重症外傷とECMO:出血リスクのある患者にいつ導入を考えるか

外傷患者へのECMOのアイキャッチ:紺地に『外傷とECMO』とTRAUMA ECMOの文字

重症外傷の患者にECMO(体外式膜型人工肺)を導入するかどうかは、出血や頭部外傷を理由に一律に除外する問題ではなく、呼吸・循環不全が回復し得るか、止血と抗凝固の折り合いをつけられるか、経験のある施設に間に合うかで決まる。本稿は、ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)の指針、外傷ECMOの登録研究・系統的レビュー・比較研究、一般のARDSを対象とした無作為化試験(CESAR、EOLIA)を原著で照合し、適応、導入の時期、ヘパリンを減らす・止める運用と血栓、頭部外傷を合併しているときの監視、施設と搬送、日本での体制を整理する。対象は成人の重症外傷である。

  • ECMO
  • 外傷
  • ARDS
  • 抗凝固
  • 頭部外傷

医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。

目次

まず押さえる要点

  1. VV ECMOは、回復し得る重症呼吸不全が最適な治療に反応しないときに考える。ELSOの指針は、最適な管理の後もPaO2/FiO2(P/F比)が80 mmHg未満の低酸素、またはpH 7.25未満の高二酸化炭素血症を目安に挙げ、低一回換気と、禁忌がなければ腹臥位をECMOの前に行うよう求めている。胸部外傷(外傷性肺損傷、重症の肺挫傷)は対象となる病態に含まれる[1]。
  2. 中枢神経の出血・損傷、全身の出血、抗凝固の禁忌は「相対的禁忌」で、絶対的禁忌ではない。ELSOが絶対的禁忌とするのは「回復が見込めず、離脱の計画もない」場合だけである[1]。ELSO登録の成人外傷279例では退院生存が61%で、出血の合併症は29%に報告された[2]。
  3. 外傷ECMOの効果を無作為化試験で確かめた研究はない。外傷の比較研究は後ろ向きで、例数が少ない(ECMO 26例対従来治療76例など)[3]。一般のARDSでは、EOLIAの60日死亡が35%対46%(相対リスク0.76、95%CI 0.55〜1.04、P=0.09)で有意差はなく[4]、CESARとEOLIAの個別患者データのメタ解析では90日死亡が36%対48%(相対リスク0.75、95%CI 0.60〜0.94)だった[5]。CESARは頭蓋内出血と限定的なヘパリン化の禁忌を除外しており[6]、出血の危険が高い外傷患者にそのまま当てはめることはできない。
  4. ヘパリンを止めても、血栓の危険は残る。ELSOの抗凝固指針は、出血の多いときにヘパリンを4〜6時間止めることを妥当とし、止めたら再開の必要と回路の血栓を頻回に評価するよう勧める一方、VV ECMOで抗凝固なしを日常的に勧めることはまだできないとしている[7]。抗凝固なしで24時間以上管理した成人201例の系統的レビューでは、回路の血栓13.4%、患者の血栓9.5%、何らかの出血32.8%だった[8]。
  5. 導入は遅らせず、転送は早く決める。ECMO前の人工呼吸期間が長いほどECMO後の死亡が多いことから、ELSOは最適な管理を速やかに行い、適応があればECMOを遅らせないこと、ECMOを始められない施設では早期の転送を計画することを求めている[1]。日本のARDS診療ガイドライン2021は重症ARDSへのECMOを弱く推奨している(GRADE 2B)[9]。

対象と扱わない範囲

対象:成人(おおむね16〜18歳以上)の重症外傷で、肺挫傷・誤嚥・大量輸血後などのARDS(急性呼吸窮迫症候群)や、気管支胸膜瘻などによる重症呼吸不全に対するVV ECMO(静脈脱血・静脈送血)を中心に扱う。循環を支えるVA ECMO(静脈脱血・動脈送血)とECPR(体外循環式心肺蘇生)は、登録研究での位置づけと成績に限って触れる。

扱わない範囲:小児外傷、カニューレ挿入の手技と回路・機器の選択、抗凝固薬の具体的な投与量の設計、ECPRの適応判断の詳細、REBOA(大動脈遮断バルーン)との使い分け。肺保護換気と腹臥位そのものは重症外傷の人工呼吸・ARDS:肺保護換気から腹臥位までどう組み立てるか、頭蓋内圧の管理は頭部外傷の血圧・ICP・CPP・Hb管理:HEMOTIONとTRAINをどう読むかで扱う。

根拠の種類:外傷患者に限った根拠は、登録研究、後ろ向きの比較研究、症例報告を多く含む系統的レビューである。無作為化試験は一般のARDS(主に肺炎)で行われており、本稿ではその結果を「外傷への外挿」として区別して示す。

2026年10月追補:2025年外傷ECMO専門ガイドラインとVV/VAの実践的な区別

重要な更新:2025年7月29日に中国体外生命支持学会(CSECLS)の成人外傷ECMO診療ガイドラインが公表された。外傷特化の11推奨を提示するが、根拠の確実性はおおむね「非常に低い」。強い推奨を「高い質のRCTで救命効果が証明された」と読み替えてはならない。本文のELSO 2021の基準に加え、以下を参照する[CSECLS 2025]。

状況選択肢判断上の要点
多発外傷+難治性ARDS、重症肺挫傷VV-ECMO肺保護換気などの最適治療でも呼吸不全が持続する場合。強い推奨/根拠は非常に低い
TBI+難治性ARDSVV-ECMO頭蓋内出血の安定性、頭部画像、ICP/CPP、抗凝固計画を個別評価。強い推奨/根拠は非常に低い
中等症〜重症の熱傷によるARDSVV-ECMOを考慮蘇生・肺保護換気に抵抗する場合。弱い推奨/根拠は非常に低い
重症心挫傷・冠動脈損傷などによる心原性ショックVA-ECMOを考慮回復可能な心機能障害か、心エコーで評価。弱い推奨/根拠は非常に低い
選択された外傷性心停止VA-ECMO/ECPRを考慮蘇生可能原因の是正、可逆性、低灌流時間、止血可能性を吟味。通常の外傷性心停止全例への導入は推奨されない
出血性ショックのみECMOを止血の代用にしない手術/TAE、DCR、輸血、凝固障害是正を優先。適応が重なる場合でも同時に確実な止血計画が必要

