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骨盤骨折出血:TAE・PPP・REBOAをどう組み合わせるか

骨盤骨折出血:TAE・PPP・REBOAをどう使うか

外傷外科医ベル / TRAUMA EVIDENCE LAB.

文献確認:2026年9月14日 | 成人外傷・医療者向け

骨盤骨折で血圧が下がる。バインダーを装着し、輸血を始めた。しかし血圧は保てない。ここで必要なのは、「骨盤骨折にはTAE」という一つの治療名ではなく、この患者の出血源に対して、どこで、何分後に止血を始められるかという判断です。

経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、腹膜前骨盤パッキング(PPP)、骨盤の機械的安定化は、それぞれ役割が異なります。大動脈遮断バルーン(REBOA)を加えれば自動的に救命率が上がるわけでもありません。本稿では成人の骨盤骨折に伴う急性出血を対象に、循環動態、出血源、治療までの時間から組み合わせを考えます。

1.骨折型だけでは緊急度を決められない

画像上の骨盤輪損傷の大きさと、今この瞬間の出血性ショックの重さは同じではありません。WSESは、骨盤の機械的不安定性に加えて、患者の生理学的状態と合併損傷を組み込んだ評価を示しています。〔1〕

初療では血圧の単独値より、輸血や初期処置に対する反応の持続性を見ます。一度血圧が上がっても、輸血を続けないと維持できない、意識や末梢循環が悪い、乳酸・塩基過剰が改善しない場合は、出血の継続を疑います。「CTを撮れる血圧になった」と「CT室への移動と検査中も安全に待てる」は分けて考えます。〔1〕〔2〕

高齢者、β遮断薬内服者、頭部外傷合併例などでは、頻脈や意識だけに依存した判断も危険です。骨折型は止血・固定方法を選ぶ情報であり、循環評価の代わりにはなりません。

2.骨盤出血は一種類ではない

骨盤骨折では、静脈叢、骨折面、動脈からの出血が混在します。教科書的な出血割合を、そのまま目の前の重症患者に当てはめることはできません。特に、循環不安定で治療を要する集団では、動脈性出血を積極的に考える必要があります。〔1〕

手段主な役割単独では解決しにくい問題
骨盤バインダー・適切な骨盤固定骨盤輪の動揺を抑え、圧迫止血の条件を整える持続する大きな動脈性出血、骨盤以外の出血
PPP腹膜前腔を圧迫し、静脈叢・骨折面などからの出血を制御する残存する動脈性出血。骨盤の安定化も必要
TAE出血責任動脈を評価し、血管内から止血する非動脈性出血、機械的不安定性、腹腔内の汚染
REBOA遠位への血流を一時的に減らす補助手段損傷血管の修復・塞栓そのもの。虚血とアクセス合併症を伴う

この表は「順番を固定する表」ではありません。PPP後のTAE、TAEと固定、開腹手術と別経路のPPPなど、患者に応じて併用するための整理です。〔1〕〔2〕

3.初療で並行して進めること

骨盤輪損傷が疑われる重症出血では、適切なバインダー装着を早期に考えます。圧迫の位置は腸骨稜ではなく、大転子の高さです。装着後も皮膚圧迫や神経・血流、固定の状態を確認し、整形外科と次の固定方法・解除時期を共有します。循環が悪いまま診断目的で不用意に外したり、長時間の装着を放置したりしません。〔1〕〔2〕

同時に、施設の大量輸血プロトコルを起動し、保温、イオン化カルシウム、凝固・フィブリノゲンを評価します。大量の晶質液だけで正常血圧を追い続けると、止血が遅れ、希釈や低体温を増やす可能性があります。TXAは適応のある出血患者で受傷後3時間以内という時間条件を重視し、凝固検査の結果待ちで投与を遅らせないという欧州指針の位置づけも共有します。〔2〕

