重症外傷の栄養療法は、止血と循環の安定を確かめてから48時間以内に経腸栄養を少量で始め、数日かけてエネルギーと蛋白質を増やすのが、現在の指針と主要な無作為化試験に沿った組み立てである。本稿は成人の重症外傷(ICUで管理する多発外傷・腹部外傷など)を対象に、開始時期、エネルギーと蛋白質の目標、間接熱量測定、refeeding症候群、血糖、腸管損傷・開腹管理中の注意を整理し、外傷患者で示された根拠と一般の重症患者から外挿する部分を分けて示す。国内の栄養療法ガイドライン2024と早期栄養介入管理加算にも触れる。
医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。
まず押さえる要点
- 経腸栄養は48時間以内に始める。ただし制御できていないショックの最中は待つ。ESPEN 2023は外傷患者で早期の静脈栄養より早期の経腸栄養を優先するとし(Grade B)、制御できないショックでは経腸栄養を遅らせ、輸液と昇圧薬・強心薬でショックが制御できたら少量で始めるとした[1]。国内の2024年版指針も48時間以内の開始を強く推奨し(GRADE 1B)、循環動態が不安定な患者では行わないことを弱く推奨した(2D)[2]。外傷に限った根拠は小規模な試験にとどまる[3][4]。
- 初期のエネルギーを満量にしても転帰は良くならない。一般の重症患者の試験では、推定必要量の40〜60%と70〜100%(PermiT)、1日約400kcalと約1,300kcal(EDEN)、1.5kcal/mLと1.0kcal/mL(TARGET)の比較で、死亡に有意差はなかった[5][6][7]。ショック患者の試験では、低用量群で嘔吐・下痢・腸管虚血が少なかった[8]。
- 蛋白質は段階的に増やし、早期から一律に2.2g/kg/日以上にしない。EFFORT Protein(1,301例)では2.2g/kg/日以上の群で生存退院が増えず(HR 0.91、95%CI 0.77〜1.07)、急性腎障害や臓器障害の重い患者で害の可能性が示された[9]。PRECISe(935例)では2.0g/kg/日の群で生活の質が低かった[10]。外傷ではESPENが1.5〜2g/kg/日を考慮してよいとし[1]、国内指針は1.2g/kg/日を超える量を弱く推奨する(確実性「非常に低い」)[2]。
- 開腹管理中も、腸管が生きて機能していれば早期経腸栄養を考える。WSESは腸管が不連続のとき、瘻より遠位から投与できない高流量瘻、腸閉塞の徴候があるときに経腸栄養を遅らせるとした(Grade 2C)[11]。腹水・排液からの蛋白質の喪失を量に加味する[1][11]。
- リン・カリウム・マグネシウムと血糖を最初の1週間は毎日見る。refeeding症候群で低リン血症が出たら、エネルギーを48時間制限してから段階的に戻す(ESPEN、Grade B)[1]。制限した群で60日時点の生存が多かった試験がある(主要評価項目には有意差なし)[12]。血糖は10mmol/L(約180mg/dL)を超えたらインスリンを使い、厳格すぎる目標は避ける[1][13]。
対象と扱わない範囲
対象:ICUで管理する成人の重症外傷患者(多発外傷、腹部外傷、開腹管理中の患者を含む)。扱う問いは、いつ・どの経路で始めるか、エネルギーと蛋白質をどこまで・どの速さで増やすか、何で測るか、どんな合併症に備えるかである。
扱わない範囲:
- 熱傷と、小児・妊産婦の栄養。熱傷と小児は指針の推奨が別に立てられている[1][2]。
- 重症頭部外傷に特有の論点(頭蓋内圧管理との関係など)。頭部外傷の集中治療は頭部外傷の血圧・ICP・CPP・Hb管理:HEMOTIONとTRAINをどう読むかを参照。
- 製剤ごとの組成、微量元素・ビタミンの用量、免疫調整栄養素の詳細。施設で採用している製剤の電子添文を確認する。
読み方:外傷患者だけの栄養の無作為化試験は少なく、小規模で古い。量や経路の大規模試験の多くは混合集団である。本文では外傷患者の研究を「外傷の研究」、混合集団の研究を「一般の重症患者(外挿)」と明記する。
1.外傷の栄養で何が根拠になっているか
重症外傷の急性期は異化が強く、開腹管理やドレーンがあれば排液から蛋白質が失われる。ESPEN 2023は外傷患者で1.5〜2g/kg/日の蛋白質を考慮してよい理由として、腹腔の液体1Lあたり20〜30gの蛋白質の喪失を挙げた[1]。WSES 2018は開腹管理中の窒素の喪失を腹腔排液1Lあたりほぼ2gと見積もっている[11]。