11推奨の全体像

①多発外傷ARDSへのVV、②TBI合併ARDSへのVV、③中等症〜重症の熱傷によるARDSへのVV、④選択例の心停止・心原性ショックへのVA、⑤ISSを補助的選別指標として使用(単独の除外基準にしない)、⑥基準を満たせば早期導入、⑦多職種チームと品質改善、⑧個別化した最小限の抗凝固、⑨出血例では凝固障害・低体温・アシドーシスを管理、⑩ベッドサイド超音波で体液管理を補助、⑪出血・血栓などの合併症予防である。⑨はbest practice statement、他の各推奨の根拠の確実性は非常に低い。

実際の相談・導入アルゴリズム(外傷チームとECMOチームの共同判断)

  1. まず可逆的原因を処置:緊張性気胸、心タンポナーデ、活動性出血、気道の問題を検索し、緊急解除・止血を優先する。
  2. 不全の主体を判定:肺が主体ならVV、心筋収縮不全・循環不全が主体ならVAを検討する。出血による単純な循環血液量不足にはVAだけで対応できない。
  3. VVの相談目安:最適化した治療でもP/F比80 mmHg未満、またはpH7.25未満かつPaCO2 60 mmHg以上が続く場合。腹臥位を実施できない外傷上の理由も共有する。相談は閾値に達する前から行ってよい。
  4. 出血・脳の安全確認:止血の到達度、血小板・フィブリノゲン・凝固系、反復頭部CTの必要性、神経予後、カニュレーション部位、転送可能性を確認する。
  5. 導入後:出血・回路血栓・酸素化・下肢虚血(特にVA)・心エコー・PaCO2の急速な変動を反復評価し、抗凝固計画を日々更新する。

抗凝固:無ヘパリンは「可能な症例がある」が、標準的な安全策ではない

CSECLS 2025は、外傷患者に対し最小限の抗凝固を個別化することを弱く推奨する(根拠の確実性:非常に低い)。報告例にはヘパリンを48時間〜5日保留した管理、aPTT 45〜60秒・ACT 150〜200秒などがある。しかしこれらは全患者に適用すべき統一目標値ではない。継続出血・頭蓋内出血進展のリスクと、人工肺血栓・回路閉塞・患者血栓・下肢虚血のリスクを並行評価する。無抗凝固期間を根拠なく延長せず、回路と患者の監視体制を整える。止血が可能なら確実な止血を優先し、全身抗凝固の開始・再開時期をECMO・外傷・脳神経外科チームで合議する。

VA-ECMO特有の注意点

末梢VA-ECMOは動脈送血による循環補助ができる反面、下肢虚血、左室後負荷増大・左室拡張、左室内うっ滞、上半身低酸素血症(differential hypoxemia、いわゆるHarlequin syndrome)を評価する必要がある。重症心挫傷では心機能回復までの橋渡しとなり得るが、活動性出血に伴う前負荷不足をECMOで解決することはできない。

併読資料:Wang H, et al. Critical Care. 2025;29:334(オープンアクセス全文)。また胸部外傷の総論としてCoccolini F, et al. Thoracic trauma WSES-AAST guidelines. World J Emerg Surg. 2025;20:78を参照。既存本文の試験・レジストリデータは観察研究とRCTを区別して読む。

2025年の2指針を原著全文で照合してわかったこと

CSECLS 2025(文献[21])は67本の後ろ向き研究(コホート18、症例対照16、ケースシリーズ33)に基づき11推奨を作成した。VV-ECMOを受けた外傷性ARDS患者の統合生存率は68%(95%CI 64–72%、28研究549例)、TBI+ARDSは67%(95%CI 62–72%、14研究340例)。ただしTBI患者のECMOなしとの比較では生存OR 1.41(95%CI 0.77–2.58、p=0.26)で有意差はなかった。VA-ECMOを受けた外傷性心停止62例の統合生存率は42%(95%CI 30–54%)。いずれも患者選択が強く影響する観察研究の値であり、救命効果を直接証明しない。

早期導入の根拠と限界:受傷から5日以内の導入(8研究122例)の生存率66%に対し、5日超(3研究17例)で38%と報告された。ただし独立した研究群の間接比較であり、「全員5日以内」「5日を超えたら禁忌」という閾値ではない。原著は人工呼吸5日超の患者は慎重に利益・害を検討すると述べる。原著Fig.1にあるISS30・受傷5日・人工呼吸5日はリスク評価の分岐で、機械的な除外基準ではない。

WSES-AAST 2025(文献[22])は外傷ECMO単独の有効性試験ではなく胸部外傷全般のガイドラインである。従来治療が無効な呼吸・循環不全ではECMOを検討、呼吸不全にはVV・循環不全にはVAを選択し、抗凝固中止は厳密に必要な場合に短期間のみとする。さらに末梢VAでは遠位灌流カテーテルによる下肢虚血予防、左室の著明な機能不全で大動脈弁開放が乏しい場合の左室うっ滞・後負荷増大への対応を述べる。いずれも止血・全身状態・ECMOチームの監視能力を前提に個別判断する。

追補:2026年10月9日。原著公開本文とガイドライン表をAIを用いて照合・追加した編集追補。既存本文の著者による2026年9月26日確認とは別であり、本追補の医師による最終確認は未実施。

1.どの外傷患者でECMOを考えるか:ELSOの適応と禁忌

指針ELSOの成人VV ECMO指針(2021年)は、重症で急性の、回復し得る呼吸不全が最適な内科的管理に抵抗する場合にVV ECMOを考えるとしている。目安は次のとおりで、いずれも最適な管理を行った後の値である[1]。

  • 低酸素性呼吸不全:P/F比80 mmHg未満。
  • 高二酸化炭素性呼吸不全:pH 7.25未満(指針の表ではPaCO2 60 mmHg以上を併記)。呼吸数35回/分、プラトー圧30 cmH2O以下という最適な従来換気を行っても改善しない場合。
  • 対象となる病態の例:ARDS、びまん性肺胞出血、重症喘息、胸部外傷(外傷性肺損傷、重症の肺挫傷)、重症の吸入損傷、大きな気管支胸膜瘻など。

