REBOAのエビデンスヒストリー|血圧の回復から生存利益の検証へ

REBOAのエビデンスヒストリー:血圧の回復から生存利益の検証へ
EVIDENCE HISTORY / TIMELINEREBOA|生存利益の検証をたどる1954—2026

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  1. 1954血圧の回復と救命の隔たり

    実使用2例は死亡。うち1例で一時的な血圧回復

    [1]
  2. 2013小径化と臨床実装が進む

    動物実験と初期6例が、実施可能性を検討

    [2][3]
  3. 2015–2019非使用との比較で害を疑う

    登録研究の有害な関連には、適応による交絡も残る

    [4][5][6]
  4. 2019手技から止血までの体制へ

    共同声明は訓練・連携・迅速な決定的止血を重視

    [8]
  5. 2023無作為化で戦略の利益を問う

    UK-REBOAは生存利益を示さず、害の可能性を示す

    [9]
  6. 2024–2026部分遮断でも生存利益を問う

    臨床観察研究は増えるが、生存利益の確立には至らず

    [15][14][16]

本文で扱う主要な転機を抜粋した模式図です。年の間隔は比例せず、右へ進むほど治療が優れることを示すものではありません。文献番号から出典へ移動できます。

REBOA(resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta)の歴史を読むと、同じ問いが繰り返し現れる。大動脈を一時的に遮断して血圧を回復させたとき、その先に、止血と生存まで届く時間をつくれているのか。1954年のHughesの報告にも、現代の無作為化試験にも、この問いがある。

バルーンによる近位血圧の上昇は、臨床でも動物実験でも観察されてきた。しかし、生理学的な反応と患者にとっての利益は別の評価項目である。REBOAを準備・挿入する時間、遠位臓器の虚血、解除後の循環変動、そして決定的止血へ進める体制まで含めて、結果が決まる。本稿では、初期の報告、機器と運用の発展、登録研究、UK-REBOA、部分遮断の臨床研究を順にたどる。

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医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。

目次

まず押さえる要点

  • Hughesの1954年報告は3症例を記載するが、実際にバルーンを使用したのは2例で、両例とも死亡した。1例では一時的に血圧が回復した[1]
  • 2010年代の小径化・透視を用いない機器開発と初期臨床例は、実施可能性を広げた。その成功を、生存利益の証明と読み替えることはできない[2][3]
  • REBOAと非使用の比較、REBOAと蘇生的開胸術の比較は、問いも患者集団も違う。観察研究の方向がそろわない理由を読むには、比較相手と治療直前の状態が必要になる[4][5][6][7]
  • UK-REBOAは、救急外来でREBOAを加える戦略の90日生存利益を示さず、害の可能性を示した。成功した挿入例だけの試験でも、あらゆる施設・出血部位・遮断法の否定でもない[9]
  • 部分遮断には動物実験に加えて臨床観察研究がある。ただし、従来機器との比較、完全遮断との比較、REBOAを使わない治療との比較は区別する必要がある[11][12][13][14][15][16]

対象と読み方

主な対象は、成人を中心とした外傷性出血に対するREBOAである。各研究の年齢条件は同じではなく、UK-REBOAなどは16歳以上を対象としている。横隔膜下出血でも、腹腔内出血、骨盤・後腹膜出血、接合部出血では損傷と止血手段が違う。心停止、心停止切迫、循環が残っているショックを一つの集団として扱わない。

大動脈の完全遮断をcomplete REBOA、遠位へ一部の血流を残す方法をpartial REBOA(pREBOA)とする。部分遮断の実現方法は研究ごとに異なる。単にバルーンを少し縮めた状態、専用機器による圧・流量調節、実験的な自動制御を同じ介入とはみなさない。

本稿は主要原著と公式指針を選んでたどるナラティブな解説であり、網羅的なシステマティックレビューや、新しい臨床アルゴリズムではない。適応、Zone選択、穿刺、解除、シース管理の実務はREBOAの手技解説へ、骨盤出血の治療順序は骨盤骨折出血の解説へ譲る。

