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- 1979–1981肝パッキングで次の治療へ
一時止血後に蘇生・搬送・追加治療へつなぐ発想
[1][2] - 1983腹部手術を段階化する
Stoneは逐次症例比較で、初回短縮と再手術を報告
[3] - 1992–1993段階手術が戦略として整理
Burch・Rotondoが対象と再手術までの課題を示す
[4][5] - 2005–2011閉腹の負担と蘇生の変化
開腹管理の合併症とDCRが、DCSの評価を変える
[9][12][13] - 2016–2019適応と施設差を問い直す
実施率のばらつきや合併症から、患者選択を再検討
[14][15][16][17] - 2021–2026無作為化と回復までの評価へ
小規模RCTと共通転帰の提案。実施率と患者利益を分ける
[19][20][18]
本文で扱う主要な転機を抜粋した模式図です。年の間隔は比例せず、右へ進むほど治療が優れることを示すものではありません。文献番号から出典へ移動できます。
ダメージコントロール手術(damage control surgery:DCS)の歴史は、出血する患者で手術を短くする方法が広まった歴史であると同時に、「誰なら短くする利益が、再手術と開腹管理の負担を上回るか」を問い直してきた歴史でもある。初期の報告は、従来なら救命が難しかった患者の生存を示した。しかし、その成績を全腹部外傷へ広げる根拠はなく、近年は過剰適応、比較研究の交絡、患者選択の不確かさが問題になっている。
本稿では、1970〜1980年代の肝パッキングからStone、Burch、Rotondoの段階手術、開腹管理の合併症、ダメージコントロール蘇生(DCR)、現代の比較研究までをたどる。既存の臨床解説が扱う「どう実施するか」に対し、ここでは「その考え方は、何を根拠に採用され、どこで修正されたか」を読む。
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
まず押さえる要点
- Stoneらの1983年報告は、初回で手術を完結した14例の生存1例に対し、その後の段階手術17例では11例が生存した逐次症例比較だった。無作為化試験ではない[3]
- Rotondoらの1993年報告で知られる77%対11%の生存差は、46例全体ではなく、主要血管損傷と複数臓器損傷を持つ22例のサブグループの結果である[5]
- 低体温、アシドーシス、凝固障害は重要な危険信号だが、古い症例群の平均値や予後予測値は、DCSの利益が切り替わる検証済みの境界ではない[4][7]
- DCRの進歩、一時的閉腹、早期筋膜閉鎖はDCSを支えるが、それぞれ異なる介入である。蘇生や閉腹法の研究を、DCS自体の効果の証明へ置き換えない[10][11][12][13]
- 実施率が低下した時期の観察研究と、小規模RCTの結果は、一方向にはそろっていない。現在の課題は実施率を一律に減らすことではなく、初回完結が可能な患者と短縮が必要な患者を見分けることである[16][17][18][19]
対象と用語
対象は、主に成人の外傷性腹部出血に対するDCSの考え方と臨床研究である。腹部のDCSをdamage control laparotomy(DCL)、初回手術で修復・閉腹を完結する戦略をdefinitive laparotomy(DEF)と表す。年齢、DCL、開腹管理の定義は研究ごとに異なるため、数字だけを横に並べない。
DCSは手術を段階に分ける戦略、DCRは止血と並行する蘇生、open abdomen(OA)は筋膜を閉じずに管理している状態、temporary abdominal closure(TAC)はその間に腹部を一時的に被覆する方法を指す。OAはDCS以外でも用いられ、同じTACでも原疾患と残っている問題が違えば比較対象は異なる。
手技・適応の実務はDamage Control Surgeryの臨床解説、被覆と閉鎖はTACの手技解説、圧迫止血はDamage Control Packingを参照されたい。胸部・四肢のDCS、小児、非外傷の腹膜炎に対する有効性は、本稿から直接推定しない。