同じ指針は、ECMOの前に根拠のあるARDS治療として低一回換気(予測体重あたり4〜6 mL/kg)と、禁忌がなければ腹臥位を行うよう求め、「ECMOは腹臥位の代わりではなく、腹臥位はECMOの前に行う補完である」と述べている[1]。外傷では、脊椎・骨盤の不安定性、開腹・開胸の直後、頭蓋内圧の上昇などで腹臥位が難しいことがある。その場合に腹臥位を省いてECMOへ進む判断の根拠は、本稿の検索範囲では外傷患者で示されていない。

指針禁忌について、ELSOは「現時点で唯一の絶対的禁忌は、回復が見込めず、離脱(カニューレ抜去)の実行可能な計画もないこと」としている。相対的禁忌として挙げているのは、中枢神経の出血、重大な中枢神経の損傷、不可逆で重い中枢神経の病態、全身の出血、抗凝固の禁忌、免疫抑制、高齢(年齢とともに死亡の危険が上がるが閾値は定まっていない)、プラトー圧30 cmH2O超かつFiO2 90%超での7日を超える人工呼吸である[1]。外傷で問題になりやすい上位の4項目はいずれも相対的禁忌で、「危険を高めるが、それだけで除外はしない」という位置づけである。

VA ECMOとECPR:VV ECMOは循環を直接支えない。ELSO登録の外傷279例ではVAは心不全7%、ECPR 4%にとどまり(退院生存50%、25%)[2]、出血性ショックや外傷性心停止の患者のうち誰に使うかを決める根拠は乏しい。ELSOの指針一覧には、外傷に特化した指針は掲載されていない[10]。

2.外傷ECMOの成績:登録研究・系統的レビュー・比較研究

ELSO登録(Swol 2018)

研究結果1989〜2016年にELSO登録に入力された16歳以上の外傷患者は279例で、成人ECMO 30,273例の0.92%だった。2011〜2016年の173例(62%)が、それ以前の18年間の106例より多かった。平均年齢は34.8±15.4歳、男性78%。胸部外傷が最も多い診断で、最も多い適応はARDSだった。ECMOの期間は平均8.8±9.5日。ECMOから生存して離脱したのは70%、退院生存は61%だった。80%を超える患者に何らかの合併症が報告され、最も多いのは循環器系(51%)、次が出血(29%)だった。最も多い死因は多臓器不全(15.4%)だった[2]。

限界:登録に参加するECMO施設が選んだ患者の記録で、ECMOを受けなかった同じ重症度の患者との比較はない。著者は「外傷をECMOの禁忌と考えるべきではない」と結論したが[2]、これは生存率が他の登録群と同程度だったことに基づく判断で、ECMOが生存を増やすことを示したものではない。

系統的レビューとメタ解析

研究結果Wangらの系統的レビュー(2019年12月までの検索)は58報(後ろ向き研究19報、症例報告39報)の548例(成人517例、小児31例)を集めた。鈍的外傷85.4%、頭部外傷128例、平均ISS 38.1±15.0。初回のECMOはVVが71.3%、VAが24.5%。ECMOまでの期間の中央値は5.7日、ECMO期間の中央値は9.6日。60%が初めからヘパリンによる抗凝固を受けていた。主な合併症は出血22.9%と血栓19%で、院内死亡は30.3%だった[11]。著者は、含まれた報告が後ろ向き研究・症例集積・症例報告であり、根拠の弱さ、地域の偏り、出版バイアスなどの限界をもつと述べている[11]。症例報告が多い集計の死亡率は、うまくいった例が報告されやすいぶん低く出やすい(本稿の解釈)。

研究結果Zhangらのメタ解析(2023年3月13日までの検索、16歳以上の外傷ECMOを5例以上含む研究)は、観察研究36件・1,822例を統合し、退院までの生存率を65.9%(95%CI 61.3〜70.5)と推定した。頭部外傷を扱った16研究(383例)では66.1%(95%CI 55.4〜76.2)、頭部外傷のない15研究(262例)では68.1%(95%CI 56.9〜78.5)で、群間差のP値は0.623だった。VVを含む23研究では72.3%(95%CI 63.2〜80.7)、VAを含む15研究では39.0%(95%CI 23.3〜55.6)だった(P<0.001)。合併症は22研究・806例で計615件が報告され、腎(164件)、感染(131件)、血栓(103件)が多かった[12]。

読み方:いずれもECMOを受けた患者だけの生存率で、ECMOなしの同等の患者との比較ではない。「頭部外傷あり」と「なし」の生存率に有意差がなかったことは、研究ごとの患者選択の違いを含んだ比較であり、頭部外傷がECMOの転帰に影響しないことを示すものではない。VVとVAの差も、適応と重症度が大きく異なる集団の比較で、方式の効果の差ではない。

対照群のある外傷の研究

原著本文・表の追補照合(2026年10月9日、AI編集・著者確認前):Guirand 2014では全コホートの退院生存がECLS 15/26例(58%)、従来治療42/76例(55%)と粗比較でほぼ同じだったが、重症度などを調整した死亡オッズ比は0.193(95%CI 0.042–0.884、p=0.034)。原著Table 2は「ORが1未満なら生存に有利」と注記する。年齢とP/F比によるマッチング各17例では生存64.7%対23.5%、調整死亡OR 0.038(95%CI 0.004–0.407)。ただし全ECLS例はWake Forest、全対照例はLAC+USCという施設別の非無作為化比較であり、急性頭蓋内出血と受傷後24時間以内の死亡は除外、ECLS群の導入前P/F比は49.6対59.0と低かった。肺保護治療の実施状況にも不明点があり、これらの調整ORから因果効果を断定しない。出血性合併症15%対1%(p=0.014)という代償も併記する(文献[3]の原著pp.1276–1279、Tables 1, 2, 4)。

Swol 2018の原著確認(2026年10月9日追補、著者確認前):ELSO登録279例の内訳は呼吸補助247例(88.5%)、心臓補助20例(7.2%)、ECPR 12例(4.3%)。退院生存はそれぞれ63%、50%、25%。出血合併症はVV 28%、VA 34%、下肢虚血は全体で5/279例(1.8%)だがすべてVA群であり5/32例(15.6%)だった。活動性出血や抗凝固開始時期、輸血量、ISSなど外傷固有の変数は登録不十分である。なおTable 2の適応分類には集計対象数の表記不整合があるため、ここでは方式別のTable 1と本文の人数を優先した(文献[2]の原著本文、Tables 1, 5)。