これらは止血の準備と並行する処置です。輸血速度が増えているときに、蘇生だけを続けて決定的な止血を先延ばしにしないことが重要です。

4.FASTとCTは、それぞれ何を判断するために使うか

FASTで腹腔内液体がなくても、後腹膜や骨盤内の大量出血は否定できません。逆にFASTが陽性で循環不安定なら、骨盤だけに原因を決めつけず、腹腔内出血の手術制御を含めて判断します。胸腔、外出血、長管骨損傷などの評価も同時に進めます。〔1〕

造影CTは、移動と撮影に耐えられる患者で、血腫、動脈性造影剤漏出、合併臓器損傷を把握するために有用です。ただし、造影剤漏出がないことは動脈性出血の完全否定ではありません。循環不全や持続する輸血需要があれば、CTの一所見より臨床経過を優先して再評価します。〔1〕

状況初療での考え方避けたい判断
循環が維持され、評価の時間がある造影CTで出血源・合併損傷を確認し、必要な止血と固定を計画「初療時に安定していたから、その後も安全」
一時的に反応するが輸血依存CTの所要時間と急変時対応を評価し、止血チームを先に起動画像がそろうまで関係科への連絡を待つ
蘇生に反応しない、悪化が続く蘇生を継続しながら、最短で開始できる出血制御へCTを通過しないと止血方法を決められない運用
骨盤外の手術適応もある開腹・胸部処置などの優先度とPPP・TAEの併用を調整骨盤骨折という診断だけでIVR室へ直行する

これは各指針を基にした実務上の整理で、検証済みの新しい予測スコアではありません。〔1〕〔2〕

5.PPPは「TAEができない施設の代用品」だけではない

PPPは、骨盤の非動脈性出血を含めた迅速な圧迫止血を担います。欧州2023年指針は、持続出血があり、または血管塞栓を適時に実施できない場合の一時的な腹膜外パッキングを推奨しています。必要なら腹腔内損傷に対する手術と組み合わせます。〔2〕

Burlewらの単施設研究では、11年間にPPPを受けた重症患者128例のうち、16例、13%が動脈性出血に対する追加塞栓を必要としました。この結果は、PPPとTAEが排他的な治療ではないことを示します。一方、この研究は無作為化比較試験ではなく、死亡率を他施設のTAE集団と単純比較してPPPの優越性を結論づけることはできません。〔3〕

PPPを選ぶ場合も、骨盤の安定化、パッキング後の循環評価、残存出血時のTAE、再手術までを一つの計画にします。腹膜前腔への適切なアプローチと骨盤血腫の扱いは、腹腔内パッキングと同一ではありません。術式に習熟したチームで行う必要があります。〔1〕

6.TAEは「できるか」だけでなく「いつ止血が始まるか」で評価する

TAEは動脈性出血に対する中心的な治療です。しかし、IVR担当者の招集、部屋の準備、搬送、麻酔・輸血体制の調整に時間がかかるなら、その待機を含めて治療戦略を判断します。

Matsushimaらは、受診後4時間以内に塞栓を受けた成人骨盤骨折181例を解析し、塞栓開始までの1時間の遅れと死亡の調整オッズ比1.79との関連を報告しました。95%信頼区間は1.11–2.91です。これは観察研究の関連であり、「誰でも1時間待つと死亡確率が1.79倍になる」という意味ではありません。対象には選択条件があり、他の止血手術を早期に受けた患者は除かれています。〔4〕

国内JTDBを用いたAokiらの研究でも、来院時に血行動態が安定し、3時間以内に塞栓された620例で、塞栓の遅延と死亡増加の関連が示されました。これは、すべての安定した骨盤骨折に予防的TAEを行う根拠ではありません。塞栓が必要と判断された患者の中で、実施までの遅延を減らす意義を示す研究です。〔5〕

評価したい時間は「IVRへの連絡時刻」だけではありません。到着、治療方針決定、搬送、血管アクセス、最初の有効な止血処置までを分けて記録すると、施設で改善すべき待機が見えてきます。