一方、急性期に推定必要量まで投与して転帰が良くなることは、一般の重症患者の大規模試験で示されていない(3節)。外傷に限った試験は、1992年の経腸栄養と静脈栄養の比較[3]と、小規模試験のメタ解析[4]が中心である。本稿の解釈「外傷では蛋白質の必要量が多いかもしれない」ことと、「入室早期から多く入れると転帰が良くなる」ことは別の問いで、後者を支持する外傷の試験は見つからなかった。
2.いつ、どの経路で始めるか
外傷の研究
研究結果Kudskらは、腹部外傷指数(ATI)15以上の鈍的・穿通性腹部外傷98例を、受傷後24時間以内に経腸栄養と静脈栄養に割り付けた。経腸栄養群で肺炎(11.8%対31%)、腹腔内膿瘍(1.9%対13.3%)、カテーテル敗血症(1.9%対13.3%)が少なかった[3]。1992年の試験で、当時の静脈栄養は現在より投与量が多かった可能性がある(本稿の解釈)。
研究結果Doigらのメタ解析は、ICUで管理した外傷患者で受傷後24時間以内の経腸栄養と通常の管理を比べた無作為化試験3件(126例)を統合し、早期経腸栄養で死亡が少なかった(オッズ比0.20、95%CI 0.04〜0.91、I²=0)。著者ら自身が、試験の質が低く規模が小さいため、大規模な多施設試験で確かめる必要があるとしている[4]。
一般の重症患者(外挿)
研究結果経路の比較では、イングランドの33のICUで行われたCALORIES(予定外入室、入室後36時間以内に開始して最長5日間、解析2,388例)で、30日死亡は静脈栄養33.1%、経腸栄養34.2%(相対リスク0.97、95%CI 0.86〜1.08)と有意差はなく、感染症の数も同程度だった。低血糖(3.7%対6.2%)と嘔吐(8.4%対16.2%)は静脈栄養群で少なかった[14]。人工呼吸と昇圧薬を要するショック患者のNUTRIREA-2(仏44施設、経腸1,202例、静脈1,208例)では、28日死亡は37%対35%(差2.0%、95%CI −1.9〜5.8)で、経腸栄養群で嘔吐(34%対20%)、下痢(36%対33%)、腸管虚血(19例〔2%〕対5例〔1%未満〕、HR 3.84、95%CI 1.43〜10.3)、急性結腸偽性腸閉塞(11例対3例)が多かった[15]。
指針ESPEN 2023は、重症患者で48時間以内に経腸栄養を始めること(Grade B、合意100%)、外傷患者で早期の静脈栄養より早期の経腸栄養を優先すること(Grade B、合意96%)を挙げた。制御できないショックで循環・組織灌流の目標に達していないときは経腸栄養を遅らせ、輸液と昇圧薬・強心薬でショックが制御できたら少量の経腸栄養を始めてよいとした(Grade B、合意100%)。同じ推奨は、制御できない致死的な低酸素血症、活動性の上部消化管出血、明らかな腸管虚血、腹部コンパートメント症候群、胃内容の吸引量が6時間で500mLを超える場合も、遅らせる状況に挙げている[1]。国内の2024年版指針は、48時間以内の開始を強く推奨し(GRADE 1B)、経静脈栄養より経腸栄養を弱く推奨し(2C)、循環動態が不安定な重症患者では経腸栄養を行わないことを弱く推奨した(2D)[2]。国内指針の推奨文では「循環動態不安定」の具体的な基準を本稿では確認できなかった。
3.エネルギー:何%から始め、いつ増やすか
研究結果一般の重症患者(外挿)で初期のエネルギー量を比べた主な試験は、いずれも死亡に有意差を示さなかった。
- EDEN:急性肺傷害の発症48時間以内で人工呼吸中の成人1,000例(NHLBI ARDS Networkの44病院)。最初の6日間、約400kcal/日の少量投与と約1,300kcal/日の満量投与で、28日までの人工呼吸器非装着日数は14.9日対15.0日(差−0.1、95%CI −1.4〜1.2)、60日死亡は23.2%対22.2%(差1.0%、95%CI −4.1〜6.3)だった。少量投与で消化管の不耐(嘔吐、胃残量の増加)が少なかった[6]。