Mader 2023の原著確認(2026年10月9日追補、著者確認前):頭部AIS 3以上の12,247例のうち134例(1.1%)にECMOが実施され、退院死亡51/134例(38%)。ECMO例は若く(平均49.8対56.6歳)、ISSが高く(35.9対24.6)、胸部AIS 3以上が多かった(64%対30%)。生存者の退院時GOS 4–5は39例(生存者の48%)で、神経学的転帰の負担は小さくない。入院48時間以内の死亡は研究対象から除外され、またVV/VA方式、ECMO導入日、抗凝固、頭蓋内出血の増悪が登録されていない。したがってECMOのTBI安全性や生存利益をこの研究だけで証明することはできない(文献[13]の原著pp.1272–1276、Tables 1–3)。

研究結果Guirandらは、米国外科学会認定のレベル1外傷センター2施設で、2001〜2009年に急性低酸素性呼吸不全を治療した16〜55歳の外傷患者を後ろ向きに比べた。ほかの救済治療に十分反応しなかった後にVV ECMOを受けた26例と、人工呼吸で管理した76例である。調整死亡オッズはECMO群で低く(調整OR 0.193、95%CI 0.042〜0.884、p=0.034。原著Table 2で方向を確認)、年齢と肺損傷の重症度を合わせた17例ずつの比較でも生存が多かった(p=0.007)。人工呼吸期間、ICU・入院日数に差はなかった。ECMO群では輸血と出血の合併症が多く、従来治療群では肺の合併症が多かった[3]。

研究結果頭部外傷については、ドイツ外傷登録(TraumaRegister DGU)の解析がある。2015〜2019年にドイツ・オーストリア・スイスのレベルI・II外傷センターで治療された頭部AIS 3以上の成人12,247例のうち、ECMOを受けたのは134例(1.1%)だった。院内死亡はECMO群38%(51/134)、ECMOなしの群13%(1,523/12,113)だった。ECMOを受けたことと関連したのは、男性、胸部AIS 3以上、高いISS、赤血球輸血だった[13]。ECMO群は胸部外傷と全身の重症度が明らかに重い集団で、死亡の差をECMOの害とは解釈できない。著者は、重い胸部外傷と肺不全を合併した中等症〜重症の頭部外傷で、ECMOは救命の手段になり得ると結論している[13]。

3.一般ARDSの無作為化試験から何が言えるか:CESAR・EOLIAと外挿の限界

原著全文を確認した2試験の要点(2026年10月9日追補・著者確認前)

項目CESAR 2009 [14]EOLIA 2018 [4]
無作為化の対象ECMO専門施設への紹介・管理戦略 vs 従来管理早期VV-ECMO vs 従来管理(救済ECMOを許容)
症例数90 vs 90(紹介群68例が実際にECMO)124 vs 125(対照35例が救済ECMO)
主要結果6か月の死亡または重度障害37% vs 53%(結果判明例)。不良転帰のRR 0.69、p=0.0360日死亡35% vs 46%、RR 0.76[0.55–1.04]、p=0.09
外傷への適用上の限界「外傷または24時間以内の手術」を含む12/180例(両群5対7)で純粋な外傷例数は不明。頭蓋内出血・抗凝固禁忌を除外対象の主病因は肺炎。外傷患者数は本文Table 1では単独提示されない。不可逆性神経損傷、VA-ECMOを要する心不全などを除外
臨床的な読み方専門施設紹介の効果であり、ECMO単独の効果ではない一次評価項目の有意差なし。ただしクロスオーバー28%と早期終了に注意

外傷にとって最も重要な追加点:CESAR原著Table 1には「Trauma including surgery within 24 h」が紹介群5例、対照群7例と記載されているが、外傷だけの人数・効果推定ではない。EOLIA原著では導入後の輸血を要する出血46%対28%、重度血小板減少27%対16%であり、活動性出血を伴う外傷患者にそのまま転用できない。EOLIAで用いたヘパリンの目標aPTT 40〜55秒または抗Xa活性0.2〜0.3 IU/mLは同試験の管理規定であり、外傷患者の一律の推奨目標ではない。EOLIAの対照群は90%が腹臥位を受けている一方、CESARでは対照群の低容量・低圧換気の実施は70%であり、試験間で通常治療も異なる。

CESARでは、紹介群のうち3例が転送前に死亡し2例が転送中に死亡した。外傷における早期ECMO相談は「何としても搬送する」ことではなく、止血・神経予後・搬送安全性・モバイルECMO能力を含めた専門チームとの早期共同判断を意味する。

研究結果CESAR(英国)は、18〜65歳で、Murrayスコア3.0超(試験計画書では3.0以上)またはpH 7.20未満の代償されない高二酸化炭素血症を伴う、重症だが回復し得る呼吸不全を対象とした。除外基準は、最高気道内圧30 cmH2O超またはFiO2 0.8超の換気が7日を超えること、頭蓋内出血、そのほかの限定的なヘパリン化の禁忌、積極的な治療の継続の禁忌である。主要評価項目は無作為化から6か月(または退院前)の死亡または重度障害だった[6][14]。180例がECMOの検討のための転送群と従来治療群に90例ずつ割り付けられ、転送群で実際にECMOを受けたのは68例(75%)だった。6か月の重度障害のない生存は転送群63%(57/90)、従来治療群47%(41/87)だった。相対リスク0.69(原著Table 3で95%CI 0.05〜0.97と報告、p=0.03)は死亡または重度障害という不良転帰のイベントリスクの比較であり、良好な生存の相対リスクではない。原著表のCI下限0.05は数値として不自然であり、訂正情報の確認を要するため、そのまま臨床的精度の高い推定値として扱わない[14]。比べたのは「ECMOセンターへの転送」という戦略であり、ECMOそのものの効果と、専門施設での管理の効果を分けられない。

