療、過剰な後負荷の是正、過剰な前負荷の除去を検討する。心エコー・MAP・乳酸・脈圧で許容されるときにECMO flowを適正化する。血圧が許せば血管拡張薬、収縮予備力があれば強心薬でAV開放を促す。容量過剰があれば利尿や限外濾過を検討する。ただし、ショックを悪化させるflow低減、過度の強心刺激、不必要な利尿は避ける。進行する肺水腫や左室拡張、AV閉鎖、心内うっ滞・血栓では機械的unloadingを早急に検討する。[LV1][LV2]
| 方法 | 作用機序と特徴 | 注意点・選択上の論点 |
|---|---|---|
| IABP | 拡張期バルーン拡張と収縮期直前の脱気で後負荷を軽減し、自己心拍出を補助。比較的低侵襲。 | 減負荷は相対的に弱く、ほぼ無拍動・AV閉鎖で重度に拡張したLVには不十分なことがある。大動脈疾患・高度AR・下肢虚血に注意。 |
| Impella(ECPELLA / ECMELLA) | 左室から大動脈へ能動的に送血し、LV容積・LVEDPを減らす。重度左室拡張の能動的減負荷に有力。 | 動脈追加アクセス、溶血、出血、下肢虚血、吸い付き、位置ずれ。LV血栓や機械弁などの禁忌・注意事項を機種別に確認。 |
| 経中隔左房カニューレ | 経中隔的にLAから血液を脱血回路へ引き、LA圧・肺うっ血を下げる。 | 穿刺時心タンポナーデ、位置・血流管理が必要。直接LV排液ではなく前負荷減少。 |
| 心房中隔裂開術(atrial septostomy) | LAからRA側へ血液を逃がして左心系圧を下げる。 | 血流勾配・右房圧に依存し、残存ASD・右側負荷などに注意。 |
| 外科的LV vent(心尖部・肺静脈・左房) | 外科的カニューレを用いてLV/左心系を直接減圧。開胸症例では導入しやすい場面。 | 出血・感染・穿刺損傷、再開胸、抗凝固の制約。 |
| 肺動脈脱血・vent | PAから脱血し肺循環への流入を減らすことで間接的に左室前負荷を軽減。 | 直接LV減圧ではなく効果は症例依存。挿入経路、回路構成、右心・肺循環を評価。 |
IABPとImpellaは作用機序が異なり、一律にどちらが優れているともいえない。心機能、必要減負荷量、AVの開放、左室血栓、末梢血管径、出血・TIC、既存のカニュレーション、心臓外科の体制で決める。ImpellaをVA-ECMOに併用する場合でも総循環流量だけでなくポンプ間のバランスを確認する。[LV2][LV4]
④ 実際に予後は改善するのか?:観察研究とRCTを分ける
| 研究 | 研究デザイン・人数 | 結果と限界 |
|---|---|---|
| EVOLVE-ECMO(2023) | RCT・60例。早期経中隔LA vent vs 従来管理。 | ECMO離脱70.0% vs 76.7%(有意差なし)。早期群では肺うっ血の改善が認められたが、離脱率の利益は証明されず。 |
| EARLY-UNLOAD(2023) | RCT・116例。早期LA vent(12時間以内) vs 必要時救済可能な従来群。 | 30日死亡46.6% vs 44.8%;HR 1.02(95% CI 0.59–1.74)。早期一律実施による死亡減少を示さず。 |
| 早期unloadingの1年追跡(2025) | EARLY-UNLOAD追跡114例。 | 1年死亡56.9% vs 57.1%;HR 0.97(95% CI 0.60–1.58)。差なし。 |
| 2024 network meta-analysis | 45観察研究・34,235例、IABP・pLVAD・LA ventなどを比較。 | 各種unloadingで低死亡率との関連があったが、非ランダム化・適応選択差のため因果的優越性を証明できない。 |
| 2026 target-trial emulation | 2施設264例、IABPまたはImpella。 | 60日死亡は差なし(調整リスク差1.4ポイント、95% CI −11.8〜14.6)。残余交絡・対象選択に限界。 |