1.1979〜1981年 肝パッキングが再手術までの時間をつくる
腹部外傷で修復を段階化する発想は、1993年に突然現れたものではない。1979年、Calneらは重症肝外傷4例に、最初の施設で必要な止血とパッキングを行い、その後Addenbrooke’s Hospitalへ搬送して追加手術とパック除去を行った経過を報告した。4例とも退院した[1]。
ここでの要点は、ガーゼで圧迫する操作だけではない。初回施設で全修復を完了することに固執せず、出血を抑えた状態で、蘇生と専門施設での追加治療につないだことである。ただし4例の症例報告であり、同じ患者に初回完結を選んだ場合との比較はない。
1981年のFelicianoらは、他の外科的止血を試みても肝実質からの出血が続いた10例にパッキングを用い、9例の生存を報告した。パック除去後の再出血はなかったが、4例に肝周囲の液体貯留が生じ、そのうち2例はドレナージのため再手術を要した[2]。
研究結果は「選択された10例のうち9例が生存した」である。「パッキングが生存率を90%改善した」ではない。後者には、比較群と効果量の定義が必要になる。また、この報告では全例が同じ予定再開腹手順で管理されたわけではなく、パックは再開腹で除去された例と、ドレーン部から除去された例があった[2]。現在の標準手技として、そのまま再現するための記述ではない。
本稿の解釈:この時代に形になったのは、さらなる操作が出血を増やしかねない患者で、一時的な止血を次の治療へつなぐという考え方だった。「一時的」という言葉には、残した処置を完了させる責任まで含まれる。
2.1983年 Stoneは肝臓から腹部全体へ段階手術を広げた
Stoneらが検討したのは、開腹中に重大な出血傾向を呈した31例である。最初の14例には、血液学的補充を行いながら手術を完結して閉腹する従来の方法が用いられ、生存は1例だった。その後の17例では、大血管の損傷を処置し、腸管などに一時的な処置を加え、パッキングを行って初回手術を早く終了した。最終的に11例が生存した[3]。
この比較を整理すると、次のようになる。
| 群 | 症例数 | 生存 | 研究上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 最初の従来治療群 | 14 | 1/14(約7%) | 過去の対照 |
| その後の短縮・パッキング群 | 17 | 11/17(約65%) | 治療方針変更後の症例群 |
後半群では12例が再開腹まで生存し、凝固障害を補正した後、15〜69時間で再開腹されていた。再開腹までの生存12例と、最終的な生存11例は同じ数字ではない[3]。
大きな差ではあるが、患者が同時期に無作為化された比較ではない。症例選択、治療経験の蓄積、他の管理の変化を分離できない。それでも、腹部の損傷をその場ですべて修復し終えるという目標より、患者が次の手術へ到達できることを優先した点に、歴史的な意味がある。
もう一つ重要なのは、Stoneの方法を現代のTACと同一視しないことだ。原報ではパッキング後の腹部を緊張下に閉じていた[3]。現在は腹腔内圧や腹部コンパートメント症候群(ACS)への配慮が加わっている。古典から受け取るべきなのは段階化の発想であり、記載された閉腹法の無条件な踏襲ではない。
3.1992〜1993年 治療戦略としての形が整う
Burchの200例は再手術に到達する難しさも示した
1992年のBurchらの報告では、7年半に200例が短縮開腹と予定再手術で管理され、85%が穿通性外傷だった。主要出血源の制御後の平均値は、赤血球輸血22単位、深部体温32.1℃、pH 7.09だった。予定再手術まで生存したのは98例で、そのうち66例が退院した[4]。
「再手術後の生存67%」だけを取り出すと、初回の200例が見えなくなる。全体の退院生存は66/200、33%である。残る102例は予定再手術前に死亡し、そのうち68例は初回手術後2時間以内だった[4]。これは短縮手術を行えば十分であることを示す報告ではない。どの段階で患者を失っているかを見なければ、戦略全体は評価できない。