研究結果EOLIA(国際共同)は、極めて重症のARDS(P/F比50 mmHg未満が3時間超、P/F比80 mmHg未満が6時間超、またはpH 7.25未満かつPaCO2 60 mmHg以上が6時間超のいずれか)の患者を、直ちにVV ECMOを始める群と従来治療を続ける群に割り付けた。従来治療群では、難治性の低酸素のときにECMOへの移行(クロスオーバー)が認められていた。60日死亡はECMO群44/124例(35%)、従来治療群57/125例(46%)で、相対リスク0.76(95%CI 0.55〜1.04、P=0.09)と有意差はなかった。従来治療群の35例(28%)が無作為化から平均6.5±9.7日後にECMOへ移行し、そのうち20例(57%)が死亡した。輸血を要する出血はECMO群で多く(46%対28%、絶対リスク差18ポイント、95%CI 6〜30)、重い血小板減少も多かった(27%対16%)。虚血性脳卒中はECMO群で0%、従来治療群で5%だった[4]。

研究結果2試験の個別患者データを統合したメタ解析(429例)では、90日死亡がECMO群77/214例(36%)、対照群103/215例(48%)で、相対リスク0.75(95%CI 0.60〜0.94、P=0.013、I2=0%)だった。対照群の36例(17%)が救済ECMOを受けた(EOLIA 35例、CESAR 1例)。治療失敗(ECMO群は死亡、対照群は死亡またはECMOへの移行)の相対リスクは0.65(95%CI 0.52〜0.80)だった。事前に設定された部分集団の中で有意な交互作用があったのは、無作為化の時点で不全臓器が2つ以下の患者でECMOの死亡が低かったことだけだった。著者は、組入れ基準がEOLIAの方が厳しく、2試験で患者管理が同じではなかったことを限界に挙げている[5]。

本稿の解釈外傷患者への外挿には次の限界がある。(1)2試験を統合した患者のARDSの原因は肺炎が64%(ECMO群)と61%(対照群)で[5]、外傷の患者数は本稿で確認した範囲では示されていない。(2)CESARは頭蓋内出血と限定的なヘパリン化の禁忌を除外しており[6]、外傷で最も判断に迷う患者は試験の対象外である。(3)EOLIAでは、試験の対象者でもECMO群で輸血を要する出血が18ポイント多かった[4]。止血が済んでいない外傷ではこの差が大きくなることも考えられるが、検証されていない。(4)一方で、外傷の肺挫傷によるARDSは、回復し得る病態としてELSOの対象に含まれている[1]。したがって、RCTの結果は「重症ARDSでECMOを考える根拠」としては使えるが、「出血のある外傷でも同じ利益がある」根拠にはならない。

4.抗凝固:ヘパリンを減らす・止める判断

指針ELSOの成人・小児の抗凝固指針(2021年)は、合意に基づく推奨とは限らない教育目的の指針と断ったうえで、次のように述べている[7]。

  • 薬剤:未分画ヘパリンが最も広く使われている。直接トロンビン阻害薬(ビバリルジン、アルガトロバン)は代替として記載されるが、有効性と優越性の確認には大規模な前向き無作為化試験が必要とされる。
  • 監視の目安:aPTTは治療前の基準値の1.5〜2.5倍を治療域とした報告がある。抗Xa活性0.35〜0.67 U/mLはヘパリン濃度0.2〜0.4 U/mLに相当するとされる。
  • 出血しているとき:出血が多いとき(特に開心術後)はヘパリンを4〜6時間止めることが妥当で、状況により出血が止まるまで12時間以上止めることもある。出血の危険が高い外傷患者でヘパリンなしのECMO回路を運用できたという症例報告がある。抗凝固を止めた場合は、再開の必要と回路の血栓の量を頻回に評価することが勧められる。
  • 抗凝固なしの位置づけ:VV ECMOで抗凝固なしを日常的に行うことは、まだ推奨できないとしている。

研究結果抗凝固なしの成績をまとめた系統的レビューは、持続的な全身抗凝固なしで24時間以上VVまたはVA ECMOを受けた成人の報告34件・201例を集めた。多くはARDSか心原性ショックで、抗凝固なしの期間の中央値は4.75日だった。回路の血栓は27例(13.4%)、患者の血栓は19例(9.5%)、何らかの出血は66例(32.8%)、重大な出血は56例(27.9%)、死亡は40例(19%)だった。著者は、主に後ろ向きのデータで結果の報告が一定しないという限界を挙げたうえで、血栓の頻度は抗凝固を続けた患者と同程度と結論している[8]。比較の対照群を置いた研究ではなく、「抗凝固なしでも安全」とまでは言えない。

外傷の集計でも血栓は少なくない(Wangらのレビューで19%[11]、Zhangらのメタ解析で103件[12])。抗凝固の方法(通常量、減量、開始の遅延、なし)は研究ごとに異なり、外傷でどの方法がよいかを比べた研究は、本稿の検索範囲では見つからなかった。

ヘパリンを減らす・止める判断は、出血を減らす代わりに回路の血栓・塞栓、酸素化膜の機能低下、患者の深部静脈血栓の危険を引き受ける判断である。止血の見通し(手術・IVRの予定、凝固障害の補正)、回路の観察と交換の体制、再開の条件を、ECMOの管理チームと止血を担うチームで共有し、毎日見直す。抗凝固を止めたままにする期間の上限を示した外傷の根拠はない。

外傷性凝固障害の病態と補正の考え方は外傷性凝固障害(TIC)|病態・DIC・線溶を整理、ECMO離脱後の予防的抗凝固の開始時期は外傷後VTE予防:出血を恐れて待つ間に、何を再評価するかを参照してほしい。

5.頭部外傷を合併しているとき

頭部外傷は、ELSOの相対的禁忌(中枢神経の出血、重大な中枢神経の損傷)に当たる[1]。一方で、2節のとおり、胸部外傷と肺不全を合併した頭部外傷でECMOが使われ、多くの患者が生存したという登録研究とメタ解析がある[13][12]。導入を考える場合は、頭部CTで出血の拡大がないことの確認、脳神経外科と開頭・ICPセンサーの予定の共有、抗凝固の強さと開始時期の取り決めを、導入前に行う必要がある(本稿の解釈)。