一方、国際観察コホートではImpella併用群で死亡率が低いとの関連も報告されているが、「適切な患者に対する選択的unloading」と「全VA-ECMO患者への早期ルーチンunloading」は異なる問いである。左室拡張や肺水腫・うっ滞が実際に認められる患者への介入を否定する研究結果ではないが、全例への予防的機器追加は利益と出血・溶血・血管合併症を比較すべきである。[LV4][LV5][LV6][LV7][LV8][LV9]
- VA-ECMO中はMAP・乳酸だけでなく、右橈骨動脈ガス、脈圧、AV開放、LV径、肺うっ血、左室内うっ滞を定期評価する。
- AVが開かない、肺水腫が進行する、LV径が増える、LV/大動脈基部にsmokeや血栓がある場合は、原因治療とunloadingを検討する。
- 出血や全身低灌流がある場合、flowを一律に下げない。適正化できなければ心臓外科・循環器・ECMOチームでIABP/Impella/LA vent/外科的vent等を選択する。
- 減負荷後も流量、肺うっ血、AV開放、血栓、出血・溶血・下肢虚血を監視し、設定を再評価する。
関連:ECPRの導入後管理/脳・下肢・回路モニタリング/溶血の評価。上の判断・数値は成人VA-ECMOを中心にした教育的整理であり、施設プロトコル、各デバイス添付文書、臨床チームの判断を優先する。
3B.V-AV ECMO(VAV-ECMO):心肺両方を補助し、Harlequin症候群への対応を考える
V-AV ECMO(veno-arterial-venous ECMO。VAV-ECMOとも表記)は、同じ人工肺・ポンプからの酸素化血を動脈と静脈に分岐して返すhybrid configurationである。典型的には大腿静脈から脱血し、人工肺を通した血液を①大腿動脈と②右内頸静脈経由の上大静脈/右房近傍へ送血する。静脈へ返した酸素化血が右心系を通過して自己心から拍出されることで、自己肺の酸素化が悪くても上半身の酸素化改善につながる。一方、動脈側の送血は引き続き体循環を直接支える。実際のカニューレ構成・先端は症例や施設によって異なる。[VAV-1][VAV-2]
図4A:V-AV ECMOの血流(概念模式図)
大腿静脈から脱血 → ポンプ → 人工肺(酸素化・CO₂除去) → Y字分岐
動脈枝:大腿動脈に送血 → 体循環を直接補助(VA成分)
静脈枝:上大静脈/右房近傍に送血 → 右心 → 肺 → 左心 → 冠動脈・脳への酸素化を改善(VV成分)
血流方向の理解を目的とした独自文字模式図。実際の回路接続、送血先端位置、流量配分を定める図ではない。
どんな患者に適応を考えるか:2つの代表的状況
- VA-ECMO中にdifferential hypoxemia(Harlequin/North–South症候群)が出現したとき:例えばECPRや心原性ショックで大腿動脈送血のVA-ECMOを開始した後、自己心拍出が回復する一方、肺水腫・ARDS・誤嚥性肺障害などで自己肺のガス交換が不十分な場合。酸素化の悪い自己心拍出が大動脈基部・弓部へ届き、下半身の酸素化が良好でも冠動脈・脳が低酸素に陥り得る。まず右橈骨動脈血液ガスと右上肢SpO₂を確認し、肺病態・人工呼吸・人工肺・ECMO flow・自己心機能を評価する。適切な調整後も上半身低酸素が持続し、循環補助をなお必要とするなら、静脈送血枝を追加してV-AVへ変更する選択肢がある。[VAV-1][VAV-2]
- VV-ECMO中に重篤な循環不全が加わったとき:重症ARDSでVV-ECMOを施行中、心筋障害・右室不全・重症心原性ショックなどが進展し、酸素化の改善だけでは臓器灌流が回復しない場合。動脈送血枝を追加して呼吸補助に循環補助を加える構成が選択肢となる。単なる昇圧薬使用、または肺性の右室負荷があるだけで、V-AVやVAへの切り替えが必要なわけではない。まず心エコー、前負荷、換気、アシドーシス、血行動態とショックの原因を再評価する。[VAV-2][VAV-3]
