外傷手技|外傷性心損傷:PericardiotomyとCardiorrhaphy

外傷性心損傷の手術のアイキャッチ:紺地に『外傷性心損傷』とCARDIAC INJURYの文字

穿通性心損傷では、心嚢の出血を見つけ、到達法を選び、心膜を開いて出血点を指で押さえ、心筋を縫う。どこで判断を誤りやすいかを手順に沿って整理する。心嚢のFASTは多施設研究で感度100%だったが、血胸を伴う安定例では偽陰性が多く、陰性でも心損傷を否定できない。安定した心嚢血腫は剣状突起下心膜開窓で確かめ、出血が止まっていればドレナージで済ませられることが単施設の無作為化試験で示された。対象は成人の穿通性心損傷を手術する外科医である。

  • 穿通性心損傷
  • 心タンポナーデ
  • 心膜開窓
  • 心筋縫合
  • 外傷手技

医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。

目次

まず押さえる要点

  1. 心嚢のFASTは最初に行う検査だが、血胸があると陰性でも否定できない。体幹の穿通創261例の多施設研究で、心嚢の超音波は感度100%、特異度96.9%だった[4]。一方、手術適応のない安定例172例に全例で心膜開窓を行った研究では感度86.7%、陽性的中率77%にとどまり、偽陰性18例のうち11例に血胸、6例に心嚢内の空気があった(抄録の値)[5]。
  2. 循環が安定し、心膜開窓で心嚢血腫を認めても出血が止まっていれば、胸骨正中切開をしなくてよい場合がある。単施設の無作為化試験(111例)で、胸骨正中切開群55例の93%は心損傷がないか非全層性で、死亡は111例中1例(胸骨正中切開群)だった。ドレナージ群はICU在室が1.8日短かった(95%CI 0.8〜2.7)[7]。
  3. 到達法は循環と創の位置で選ぶ。脈がない・不安定な患者は左前側方開胸(必要なら clamshell へ延長)、安定した前胸部の刺創では手術室での胸骨正中切開が選ばれる[1][3]。蘇生的開胸術の適応判断は外傷手技|蘇生的開胸術に従う。
  4. 心膜は横隔神経の1〜2 cm前方で、神経と平行に開く。開胸したら心膜は必ず開ける。外から見ただけでは、タンポナーデがあっても心嚢内の血液を見落とす[1]。
  5. まず指で押さえ、次に縫う。心室はポリプロピレン糸で縫い、脆い心筋や右室ではフェルト(プレジェット)付きの水平マットレス縫合が裂けにくい。冠動脈の近くでは糸を冠動脈の下にくぐらせ、ST変化が出たら縫い直す[1]。フェルト付き縫合が、丁寧に置いた水平マットレス縫合より有益だとは示されていない[3]。

対象と扱わない範囲

対象:成人の穿通性心損傷(刺創・銃創)。初療室での診断(FAST、心膜開窓)から、手術室または開胸下での心膜切開、一時止血、心筋縫合、閉胸と術後早期の管理までを扱う。読者は手技を行う外科医と、介助・麻酔を担うチームを想定する。

扱わない範囲:

  • 蘇生的開胸術(ERT)の適応判断(signs of life、心肺蘇生の時間)と、左前側方開胸・開胸心マッサージ・下行大動脈遮断の手技。外傷手技|蘇生的開胸術を参照。本稿はその続きの「心膜を開けた後」を扱う。
  • 鈍的心損傷(心筋挫傷など)。EASTの指針は、鈍的心損傷が疑われる患者に来院時の心電図とトロポニンIの測定を挙げ、両方が正常な場合にのみ否定できるとしている[11]。本稿では詳しく扱わない。
  • 人工心肺を使う修復(弁・心室中隔・冠動脈バイパス)の詳細、医原性の心損傷、小児、病院前の対応、大血管損傷。

読み方:手順の記述は、技術的なレビュー[1][2][3]の記載に限った。これらは専門家の記述で、手順ごとの比較試験ではない。研究の数値は、多くが抄録で確かめた範囲である(記事末に文献ごとに示す)。

1.診断:FASTの心嚢所見をどう読むか

導入時の多施設研究では感度100%

研究結果Rozyckiらは、米国のレベルI外傷センター5施設に心嚢の超音波を導入する際、体幹の穿通創の患者261例で精度を前向きに評価した[4]。検査は4施設で外科医か循環器内科医、1施設で技師が行い、陽性なら手順に従い直ちに手術した。真陰性225例(86.2%)、真陽性29例(11.1%)、偽陰性0例、偽陽性7例(2.7%)で、感度100%、特異度96.9%、正確度97.3%だった。超音波から手術までは平均12.1±5分だった[4]。