- PermiT:内科・外科・外傷の入室区分の成人894例(7施設、96.8%が人工呼吸)。最長14日間、非蛋白エネルギーを計算必要量の40〜60%とする群と70〜100%とする群に割り付け、蛋白質は同程度にした。実際の投与は835±297kcal/日対1,299±467kcal/日(必要量の46±14%対71±22%)、蛋白質は57±24g/日対59±25g/日だった。90日死亡は27.2%(121/445)対28.9%(127/440)、相対リスク0.94(95%CI 0.76〜1.16)だった[5]。
- TARGET:人工呼吸中の成人3,957例(豪州・ニュージーランド46施設)。理想体重1kgあたり1mL/時で、1.5kcal/mLと1.0kcal/mLの製剤を比べ、投与エネルギーは1,863±478kcal/日対1,262±313kcal/日だった。90日死亡は26.8%対25.7%(相対リスク1.05、95%CI 0.94〜1.16)で、感染や有害事象にも差はなかった[7]。
- NUTRIREA-3:人工呼吸と昇圧薬を要するショック患者3,036例(仏61施設)。挿管後24時間以内に始め、最初の7日間、6kcal/kg/日・蛋白質0.2〜0.4g/kg/日の低用量群と、25kcal/kg/日・1.0〜1.3g/kg/日の標準群を比べた。90日死亡は41.3%対42.8%(差−1.5%、95%CI −5.0〜2.0)、ICU退室可能となるまでの日数の中央値は8.0日対9.0日(HR 1.12、95%CI 1.02〜1.22)。低用量群で嘔吐(HR 0.77)、下痢(0.83)、腸管虚血(0.50、95%CI 0.26〜0.95)、肝機能障害(0.92)が少なかった[8]。
指針ESPEN 2023は、急性期の早い時期には消費エネルギー量の70%を超えない低エネルギー投与とし(Grade B、合意100%)、3日目以降は測定した消費エネルギー量の80〜100%まで増やしてよいとした(Grade 0、合意95%)。過剰投与を避けるため、早期から満量の経腸・静脈栄養は行わず、3〜7日かけて目標に達するよう処方する(Grade A、合意100%)[1]。ASPEN 2022は害の可能性を否定できないとして、エネルギー処方を12〜25kcal/kg/日に引き下げた[16]。国内の2024年版指針は、治療初期のエネルギー投与量を消費エネルギーより「意図的に」少なくしないことを弱く推奨した(GRADE 2B)[2]。
本稿の解釈ESPENの「70%を超えない」と国内指針の「意図的に少なくしない」は、表現が逆に見えるが、どちらも満量を急ぐことも、意図的な過少投与を長く続けることも支持していない。上の試験はいずれも死亡に有意差がなく(同等の証明ではない)、初期の数日に目標への到達を急ぐ理由は乏しい。外傷で実際に使う目安としては、48時間以内に少量で始め、腸管の耐容性と循環を見ながら3〜7日で目標に近づける設計がESPENの推奨に沿う。
4.間接熱量測定:何を目標にするか
指針ESPEN 2023は、人工呼吸中の重症患者の消費エネルギー量を間接熱量測定で決めるとした(Grade B、合意95%)。測れないときは、肺動脈カテーテルの酸素消費量や人工呼吸器の二酸化炭素産生量から求めた値のほうが予測式より良く(合意82%)、簡便な体重あたりの式(20〜25kcal/kg/日など)を使ってもよいとしている[1]。国内の2024年版指針も、消費エネルギー量の推定に間接熱量測定を行うことを弱く推奨した(GRADE 2B)[2]。
研究結果一般の重症患者(外挿)で、間接熱量測定に基づく投与と対照を比べた無作為化試験8件(991例、2020年10月25日までの検索)のメタ解析では、短期死亡が少なかった(相対リスク0.77、95%CI 0.60〜0.98、I²=3%)。人工呼吸期間(平均差0.61日、95%CI −1.08〜2.29)、ICU・入院日数に有意差はなかった。抄録では短期死亡の定義(ICU・院内・28日など)が示されておらず、著者らも質の高い研究による確認が必要としている[17]。測定群では投与エネルギーが多く、測定そのものの効果か投与量の違いかは区別できない(本稿の解釈)。外傷患者に限った無作為化試験は本稿の検索では見つからなかった。
5.蛋白質:どこまで、どの速さで増やすか