初めから心肺の双方に高度の不全が予測される例でV-AVを初期導入することもあるが、多くはVAまたはVVからの構成変更として用いられる。通常のECPRで全例V-AVを選ぶ治療ではない。[VAV-3]
VA・VV・VAVの使い分け:判断の中心は「心」と「肺」
| 病態 | 主に考える構成 | 判断で注意する点 |
|---|---|---|
| 重症呼吸不全、自己循環は維持 | VV | 低酸素だけを理由にVA/VAVへ変更しない |
| 心原性ショック/蘇生中、肺ガス交換は比較的維持 | VA | 左室後負荷、下肢虚血、右橈骨動脈ガスを監視 |
| VA中の上半身低酸素+なお循環補助が必要 | V-AVを検討 | 肺・換気・ECMO条件を最適化したうえで構成変更 |
| VV中に心不全・ショックが進展 | V-AVまたはVAを検討 | 肺・心の必要補助量、血管リスク、施設体制で選択 |
| VA中に心機能が十分回復、肺不全のみ残存 | VVへの変更を検討 | V-AVを長期間維持する必要があるとは限らない |
V-AVに変更した直後の落とし穴:「総流量」と「枝ごとの流量」は違う
送血をY字分岐すると低圧・低抵抗の静脈返血側へ流れやすい。その結果、回路の総血流量が十分に見えても、動脈枝の流量が不足し、必要な体循環補助を失う危険がある。流量配分は分岐枝の抵抗・圧・カニューレ条件に依存するため、各送血枝に流量センサーを設置し、専門チームが適切な調整機構で分配する。反対に一方の枝を過度に絞れば、低流量・血栓形成・溶血の危険が生じる。流量をゼロにした枝を接続したまま放置しない。枝ごとの具体的な最小流量、クランプ方法、切り替え手順は施設プロトコルと使用回路の仕様に従う。[VAV-4]
- 循環:動脈枝flow、MAP、脈圧、心エコーでの左室拡張・大動脈弁開放、末梢灌流、乳酸推移を確認。
- 上半身酸素化:右橈骨動脈ABG、右手SpO₂、必要に応じて脳NIRS。下肢・人工肺出口の酸素化だけでは脳への酸素供給を保証しない。
- 回路:動脈・静脈各返血枝の血流、脱血不足、再循環、回路圧、人工肺ガス交換、血栓・溶血、カニューレ周囲出血・感染を評価。
- 外傷:血管穿刺部出血・後腹膜出血、抗凝固とTIC、動脈枝留置による下肢虚血・DPC流量を反復評価。
Blood flow/Sweep gas flow/FdO₂は別の設定である。血液流量と送血枝の配分は循環補助量・酸素運搬に、sweep gas flowは主にCO₂除去に、人工肺送気中の酸素濃度(FdO₂)は人工肺の酸素化能に影響する。V-AVの上半身低酸素は、FdO₂を上げるだけで解決するとは限らず、自己肺と自己心の血流生理・送血枝の分配を合わせて評価する。[VAV-1]
エビデンスと限界:少数例の観察研究が中心
Saxenaらの2023年システマティックレビュー・メタ解析は5研究、計77例を集計し、91%が既存ECMOからV-AVに移行していた(VAから55%、VVから36%)。ICU死亡率の統合推定は46%で、対象は高度に選択された重症心肺不全患者だった。この数字をV-AVの「救命率」やVA/VVに対する優越性の証明として扱うべきではない。ランダム化比較試験に基づく確立した適応閾値はなく、選択基準と体制を含めた専門チームの判断が重要である。[VAV-3]
Take-home:「肺だけならVV、循環だけ(または中心的)ならVA、両方必要でVA/VV単独では目標臓器の酸素化・灌流が足りないときにV-AVを検討」。とくに心臓が回復しているのに右橈骨動脈の酸素化が悪いVA-ECMO例では、differential hypoxemiaを最初に疑う。[VAV-1][VAV-2]
4.セントラルVA-ECMO:開胸下の右房脱血・上行大動脈送血
セントラルVA-ECMOは右房(または大静脈系)脱血、上行大動脈送血が代表的な構成である。心臓手術後の人工心肺離脱困難、開胸中の高度心不全、末梢経路が使用困難なときなどに選択される。必ずしも「流量が大きければセントラルが優れる」とは言い切れず、手術侵襲と血管・胸郭の条件で決める。