研究結果米国の都市部のレベルI外傷センター(Grady Memorial Hospital)の36年間271例の解析では、2000〜2010年の期間に外科医の超音波は55例中55例で心嚢の血液を正しく検出した[6]。

血胸と心嚢内の空気が偽陰性を生む

研究結果南アフリカのGroote Schuur病院の研究(2001年10月〜2009年2月、前向き)は、循環が安定し手術適応のない穿通性胸部外傷の患者に、超音波の後で全例に剣状突起下心膜開窓を行った[5]。172例(年齢の中央値26歳、刺創166例〔96%〕、銃創6例)で、心嚢血腫に対する超音波の感度は86.7%、陽性的中率は77%だった。偽陰性は18例で、うち11例に血胸、6例に心嚢内の空気があった。著者らは、血胸と心嚢内の空気が検出を妨げる2つの主な要因だと結論した[5]。なお、抄録の感度86.7%と偽陰性18例をそのまま172例の2×2表に当てはめると、心嚢血腫は約135例、偽陽性は約35例となり、真陰性がほとんど残らない。感度の分母や偽陰性の定義が抄録と異なる可能性があるが、本文は未取得で確かめられていないため、数値は抄録のまま示す。

技術的レビューも、心嚢液の検出感度は血気胸、心膜や胸膜の損傷(心嚢の血液が胸腔へ抜ける)、皮下気腫、検査者の不慣れで下がりうると書いている[1]。胸部X線で縦隔が広がっている安定した患者でも心損傷を疑う、とするレビューもある[3]。

本稿の解釈Rozyckiらの高い感度は、陽性なら直ちに手術する運用の下での値で、Nicolらの研究は「手術適応のない安定例」という、見逃しが起こりやすい集団で全例に参照標準(心膜開窓)を行った。両者は対象も参照標準も違い、矛盾ではない。心臓の投影部(cardiac box)の創で左血胸があるときは、FAST陰性を「心損傷なし」と読まない。

安定しているか、不安定か

  • 脈がない、または輸液や心肺蘇生(15分未満)でも不安定:多くは左前側方開胸による蘇生的開胸術が必要になる、とレビューは書いている[1]。適応の条件は外傷手技|蘇生的開胸術で確認する。
  • 安定していて cardiac box に創がある:直ちに手術室で胸骨正中切開して検索する方法がある[1]。安定していれば、CTを含めた検査を追加できる[3]。
  • 安定していてFASTが判定しにくい(血胸、皮下気腫など):剣状突起下心膜開窓は、確定的な診断の補助として位置づけられている[1]。

2.心嚢穿刺と剣状突起下心膜開窓の位置づけ

3つの処置の適応と対象外を、出典の条件のまま並べる。

処置適応(出典の条件)対象外・次の処置へ
心嚢穿刺確定的な手術がすぐにできない施設での、外傷性タンポナーデへの橋渡し[8]手術ができる施設では開胸・胸骨正中切開を優先する(本稿の解釈)
剣状突起下心膜開窓循環が安定し、心損傷が疑われ、FASTで判定しにくい患者[1]脈がない・不安定な患者は開胸へ[1]
ドレナージと洗浄のみ循環が安定し、心膜開窓で心嚢血腫を認め、活動性の出血がない患者[7]出血が続く患者は胸骨正中切開へ[2]

心嚢穿刺は、すぐに手術できない施設での橋渡し

研究結果Leeらの系統的レビューは、1970〜2010年の外傷後の心嚢穿刺の報告135件のうち27件(外傷患者2,094例)を採用した[8]。心嚢穿刺を受けた患者の割合は1970〜1979年の45.9%から2000〜2010年の6.4%に減り、心嚢穿刺だけで治療した割合も13.7%から2.1%に減った。生存を解析できたのは380例で、心嚢穿刺後の生存は83.4%(317例)、心嚢穿刺だけで治療した例では91.8%(145例)、心嚢穿刺の後に開胸した例では79.5%(178例)だった。

著者らは、研究は限られ、生存者に偏っていると述べた。そのうえで、心嚢穿刺は確定的な手術がすぐにできない、外傷センター以外での処置だと結論した[8]。レビューによっては、心嚢穿刺も心膜開窓も時間がかかる点を挙げ、医原性の心損傷は心嚢穿刺の後に最も多いと書いている[3]。

本稿の解釈外傷の心嚢血腫はしばしば凝血塊で、針で十分に抜けるとは限らない。心嚢穿刺で循環が戻っても、心筋の創が閉じたとは言えない。穿刺は手術までの時間を稼ぐ処置と考え、手術室の準備と転送を止めない。