1.1954年 初期の臨床報告にすでに残されていた問題

Hughesの原報は、朝鮮戦争の重症腹部出血患者を扱っている。米陸軍の公式アーカイブで読める原著再録には3症例が登場する。しかし第1例にはカテーテルが使われていない。バルーンが使われたのは第2例と第3例の2人で、いずれも救命されなかった[1]。

第2例では大動脈内バルーンの拡張後に血圧が回復した。一方、出血点を探すために遮断を緩めると血圧を失い、再遮断で回復することを繰り返した。出血を抑える操作が、損傷部位を見つけて修復する過程とも関係していた。第3例では、すでに極度に悪化した状態で挿入され、血圧を回復できなかった[1]。

原著の著者は、もっと早く使えば救命できた可能性を論じた。ただし、これは著者の仮説である。早期使用群と遅い使用群を比較した研究ではなく、「早く入れれば助かる」と証明した報告ではない。また、長い遮断による肝臓、腎臓、脊髄の障害への懸念も記されている[1]。

本稿の解釈:この古典に見えるのは、救命成功によって完成した治療ではなく、血圧反応という手掛かりを得た段階の技術である。使用時期、止血への接続、虚血という現在の論点は、最初の時点から残っていた。記載された症例数、実際の使用例、一時的な反応、最終転帰を分けて読むことで、この技術の出発点が見えてくる。

2.2010年代 挿入できる技術から外傷チームが運用できる技術へ

機器開発が解いたのは実施上の障壁だった

現代の普及を考えるうえで重要なのが、血管内治療の技術を、時間と設備に制約のある外傷初療へ持ち込む過程である。Scottらの2013年のブタ実験では、透視下で用いる14 Frの既存システムと、透視を用いず8 Frで挿入する試作機器を比較した。各8頭で、位置決定、血圧、虚血の指標、蘇生負荷、生存を評価している[2]。

この研究は、より細いアクセスと簡便な位置決定によって運用を変えられるという開発上の根拠になった。しかし、対象は実験条件を設定した動物である。そこで検討された60分の遮断を、そのまま重症外傷患者の「安全な遮断時間」として持ち込むことはできない。

初期臨床シリーズが示したこと

Brennerらは2013年、米国2施設で行った6例を報告した。鈍的外傷4例、穿通性外傷2例で、Zone IとZone IIIが各3例だった。総大腿動脈へのアクセスは切開と経皮穿刺が各3例で、REBOA後に収縮期血圧が上昇した。著者らはREBOA関連合併症と出血関連死亡を認めなかったと報告している[3]。

ここで「出血関連死亡なし」を「全員が生存」と読み替えないことが大切である。死因を限定した評価と全死亡は異なる。また、対照群のない6例から、REBOAによって何人の命が救われたかは計算できない。

本稿の解釈:この段階で進んだのは、外傷外科・acute care surgeryのチームが限られた血管内手技を学び、初療の流れに組み込めるという実装だった。機器が扱いやすくなることは重要だが、適応を広げてよいという証拠まで同時に得られるわけではない。

3.生理学的な説得力と臨床転帰の間にある距離

REBOAは、大動脈の遮断部より遠位へ流れる血液を減らし、近位側の圧を上げる。出血性ショックで冠灌流や脳への灌流を支えるという目的には生理学的な理由がある。一方、バルーンそのものが損傷血管を修復するわけではなく、遮断部より遠位の臓器は灌流低下を負う[8]。

このとき、上肢で測る血圧だけを見ていれば、反応は劇的に見える。しかし、腎臓や腸管に届く血流、残っている出血、心臓が押し出すための負荷、遮断解除後の変化は別に評価しなければならない。近位の数値が改善したことだけでは、全身の酸素供給が回復したとはいえない。