指針ESPEN 2023は、重症患者で1.3g/kg/日(蛋白質相当量)を段階的に投与してよいとし(Grade 0、合意92%)、外傷患者ではその解説で1.5〜2g/kg/日を考慮してよいとした[1]。WSES 2018は開腹管理中の患者について、非蛋白エネルギー20〜30kcal/kg/日と蛋白質1.5〜2.5g/kg/日の半消化態栄養剤で、通常は窒素平衡を正に保てると記した[11]。国内の2024年版指針は、標準を超える蛋白質量(1.2g/kg/日超)の投与を弱く推奨したが、確実性は「非常に低い」(GRADE 2D)である[2]。指針本文には2023年4月に検索を行ったとの記載があり、下のPRECISe(2024年)は検索時点より後の公表である。ASPEN 2022は、蛋白質量を含む多くの介入で臨床転帰の差が見いだせなかったとしている[16]。
研究結果一般の重症患者(外挿)の大規模試験は、高用量の利益を示さなかった。
- EFFORT Protein:16か国85のICUで、栄養リスクが高く人工呼吸中の成人を、ICU入室後96時間以内に開始する2.2g/kg/日以上と1.2g/kg/日以下に割り付けた単盲検の実用的試験(1,329例を割り付け、1,301例を解析)。60日までの生存退院の累積発生率は46.1%対50.2%(HR 0.91、95%CI 0.77〜1.07、p=0.27)、60日死亡は34.6%(222/642)対32.1%(208/648)、相対リスク1.08(95%CI 0.92〜1.26)だった。著者らは、急性腎障害があり臓器不全スコアが高い患者では転帰を悪化させた可能性があるとした[9]。
- EFFORT Proteinのベイズ解析(探索的な二次解析):高用量で死亡が2.5ポイント多い(95%信用区間 −6.9〜12.4)と推定され、害である事後確率は72%だった。血清クレアチニンやSOFAスコアが高いほど高用量で転帰が悪い方向の交互作用の確率は97%と95%だった[18]。
- PRECISe:オランダ・ベルギーの10病院で、ICU入室24時間以内に人工呼吸を始め3日以上の継続が見込まれる成人935例。同じエネルギー(1.3kcal/mL)で蛋白質0.06g/mLと0.10g/mLの経腸栄養剤を用い、1.3g/kg/日と2.0g/kg/日を目標とした二重盲検試験である。180日までの生活の質(EQ-5D-5L)は高用量群で低く(平均差−0.05、95%CI −0.10〜−0.01)、死亡はHR 1.14(95%CI 0.92〜1.40)で有意差はなく、消化管の不耐の症状は高用量群で多かった(オッズ比1.76、95%CI 1.06〜2.92)[10]。
本稿の解釈外傷の蛋白質の目標を1.2〜1.5g/kg/日程度に置き、腸管の耐容性・腎機能・臓器障害を見ながら数日かけて近づけるのが、上の指針と試験のどちらとも矛盾しにくい。開腹管理中や大量の排液がある患者で1.5〜2g/kg/日を考える場合も、急性腎障害やSOFAスコアの高い時期に一律で上乗せしない。回復期に目標を引き上げることの効果は、外傷ではまだ確かめられていない。筋力低下と早期離床はICU-Acquired Weaknessと早期離床:重症外傷の筋力低下をどう防ぐかで扱う。
6.腸管損傷・開腹管理中の注意
指針WSES 2018(開腹管理)は、開腹管理中の患者は代謝が亢進しており直ちに十分な栄養が必要であること(Grade 1C)、失われる窒素をバランスのとれた栄養で補うこと(Grade 1C)、消化管が生きて機能していればできるだけ早く経腸栄養を始めること(Grade 1C)を挙げた。腸管が不連続(断端を一時的に閉じた状態)のとき、瘻より遠位に投与路がとれない高流量瘻のとき、腸閉塞の徴候があるときは経腸栄養を遅らせる(Grade 2C)。経口摂取は禁忌ではなく、可能なら使う(Grade 2C)[11]。
同指針の解説は、腹腔排液量を測って補充を調整すること、腸管大気瘻で窒素の喪失が大きく増えること、機能する腸管が75cmより短いと経腸栄養の相対的禁忌であることを記し、24〜48時間以内に始める経腸栄養が創傷治癒と筋膜閉鎖率を改善し、肺炎と瘻を減らすとした[11]。この効果の記述は主に観察研究に基づく(本稿の解釈)。国内の2024年版指針も、腹部開放管理などの特別な治療中の患者で、病態・病期・消化管の状態を考慮し、可能なら早期経腸栄養を行うとした(背景疑問への回答)[2]。