本稿の解釈:DCSの比較では、「初回手術を生き延びた患者」「再手術に到達した患者」「閉腹に到達した患者」の分母を行き来しないことが必要になる。治療途中の生存者だけに絞るほど、初期の死亡は成績から消えてしまう。
Rotondoの77%対11%は誰の成績か
1993年、Rotondoらはdamage controlという名称のもと、初回の出血・汚染制御、集中治療での回復、再手術という戦略を報告した。対象は3年半の間に開腹と赤血球10単位超の緊急輸血を要した穿通性腹部外傷46例で、DEF 22例とDC 24例を後ろ向きに比較した。原著抄録の全体生存率はDC 55%、DEF 58%で、大きな差は示されていない[5]。
一方、主要血管損傷と2つ以上の内臓損傷を持つ「maximum injury subset」22例では、DC 13例中10例(77%)、DEF 9例中1例(11%)が生存した(P<.02)[5]。
| Rotondo 1993の比較 | DC | DEF | 読み取れる範囲 |
|---|---|---|---|
| 全46例 | 24例、抄録の生存率55% | 22例、抄録の生存率58% | 全体で明瞭な生存差を示していない |
| 主要血管+2つ以上の内臓損傷の22例 | 10/13生存(77%) | 1/9生存(11%) | 限定されたサブグループで大きな関連 |
全体の割合は原著抄録の記載値を示し、丸められた率から人数を逆算していない。この研究は無作為化されておらず、サブグループも小さい。そのため77%対11%を、そのままDCSの普遍的な治療効果とすることはできない。
本稿の解釈:Rotondoの報告が具体化したのは、「非常に複雑な損傷と大量出血が重なり、一度で修復し続ける負担が大きい患者」という対象像である。DCSの名前がついたことと、すべての重症外傷で優越性が確立したことは、別の出来事として読む必要がある。
4.生理学を優先する考え方と数値の読み違い
段階手術が広まるにつれ、臓器損傷の形だけでなく、低体温、アシドーシス、凝固障害を伴う患者が、残りの手術に耐えられるかが重視されるようになった。ただし、Burchの32.1℃やpH 7.09は重症な症例群の平均値であり、「そこまで待つ」「その値を超えたら全例DCS」という適応基準ではない[4]。
予後を予測する値と、治療を選び分ける値も異なる。あるpH以下で死亡が増えることが分かっても、その値を境にDCSの方がDEFより有利になることまで示したとは限らない。DCSを受けた患者だけの研究では、同じ状態の患者にDEFを選んだ場合の成績が欠けている。
Robertsらの2021年系統的レビューは、2019年4月までの文献から、コホート研究36件と横断調査3件を評価し、提案された適応59項目を抽出した。何らかの内容的妥当性の根拠があったのは10項目、構成概念妥当性は9項目、基準関連妥当性は6項目で、判断の再現性を評価した研究はなかった[7]。
これは「6つの適応が完全に検証済み」という意味ではない。適応とDCSの選択が関連すること、適応と悪い転帰が関連すること、その適応を持つ患者がDCSで良い転帰になることは、それぞれ別の問いである。著者らも、有効性の不確かさを踏まえ、確定的手術を選べない状況でDCSを用いることを強調した[7]。
2023年の欧州出血・凝固管理ガイドラインも、出血性ショック、持続出血、凝固障害や特定の複雑損傷でDCSを推奨する一方、それらの要因がなければ初回での確定的手術を推奨する。低体温、アシドーシス、到達困難な損傷、時間を要する手技も判断要因に挙げている[8]。
本稿の解釈:数値は状態と推移を共有するために使う。三徴が完成するまで待つことも、単一の検査値だけで残りの手術内容を無視することも、この歴史から導かれる結論ではない。
5.初回の救命から再建と腹壁まで問題が広がる