剣状突起下心膜開窓の手順

技術的レビュー[1]の記載は次のとおり。

  1. 剣状突起を中心に、正中の縦切開を5〜6 cm置く。
  2. 心膜を長いAllis鉗子2本で緊張をかけて把持する。
  3. 2本の鉗子の間で、15番メスで縦に1〜2 cm切開する。
  4. 陽性:凝血塊が出るか、心嚢液が血性。陰性:少量の透明な心嚢液と、その下の心外膜が見える。

心損傷が疑われるときは、開腹術の途中に横隔膜を経由して心膜開窓を行うこともできる[1][3]。

開窓で陽性なら、必ず胸骨を開くか:Nicol 2014

研究結果Nicolらの単施設・並行群間の無作為化試験は、穿通性胸部外傷の後に心膜開窓で心嚢血腫を確かめ、活動性の出血がない、循環の安定した患者を対象とした[7]。55例を胸骨正中切開、56例を心嚢のドレナージと洗浄のみに割り付けた。主要評価項目は退院までの生存だった。

  • 胸骨正中切開群55例中51例(93%)は、心損傷がないか非全層性(tangential)の損傷だった。心内膜に達する損傷は4例で、すべて閉じていた。
  • 術後の死亡は111例中1例(0.9%)で、胸骨正中切開群だった。
  • ICU在室の平均は胸骨正中切開群2.04日(範囲0〜25)、ドレナージ群0.25日(範囲0〜2)で(P<0.001)、差の推定は1.8日(95%CI 0.8〜2.7)。入院日数もドレナージ群で短かった(P<0.001、95%CI 1.4〜3.3)[7]。

限界と適用の条件:対象は循環が安定し、開窓時に出血が続いていない患者に限られる。刺創が多い単施設の試験で、死亡が1例しかなく、死亡の差を検出する規模ではない(本稿の解釈)。開窓で出血が続いている、循環が不安定になる、といった場合は胸骨正中切開で修復する。レビューも、胸骨正中切開は出血が続く患者に行うという方針をこの試験の手順として紹介している[2]。

3.到達法:胸骨正中切開・左前側方開胸・clamshell

到達法主な場面利点注意
胸骨正中切開循環が安定した(または検査ができる程度に保たれた)前胸部の刺創[1][3]心臓の前面全体に届き、人工心肺にもつなげやすい(本稿の解釈)レビューは、一般に前胸部の刺創に限るべきとする[1]。胸骨創の感染は起こりうる[1]
左前側方開胸脈がない、または不安定な患者(蘇生的開胸術)[1][3]初療室でも開け、大動脈遮断・開胸心マッサージと同じ視野で行える(本稿の解釈)右心系と右胸腔が見えにくい。手技は蘇生的開胸術の記事を参照
clamshell(両側前側方開胸+胸骨横断)左前側方開胸で視野が足りない、右側や縦隔にも損傷がある[1][3]後方の横隔膜と上部食道を除く胸腔内のほぼすべてに届く[1]胸骨の横断で内胸動脈を切る。切れた内胸動脈は循環が戻った後の出血源になるので、初回の処置中に探して結紮する[1]

レビューは、広い視野が要る損傷の制御と修復には、左前側方開胸からclamshellへの延長がしばしば選ばれると書いている[1]。原因の分からない低血圧は、切断した内胸動脈からの出血のことがある[1]。

4.準備と器具

レビューに記載のある器具・材料をまとめる[1]。蘇生的開胸術の基本器具(開胸器、大動脈遮断鉗子など)は蘇生的開胸術の記事にある。

  • 縫合糸:心室には両端針のポリプロピレン糸(4-0 SH針または3-0 MH針)。心房には5-0ポリプロピレン(RB針)、特に薄い心房には6-0。冠動脈の小さな刺創には6-0または7-0[1]。
  • フェルト(テフロンのプレジェット):脆い心筋、浮腫のある心臓、右室、挫傷や出血に囲まれた部分で役立つ。厚く丈夫な心筋では要らないこともある[1]。
  • 一時止血の道具:皮膚ステープラー、フォーリーカテーテル(またはカフ付き気管チューブ)、Satinsky鉗子、上下大静脈を締める血管テープや非外傷性鉗子[1]。
  • その他:心臓を持ち上げるための折りたたんだ開腹用ガーゼ、胸腔ドレーン(24〜32 Fr)、心嚢・縦隔ドレーン[1]。人工心肺・体外式生命維持(ECLS)を呼べる体制。