Beyerらの2019年のブタ実験は、この問題を心臓側から調べた。18頭を完全遮断、血流を調節するEVAC、無介入の群に分け、45分間の介入後に自己血で蘇生し、総実験時間6時間まで追跡した。完全遮断群では心筋傷害を示す所見が増え、EVACでその傷害が軽減された[11]。これは機序を検討する動物研究であり、人の死亡を減らす効果量ではない。

本稿の解釈:機序の研究は、なぜ効き得るか、なぜ害が出得るかを説明する。臨床比較研究は、その両方が起こる現場で最終的に利益が残るかを問う。この二つを分けると、「血圧が上がるのに生存利益が見えない」という結果を、直ちに矛盾として扱わずに済む。

4.登録研究が増えると比較相手の違いが表に出た

非使用群との比較では有害な関連が繰り返し観察された

Noriiらの2015年の研究は、日本外傷データバンクの2004〜2011年のデータを用いた。適格45,153例のうちREBOAは452例で、REBOA群の損傷は重く、未調整死亡率も高かった。治療を受ける確率を傾向スコアで調整しても、生存との負の関連が残った[4]。

Inoueらの2016年の研究は、体幹外傷で緊急手術または塞栓術を受けた患者から625組を対応させた。院内死亡はREBOA群61.8%、非使用群45.3%だった。一方、来院から最初の手術までの時間はREBOA群の方が短かった。未測定の交絡を検討する操作変数解析でも死亡差の点推定は同方向だったが、信頼区間は差なしを含んだ[5]。

米国でもJosephらの2019年のTQIP解析で、REBOA 140例と非使用280例を傾向スコアで対応させると、死亡は35.7%対18.9%だった。急性腎障害と下肢切断もREBOA群に多く観察された[6]。これらは警戒すべき臨床データだが、無作為化によって介入だけを変えた比較ではない。

本稿の解釈:REBOAは通常、より切迫した患者に選ばれる。登録されている来院時血圧と、挿入を決める直前の出血速度や悪化の軌跡が一致するとは限らない。傾向スコアは測定された条件をそろえる方法であって、記録されていない臨床判断まで消してくれる方法ではない。反対に、「重症だから悪いだけ」として有害な関連を捨てることもできない。比較可能性の限界を残したまま、安全性の信号として次の研究へつなぐ必要がある。

蘇生的開胸術との比較では問いが変わる

AORTAレジストリを用いたCralleyらの研究は、2022年にオンライン公開、2023年に刊行された。大動脈遮断を受けた991例から、施設も対応させた56組を抽出し、Zone 1 REBOAと蘇生的開胸術(resuscitative thoracotomy:RT)を比較した。対応後の死亡は44/56例(78.6%)対52/56例(92.9%)で、REBOA側が低かった[7]。

ただし、これは「通常の止血・蘇生にREBOAを追加するか」という比較ではない。すでに大動脈遮断を必要と判断された患者で、「開胸による遮断と血管内の遮断をどう比較するか」という問いである。原著も、多数の患者がマッチングから外れ、二つの処置がそもそも異なる損傷・生理状態に使われることを限界として挙げている[7]。

RTでは大動脈遮断以外に、心タンポナーデ解除や胸腔内出血の制御などが必要になる場合がある。REBOAの生存率が高いという集計から、そうした開胸の目的を代替できるとは推論できない[8]。心停止患者の比較結果を、循環のあるショック患者に適用することにも、同じ注意が必要になる。

比較 研究が直接答えようとする問い その比較だけでは答えられないこと
REBOA対非使用 対象集団でREBOAを加える戦略に利益があるか すべての大動脈遮断法の優劣
REBOA対RT 大動脈遮断が選ばれた患者で手段により転帰が違うか 遮断そのものを追加する利益
部分遮断対完全遮断 遮断の程度を変えると虚血や転帰が違うか REBOAを使わない戦略より優れるか

5.2019年 共同声明は手技の周囲にある診療体制を問うた

米国の4団体による2019年の共同声明は、民間外傷診療におけるREBOAについて、特定の適応を定義する質の高い根拠がないことを明記した。そのうえで、蘇生に反応しない横隔膜下の生命を脅かす出血に使用し得るとし、決定的止血を担う医師との連携、訓練、院内全体の運用を重視した[8]。