本稿の解釈腸管損傷の修復・吻合の後であることだけを理由に経腸栄養を止める根拠は乏しい。Kudskらの試験は開腹を要した腹部外傷が対象だった[3]。止めるかどうかは、腸管の連続性、吻合部の状態、再開腹の予定、腸管虚血の懸念を外科チームと毎日確認して決める。再開腹・閉腹の時期と縫合不全の危険因子はDamage Control Surgery:いつ手術を切り上げ、いつ再建するか、腸管損傷の診断と手術適応は腸管・腸間膜損傷を見逃さない:CTで決めきれないとき、いつ手術するかを参照。
7.refeeding症候群と電解質
指針ESPEN 2023は、最初の1週間はカリウム・マグネシウム・リンを少なくとも1日1回測る(GPP、合意92%)とした。refeedingによる低リン血症(0.65mmol/L未満、または0.16mmol/Lを超える低下)が出たら、電解質を1日2〜3回測って補充し(GPP、合意100%)、エネルギー投与を48時間制限してから段階的に増やす(Grade B、合意100%)[1]。国内の2024年版指針は、refeeding症候群に特有のリスク評価を行い、発症リスク、症状、電解質異常の程度に応じたエネルギー制限と電解質のモニタリング・補正を検討するとした[2]。
研究結果豪州・ニュージーランドの13のICUで、栄養開始から72時間以内にrefeeding症候群を起こした成人339例を、エネルギー制限と通常投与の継続に割り付けた試験では、主要評価項目(60日間のICU退室後の生存日数)は44.8日対39.9日(差4.9日、95%CI −2.3〜13.6、p=0.19)で有意差はなかった。抄録が主要評価項目の構成要素として示した60日時点の生存は、制限群で多かった(149/164〔91%〕対128/163〔78%〕、p=0.002)[12]。主要評価項目は陰性で、60日生存の差は主要評価項目の一部を取り出した比較として慎重に読む(本稿の解釈)。低栄養の高齢者やアルコール多飲者など、refeedingの危険がある外傷患者は入室時に拾い上げる(本稿の解釈)。
8.血糖
指針ESPEN 2023は、血糖が10mmol/L(約180mg/dL)を超えたらインスリンを投与する(Grade A、合意93%)、最初の2日間は少なくとも4時間ごとに血糖を測る(GPP)、静脈栄養のブドウ糖と経腸栄養の糖質の合計は5mg/kg/分を超えない(GPP、合意100%)とした[1]。
研究結果一般の重症患者(外挿)6,104例のNICE-SUGARでは、81〜108mg/dLを目標とする強化群は180mg/dL以下を目標とする通常群より90日死亡が多く(27.5%対24.9%、オッズ比1.14、95%CI 1.02〜1.28)、40mg/dL以下の重症低血糖も多かった(6.8%対0.5%)。手術患者と非手術患者で治療効果に有意な違いはなかった(オッズ比1.31と1.07、p=0.10)[13]。本稿の解釈栄養の増量・中断、ステロイドや静脈栄養の開始の前後は、高血糖と低血糖の両方に注意して測定間隔を見直す。
9.病期ごとの設計(本稿の整理)
次の表は上の指針と試験から本稿が整理した目安で、指針が定めた手順ではない。
| 時期 | 確認すること | エネルギー | 蛋白質 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 蘇生期(止血・循環が不安定) | 出血、昇圧薬、乳酸、腹部所見 | 経腸栄養を待つ | — | [1][2] |
| 安定後〜48時間以内 | 腸管の連続性、胃内容の吸引量、refeedingの危険、電解質 | 少量で開始。早期は消費量の70%以下(ESPEN) | 段階的に開始 | [1][2] |
| 3〜7日 | 耐容性、腎機能、臓器障害、血糖、可能なら間接熱量測定 | 測定値の80〜100%へ(ESPEN)。測れなければ20〜25kcal/kg/日など | 1.3g/kg/日を目安に。外傷では1.5〜2g/kg/日を考慮可(ESPEN) | [1][9][10] |
| 経腸栄養が足りないとき | 不足の理由(中断、不耐) | 静脈栄養の追加:ESPENは個別に判断、国内指針は併用しないことを弱く推奨 | — | [1][2] |
指針経口・経腸栄養が行えない場合、ESPEN 2023は3〜7日以内に静脈栄養を始めるとし(Grade B、合意89%)、最初の1週間に経腸栄養を満量まで入れられない患者での静脈栄養の追加は、安全性と利益を症例ごとに比べて判断するとした(GPP、合意96%)[1]。国内の2024年版指針は、経腸栄養の投与量が不足している患者に経静脈栄養を併用しないことを弱く推奨した(GRADE 2A)[2]。