7.REBOA:2023年以降のデータで説明を更新する

REBOAは、一時的な大動脈遮断により遠位出血を減らす処置ですが、止血そのものを完了させません。虚血、再灌流障害、血管アクセスに伴う合併症があり、挿入が決定的止血を遅らせる可能性もあります。骨盤出血で腹腔内出血が除外された状況と、出血源が未確定な状況では、遮断の考え方も異なります。〔1〕〔2〕

2023年のUK-REBOA試験は、失血性出血を伴う重症外傷90例を無作為化しました。主要解析89例における90日死亡は、REBOA併用群25/46例、54%、標準治療群18/43例、42%でした。オッズ比は1.58、95%信用区間0.72–3.52で、死亡増加の事後確率は86.9%でした。死亡改善は示されず、有害性の可能性が示唆されたと読むのが適切です。〔6〕

ここでの区間はベイズ解析の「信用区間」です。また対象は骨盤単独出血に限定されておらず、特定の遮断部位・患者選択だけの有効性を直接決着させた試験でもありません。ただし、そうした限界を理由に試験結果を無視し、一般的な出血性ショックへ日常的に導入する根拠にもできません。

8.ガイドラインの年代と対象を分けて読む

文献対象・デザイン現場での読み方
欧州重症外傷出血指針・2023多領域の診療指針循環虚脱における止血までの橋渡しとしてREBOAを考慮する弱い推奨。UK-REBOA公表前の文書
UK-REBOA・2023重症外傷の無作為化比較試験標準治療への追加で死亡改善を示さず、有害性の可能性。骨盤単独に限定した試験ではない
EAST・2025システマティックレビューと診療指針横隔膜下出血が疑われる循環不安定な外傷では、REBOA使用に条件付きで反対。全体の確実性は非常に低い
AT-REBOA・2025後ろ向きデータによるtarget trial emulation22対22例で30日死亡は各41%。小規模で区間が広く、同等性を証明したものではない

EAST 2025は、外傷性心停止で蘇生的開胸と比較する場面については別の条件付き推奨を示しています。心停止患者の比較を、そのまま心停止前のショック患者に当てはめないことが重要です。〔2〕〔6〕〔7〕〔8〕

AT-REBOAの「target trial」という名称にも注意が必要です。無作為化試験を模倣するよう観察データを設計・解析した研究であり、実際に無作為化した試験ではありません。残余交絡や症例数の限界があります。〔8〕

現時点で記事として伝えるべきなのは、REBOAを標準的な救命手順のように断定しないことです。施設で限定的に検討する場合も、適応判断、遮断中の管理、直ちに実施する決定的止血、合併症監視を明確にし、治療全体の遅延が起きないか検証します。

9.PPPとTAEの優先順位は、施設の実行能力を含めて決める

「PPPが先か、TAEが先か」という議論だけでは、夜間に30分で手術を開始できる施設と、数分で血管内止血に入れる施設の違いを扱えません。比較研究には、重症度、合併損傷、治療選択、時代による輸血体制の違いが入り込みます。単純な死亡率ランキングは避けます。〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕

施設・患者の条件チームで決めておくこと
手術室は即応できるがIVR開始が遅い持続出血時のPPPと固定、残存動脈性出血の追加TAEの流れ
蘇生可能なIVR環境と担当者が即応できる血管内止血を開始し、制御不十分・悪化時に外科処置へ切り替える条件
腹腔内出血や汚染の手術も必要開腹による処置とPPP・骨盤固定、術中または術後TAEの調整
自施設では迅速な決定的止血が難しい受入先への早期連絡、転送中の蘇生、転送前に可能な止血・固定の役割