歴史的に重要なのは、実施の単位が「バルーンを入れる医師」だけでは足りないと整理されたことである。血管確保に時間を使い過ぎれば、その間に手術や塞栓術へ進める機会を失う。近位血圧が回復しても、次の止血処置が準備されていなければ、遠位の虚血は続く。

本稿の解釈:REBOA研究では、機器、術者、輸血、手術室や血管造影室の準備を完全に切り離すことは難しい。その難しさは技術を評価しなくてよい理由にはならない。むしろ、機器を「持っている」状態と、止血までを含めて「機能する」体制を区別して検証する必要がある。

6.2023年 UK-REBOAは実際の治療戦略を無作為化した

対象と主要評価項目

UK-REBOAは、英国16のmajor trauma centreで行われた、非盲検の実践的なベイズ流無作為化試験である。2017〜2022年に、REBOAの補助が適切と判断された、確認または疑いのある生命を脅かす体幹出血を伴う16歳以上の外傷患者を登録した。90例をREBOA+標準治療46例と標準治療44例に割り付け、主要評価項目を90日全死亡とした。97%が鈍的外傷だった[9]。

90日解析では、標準治療群の1例が継続参加・データ収集への同意を撤回したため、分母は46例対43例となる。結果は以下の通りだった[9]。

90日全死亡 REBOA+標準治療 標準治療
死亡数/解析数 25/46 18/43
死亡割合 54% 42%

事前に定めた主要解析の死亡オッズ比は1.58、95%信用区間(credible interval:CrI)は0.72〜3.52で、オッズ比が1を超える事後確率は86.9%だった[9]。

この86.9%は、採用した統計モデル・事前分布と観測データのもとで、死亡オッズがREBOA側で高い確率を表す。「REBOAを受けた患者の86.9%が死亡する」「86.9%の患者に害が起きる」という意味ではない。95%信用区間も、通常の頻度論の95%信頼区間と同じ用語で記載しない。

19例しか膨らませなかったことをどう読むか

REBOA群46例のうち、実際にバルーンが拡張されたのは19例だった。動脈アクセスを確保できなかった例や、再評価で拡張を要しなくなった例を含む。原著では部分遮断も8例で使われている[9]。

本稿の解釈:この試験の問いは、成功したバルーンの生理作用だけではない。重症患者を前にREBOAを準備し、試み、必要性を再評価する戦略全体である。挿入成功例だけを残して比較すると、アクセスに成功するまで生存できたことや、拡張を要するほど悪化していたことによる選択が入り、無作為化の利点を失う。「実施率が低いから無効な試験」と片づけることも、「19例の拡張だけで全機器の害が確定した」と読むことも適切ではない。

時間の結果と中止の理由

原著では、救急外来到着からバルーン拡張までの中央値は32分だった。決定的止血処置を受けた患者で、無作為化からその開始までの中央値はREBOA群83分、標準治療群64分だった。これは止血完了までの時間ではなく、全例に同じ分母がある指標でもない[9]。

また、80例を含む第2回中間解析で、有害方向の事後確率90.1%が事前の中止基準を満たした。解析を待つ間に10例が追加され、最終登録は90例となった。中止判断時の90.1%と最終解析の86.9%は、異なるデータ時点の値である[9]。

本稿の解釈:この試験は、英国の対象集団・診療体制でREBOA戦略を加える生存利益を支持せず、害の可能性を示した。止血開始の遅れは重要な観察だが、遅れだけが死亡差の原因だったと証明したわけではない。一方で、「もっと早い別の体制なら有効かもしれない」は、次に検証する仮説であり、この結果を取り消す反証ではない。

小規模で推定幅が広く、鈍的外傷が中心だったことは一般化の限界になる。特定の骨盤出血、穿通性外傷、専門的な病院前体制、専用機器による部分遮断へ、同じ効果量をそのまま当てはめることはできない。ただし、未検証の集団に利益が残る可能性と、そこで利益が確認されたことは区別しなければならない。