1993年のMorrisらは、外傷開腹1,175例のうち、パッキングを伴う段階手術107例を検討した。再建まで生存した58例のうち43例が退院し、ACSは全107例中16例に生じた[6]。段階手術の次の課題は、再手術に戻す時期、出血が続く場合の緊急再開腹、腹部の圧上昇になった。
2005年のMillerらは、DCSまたはACSに伴ってOA管理を要した344例を報告した。創閉鎖まで生存した276例のうち69例(25%)に、創感染、膿瘍、瘻を含む創合併症が生じた。筋膜閉鎖までの期間が8日を超えると合併症が多かった[9]。
ここから「8日目までは安全」とは言えない。長く閉じられない患者は、もともと出血、浮腫、汚染や臓器障害が強かった可能性がある。閉鎖の遅れが合併症の原因なのか、病態が長引いた結果なのかを、観察研究だけでは分け切れない。また、69/276という数値は、全344例の同じ時点でのリスクではない。
一時的閉腹は閉じるまでの治療として発達した
初回手術を短くする戦略が定着すると、TACには内臓の保護だけでなく、筋膜が離れていくことを抑え、最終閉鎖へつなぐ役割が求められるようになった。WSES 2018は、持続的筋膜牽引を併用した陰圧閉鎖を優先する方法として提案した(Grade 2B)。EAST 2022も、循環が正常化し腹腔内の病態へ対応した外傷・救急一般外科のOA患者で、筋膜牽引を条件付きで推奨した[10][11]。
EASTの推奨は、筋膜閉鎖などの転帰を比較した研究の集積に基づくが、根拠の質は非常に低いと評価された[11]。したがって、特定の閉腹システムを使うことが、不要なDCSの負担まで相殺すると考えることはできない。DCSを選ぶ研究と、DCS後のOAをどう管理するかの研究は、介入する段階が違う。
WSESは、再開腹を前回手術から24〜48時間以内とし、改善しない、または循環が不安定なほど早めるとした(Grade 1C)。最終閉鎖は、継続蘇生が不要、汚染源が制御され、腸管の生存性に懸念がなく、追加再開腹が不要で、ACSの懸念もないときに早期に目指す(Grade 1B)。「4〜7日以内」は早期筋膜閉鎖の一般的な定義であり、その日数まで待つ指示ではない[10]。
本稿の解釈:DCSの成功を手術室から生きて出たことだけで判定すると、その後に残る負担を見落とす。救命後の再建と閉腹までを、初回の選択の評価に含める必要がある。
6.2000年代 DCRがDCSの前提条件を変える
初期のDCSは、手術中に進んだ生理学的破綻を、短縮後の集中治療で立て直す戦略として記述された。一方、2007年のHolcombらのDCRに関する論説は、外傷早期の凝固障害へ直接対応し、晶質液を制限しながら止血蘇生を早く始める考え方を整理した[12]。これは概念を提示する論説であり、その一報が蘇生パッケージの有効性を無作為化試験で証明したわけではない。
2011年、CottonらはDCL患者390例をDCR導入前282例と導入後108例に分けて検討した。24時間の晶質液投与量の中央値は14 Lから5 Lへ減り、30日生存は76%から86%へ上昇した。年齢、重症度、救急部の変数で調整しても、DCRは30日生存と関連した(調整OR 2.5、95%CI 1.10〜5.58)[13]。
ただし、初回開腹の終了前に死亡した患者は除外されている。導入前後の比較であり、時代とともに変わる他の診療も完全には分離できない。全例がDCLを受けているため、この研究はDCS対DEFの比較でもない[13]。
本稿の解釈:DCRが変われば、同じ名称のDCSでも、患者が手術へ到着した時点、手術終了時、再建時の条件が変わる。過去と現在の生存率の差をすべて手術の段階化に帰すことはできない。さらに、早期の蘇生で初回完結が可能になる患者が増えるかという問いも生まれるが、それは別の比較で確かめる必要がある。
7.2010年代 広く使うほどよいのかが問われ始める
施設差は問いの出発点であり過剰適応の証明ではない
Watsonらの2017年報告は、PROPPR参加患者のうち緊急開腹を受けた329例を解析した。DCLの実施率は12施設で33〜83%と大きく異なった[14]。ただしPROPPRで無作為化されたのは輸血戦略であり、DCLの選択ではない。この解析はDCSのRCTではなく、手術戦略についての観察研究である。