根拠の比較表
表はスマートフォンでは横にスクロールして読む。「外傷」は外傷患者の研究、「一般」は混合集団の研究(外挿)を示す。
| 出典(年) | デザイン | 対象 | 介入・比較 | 主な結果(評価時点) | 限界と意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| Kudsk(1992)[3] | RCT(外傷) | ATI 15以上の腹部外傷98例 | 受傷24時間以内の経腸対静脈 | 肺炎11.8%対31%、腹腔内膿瘍1.9%対13.3% | 1992年の古い試験(当時の静脈栄養との比較)。死亡の差は示されていない |
| Doig(2011)[4] | メタ解析(外傷) | RCT 3件・126例 | 24時間以内の経腸栄養対通常管理 | 死亡OR 0.20(95%CI 0.04〜0.91) | 試験の質が低く小規模(著者) |
| CALORIES(2014)[14] | RCT(一般) | 予定外入室2,388例 | 静脈対経腸(最長5日) | 30日死亡33.1%対34.2%、RR 0.97(0.86〜1.08) | 経路の違いで死亡・感染に有意差なし |
| NUTRIREA-2(2018)[15] | RCT(一般) | 人工呼吸・昇圧薬のショック2,410例 | 早期経腸対早期静脈 | 28日死亡37%対35%。腸管虚血2%対1%未満 | ショック中の経腸栄養で消化管合併症が多い |
| EDEN(2012)[6] | RCT(一般) | 急性肺傷害1,000例 | 約400対約1,300kcal/日(6日間) | 60日死亡23.2%対22.2% | 初期の少量投与で転帰は悪化せず |
| PermiT(2015)[5] | RCT(一般・外傷を含む) | 894例 | 非蛋白エネルギー40〜60%対70〜100%、蛋白質同程度 | 90日死亡27.2%対28.9%、RR 0.94(0.76〜1.16) | 外傷の結果を別に示したものではない |
| TARGET(2018)[7] | 二重盲検RCT(一般) | 人工呼吸3,957例 | 1.5対1.0kcal/mL | 90日死亡26.8%対25.7%、RR 1.05(0.94〜1.16) | エネルギーを増やしても生存は改善せず |
| NUTRIREA-3(2023)[8] | RCT(一般) | 人工呼吸・昇圧薬のショック3,036例 | 低用量(6kcal/kg/日)対標準(25kcal/kg/日)、7日間 | 90日死亡41.3%対42.8%。低用量で退室準備が早く、腸管虚血が少ない | ショック早期の標準量に利益なし |
| Duan(2021)[17] | メタ解析(一般) | RCT 8件・991例 | 間接熱量測定に基づく投与対対照 | 短期死亡RR 0.77(0.60〜0.98) | 短期死亡の定義が抄録で不明。投与量の差と区別できない |
| EFFORT Protein(2023)[9] | 単盲検RCT(一般) | 栄養リスクが高い人工呼吸1,301例 | 2.2以上対1.2以下g/kg/日 | 生存退院HR 0.91(0.77〜1.07)。60日死亡34.6%対32.1% | 急性腎障害・臓器障害の重い患者で害の可能性 |
| PRECISe(2024)[10] | 二重盲検RCT(一般) | 人工呼吸935例 | 2.0対1.3g/kg/日 | 180日のEQ-5D-5L 平均差−0.05(−0.10〜−0.01) | 高用量で生活の質が低く、消化管の不耐が多い |
| Doig(2015)[12] | 単盲検RCT(一般) | refeeding症候群339例 | エネルギー制限対通常継続 | 主要評価項目は有意差なし。60日生存91%対78% | 主要評価項目は陰性。60日生存はその構成要素の比較 |
| NICE-SUGAR(2009)[13] | RCT(一般) | 6,104例 | 81〜108対180mg/dL以下 | 90日死亡27.5%対24.9%、OR 1.14(1.02〜1.28) | 厳格な血糖管理で死亡と低血糖が増加 |