5.心膜切開:横隔神経を避ける

  1. 横隔神経を先に確かめる。左前側方開胸では、心膜を持ち上げ、横隔神経の正確に1〜2 cm前方でメスを入れる[1]。
  2. 神経と平行に広げる。神経を切るだけでなく、神経のすぐ脇で心膜を切ると、牽引で神経を傷つける[1]。
  3. 血液と凝血塊を出し、出血点と調律を見る。確認したら次の一時止血へ進む。

外傷で開胸したら、心膜は必ず開ける。心膜を外から見ただけでは、タンポナーデがあっても心嚢内の血液を見落とす[1]。張りつめた心膜の切開のしかたは蘇生的開胸術の記事を参照。

6.一時止血:指で押さえ、視野を整えてから縫う

  • 指で押さえる:多くの創は指で押さえるだけで止まり、そのまま修復へ進める。創を広げないよう細心の注意を払う[1]。
  • 皮膚ステープラー:一時止血に使える[1]。
  • フォーリーカテーテル(またはカフ付き気管チューブ):大きな創では、心腔内に入れて生理食塩水でバルーンを膨らませ、鉗子でカテーテルを閉じて、心腔の壁に向けて軽く引く。強く引くと創が裂けて致命的になり、バルーンを抜いてしまう危険もある[1]。
  • 心房:Satinsky鉗子で部分遮断し、縫合するか、自動縫合器で切除する[1]。右房の損傷はSatinsky鉗子で制御し、4-0ポリプロピレンで修復できるとするレビューもある[3]。
  • 流入遮断:大きな創や高圧の創が見えないときは、心膜内の上大静脈と下大静脈を一時的に締める。遮断は短時間にとどめて繰り返し解除する。約3分を超えると調律の回復は見込みにくい[1]。

後面の創:心臓を急に持ち上げない

心臓を持ち上げると大血管が折れ曲がり、徐脈、低血圧、心停止を起こす。折りたたんだ開腹用ガーゼを1〜3枚ずつ心臓の下に重ね、心臓が位置の変化に慣れる時間をつくる[1]。レビューは、アデノシン3〜12 mgの静注で心臓を10〜30秒止め、その間に修復と観察を済ませる方法も紹介している[1]。本稿では、この方法の安全性を検討した研究は確認していない。

7.心筋縫合(cardiorrhaphy)

心室

  1. 単純な裂創:指で押さえたまま、その下に両端針の糸(4-0 SHまたは3-0 MH)を1回で通し、両端を軽く引いて創縁を寄せる。もう一度指をまたいで針を通し、指を抜きながら8の字縫合を完成させる[1]。
  2. フェルト付き水平マットレス縫合:心筋が裂ける危険を減らす、より安全な代替として記載されている[1]。フェルトの代わりに心膜片を使う方法もある[1]。
  3. 運針:糸と針の種類・太さを選び、組織をやさしく扱い、針の弯曲に沿って刺入・刺出し、平らに結ぶ。拡張期に合わせて刺入すると、心筋を切り裂きにくい。フォーリーで止血している場合は、刺入のたびにカテーテルを心腔内へ押し込み、バルーンの穿刺を防ぐ[1]。

研究結果フェルト付きの縫合を勧める外科医は多いが、丁寧に置いた水平マットレス縫合より有益だとは示されていない[3]。

心房

5-0ポリプロピレンの単純連続縫合、特に薄い壁では6-0を使う。薄い心房壁には、創縁全体に張力を分散させる連続水平マットレス縫合が適することがある[1]。

冠動脈の近くの創と冠動脈損傷

  • 冠動脈の近く:結節の水平マットレス縫合を冠動脈の下にくぐらせ、血管を締めつけないようにする。心筋や血管が裂けそうでなければフェルトは省いてよい。縫合中はST変化とQ波を監視し、出たら糸を外して縫い直す[1]。冠動脈を狭めたり閉じたりしないよう、下にくぐらせる水平マットレス縫合を勧めるレビューもある[3]。
  • 冠動脈の損傷:まれで、病院前・院内の死亡が多い。一般的な方針は、細い枝や末梢(直径1 mm未満)は結紮し、主要な動脈はバイパスする。左前下行枝の結紮は左室の最大50%を虚血にしうる。小さな刺創は6-0か7-0で修復できる。循環が安定していれば、人工心肺を使わない冠動脈バイパスも選択肢になる[1]。
  • 人工心肺・ECLS:修復しても心機能障害、不整脈、心不全が進む場合、創が大きい・位置が悪くて扱えない場合は、人工心肺が必要になりうる。治療抵抗性のショックでは、大腿動静脈からのVA-ECLSが補助として使われ始めている[1]。出血リスクとの兼ね合いは重症外傷とECMO:出血リスクのある患者にいつ導入を考えるかを参照。