施設差には損傷、患者の生理学的状態、術者の選択、利用できる資源が混ざる。率が高い施設をそのまま過剰適応、低い施設をそのまま良好と判定することはできない。それでも、DCLが患者の状態だけでは一意に決まっていない可能性を示し、適応を検証する理由になった。
2016年のHarvinらの後ろ向き研究は、傾向スコアで患者背景をそろえた後も、DCLが院内死亡や腹部合併症の増加と関連すると報告した[15]。これは害を疑う重要な信号だが、重い状態だからDCLが選ばれたという「適応による交絡」は、調整後も残りうる。術中の出血の勢い、組織の状態、残りの修復時間などが、データとして十分記録されているとは限らない。
実施率と転帰を分けて測る
2019年の6施設研究では、監査とフィードバックという一つの介入だけでは、全体のDCL率を持続的に下げられなかった。209例のDCLのうち47例(22%)は、各施設の医師による事後評価で、初回完結が可能だったかもしれないと判定された[16]。ただし、経過を知った後の判断は、術中に利用できた情報だけでの判断とは異なる。
同じ多施設の取り組みを用いた別の解析は、そのようなDCL患者とDEF患者を39組マッチさせ、重大腹部合併症や入院・人工呼吸などの負担を比較した。重大腹部合併症の明瞭な差は示されず、DEFでは入院・ICU・人工呼吸から離れている日数が多い方向だった。しかし5日以内の死亡を除いており、初期救命に対する両戦略の効果を判定できる設計ではなかった[17]。
2026年のMartinez Ugarteらの研究は、2011〜2020年の外傷開腹1,975例を対象とし、DCL率が29%から15%へ低下する一方、手術部位感染は18.5%から17.5%で有意な変化がなかったと報告した。48時間以内の死亡は除外され、後半の時期では損傷重症度と穿通性外傷の割合が増えていた[18]。
本稿の解釈:DCL率が下がったこと、合併症が減ったこと、救命率を保てたことは、別々に測る必要がある。DCLを減らすと必ず感染が減るという単純な関係でもない。品質改善では率そのものを目標にするより、短縮した理由と、その後に生じた転帰を組にして検討する方が有用である。
8.2021年 手術戦略そのものを無作為化する試み
HarvinらのDCL試験は、術者がDCLとDEFのどちらも妥当と考えた患者を対象とする単施設のパイロットRCTだった。40例が無作為化され、転帰データの利用同意を撤回した1例を除く39例(DCL 18例、DEF 21例)が解析された[19]。
この試験の重要な点は、明らかに短縮が必要な患者を、無理に初回完結へ割り付けた試験ではないことだ。止血のためのパッキング、出血制御のためのIVR、閉腹困難やACSの懸念、手術終了時にも続く低血圧・輸血・持続昇圧薬など、DCLが明確に必要と考えられる状況は除外された[19]。
| 30日以内の評価 | DCL(18例) | DEF(21例) |
|---|---|---|
| 重大腹部合併症または死亡という主要複合評価 | 6/18(33%) | 12/21(57%) |
| 死亡 | 0/18 | 7/21(33%) |
主要評価のDEF対DCLの未調整RRは1.71(95%CI 0.81〜3.63)で、有意差は示されなかった。重症度と割付前の血液製剤量の不均衡を調整したRRは1.54(0.71〜3.32)だった。予定56例に届かず、登録継続が困難となり終了した[19]。
死亡がDEF群に偏った結果は軽視できない。一方、DEF群の7死亡中5例ではcomfort careへの移行があった。少数例での偶然の患者背景の不均衡と広い信頼区間もあり、この試験単独でDCLの生存優越性を確立することはできない。なお、DCL群の「30日死亡0例」は「院内死亡0例」と同じではなく、院内では1例の死亡が報告されている[19]。
本稿の解釈:この試験を「有意差がなかったので同等」と読むのも、「0対7だから全例DCL」と読むのも適切ではない。効果の推定には大きな不確かさが残り、適用できるのは術者が選択に迷う範囲の患者である。歴史的な価値は、当然とみなされてきた手術戦略でも、臨床的な不確実性がある領域なら無作為化して検証できることを示した点にある。