評価時点:死亡の評価時点は試験ごとに異なる(CALORIESとNUTRIREA-2は28〜30日、EDENとEFFORT Proteinは60日、PermiT・TARGET・NUTRIREA-3・NICE-SUGARは90日、PRECISeの生活の質は180日まで)。Kudsk、Doig 2011、Duanの評価時点は抄録では確認できなかった。
日本で実施するとき
国内の指針
- 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(JCCNG2024):日本集中治療医学会が2025年9月30日に公開した。成人では、48時間以内の経腸栄養の開始(1B)、経静脈栄養より経腸栄養(2C)、治療初期にエネルギーを意図的に少なくしない(2B)、1.2g/kg/日を超える蛋白質(2D)、間接熱量測定(2B)、経腸栄養が不足している患者で経静脈栄養を併用しない(2A)、循環動態不安定な患者で経腸栄養を行わない(2D)などを推奨している[2]。前版(総論2016年)は日本集中治療医学会雑誌に掲載された[19]。
- 海外指針と異なる点:ESPEN 2023は外傷患者でグルタミンの経腸投与(0.2〜0.3g/kg/日、最初の5日間、創傷治癒に問題があれば10〜15日間)を行ってよいとしたが(Grade 0、合意91%)[1]、JCCNG2024はグルタミンを強化した経腸栄養を行わないことを弱く推奨した(2D)[2]。どちらも根拠の確実性は低く、外傷に限った推奨ではJCCNG2024の該当部分を本稿で確認できていない。
- JATEC:外傷初期診療ガイドライン(改訂第6版)の栄養に関する記載は未確認である。ICUでの投与量は上の栄養療法の指針で確認する。
早期栄養介入管理加算
医科診療報酬点数表(令和8年版)の特定集中治療室管理料には早期栄養介入管理加算があり、1日につき250点(入室後早期から経腸栄養を開始した場合は開始日以降400点)、入室した日から起算して7日を限度とする。通知では、入室後48時間以内に管理栄養士が栄養スクリーニング・アセスメント、栄養管理計画の作成、腸管機能評価を行い、経腸栄養の開始後は1日3回以上のモニタリングと再評価を行うこと、管理栄養士1名あたり1日10人以内とすることなどが定められている[20]。いずれも二次資料(今日の臨床サポート)で確認したもので、告示・通知の原文、施設基準の詳細、他の入院料での扱いは未確認である。
施設の体制(本稿の提案)
- 経腸栄養を待つ理由(出血、昇圧薬の増量、腸管の不連続、再開腹の予定)を記録し、毎日見直す。
- 開始量・増量の速さ・中断の基準・電解質と血糖の測定間隔を書いたプロトコルを多職種で共有する。国内指針は栄養投与プロトコルの使用を弱く推奨している(2B)[2]。
- 開腹管理中は、腹腔排液量を記録して蛋白質の補充量の見直しに使う[1][11]。
まだ分からないこと
- 外傷患者での蛋白質の最適量。外傷に限って蛋白質量を比べた大規模試験は本稿の検索では見つからず、指針の外傷向けの量は喪失量からの推論に基づく[1]。
- 早期経腸栄養の外傷での効果の大きさ。死亡の減少を示したメタ解析は3試験126例で、著者らが大規模試験での確認を求めている[4]。
- 昇圧薬を使っている外傷患者で、どの時点・どの量なら経腸栄養が安全か。ショック患者の試験は内科系が中心で[15][8]、出血性ショックの蘇生後に当てはめられるかは分からない。
- 間接熱量測定で転帰が良くなるか。メタ解析の短期死亡の減少は、定義と投与量の違いを含めて確かめる必要がある[17]。
- 国内の実態。外傷ICUでの経腸栄養の開始時期、投与量の達成度、早期栄養介入管理加算の算定状況の全国データは確認できなかった。
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文献
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- 日本集中治療医学会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024(Japanese Critical Care Nutrition Guideline 2024:JCCNG2024). 2025年9月30日. https://www.jsicm.org/publication/pdf/JSICM_SOICM_20250930.pdf(2026年9月26日閲覧).