8.閉胸と術後管理

  • 心膜を閉じるか:外傷では、直接の損傷や蘇生による心筋の浮腫のため、心膜を閉じると医原性のタンポナーデを起こしうる。閉じる危険が利点を上回ることがある[1]。閉じる場合は2-0吸収糸の連続縫合で、横隔膜側に縦隔ドレーンを通す2 cmの隙間を残す方法が記載されている。心臓が拡張していて心膜が足りなければ、心膜脂肪で覆う[1]。
  • ドレーン:胸腔ドレーン(24〜32 Fr)は中腋窩線から入れる。心嚢ドレーンには陰圧をかけない。縫合したばかりの心筋を損なうおそれがある[1]。
  • 閉胸を遅らせる:浮腫や過剰な輸液で心臓が大きくなれば、心膜と胸骨の閉鎖を遅らせる。胸骨を開けたままにする間は鎮静と筋弛緩を続ける。咳やいきみで胸骨の断端が右室を傷つけることがある[1]。止血を優先して閉創を遅らせる考え方はダメージコントロール手術(DCS)|適応・再建・閉腹と共通する。
  • 術後の評価:心電図の監視と、心エコーを積極的に使う[1]。レビューが引用する報告では、穿通性心損傷の17.4%で心エコーに異常があり、心嚢液貯留(47%)が最も多かった。伝導障害は2.8%、1つ以上の弁の損傷は3〜8%と報告されている[1][2]。労作時の息切れや新しい心雑音は、心室中隔欠損などの心内損傷を示すことがある[1]。
  • 蘇生の継続:凝固障害と大量輸血の管理は外傷性凝固障害(TIC)|病態・DIC・線溶を整理と大量輸血プロトコル(MTP)|1:1:1・VEM・全血輸血、血胸のドレナージは外傷性気胸・血胸と胸腔ドレーン:入れる判断から残存血胸までを参照。

9.よくある失敗と合併症

場面よくある失敗避け方(出典)
診断血胸のある患者でFAST陰性を「心損傷なし」と読む血胸と心嚢内の空気は偽陰性の主な要因。安定していれば心膜開窓で確かめる[5][1]
開胸後心膜を開けずに心損傷を否定する外傷の開胸では心膜を必ず開ける[1]
心膜切開横隔神経の切断・牽引損傷神経の1〜2 cm前方で、神経と平行に[1]
一時止血指やフォーリーの牽引で創を広げる押さえる力と引く力を最小限に[1]
後面の創心臓を急に持ち上げて心停止ガーゼを重ねて少しずつ持ち上げる[1]
流入遮断長く締めすぎる短時間で繰り返し解除。約3分を超えると調律の回復は見込みにくい[1]
縫合脆い心筋が裂けるフェルト付き水平マットレス、拡張期に刺入[1]
冠動脈の近く冠動脈を巻き込む冠動脈の下をくぐらせる。ST変化で縫い直す[1]
閉胸心膜を閉じてタンポナーデ閉じるかを個別に判断し、心嚢ドレーンに陰圧をかけない[1]
clamshellの後原因不明の低血圧内胸動脈を探して結紮する[1]
術後弁・中隔の損傷や伝導障害の見逃し心電図の監視と心エコー[1]

10.成績:研究の数値

研究結果Asensioらの前向き研究(レベルI外傷センター1施設、1年間)では、穿通性心損傷60例(銃創35例〔58%〕、刺創25例〔42%〕)の生存は22例(36.6%)だった[9]。生存は銃創で35例中5例(14%)、刺創で25例中17例(68%)。初療室開胸は37例(61.7%)で行われ、生存は6例(16%)だった。受傷機転と、心膜を開いたときの洞調律は転帰の予測因子だった。損傷の解剖学的部位とタンポナーデの有無は、有意な予測因子として示されなかった[9]。

研究結果Morseらの36年間の解析(治療前に死亡した患者を除く271例、刺創60%・銃創40%、初療室開胸67例〔25%〕)では、全体の死亡は1975〜1985年27%、1986〜1996年22%、2000〜2010年42%と近年で増えた(p=0.03)[6]。同じ期間に銃創の割合(32%、33%、57%)、銃創の死亡(36%、42%、56%)、複数の心腔の損傷(12%、10%、34%)も増えた。2000〜2010年の銃創45例では、複数の心腔の損傷が28例(62%)、複数の体腔の損傷が19例(42%)だった[6]。