指針ELSOの神経学的監視と管理の合意指針(2024年、30人の修正デルファイ法、85%超の合意で強い推奨)は、成人ECMO患者一般について次のように述べている[15]。

  • ECMO中の急性頭蓋内出血:VV ECMOでは全身の抗凝固を長め(2日超)に中止することを推奨する。VA ECMOも抗凝固なしで維持できるが血栓塞栓の危険が高く、VVはVAより長く抗凝固なしで維持できる。抗凝固は早めに止め、画像を繰り返しながら慎重に再開することを推奨する。
  • 二酸化炭素:高二酸化炭素血症(PaCO2 45 mmHg超)の患者では、ECMO開始後24時間のPaCO2の急な変化を避けることを推奨する。カニューレ挿入の前後でPaCO2を50%を超えて変化させないことは妥当とされる。
  • 酸素:重い高酸素血症(PaO2 300 mmHg超)を避けることを推奨する(特にVA ECMO)。
  • 血圧:低血圧を避け、平均動脈圧70 mmHg超を保つことを考慮する。持病に応じて個別に目標を決める。
  • 監視:看護師によるベッドサイドの神経評価を脳障害の危険に応じて1〜4時間ごとに行うことは妥当とされる。診察と監視機器で脳障害の危険がある患者では早期の画像検査を推奨する。昏睡の患者では間欠的な脳波と体性感覚誘発電位を推奨する。頭蓋内圧や脳組織酸素のモニターは、ECMO患者で転帰を改善するデータがないため、慎重に検討するとしている。

本稿の解釈この合意指針は外傷性脳損傷に限ったものではなく、「ECMO前から頭部外傷がある患者に導入してよいか」には答えていない。ただし、PaCO2は脳血流を左右するため、高二酸化炭素血症の外傷患者にVV ECMOを導入する際はスイープガスを段階的に上げる、という運用上の注意は頭部外傷の患者にも当てはまる。脳灌流圧の目標やICPセンサーの適応は、頭部外傷の指針の考え方を優先する。

6.導入の時期、施設、搬送

指針ELSOは、ECMO前の人工呼吸期間が長いほどECMO後の死亡が増えることから、最適な内科的管理を速やかに最大限行い、適応があればECMOを遅らせないよう求めている。ECMOを始められない施設では、早期の転送を意図的に計画し、転送が必要になるならECMOを考える段階で早く行うべきだとしている[1]。プラトー圧30 cmH2O超かつFiO2 90%超での7日を超える人工呼吸は相対的禁忌に挙げられており[1]、待つほど選択肢が狭まる。

外傷の報告ではECMO導入までの期間の中央値が5.7日だった[11]。Guirandらは、従来治療が効かないときにECMOを考え、すぐに使えるならECMO施設への転送を目指すべきだと結論している[3]。

研究結果施設の経験量について、ELSO登録の1989〜2013年の290施設・56,222例(新生児・小児を含む全年齢。成人は10,588例)の解析では、年間症例数が多いほど成人の死亡のオッズが低かった。2008〜2013年では、この関連は成人でだけ有意で、成人の年間症例数が30例を超える施設では、6例未満の施設より死亡のオッズが低かった(調整オッズ比0.61、95%CI 0.46〜0.80)[16]。国際的な専門家の見解書(2014年)は、ECMOは複雑で危険が高く費用のかかる治療であり、十分な経験・症例数・専門性のある施設で行うべきだとしている[17]。

指針ELSOの搬送指針(2022年)は、移動ECMOチームの最小構成を、チームリーダー、カニューレを挿入する医師(リーダーと兼任可)、ECMOスペシャリスト、医療搬送チームとしている。紹介元でカニューレを挿入してから運ぶ場合と、ECMOなしで運ぶ場合の両方を記載し、搬送中の脱血不良、出血、低血圧、不整脈、機器・電源の故障、カニューレの抜去、空気の混入に備えたシミュレーションを求めている[18]。

本稿の解釈外傷では、紹介元で止血が済んでいるか、転送先に外傷外科・IVR・脳神経外科がそろうかも判断に入る。ECMO施設への相談は、P/F比が指針の目安に達してからではなく、肺保護換気と腹臥位を行っても悪化が続く段階で始め、止血の状態と頭部CTの結果を添えて伝えるとよい。

7.ECMO中の人工呼吸と離脱:ELSOの目安

指針ELSOのVV ECMO指針は、ECMO中の人工呼吸の目安として、プラトー圧25 cmH2O未満、PEEP 10 cmH2O以上、呼吸数4〜15回/分(または自発呼吸)、FiO2は飽和度を保てる範囲でできるだけ低く、を示している。VV ECMO中の動脈血酸素飽和度は通常80〜90%になるとし、ヘモグロビンの目標は7 g/dL超とする立場と12 g/dLとする立場があると記載している。離脱の準備の目安の一つはPaO2 70 mmHg以上で、スイープガスを止めた試験を2〜3時間以上行う[1]。

外傷患者では、飽和度80〜90%を許容する管理と、頭部外傷での酸素化・ヘモグロビンの目標がぶつかることがある。頭部外傷の輸血閾値については、HEMOTIONとTRAINの結果を頭部外傷の血圧・ICP・CPP・Hb管理:HEMOTIONとTRAINをどう読むかで整理している。ECMO中の頭部外傷患者に限った目標値を示した研究は、本稿の検索範囲では見つからなかった。