7.合併症は血圧が戻った後にも数えなければならない

REBOAの害には、アクセス血管の損傷や血栓、遠位塞栓、下肢虚血と、大動脈遮断そのものによる臓器虚血・再灌流障害がある[8]。細いシースや部分遮断がそれぞれの負担を減らし得ても、すべての害が同じ機序で起きるわけではない。

LavertyらのAORTA解析は、この問題を分母から考える材料になる。REBOA後48時間以上生存した418例のうち、臨床的に意味のある下肢虚血または遠位塞栓というアクセス関連合併症は36例、8.6%だった。関連する患肢のうち4肢で切断が行われた[10]。

ここで8.6%の分母は、REBOAを受けた全員ではない。48時間生存できた患者である。逆に、早期に死亡した患者では後の腎障害、四肢の虚血、神経学的障害を十分に観察できない。死亡が多い群で合併症が少なく見えても、それだけで安全とは判断できない。

UK-REBOAで重大な機器関連有害事象が報告されなかったことも、戦略としての害がなかったことを意味しない[9]。研究上の機器関連事象、臓器障害、死亡、止血への遅延は異なる指標であり、同じものとして相殺できない。

本稿の解釈:短時間の生存、退院生存、臓器機能、四肢機能を追い、どの患者がどの時点まで観察されたかを示して初めて、橋渡しの代償が見える。血圧の上昇率だけでなく、回復した後の生活につながる転帰が必要になる。

8.部分遮断は虚血という制約を変えられるか

動物実験で問われた血流調節

完全遮断の問題に対して、遠位へ少量の血流を戻し、近位圧と出血抑制を両立させようとする研究が進んだ。Williamsらの2016年の研究では、重症出血のブタモデルで、完全遮断後に体外回路を使って血流を調節し、endovascular variable aortic control(EVAC)の開発に向けた実験を行った[12]。

これは市販カテーテルを人に用いた長期成績ではない。自動制御、圧や流量の測定、出血モデル、輸血と止血を行う時刻まで設定された実験である。Beyerらの心筋傷害研究も含め、完全遮断より生理学的な負担を減らすという方向には根拠があるが、人で許容できる時間や救命利益の確定とは段階が違う[11][12]。

長時間の運用を目指す研究を読むときは、extendedという言葉よりも、どの機器で、どの程度の遠位灌流を保ち、どの出血モデルまたは患者集団を扱ったかを確認したい。「部分」という名称だけでは、残る血流の量や安定性は分からない。

人のデータはあるが比較の限界も残る

Madurskaらの単施設後ろ向き研究は2021年にオンライン公開され、2022年に刊行された。Zone IのREBOAを受け、手術室での探索を試みた成人外傷46例のうち、部分遮断は14例だった。部分遮断の実施可能性を示し、長い遮断を要した患者で臓器障害などを比較したが、少数例の観察研究である[13]。

より大きいVassyらの2025年のAORTA解析は、Zone 1での遮断を受けたpREBOA-PRO群110例とER-REBOA群752例を比較した。急性腎障害は19%対33%と前者で少なかったが、死亡に差は示されなかった[14]。重要なのは、これは部分遮断専用機器群と従来機器群の比較であり、部分遮断の使用割合も87%対33%だったことである。従来群の全員が完全遮断のみを受けた、と単純化できない。

本稿の解釈:腎障害を減らす関連は、臨床開発を進める理由になる。ただし、施設、時代、選択された患者、遮断の運用が同時に変わり得る比較から、機器だけの因果効果を取り出すことは難しい。「部分遮断で腎障害が少ない」という結果と、「REBOAを加えれば非使用より生存が良い」という結論の間には、なお別の比較が必要である。