指針初療室開胸についてのEASTの指針(72研究、10,238例)では、胸部の穿通性外傷で signs of life がある患者の生存は853例中182例(21.3%)で、この群では初療室開胸を強く推奨した[10]。心損傷に限った値ではない。群ごとの推奨は外傷手技|蘇生的開胸術にまとめている。

限界:いずれも1施設の観察研究か、観察研究を集めた解析である。生存の定義と評価の時点は抄録で統一されておらず、病院に着く前に亡くなった患者は含まれない。刺創と銃創の割合、病院前の搬送時間、施設の体制が違えば、生存率は大きく変わる(本稿の解釈)。

根拠の比較表

研究(年)デザイン対象比較・評価主な結果限界と意味
Rozycki(1999)[4]前向き多施設(5施設)体幹の穿通創261例心嚢の超音波 対 手術所見・経過感度100%、特異度96.9%、正確度97.3%超音波の導入時の研究。陽性なら直ちに手術する運用下の値
Nicol(2015)[5]前向き単施設手術適応のない安定例172例(刺創96%)超音波 対 全例の剣状突起下心膜開窓感度86.7%、陽性的中率77%。偽陰性18例(血胸11、心嚢内の空気6)。抄録の値で、数値どうしの整合は本文未確認見逃しやすい集団での値。血胸があれば陰性でも否定できない
Nicol(2014)[7]単施設RCT心膜開窓で心嚢血腫があり、出血が止まっている安定例111例胸骨正中切開55例 対 ドレナージ・洗浄56例死亡1例(0.9%、胸骨正中切開群)。ICU在室の差1.8日(95%CI 0.8〜2.7)死亡の差を検出する規模ではない。不安定例・出血が続く例は対象外
Lee(2013)[8]系統的レビュー(27報)外傷後の心タンポナーデ疑い2,094例心嚢穿刺の使用と生存生存83.4%(317例)、穿刺のみ91.8%(145例)生存者に偏った報告。すぐに手術できない施設での橋渡し
Asensio(1998)[9]前向き単施設(1年)穿通性心損傷60例生存と予測因子生存36.6%(銃創14%、刺創68%)例数が少ない。1990年代の都市部の外傷センター
Morse(2016)[6]後ろ向き単施設(36年)治療前の死亡を除く271例3つの期間の比較死亡27%→22%→42%。銃創・複数心腔損傷が増加時代による受傷機転の変化を示す。治療法の効果は示さない
EAST指針(2015)[10]指針(72研究の統合)初療室開胸10,238例受傷機転・部位・signs of life別の生存胸部穿通・signs of lifeあり:182/853(21.3%)心損傷に限らない。適応は蘇生的開胸術の記事へ

日本で実施するとき

  • 損傷の記載:日本外傷学会臓器損傷分類2008には心損傷分類があり、Ⅰ型を心膜損傷または心筋挫傷、Ⅱ型を非全層性損傷、Ⅲ型を全層性損傷としている[12]。Asensioらが使ったAASTの分類[9]とは区分が違い、そのまま対応させられない(本稿の解釈)。
  • JATEC:外傷初期診療ガイドライン改訂第6版の本文は取得できず、心嚢のFASTが陽性のときの心嚢穿刺・心膜開窓・開胸の位置づけは未確認である。日本外傷診療研究機構の改訂概要で確認できたのは、EFASTを原則としてsecondary survey以降に行い、気胸が疑われ気管挿管を要する場合はprimary surveyで行ってよいとした記載である[13]。
  • 国内のデータ:穿通性心損傷の国内の件数や生存率を示す全国規模の報告は、本稿の検索(J-STAGE)では見つからず、未確認である。見つかった国内の報告は、釘打ち機や裁縫針による症例報告が中心だった。刺創・銃創の割合が海外と違うため、海外の生存率をそのまま当てはめない(本稿の解釈)。
  • 施設体制:心嚢穿刺は、確定的な手術がすぐにできない施設での橋渡しと位置づけられている[8]。外科医が常駐しない時間帯がある施設では、心嚢穿刺・心膜開窓を誰が行い、どこへ転送するかを事前に決めておく。人工心肺やECLSを要する損傷に備え、心臓血管外科と体外循環の担当者への連絡経路を決めておく(本稿の提案)。
  • 薬剤・材料・保険:心停止を短時間起こす目的のアデノシン投与[1]について、国内の添付文書上の位置づけは未確認である。心膜切開・心筋縫合・心膜開窓の診療報酬上の区分も、本稿では公式資料で確認していない(未確認)。