図4:セントラルVA回路(模式図)
開胸下 右房脱血 → ECMO回路 → 上行大動脈送血
大腿動脈からの逆行性送血と異なり、上行大動脈へ直接送血する。胸骨正中切開・開胸創の管理、出血、感染、カニューレ固定と再手術が大きな課題になる。
| 比較 | 末梢VA | セントラルVA |
|---|---|---|
| 導入 | 大腿などを経皮/cut-down | 通常、外科的開胸 |
| 送血 | 大腿動脈から逆行性 | 上行大動脈へ直接 |
| 主なリスク | 下肢虚血、血管損傷、上半身低酸素 | 縦隔出血、感染、再開胸 |
| 使用場面 | 心原性ショック、ECPR | 心臓手術後、開胸下心不全、末梢経路困難 |
なおcentral ECMOという語は通常は中心VAを指すことが多いが、脱血・送血部位やハイブリッド構成は施設・術式により異なる。VAとVVは病態の分類、末梢とcentralはカニュレーションの分類であり、別の軸である。
5.挿入手順:安全確認を中心に
末梢ECMOのカニュレーションは、一般に超音波ガイド下の穿刺、ガイドワイヤー確認、段階的な拡張、カニューレ留置、体外回路接続、ポンプ始動・流量調整という段階で行う。ただしここに記した流れは概要であり、径・拡張器・操作順序はデバイス添付文書と施設プロトコルに従う。
- タイムアウト:患者、病態、VA/VV、左右、穿刺部、出血リスク、画像ガイド、バックアップの外科的血管修復体制を確認する。
- 血管評価:超音波で静脈・動脈・分岐部・血栓・径・走行を評価。骨盤血腫、大腿血管損傷、後腹膜出血も考慮する。
- 穿刺:リアルタイム超音波で針先の血管内位置を確認。血液の色だけで動静脈を判別しない。
- ワイヤー確認:予期した血管系に入っていることを超音波・エコー・透視などで確認してから拡張する。誤走行したまま大口径拡張してはならない。
- 留置:カニューレと脱血・送血ポートの方向、側孔、先端位置を確認。血管穿孔・不整脈・弁損傷などを監視する。
- 回路開始:人工肺・ポンプ・ガス系・回路の気泡を確認し、十分な脱血と送血を評価。圧異常や過大な陰圧を見逃さない。
- 画像再確認:カニューレ先端、心機能、心嚢液、血管損傷、下肢血流を評価する。
6.導入後:よくある回路トラブルの見分け方
| 所見 | 疑う病態 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 脱血不良・chattering | 低容量、カニューレ壁吸着、位置異常、タンポナーデ | エコー、循環血液量、脱血圧、流量、ライン屈曲 |
| 酸素化不良(VV) | 再循環、回路血流不足、酸素供給不全、心拍出量増加 | pre/post-oxygenator血液ガス、カニューレ位置、sweepとFiO₂ |
| CO₂除去不良 | ガス流量不足、人工肺機能低下 | sweep、ガス供給、血液ガス、人工肺前後差 |
| 低脈圧・肺うっ血(VA) | 大動脈弁閉鎖、左室拡張 | 心エコー、左室内うっ滞、アンローディング適応 |
| 右上肢低酸素(末梢VA) | differential hypoxemia | 右橈骨動脈ガス、自己肺と自己心の出力 |
| 下肢冷感・疼痛・色調変化(VA) | カニューレ関連下肢虚血 | DPC、動脈ドプラ、NIRS、血管外科への早期相談 |
| 回路圧差増大・溶血 | 人工肺/回路血栓 | 回路圧、血漿遊離Hb、LDH、尿色、回路交換判断 |
6A.ECMO管理中のモニタリング|脳・下肢・心臓・回路・溶血
ECMO流量が十分に出ていても、脳、冠動脈、下肢に十分な酸素と血流が届いているとは限らない。末梢VA-ECMOでは上半身のdifferential hypoxemiaと大腿カニューレによる下肢虚血、左室後負荷増大を別々に監視する。以下は成人VA・VV ECMOに関するELSO指針と神経モニタリング合意文書に基づく、ベッドサイドでの実践的整理である。[M1][M2][M4]