これは特定の施設方式の優劣を示す表ではありません。各施設で、最短の止血開始と急変時の代替策を具体化するための設計項目です。

10.止血後も「骨盤は終わった」としない

PPPやTAEの後は、輸血需要、循環、乳酸の推移、凝固、体温、尿量を合わせて見ます。改善が乏しい場合、残存する骨盤出血だけでなく、見逃した胸腹部出血、低体温・凝固障害、心機能なども再評価します。〔1〕〔2〕

パッキングは残したまま終わる処置ではありません。WSES 2017は48–72時間でのパッキング再評価・交換に言及していますが、持続出血や感染などがあれば、その時刻まで待つ理由はありません。再手術の目的、必要な輸血、固定方法、出血が再燃したときの対応を引き継ぎます。〔1〕

開放性骨盤骨折では、直腸・会陰、尿路、生殖器損傷や汚染を評価し、外傷外科・整形外科・泌尿器科などで感染制御と再建を計画します。救命直後から、圧迫による皮膚障害、神経・血管障害、塞栓やアクセスに伴う合併症、血栓予防へと観察項目を広げます。〔1〕

11.現場で交わしたい短い確認

  1. 「主な出血源を骨盤と考える根拠は何か。骨盤外をどこまで確認したか」
  2. 「輸血に対する反応は持続しているか。次の移動に耐えられるか」
  3. 「実際に止血を始められる場所と時刻はどこか」
  4. 「最初の処置で改善しない場合、次に誰が何をするか」
  5. 「パッキング、固定、血管アクセスを誰がいつ再評価するか」

これらは既存指針を臨床運用に落とし込んだ確認事項です。高度な機器の有無に加え、初療、輸血、手術、IVR、集中治療が同じ治療目標と切替条件を共有しているかが問われます。

12.エビデンスの確実性とこの記事の範囲

骨盤骨折出血の多くの比較は観察研究で、最重症患者ほど特定の処置を受ける選択バイアスを免れません。時間短縮と死亡の関連も重要ですが、調整後の関連をそのまま因果効果と扱わないようにします。REBOAについては、無作為化試験と、その後の指針を併記しました。

本稿は2026年9月14日までに確認できた指針・主要原著を基にした教育的整理です。骨盤輪の詳細な固定手技、小児、妊婦、泌尿生殖器損傷の再建は対象を分けて扱う必要があります。以下は本文の判断に使用した文献で、網羅的なシステマティックレビューではありません。

参考文献

  1. Coccolini F, et al. Pelvic trauma: WSES classification and guidelines. World J Emerg Surg. 2017;12:5. 指針全文・DOI
  2. Rossaint R, et al. The European guideline on management of major bleeding and coagulopathy following trauma: sixth edition. Crit Care. 2023. 指針全文・DOI
  3. Burlew CC, et al. Preperitoneal pelvic packing reduces mortality in patients with life-threatening hemorrhage due to unstable pelvic fractures. J Trauma Acute Care Surg. 2017. 単施設観察研究。 原著抄録
  4. Matsushima K, et al. Effect of door-to-angioembolization time on mortality in pelvic fracture: Every hour of delay counts. J Trauma Acute Care Surg. 2018;84:685–692. 原著抄録
  5. Aoki M, et al. Delayed embolization associated with increased mortality in pelvic fracture with hemodynamic stability at hospital arrival. World J Emerg Surg. 2021;16:21. JTDB観察研究。 原著全文
  6. Jansen JO, et al. Emergency Department Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in Trauma Patients With Exsanguinating Hemorrhage: The UK-REBOA Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330:1862–1871. 原著抄録
  7. Harfouche MN, et al. Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in surgical and trauma patients: a systematic review, meta-analysis and practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. Trauma Surg Acute Care Open. 2025;10:e001730. 指針抄録
  8. Hallmann B, et al. Resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta for trauma patients with uncontrolled hemorrhage: a retrospective target trial emulation (the AT-REBOA target trial). Eur J Emerg Med. 2025. 後ろ向き観察データの解析。 原著抄録
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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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