病院前へ早めても退院生存まで評価する

Lendrumらの2024年報告は、ロンドンの医師主導の病院前体制における前向き観察研究だった。横隔膜下の失血が疑われ、直近の心停止または心停止切迫状態にある16歳以上の外傷を対象とした。動脈アクセスを試みた16例のうち、11例でZone 1のバルーンが拡張され、そのうち8例で部分遮断が実現した[15]。

拡張した11例の退院生存は2例だった。早期に循環が回復しても後の死亡が多いこと、アクセスを確保できない例があることも、この研究の重要な結果である[15]。成功した2例は意味のある臨床経験だが、同じ患者にREBOAを行わなかった場合との差を示す対照群はない。

「病院内では遅いから病院前なら有効」という筋書きは魅力的でも、介入を早めた時点で、輸血、搬送、監視、止血までの距離という条件も変わる。病院内RCTと病院前の単群シリーズの生存割合を横に並べ、優劣を決めることはできない。

2026年のPROMPTはどこまで読めるか

2026年1月のEAST公式抄録には、PROMPTの中間解析が掲載された。部分遮断152例を前向きに集め、完全遮断用カテーテルを用いた過去対照127例と比較する、多施設の観察研究である。過去対照にも部分遮断の時間が含まれており、純粋な遮断方法だけの比較ではない[16]。臨床開発が進んでいる点は押さえるべきだが、学会抄録を、査読済み全文や無作為化比較試験と同じ重みで扱わない。

本稿では、抄録の速報的な優劣の数字を標準治療の根拠として採用しない。事前の解析計画、患者選択、欠測、施設差、同時期の蘇生・止血体制、長期転帰まで確認する必要がある。部分遮断について「動物実験しかない」と言うのも古くなっているが、「臨床的な生存利益が確立した」と言う段階とも異なる。

9.2025〜2026年 指針の違いは対象と問いまで読む

EAST 2025は患者集団を分けて推奨した

2025年3月28日に公表されたEASTの指針は、REBOAの使用に一つの答えを出したのではなく、患者と比較相手を分けた。外傷に関する主要な結論は次の通りで、根拠の確実性は非常に低いと評価された[17]。

  • 横隔膜下出血が疑われる循環不安定な外傷で、REBOAと非使用を比較:使用に条件付きで反対
  • 鈍的骨盤骨折による横隔膜下出血が疑われる循環不安定な外傷で、REBOAと非使用を比較:使用に条件付きで反対
  • 横隔膜下出血が疑われる心停止または心停止切迫の外傷で、REBOAとRTを比較:推奨を提示できず
  • 横隔膜下出血が疑われる外傷性心停止に限って、REBOAとRTを比較:ほかのRT適応がない場合、REBOAを条件付きで推奨

心停止切迫を含む問いでは結論を出せず、心停止に限った問いでは条件付き推奨になった。ここを省略して「EASTは心停止ならREBOAを推奨」と書くと、対象も比較相手も失われる。開胸の必要がある胸部損傷にREBOAを優先する推奨ではない。

JTSは戦傷・前方診療の条件を扱う

Joint Trauma SystemのCPG ID38は、2025年12月3日版に2026年4月22日のrapid updateが加わっている。戦傷の出血性ショック・心停止、前方診療という背景で、部分遮断を含むREBOA運用を記載した文書である。訓練、適切な機器と監視、蘇生、迅速なダメージコントロール手術との接続を前提とし、資源が限られた前方環境における生存利益は不明とする[18]。

本稿の解釈:民間外傷の比較研究をまとめるEASTと、戦傷診療の運用を示すJTSは、同じ患者、同じ搬送時間、同じ代替手段を扱っているわけではない。推奨の違いを、そのまま新旧や優劣の関係に並べない。JTSに記載された時間の上限も、すべての機器とすべての患者で検証された「安全時間」へ変換してはならない。

なお、2026年には非外傷性院外心停止を扱うREBOARRESTのRCTも公表された[19]。これは外傷性出血のRCTとは対象も主要評価項目も異なる。「REBOAのRCT」という名前だけで、本稿の外傷診療の結論へ混ぜない。