スマホでは下表を横にスクロールできます。
| 評価領域 | 具体的に測定するもの | 異常のサイン |
|---|---|---|
| 上半身・脳 | 右橈骨動脈ABG/SpO₂、前額部左右の脳NIRS、瞳孔・神経診察 | 右上肢低酸素、左右差・NIRS低下、痙攣・急な神経所見 |
| 下肢・DPC | 両下腿NIRS、足背・後脛骨動脈ドプラ、色調・冷感・腫脹、DPC側枝流量 | 片側NIRS低下・血流信号消失・緊満 → 急性下肢虚血/筋区画症候群 |
| 自己心機能 | MAP・脈圧、エコー(LV/RV、AV開放、LV径・うっ滞)、肺水腫 | 大動脈弁不開放、LV拡張・血栓、循環補助不足 |
| 回路・人工肺 | blood flow/RPM、脱血陰圧、送血圧、人工肺前後差(ΔP)、pre/post血ガス、sweep・FdO₂ | chattering、吸い付き、ガス交換低下、圧差増大、回路血栓 |
| 全身臓器 | 乳酸推移、尿量・Cr、Hb、血小板、体温、感染所見 | 流量は出ても乳酸上昇・乏尿・新規臓器障害 |
| 血液・抗凝固 | pfHb(血漿遊離Hb)、LDH、間接Bil、K、尿色、ACT/aPTT/anti-Xa、出血と血栓 | 溶血・血色素尿、AKI、高K血症、出血・人工肺血栓 |
① 脳の評価:両側NIRS・右橈骨動脈血ガス・神経診察
脳NIRS(near-infrared spectroscopy)は左右前額部にセンサーを置き、局所組織の酸素需給を反映するrSO₂(regional cerebral oxygen saturation)を連続評価する装置である。脳血流量や頭蓋内圧を直接測定するものではなく、正常値だけで脳梗塞・ICH(頭蓋内出血)を除外できない。装着後の値を患者のベースラインとして記録し、絶対値だけでなく左右差、急な低下、持続的低下、MAPやPaCO₂の変化との時間関係を見る。メーカー・基礎病態により値は異なるため、成人ECMOに普遍的なrSO₂中断閾値は定まっていない。[M4]
末梢大腿VA-ECMOでは、人工肺出口のPaO₂が高くても、大動脈弓側を自己心拍出由来の低酸素血が灌流し得る。右橈骨動脈ABG・右手SpO₂(可能なら右橈骨動脈ライン)、左右脳NIRSを組み合わせ、右上半身の酸素化を確認する。急な低下があればセンサー・血圧・Hb・酸素飽和度・PaCO₂・心エコーで評価し、肺ガス交換障害とmixing pointを再考する。VAV-ECMOが必要となる場合もある。[M1][M4]
神経診察は瞳孔径・対光反射、可能な範囲で意識・運動・痙攣を反復評価する。鎮静や筋弛緩で神経所見を取りにくい場合はEEG(非けいれん性発作の検出を含む)や定量的瞳孔計を検討する。神経異常や説明できないNIRS低下があれば、NIRSの数字だけでICHを診断せず、適切な時機に頭部CT等の画像評価を行う。[M4]
② ECMO導入時の急激なCO₂低下(CO₂ drop)と頭蓋内出血
ECMOではsweep gas flowを増やすほど一般にCO₂除去量が増える。導入前に高PaCO₂が持続していた患者でsweepを強くかけると、PaCO₂が急速に低下し、脳血管収縮・脳血流低下・虚血に関与する可能性がある。これにECMO導入時の抗凝固などが重なると出血性変化も問題となる。ただし、「CO₂ dropが直接ICHを引き起こした」と確定した介入試験はなく、主な根拠は観察研究である。[M4][M5]
相対低下率=(導入前PaCO₂ − 導入後PaCO₂)÷ 導入前PaCO₂ ×100。これは例示であり、個別患者の投与・換気設定の指示ではない。
CavayasらのELSO Registry解析(呼吸不全でECMOを受けた成人11,972例、うち88%がVV)では、導入後24時間以内のPaCO₂相対低下50%超の群は、50%以下の群と比較して神経学的合併症(痙攣・虚血性脳卒中・ICH・脳死)が9.8%対6.4%であり、調整OR 1.7(95% CI 1.3–2.3)だった。ここでの50%はリスク関連を示した観察研究上の区切りであり、50%以下なら安全という治療閾値ではない。特にVVで根拠が強く、VAやECPRへ同じ関連の強さを一律に外挿しない。[M5]