まだ分からないこと

  • 血胸を伴う安定例で、FAST陰性の後に何を追加すれば見逃しを最も減らせるか(反復した超音波、CT、心膜開窓、胸腔鏡)。Nicolらは新しい検査の手順を提案したが、比較した研究は本稿の検索では見つからなかった[5]。
  • 心膜開窓後のドレナージのみの方針が、銃創や刺創の少ない地域でも同じく安全か。Nicolらの試験は刺創の多い単施設の結果である[7]。
  • フェルト付き縫合は、丁寧な水平マットレス縫合より有益だとは示されていない[3]。ステープラーやフォーリーによる止血を転帰で比べた研究は、本稿の検索では見つからなかった。手順の記述は専門家の経験に基づく。
  • 心膜を閉じるか開けておくかを比べた研究は、本稿の検索では見つからなかった。
  • ECLSを穿通性心損傷の治療抵抗性ショックに使う適応と成績[1]。

文献

  1. Ball CG, Lee A, Kaminsky M, Hameed SM. Technical considerations in the management of penetrating cardiac injury. Can J Surg. 2022;65(5):E580-E592. doi:10.1503/cjs.008521. PMID: 36302130. PMCID: PMC9451503.
  2. Lee A, Hameed SM, Kaminsky M, Ball CG. Penetrating cardiac trauma. Surg Open Sci. 2022;11:45-55. doi:10.1016/j.sopen.2022.11.001. PMID: 36466048. PMCID: PMC9713325.
  3. Hromalik LR Jr, Wall MJ Jr, Mattox KL, Tsai PI. Penetrating cardiac injury: a narrative review. Mediastinum. 2023;7:15. doi:10.21037/med-22-18. PMID: 37261091. PMCID: PMC10226890.
  4. Rozycki GS, Feliciano DV, Ochsner MG, et al. The role of ultrasound in patients with possible penetrating cardiac wounds: a prospective multicenter study. J Trauma. 1999;46(4):543-552. doi:10.1097/00005373-199904000-00002. PMID: 10217216.
  5. Nicol AJ, Navsaria PH, Beningfield S, Hommes M, Kahn D. Screening for occult penetrating cardiac injuries. Ann Surg. 2015;261(3):573-578. doi:10.1097/SLA.0000000000000713. PMID: 25664535.
  6. Morse BC, Mina MJ, Carr JS, Jhunjhunwala R, Dente CJ, Zink JU, et al. Penetrating cardiac injuries: a 36-year perspective at an urban, level I trauma center. J Trauma Acute Care Surg. 2016;81(4):623-631. doi:10.1097/TA.0000000000001165. PMID: 27389136.
  7. Nicol AJ, Navsaria PH, Hommes M, Ball CG, Edu S, Kahn D. Sternotomy or drainage for a hemopericardium after penetrating trauma: a randomized controlled trial. Ann Surg. 2014;259(3):438-442. doi:10.1097/SLA.0b013e31829069a1. PMID: 23604058. ClinicalTrials.gov: NCT00823160.
  8. Lee TH, Ouellet JF, Cook M, Schreiber MA, Kortbeek JB. Pericardiocentesis in trauma: a systematic review. J Trauma Acute Care Surg. 2013;75(4):543-549. doi:10.1097/TA.0b013e3182a1fea2. PMID: 24064864.
  9. Asensio JA, Murray J, Demetriades D, et al. Penetrating cardiac injuries: a prospective study of variables predicting outcomes. J Am Coll Surg. 1998;186(1):24-34. doi:10.1016/S1072-7515(97)00144-0. PMID: 9449597.
  10. Seamon MJ, Haut ER, Van Arendonk K, et al. An evidence-based approach to patient selection for emergency department thoracotomy: a practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. J Trauma Acute Care Surg. 2015;79(1):159-173. doi:10.1097/TA.0000000000000648. PMID: 26091330.
  11. Clancy K, Velopulos C, Bilaniuk JW, et al. Screening for blunt cardiac injury: an Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline. J Trauma Acute Care Surg. 2012;73(5 Suppl 4):S301-S306. doi:10.1097/TA.0b013e318270193a. PMID: 23114485.
  12. 日本外傷学会. 日本外傷学会臓器損傷分類2008(心損傷分類を含む). https://jast-hp.org/wp-content/themes/jast/libs/img/sonsyoubunruilist.pdf(2026年9月25日閲覧).
  13. 日本外傷診療研究機構. JATEC コースに関連する改訂の概要(外傷初期診療ガイドライン改訂第6版). https://www.jtcr-jatec.org/JATEC6th_kaiteigaiyo.pdf(2026年9月25日閲覧).