9.何をもって成功とするかをそろえる
同じDCSの研究でも、24時間生存、院内死亡、30日死亡、筋膜閉鎖、瘻、再手術が別々に報告されてきた。初期死亡が多い群では、感染が判明する時点まで生存できない患者も増える。感染率だけ低いことを、そのまま安全性の高さと解釈するわけにはいかない。
Byerlyらは2022年、専門家による修正Delphi法で、今後のDCL研究が共通して報告する10の主要転帰を提案した。院内死亡、30日死亡、筋膜閉鎖と閉鎖までの日数、腹部合併症、閉鎖後の再手術などを要する重大合併症、消化管吻合部の漏れ、腹腔内敗血症、腸管皮膚瘻に加え、12か月の機能的転帰が含まれた[20]。
これは治療の有効性を示す試験ではなく、研究を比較しやすくするための合意である。それでも、「救命できたか」から「腹壁と腸管がどうなり、生活機能がどこまで戻ったか」まで評価を広げたことは、この歴史の重要な到達点である。
日本の診療へ読み替える際にも、古い米国の穿通性外傷集団の生存率やDCL率を、そのまま施設目標にはできない。患者構成、輸血製剤の単位、搬送、麻酔・集中治療・IVR・再手術の体制が異なる。とくに海外論文の赤血球「10単位超」を、国内製剤の同じ表記へ機械的に置き換えない。
本稿の解釈:初回手術を終えた時点で、短縮した理由、残した再建、再開腹の目的、閉腹へ進めない理由を記録する。それを初期死亡、閉腹、腹部合併症、回復後の機能まで結び付けて振り返ることが、論文の率を模倣するより意味のある評価になる。
まとめ
DCSは、肝出血に対する一時的なパッキングから、患者の生理学的な余力に合わせて修復を段階化する戦略へ発展した。StoneとRotondoの報告は、その発想を支える重要な観察だったが、無作為化された普遍的な治療効果の証明ではなかった。
その後、ACSと開腹管理の負担が明らかになり、DCRと閉腹法が変わり、適応の見直しとRCTが行われるようになった。現在も、どの患者でDCSの利益が最大になるかを一つの数値だけで決めることは難しい。
この歴史から持ち帰るべき問いは、「手術を短くできるか」に加えて、「いま短くする理由は何か」「回復後に何を完了させるか」「その選択を、どの分母と転帰で検証するか」である。
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文献の確認範囲と下書きの扱い
Calne、Feliciano、Stone、Burch、Rotondo、Morris、Miller、Harvin 2016は、原著のPubMed抄録を主に確認した。原著全文を読了したものとしては扱っていない。Holcomb 2007は書誌と公開された原文取得部分で論説としての位置づけとDCRの考え方を確認し、現在の薬剤や蘇生処方の根拠には用いていない。
Roberts 2021、欧州指針2023、WSES 2018、EAST 2022、Cotton 2011、Watson 2017、Harvinの2019・2021報告、Byerly 2022は、公開原文または原文の検索取得部分で、本文に用いた方法・数値・推奨を照合した。Martinez Ugarte 2026は原著抄録と公開された原文取得部分で照合した。いずれも図表の転載は行っていない。
本文の独自表は、引用した研究の数値を本稿の問いに沿って並べ直したものである。Rotondoの全体生存率は抄録の記載どおりに示した。Harvin 2021の30日死亡と院内死亡、Stone・Burch・Millerの各段階の分母を区別した。症例報告や観察研究の割合から、因果的な絶対リスク減少やNNTは算出していない。
本稿は医療従事者への教育を目的とした記事であり、個別患者の診断・治療を代替しない。医学的内容は2026年10月2日(日本時間)に著者確認済みである。


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