ELSO 2024神経合意文書は、導入前PaCO₂>45 mmHgの患者では最初の24時間の急なPaCO₂変化を避けることを推奨する。導入直後のABGを繰り返し測定し、初回sweepの過大設定を避けて状態に合わせて段階的に調整する。血液ガスを採った部位(VAなら右橈骨動脈と人工肺出口)も揃えて解釈する。PaCO₂だけを追い求めず、pH、全身灌流、脳NIRS、神経所見を並行して見る。[M4][M6]
ICHを疑ったら:瞳孔変化、けいれん、新規神経異常、説明困難な脳NIRS低下などを契機に迅速に神経学的評価・画像検査を行う。ICHが確認されれば脳外科・ECMOチームで血圧管理、血腫増大予防、抗凝固の一時中止と再開時期、回路血栓リスクを同時に検討する。VAはVVより抗凝固中止時の血栓塞栓リスクが高いため、全例で画一的に停止・再開する規則にはしない。[M4]
③ 下肢血流・酸素化:両下腿NIRSと足背/後脛骨動脈ドプラ
大腿動脈送血のVA・VAVでは、両下腿の同じ高さにNIRSを装着し、患側のrSO₂の絶対値・対側との差・時間的な変化を追う。ELSO指針を整理したレビューでは、NIRS値50%以上、望ましくは60%以上、左右差20%未満が実務的な目安として示される。ただし、これらは普遍的な確定診断閾値ではなく、装置・血圧・血管攣縮・浮腫・皮膚条件などでも変動する。[M1][M2]
NIRSだけでは不十分:足背動脈・後脛骨動脈ドプラ信号、皮膚の冷感・色調・毛細血管再充満、下腿の腫脹/筋区画緊満、CKと乳酸、必要時の血管エコーを組み合わせる。拍動が小さいVA-ECMOでは脈拍触知が困難なため、「脈を触れない=虚血」「NIRS正常=血流十分」とは判断しない。[M2]
患側NIRSの突然の低下、左右差拡大、ドプラ信号消失、筋区画緊満があれば、DPCの屈曲・閉塞・血流不足、動脈血栓/解離、コンパートメント症候群を迅速に検索する。DPCが入っていても下肢虚血は起こる。血管外科・ECMOチームへ早期に相談し、必要なら血行再建や筋膜切開を検討する。[M1][M2]
④ ECMO関連溶血(Hemolysis):何を測り、薬はいつ使うか
ECMO関連溶血は赤血球が回路内で機械的に破壊される現象で、血漿遊離ヘモグロビン(plasma-free hemoglobin:pfHb / fHb)の増加、尿の赤褐色化(血色素尿)、LDH・間接ビリルビン上昇、貧血、腎障害・高K血症などを伴う。血中に遊離したHbは一酸化窒素を捕捉し、微小循環障害・腎尿細管傷害に関与し得る。pfHbの上昇は有害事象のサインであり、薬剤を投与する前に機械的な原因を探して是正することが原則となる。[M7][M8]
異常値の目安:pfHbは50 mg/dLを超えたら積極的評価
ECMO-CENTRAL ARCのイベント定義では、pfHb 50–100 mg/dLを中等度、100 mg/dL超を重度の溶血として分類する(持続時間や回路交換を伴うなどの条件付きの有害事象定義)。50 mg/dLは全例の回路交換基準ではないが、急増・持続する場合は原因精査・介入を要する。採血時の人工的溶血による偽高値もあるため、適切な手技で再検し、値の推移、尿色、Hb、LDH、Bil、腎機能、Kと合わせる。[M9]
溶血の原因と初期対応:患者側・カニューレ・回路を順番に確認
- 脱血不良・過大な陰圧:RPMを上げたのにflowが増えない、chattering、吸い付き(suck-down)がないか。カニューレ先端の位置・壁吸着・屈曲、低前負荷、タンポナーデ、腹腔内圧上昇などをエコーと圧で確認。臓器灌流を見ながら過大な回転数を速やかに下げる/適切な位置・循環血液量へ是正する。過剰輸液を反射的に行わない。[M6]