医学的内容の最終確認日・確認範囲

文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月26日)

医学的内容の最終確認日:2026年9月26日(著者確認)。文献照合日:2026年9月26日(日本時間)。文献の検索・照合は2026年9月25〜26日に行った。PMCの公開本文(NCBI BioC)、PubMedの抄録(NCBI BioC)、OpenAlex・Crossref・Semantic Scholarの書誌、出版社・学会・公的機関の公式ページ、J-STAGEを直接開いて確認した。Europe PMC、PubMed・PMCのウェブページ、一部の出版社のページは、接続できないか有料で、開けなかった。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月26日に著者(医師)が確認した。検索記録は編集部で保管している。

  • 本文を確認:[1](PMCの公開本文。診断、到達法、心膜切開、一時止血、縫合、冠動脈、人工心肺・ECLS、心膜の閉鎖、ドレーン、閉胸、術後の評価)、[3](PMCの公開本文。到達法、フェルト、冠動脈の近くの縫合、心膜開窓と心嚢穿刺、CT)。
  • 本文の一部を確認:[2](出版社の公開本文のうち、Nicol 2014の紹介、心エコー異常・伝導障害・弁損傷の記載)。
  • 抄録のみ確認:[4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]。本文中の数値は抄録にある範囲に限った。[5]の研究期間と対象の条件、[6]の3つの期間の区切りは、OpenAlexの抄録で確認した(NCBIの抄録で結果と結論の文を照合)。[9]はAAST分類の等級別の死亡の数値がデータベースにより食い違ったため、扱っていない。[11]は推奨の文言のみ確認し、根拠の詳細は扱っていない。
  • 公式情報を確認:[12](日本外傷学会の臓器損傷分類2008のPDF。心損傷分類の型の定義)、[13](日本外傷診療研究機構の改訂概要のPDF。心嚢・開胸に関する記載はなかった)。
  • 未取得:外傷初期診療ガイドライン改訂第6版の本文、Western Trauma Associationの穿通性胸部外傷のアルゴリズム(2014年)の本文(出版社のページが開けず、OpenAlex(文献データベース)が公開する抄録の単語データから復元した抄録は語順が崩れていて使えなかった)、Ball 2009(心嚢の超音波の偽陰性についての短報。抄録を取得できなかった)、Plummer 1992(初療室の心エコーと転帰。接続の制限で書誌を開けなかった)。
  • 訂正・撤回:Crossrefの制限により、訂正・撤回の有無は個別には確認できていない。

更新履歴

更新履歴を開く(全3件・最新:2026年9月26日)
  • 2026年9月26日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。あわせて、確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
  • 2026年9月26日(改訂):全面的に書き直した。主な変更は次のとおり。(1)診断の節を加え、心嚢のFASTの感度・特異度(Rozycki 1999)と、血胸・心嚢内の空気による偽陰性(Nicol 2015)を示した。(2)心嚢穿刺の系統的レビューと、剣状突起下心膜開窓の手順、心膜開窓で陽性の安定例を胸骨正中切開とドレナージに割り付けた無作為化試験(Nicol 2014)を加えた。(3)到達法の比較表、準備と器具、一時止血(ステープラー、フォーリー、Satinsky鉗子、流入遮断、後面の創)、心室・心房・冠動脈近くの縫合、冠動脈損傷、人工心肺・ECLS、閉胸と術後の評価、よくある失敗の表、成績の節(Asensio 1998、Morse 2016、EAST 2015)、「日本で実施するとき」(臓器損傷分類2008の心損傷分類、JATECの確認範囲)を加えた。(4)文献の書誌の誤りを改めた。技術的レビュー(Can J Surg 2022)の著者を「Kang N」から「Ball CG, Lee A, Kaminsky M, Hameed SM」に、「Surg Clin North Am 2023」としていた文献をSurg Open Sci 2022;11:45-55に改めた。(5)蘇生的開胸術の適応は外傷手技|蘇生的開胸術に委ね、要点から「signs of lifeがあれば手術室で修復へ」という、適応と修復の場所を混ぜた記述を外した。(6)文献を3件から13件にし、本文に引用番号を付け、文献ごとの確認範囲を示した。理由:現行の版は研究の数値と引用がなく、書誌に誤りがあり、読者が根拠をたどれなかったため。
  • 2026年9月26日(初回公開):外傷手技シリーズとして公開。左前側方開胸での横隔神経の前方の心膜切開、指による一時止血、ポリプロピレンのマットレス縫合による心室の修復、冠動脈の近くの縫合、外傷で心膜を閉じる際の注意を、3件の文献とともに短くまとめた(本文約700字)。

本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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