10.歴史から残る問い

REBOAの研究は、血圧を一時的に回復させられるかという初期の問いから、臨床現場で生存利益が残るか、誰を比較すべきか、虚血をどこまで減らせるかという問いへ進んだ。機器の改良と患者にとっての利益の検証は、並行して進める必要がある。

今後の報告では、少なくとも次の点が結論を左右する。

  • 対象は循環のあるショック、心停止切迫、成立した外傷性心停止のどれか
  • 出血部位と損傷機転は何か。腹部出血と骨盤出血をどう分けたか
  • 比較相手は非使用、RT、完全遮断、従来機器のどれか
  • 準備・挿入・拡張・止血開始・止血完了を、どの時刻から測ったか
  • 早期死亡だけでなく、退院生存、臓器障害、神経・四肢機能を追ったか

本稿の解釈:REBOAに必要なのは、血圧が上がる理由の再確認だけではない。その反応によって増えた時間が、出血源の制御と患者の回復に使われたかを確かめることである。Hughesが残した問題は、現代の機器でも消えていない。だからこそ、良い反応を認めた症例を大切にしながら、比較研究で示された害の可能性も同じ重さで検討したい。

参考文献と確認範囲

  1. Hughes CW. Use of an intra-aortic balloon catheter tamponade for controlling intra-abdominal hemorrhage in man. Surgery. 1954;36(1):65–68. PubMed/米陸軍公式アーカイブの原著再録。確認範囲:原著再録全文。3症例記載、実使用2例を区別した。
  2. Scott DJ, et al. A novel fluoroscopy-free, resuscitative endovascular aortic balloon occlusion system in a model of hemorrhagic shock. J Trauma Acute Care Surg. 2013;75(1):122–128. doi:10.1097/TA.0b013e3182946746. PubMed。確認範囲:原著抄録。ブタ実験として引用した。
  3. Brenner ML, et al. A clinical series of resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta for hemorrhage control and resuscitation. J Trauma Acute Care Surg. 2013;75(3):506–511. doi:10.1097/TA.0b013e31829e5416. PubMed。確認範囲:原著抄録。出血関連死亡と全死亡を区別した。
  4. Norii T, Crandall C, Terasaka Y. Survival of severe blunt trauma patients treated with resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta compared with propensity score-adjusted untreated patients. J Trauma Acute Care Surg. 2015;78(4):721–728. doi:10.1097/TA.0000000000000578. PubMed。確認範囲:原著抄録。観察研究として引用した。
  5. Inoue J, et al. Resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta might be dangerous in patients with severe torso trauma: A propensity score analysis. J Trauma Acute Care Surg. 2016;80(4):559–566. doi:10.1097/TA.0000000000000968. PubMed。確認範囲:原著抄録。傾向スコア解析と操作変数解析の不確実性を分けた。
  6. Joseph B, et al. Nationwide Analysis of Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in Civilian Trauma. JAMA Surg. 2019;154(6):500–508. doi:10.1001/jamasurg.2019.0096. PubMed。確認範囲:原著抄録・原著本文の検索取得範囲。主要な対象・結果は抄録とも照合した。
  7. Cralley AL, et al. Zone 1 Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta vs Resuscitative Thoracotomy for Patient Resuscitation After Severe Hemorrhagic Shock. JAMA Surg. 2023;158(2):140–150. doi:10.1001/jamasurg.2022.6393. 原著。確認範囲:本文・表。56組の比較、マッチングによる対象制限、一般化の限界を確認した。
  8. Bulger EM, et al. Clinical use of resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta (REBOA) in civilian trauma systems in the USA, 2019: a joint statement. Trauma Surg Acute Care Open. 2019;4:e000376. doi:10.1136/tsaco-2019-000376. 共同声明全文。確認範囲:本文。運用と安全性の指針として引用し、歴史的症例数はHughes原著に戻った。
  9. Jansen JO, et al. Emergency Department Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in Trauma Patients With Exsanguinating Hemorrhage: The UK-REBOA Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330(19):1862–1871. doi:10.1001/jama.2023.20850. 原著。確認範囲:本文・表・患者フローに関する本文記載。対象、90日解析分母、ベイズ主要解析、中止理由、実施状況と時間を確認した。