- 回路の狭窄・高いshear stress:送脱血ラインの屈曲、接続部やカニューレ径のミスマッチ、流量に対するRPM過大、膜型人工肺・ポンプの血栓を点検。人工肺前後圧差(ΔP)、人工肺ガス交換、pre/post圧・回路観察を連続評価する。[M6]
- 回路血栓・ポンプヘッド不良:急な溶血、圧差増大、ガス交換低下、可視血栓があればECMOチーム・臨床工学技士と緊急評価し、ポンプ/人工肺/回路の交換を検討する。ハプトグロビンで回路の機械的な問題は解決できない。[M6]
- 回路外の鑑別:不適合輸血、感染、自己免疫性溶血、TMA、人工弁や他の補助循環装置の溶血などを鑑別する。採血の取り扱いによる偽溶血にも注意する。
日本で使用できるハプトグロビン製剤:適応はあるが、ECMO特異的な予後改善は未確立
人ハプトグロビンは血漿中の遊離Hbと結合して複合体を作り、網内系・肝臓での処理を促す。国内の「ハプトグロビン静注2000単位『JB』」は、「熱傷・火傷、輸血、体外循環下開心術などの溶血反応に伴うヘモグロビン血症、ヘモグロビン尿症の治療」を効能・効果とする。成人の添付文書上の通常用量は1回4,000単位を緩徐に静脈内点滴投与、症状により適宜反復とされる。2000単位1瓶100 mLなので、4000単位は2瓶に相当する。[M10]
ただし、国内承認があることと「ECMO患者全例で投与すべき」ということは別である。ECMO下の溶血に対して、ハプトグロビン投与がAKI・死亡・回路交換を減らすことを示す質の高い介入試験はない。持続溶血・血色素尿や腎障害の危険がある例では投与を個別に検討するが、回路原因の是正を遅らせてはならない。pfHbを閾値として機械的に薬剤を投与するアルゴリズムも確立していない。[M8][M10]
- 急速投与は血圧低下の原因になり得るため緩徐に点滴する。
- ショック・アナフィラキシー(頻度不明)、ハプトグロビン欠損症・IgA欠損症での過敏反応に注意。
- 献血由来の特定生物由来製品。必要性、感染症伝播の残余リスクの説明と記録保存(20年)が必要。
- 添付文書の通常量を示したもので、症例ごとの用量・反復可否は処方責任医が判断する。
腎障害への対策:尿量・K・Crを追い、腎代替療法は通常の適応で判断
溶血を認めたら尿量、Cr、K、酸塩基、Hb、pfHb推移を密に観察し、適切な腎灌流圧と循環血液量を確保する。著しい高K血症や重症アシドーシス、溢水、難治性AKIなどでは腎代替療法を検討する。一方、「遊離Hbを除去するため」だけの通常のCHDF/HDや、強制利尿・重炭酸投与の一律実施は推奨できない。Hb低下と組織酸素需給に応じた輸血などを個別化し、最も重要な溶血発生源の是正を行う。[M8]
ベッドサイドの優先順位:①異常の再確認とpfHb・尿色・K・腎機能 → ②脱血陰圧・回路の屈曲・血栓・流量/RPMを確認 → ③原因修正/必要時回路交換 → ④腎・全身臓器保護 → ⑤血色素尿などに対するハプトグロビンの適応を検討。薬剤が原因治療の代わりになるわけではない。
⑤ 心臓・臓器・回路:数字がよくても合併症は隠れる
- 心臓:MAPと脈圧、心エコーでLV/RV、AV開放、左室径・うっ滞、肺うっ血。脈圧低下・大動脈弁不開放・LV拡張は後負荷増加や左室unloading適応を検討。
- 全身:乳酸推移、尿量・Cr、酸塩基、Hb、末梢皮膚灌流、SvO₂/ScvO₂(採取部位による限界)、必要に応じ循環動態。
- 回路:RPM・実測blood flow、脱血陰圧・送血圧、人工肺のΔP、pre/post-oxygenator血ガス、sweep・FdO₂、ガス供給、回路血栓。VAVなら動脈枝・静脈枝それぞれのflowを確認。
- 血液:抗凝固指標(anti-Xa、aPTT、ACT等は施設採用法で)、Hb、血小板、凝固・線溶、pfHbと溶血の有無を経時評価。
実際の測定頻度は導入直後・設定変更直後・安定期で異なる。導入・流量/sweep変更後は血液ガス、脳NIRS、下肢NIRSを重点的に再確認し、状態が落ち着いた後も24時間の継続監視と定期的な神経・末梢血流診察を行う。[M1][M4]