根拠の比較表

出典(年)デザイン対象介入と比較主な結果限界と意味
CESAR(2009)[14][6]多施設RCT(英国)18〜65歳、Murray>3.0またはpH<7.20。7日超の高圧・高FiO2換気、頭蓋内出血、限定的ヘパリン化の禁忌を除外ECMOセンターへの転送 対 従来治療6か月の重度障害のない生存 63%対47%(RR 0.69、p=0.03)転送群の75%のみECMO。転送と専門施設の効果を分けられない。出血リスクの高い外傷は対象外
EOLIA(2018)[4]国際RCT極めて重症のARDS(P/F比などの3基準)直ちにVV ECMO 対 従来治療(救済ECMO可)60日死亡 35%対46%、RR 0.76(95%CI 0.55〜1.04)、P=0.09対照の28%がECMOへ移行。輸血を要する出血 46%対28%
Combes(2020)[5]2 RCTの個別患者データのメタ解析429例ECMO 対 従来治療90日死亡 36%対48%、RR 0.75(95%CI 0.60〜0.94)2試験のみ。組入れ基準と管理が異なる。肺炎が主体
Swol(2018)[2]ELSO登録の後ろ向き解析(1989〜2016年)16歳以上の外傷279例対照なし退院生存61%(呼吸不全63%、心不全50%、ECPR 25%)。出血の合併症29%登録施設の選択例。生存率は効果の証明ではない
Guirand(2014)[3]2施設の後ろ向きコホート16〜55歳の外傷の急性低酸素性呼吸不全VV ECMO 26例 対 人工呼吸 76例調整後の生存がECMO群で高い(調整OR 0.193、95%CI 0.042〜0.884)例数が少なく古い時代。ECMO群で輸血・出血が多い
Wang(2020)[11]系統的レビュー(58報、うち症例報告39)外傷548例(小児31例を含む)対照なし院内死亡30.3%、出血22.9%、血栓19%出版バイアス(著者)。抗凝固の方法が不均一
Zhang(2023)[12]観察研究36件のメタ解析16歳以上の外傷1,822例対照なし退院生存65.9%(95%CI 61.3〜70.5)。頭部外傷あり66.1%、なし68.1%ECMOなしとの比較ではない。VV/VAの差は集団の差
Mader(2023)[13]TraumaRegister DGUの後ろ向き解析頭部AIS≥3の成人12,247例ECMO 134例 対 ECMOなし院内死亡 38%対13%ECMO群は胸部外傷・ISS・輸血が多く、交絡が大きい
Olson(2021)[8]系統的レビュー(34報)抗凝固なしで24時間以上管理した成人201例対照なし回路の血栓13.4%、患者の血栓9.5%、重大な出血27.9%後ろ向き、報告が不統一。安全性の証明ではない

指針の比較表

指針(年)対象外傷・出血に関わる記載推奨の強さと注意
ELSO 成人VV ECMO(2021)[1]急性で回復し得る呼吸不全胸部外傷を対象の病態に含める。中枢神経の出血・損傷、全身の出血、抗凝固の禁忌は相対的禁忌P/F比<80 mmHgなどは「考える」目安。腹臥位をECMOの前に行う
ELSO 抗凝固(2021)[7]成人・小児のECMO出血時のヘパリン中止4〜6時間は妥当。外傷でヘパリンなしの症例報告あり合意に基づく推奨とは限らない。抗凝固なしの日常的な使用は推奨できない
ELSO 神経(2024)[15]成人ECMOECMO中の急性頭蓋内出血では、VVで2日超の抗凝固中止を推奨修正デルファイ法の合意。外傷性脳損傷に限った指針ではない
ELSO 搬送(2022)[18]成人・小児のECMO搬送外傷・出血に特化した記載なし(本稿の確認範囲)移動チームの最小構成と搬送中の危険への備え
ARDS診療ガイドライン2021(日本)[9]重症ARDS外傷に特化した記載は本稿で確認していないECMOの実施を弱く推奨(GRADE 2B:弱い推奨、中等度の確実性)

日本で実施するとき

指針日本集中治療医学会・日本呼吸器学会・日本呼吸療法医学会のARDS診療ガイドライン2021は、重症ARDSの患者にECMOを行うことを弱く推奨している(GRADE 2B、確実性は中等度)[9]。外傷に特化した推奨は、本稿で確認した範囲には含まれていない。外傷初期診療ガイドライン(JATEC)のECMOに関する記載は、本稿では原本を確認しておらず未確認である。

相談と搬送の体制:NPO法人日本ECMOnetは、ECMOの知識と経験をもつ医師によるNPO法人で、新型コロナの重症患者を含め、24時間の電話相談と患者の搬送治療の支援を行ってきたとしている。同法人の公表では、2020年2月〜2021年10月の電話相談が237件、重症コロナ患者の搬送(ECMO搬送または人工呼吸器搬送)が159件、全国47都道府県での講習会の開催、ECMO 1,162例と人工呼吸7,742例を登録したデータベース(CRISIS)の公開がある。連携する学会として、日本呼吸療法医学会、日本救急医学会、日本集中治療医学会などを挙げ、令和8年度の厚生労働省「重症患者診療体制整備事業(ECMO・人工呼吸器管理研修)」の実施も告知している[19]。外傷患者の相談をどの程度受け付けているかは、公表資料からは確認できなかった。

国内の外傷ECMOのデータ:J-STAGEで「外傷 ECMO」を検索した範囲(2026年9月26日)では、重症胸部外傷などの症例報告が中心で、国内の外傷ECMOの多施設データは見つからなかった。国内の成績は海外の登録研究から推し量るしかないのが現状である。

保険と薬剤:診療報酬上のECMOの扱い(手術の部の「体外式膜型人工肺」の点数と算定要件)は、本稿では厚生労働省の公式資料の該当部分を開けず、未確認とする。ヘパリンナトリウム注射液の電子添文(ニプロの製品、2024年7月改訂第3版)では、効能又は効果に血液透析・人工心肺などの体外循環装置の使用時の血液凝固の防止が含まれるが、ECMO(体外式膜型人工肺)という語は記載されていない。また9.1.1「出血している患者」の項で、出血している患者などには治療上やむを得ないと判断される場合を除き投与しないこととされている[20]。つまり外傷のECMOでヘパリンを使うことは、電子添文の上でも「出血との比較のうえでやむを得ない」判断になる(本稿の解釈)。アルガトロバンなどの代替薬のECMOでの扱いは、本稿では確認していない(未確認)。施設で使用する際は、最新の点数表と電子添文を確認してほしい。

本稿の解釈国内では、救命センターで止血と肺保護換気・腹臥位を進めながら、悪化が続く段階で自施設のECMOチームまたは地域のECMO施設に相談し、転送か自施設での導入かを決める流れになる。24時間の回路管理と、外傷外科・IVR・脳神経外科・臨床工学技士の連携が前提である。