  10. Laverty RB, et al. Life over limb: Arterial access-related limb ischemic complications in 48-hour REBOA survivors. J Trauma Acute Care Surg. 2022;92(4):723–728. doi:10.1097/TA.0000000000003440. PubMed。確認範囲:原著抄録。48時間生存者を分母とすることを明記した。
  11. Beyer CA, et al. Resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta induced myocardial injury is mitigated by endovascular variable aortic control. J Trauma Acute Care Surg. 2019;87(3):590–598. doi:10.1097/TA.0000000000002363. PubMed。確認範囲:原著抄録。18頭のブタ実験として引用した。
  12. Williams TK, et al. Extending resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta: Endovascular variable aortic control in a lethal model of hemorrhagic shock. J Trauma Acute Care Surg. 2016;81(2):294–301. doi:10.1097/TA.0000000000001075. PubMed。確認範囲:原著抄録。体外回路を用いた実験的代替モデルであり、ヒト臨床成績ではない。
  13. Madurska MJ, et al. A feasibility study of partial REBOA data in a high-volume trauma center. Eur J Trauma Emerg Surg. 2022;48(1):299–305. Online 2021 Jan 5. doi:10.1007/s00068-020-01561-4. PubMed。確認範囲:原著抄録。46例の後ろ向き研究として記載した。
  14. Vassy WM, et al. Partial Occlusion, Less AKI: An AORTA Registry Analysis of pREBOA-PRO. Shock. 2025;63(1):33–35. doi:10.1097/SHK.0000000000002500. PubMed。確認範囲:原著抄録。機器群と遮断方法の区別を保った。
  15. Lendrum R, et al. Prehospital Partial Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta for Exsanguinating Subdiaphragmatic Hemorrhage. JAMA Surg. 2024;159(9):998–1007. doi:10.1001/jamasurg.2024.2254. 原著。確認範囲:本文・表。試行16例、拡張11例、部分遮断8例、拡張群の退院生存2例を区別した。
  16. Gondek S, et al. Initial survival advantage and decreased blood product utilization with partial REBOA: An early analysis of the PROMPT study. EAST 39th Annual Scientific Assembly. 2026 Jan 22, Paper 20. EAST公式抄録集。確認範囲:公式抄録の対象・研究方法・中間解析分母。学会抄録であり、査読済み全文の代替にはしていない。
  17. Harfouche MN, et al. Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in surgical and trauma patients: a systematic review, meta-analysis and practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. Trauma Surg Acute Care Open. 2025;10:e001730. Published 2025 Mar 28. doi:10.1136/tsaco-2024-001730. 指針全文。確認範囲:本文。PICO 1〜4、条件付き推奨、非常に低い確実性、ほかのRT適応がない条件を確認した。
  18. Joint Trauma System. Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta (REBOA) for Hemorrhagic Shock. CPG ID38. Publication date 03 Dec 2025; Rapid Update 22 Apr 2026. 公式CPG。確認範囲:公式PDFの表紙・改訂記録・適用背景と運用条件。ファイル名を公表日とは扱っていない。
  19. Brede JR, et al. Prehospital resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta in non-traumatic out-of-hospital cardiac arrest (REBOARREST): an international, multicentre, open label, pragmatic, randomised, controlled trial. Crit Care. 2026;30:324. Published 2026 May 5. doi:10.1186/s13054-026-06057-y. 原著。確認範囲:原著抄録。非外傷性心停止の研究であることの確認に限り、外傷性出血の効果には引用していない。

本稿は医療従事者への教育を目的とした記事であり、個別患者の診断・治療を代替しない。医学的内容は2026年10月2日(日本時間)に著者確認済みである。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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