ECMOの回路・熱交換器を使って体温を制御できるが、冷却可能=33℃冷却を全例行うべきではない。心停止後昏睡患者では体温管理と発熱予防を行い、ILCOR 2024・ERC 2025は37.5℃以下を目標として36〜72時間の発熱予防を提案する。HACA、HYPERION、TTM2などの主要試験と、ECPRへの外挿の限界はECPR記事:低体温療法から発熱予防へのエビデンス史を参照。
7.外傷患者にどう当てはめるか:VVとVAの選択
重症肺挫傷・外傷後ARDSはVV-ECMOの代表的対象となる。重症心挫傷に伴う可逆的心原性ショックや、原因が是正され回復可能性のある選択例の心停止ではVA-ECMOを検討する。TBIはVV-ECMOの一律な絶対禁忌ではないが、頭蓋内出血・抗凝固・PaCO₂急変と頭蓋内圧への影響を評価する。
2025年CSECLS外傷ECMOガイドライン(難治性急性心肺不全を対象)は、多発外傷に合併したARDSおよびTBI+ARDSに対しVV-ECMOの使用を推奨し(強い推奨)、選択された外傷性心停止・心原性ショックに対しVA-ECMOの考慮を提案している(弱い推奨)。いずれも根拠の確実性は非常に低く、抗凝固については個別目標に基づく最小限の抗凝固戦略を提案している。WSES-AAST胸部外傷ガイドラインもECMOの選択を個別化し、抗凝固は必要な場合に限り一時的に省略し得るとする。重症外傷とECMO:適応、成績、抗凝固管理で詳述した。
8.理解度チェック:カニューレ先端をどう考える?
Case A:両側肺挫傷で重度ARDS、心機能保たれ昇圧薬少量 → VVを第一候補にし、脱血・送血の再循環を避ける配置を計画する。
Case B:胸部鈍的外傷後、心エコーで重症心機能障害・難治性心原性ショック → VAを考慮。末梢VAなら下肢灌流と左室後負荷を監視する。
Case C:心停止・活動性骨盤出血 → まず蘇生的止血・輸血を行う。ECMOのみでは失われた循環血液量を補えない。
Case D:難治性心原性ショックで大腿VA-ECMOを開始。自己心拍出が回復する一方、誤嚥性肺障害により右橈骨動脈の低酸素が持続 → Harlequin症候群を疑う。肺・換気・回路を最適化しても、なお循環補助が必要ならV-AVへの変更を検討。心機能が十分回復し循環補助不要ならVVへの切り替えも比較する。
9.参考文献・関連記事
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- Graw JA, et al. The role of cell-free hemoglobin and haptoglobin in acute kidney injury in critically ill adults with ARDS and therapy with VV ECMO. Crit Care. 2022;26:50. doi:10.1186/s13054-022-03894-5.遊離HbとAKI・内因性ハプトグロビンの観察研究
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関連記事:外傷後ARDSと人工呼吸管理/外傷性凝固障害(TIC)/集中治療管理の一覧
作成・更新履歴:2026年10月9日 新規作成。同日:VA・VV・VAVの構成とDPC、神経・下肢NIRS、CO₂ drop、溶血とハプトグロビンを追記。さらにVA-ECMOの左室後負荷・LV unloading(3A章)を増補。AV開放、LVOT VTI、PCWP、脈圧を用いる判断、IABP・Impella・LA vent・外科的vent、PAPO-Flow 2025、EVOLVE-ECMO・EARLY-UNLOAD RCT、2024/2026観察解析を9文献とともに反映。既存の講演スライドは転載せず本稿オリジナルの文字図・比較表で解説。医師による改訂箇所の最終確認前。


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