まだ分からないこと

  • 外傷患者で、ECMOが同じ重症度の従来治療より生存を増やすか(外傷に限ったRCTはない)。
  • 止血が済んでいない外傷、頭蓋内出血のある患者での、抗凝固を始める時期と強さ、抗凝固なしで管理できる期間。
  • 腹臥位ができない外傷患者で、ECMOへ進む閾値をどう置くか。
  • 出血性ショックや外傷性心停止でのVA ECMO・ECPRの患者選択。
  • 日本の外傷ECMOの症例数と転帰(多施設のデータが見当たらない)。

まとめ

重症外傷のECMOは、回復し得る呼吸・循環不全に対する時間稼ぎの治療である。胸部外傷はELSOの対象に含まれ、出血と頭部外傷は相対的禁忌として個別に判断する。外傷の成績は選ばれた患者の観察研究で、一般のARDSのRCTは出血の危険が高い外傷を対象としていない。ヘパリンを減らす・止める判断は血栓の危険と引き換えであり、経験のある施設で、止血を担うチームと共有して行う。

文献

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医学的内容の最終確認日・確認範囲

文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月26日)

医学的内容の最終確認日:2026年9月26日(著者確認)。文献照合日:2026年9月26日(日本時間)。文献の検索・照合は2026年9月25〜26日に行った。PMC(公開本文、NCBI BioC経由を含む)、PubTator3(PubMedの抄録)、NCBIのID変換、OpenAlex・Crossref・Semantic Scholarの書誌、出版社の公開本文、ELSOの公式ページとPDF、J-STAGE、KEGG MEDICUS、日本ECMOnetの公式ページを直接開いて確認した。Europe PMC、PubMedのウェブ画面、一部のCrossref・OpenAlex・Semantic Scholarの検索には、接続できない時間帯があった。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月26日に著者(医師)が確認した。

  • 本文を確認:[1](PMCの本文。適応、禁忌、ECMO中の人工呼吸、離脱、転送)、[12](出版社の本文。結果、部分集団、合併症)、[11](出版社の本文。抄録の結果と限界の記載)、[15](PMCの本文をNCBI BioCで取得。方法と推奨文)、[5](出版社の本文とPMCの本文。抄録、CESAR・EOLIAの記載、原因疾患、限界)、[6](出版社の本文。組入れ・除外基準と主要評価項目)、[7](ELSOが公開するPDF。薬剤、監視、出血時の中止、抗凝固なしの位置づけ)、[18](ELSOが公開するPDF。チーム構成、搬送の種類、搬送中の危険)。
  • 抄録などで確認:[8][16][17]。これらの数値は確認できた資料の範囲に限る。
  • 公式要約・公式ページを確認:[9](出版社の本文のうち、ECMOの推奨文とGRADEの定義)、[10](ELSOの指針一覧)、[19](日本ECMOnetのトップページと活動内容)、[20](電子添文の効能又は効果、用法及び用量、9.1.1)。
  • 2026年10月9日の追補照合(AIを用いた編集作業、著者確認前):[2] Swol 2018、[3] Guirand 2014、[13] Mader 2023、[4] EOLIA、[14] CESARの原著本文・表を照合した。[3]の調整ORの方向は原著Table 2で確認した(死亡オッズの低下)。CESAR [14] の相対リスクは死亡または重度障害というイベントの相対リスクであり、良好な転帰の相対リスクではない。EOLIA・CESARのSupplementary Appendix、JATEC改訂第6版のECMOの記載、令和6年度診療報酬点数表K601-2の該当部分、ESICM 2023とATS 2024の推奨文は引き続き確認待ち。
  • 訂正・撤回:本稿の文献について、Crossrefへの接続の制限により訂正・撤回の有無を個別には確認できていない。[14]はPubMedの抄録に[corrected]の注記がある(質調整生存年の記載)。

更新履歴

更新履歴を開く(10月9日の追補を含む)
  • 2026年10月9日(AI編集追補・著者未確認):2025年外傷ECMOガイドライン、VV/VAの病態別適応、止血優先の判断、抗凝固、TBI、VA特有のリスクを追記。Guirand・Swol・Mader・CESAR・EOLIAの原著全文と表を照合して効果量、転帰、研究の限界を更新した。CESARの複合病因12例、EOLIAの出血・クロスオーバー、一般ARDSから外傷への外挿の限界を追記。2026年9月26日の著者確認は旧版についての記録であり、本追補は医師による再確認前。
  • 2026年9月26日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。あわせて、確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
  • 2026年9月26日(改訂):内容が薄く、主要な研究の数値と国内の情報が不足していたため全面的に書き直した。主な変更:(1)ELSOの適応・禁忌を原文の条件(最適な管理の後、腹臥位の先行、絶対的禁忌の定義、相対的禁忌の全項目)とともに示し直した。(2)外傷のELSO登録(Swol 2018)、対照群のある外傷の研究(Guirand 2014)、頭部外傷の登録研究(Mader 2023)を加えた。(3)一般ARDSの無作為化試験(CESAR、EOLIA)と個別患者データのメタ解析を群別の絶対値・効果量・95%CIとともに加え、外傷への外挿の限界(CESARの除外基準、EOLIAの出血の増加)を分けて書いた。(4)ELSOの抗凝固指針と、抗凝固なしのECMOの系統的レビューを加え、ヘパリンを減らす・止める判断の危険を示した。(5)ELSOの神経学的合意指針の推奨(PaCO2の急な変化を避ける、神経評価の頻度など)を加えた。(6)施設の経験量と転帰、専門家の見解書、ELSOの搬送指針を加えた。(7)「日本で実施するとき」に、ARDS診療ガイドライン2021の推奨、日本ECMOnetの体制、ヘパリンの電子添文の記載を加え、確認できなかった診療報酬とJATECの記載を「未確認」とした。(8)文献を4件から20件にし、DOI・PMIDをリンクにして、文献ごとの確認範囲を示した。関連記事のリンク文字を各記事の題名に改めた。
  • 2026年9月26日(初回公開):ELSOのVV ECMO指針、外傷ECMOのメタ解析(2023年)、系統的レビュー(2020年)、ELSOの神経学的合意指針(2024年)の4文献をもとに、VV/VAの適応、出血と頭部外傷を相対的禁忌とする位置づけ、観察研究の生存率を治療効果と読まない注意、導入を遅らせない考え方を解説として公開した(公開時の版の履歴の記載は「2026年9月25日(公開準備):新規作成」)。

本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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