- Kudsk KA, Croce MA, Fabian TC, et al. Enteral versus parenteral feeding. Effects on septic morbidity after blunt and penetrating abdominal trauma. Ann Surg. 1992;215(5):503-511. doi:10.1097/00000658-199205000-00013. PMID: 1616387.
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- 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 日本集中治療医学会雑誌. 2016;23(2):185-281. doi:10.3918/jsicm.23.185.
- 医科診療報酬点数表(令和8年版)A301 特定集中治療室管理料 早期栄養介入管理加算と通知. 今日の臨床サポート掲載. 掲載ページ(2026年9月26日閲覧、二次資料).
医学的内容の最終確認日・確認範囲
文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月26日)
医学的内容の最終確認日:2026年9月26日(著者確認)。文献照合日:2026年9月26日(文献検索は2026年9月25〜26日)。一般のウェブ検索は使えず、PubMed本体とNCBI E-utilitiesには接続できなかったため、PubMedの抄録はNCBIのBioC API、書誌はNCBI PubTator3の書誌出力で取得した。Crossref、OpenAlex、Semantic Scholar、Europe PMCは接続の制限でほとんど使えなかった。資料は本文を要約した形でしか読めず、推奨文と数値は短い原文の断片で照合した。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月26日に著者(医師)が確認した。
- 全文(該当箇所)を確認:[1] ESPEN 2023(ESPEN公式PDFの推奨文・等級・合意率と外傷の解説)、[11] WSES 2018(PMC本文の栄養の推奨と解説)、[2] JCCNG2024(学会公式PDFのCQ一覧と推奨文。CQ1-4などの解説の詳細は取得できず)。
- 抄録のみ確認(NCBI BioC):[3] [4] [14] [15] [8] [16] [6] [5] [7] [17] [9] [18] [10] [12] [13]。本文の数値は抄録にある範囲に限った。ASPEN 2022は本文を取得できず、推奨の強さや個別の推奨文は記載していない。
- 書誌・公式情報のみ確認:[19](J-STAGEの書誌と抄録。本文PDFは取得できず)、[20](点数表と通知の二次資料)。
- 書誌の確認:全20件の著者・誌名・年・巻頁・DOI/PMIDを、NCBI PubTator3・Europe PMC・J-STAGE・学会公式PDFの書誌で確認した([2]・[20]は公式ページ・掲載ページの確認)。
- 訂正・撤回:Crossrefの更新情報で、[9] EFFORT Proteinに正誤(Department of Error、Lancet 2023;401(10381))が登録されていることを確認したが、訂正の内容は取得できなかった(本文の数値はPubMedの抄録と一致)。[1] [8] [10] には訂正・撤回の登録はなかった。そのほかの文献は接続の制限で確認できていない。撤回の登録は見つかっていない。
- 未取得:ASPEN/SCCM 2016の外傷・開腹管理の推奨の本文、外傷の開腹管理中の経腸栄養の多施設研究(WTA、2012年)、日本版敗血症診療ガイドライン2024の栄養の推奨、JATEC改訂第6版の本文、告示・通知の原文。
更新履歴
更新履歴を開く(全3件・最新:2026年9月26日)
- 2026年9月26日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。あわせて、確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
- 2026年9月26日(改訂):原著と指針の照合にもとづき全面改訂した。開始時期(外傷の試験Kudsk 1992・Doigのメタ解析、CALORIES、NUTRIREA-2とショック中の経腸栄養の注意)、エネルギー(EDEN・TARGET・NUTRIREA-3を追加)、間接熱量測定、蛋白質(EFFORT Proteinのベイズ解析、PRECISeを追加)、腸管損傷・開腹管理中の注意(WSES 2018)、refeeding症候群、血糖、病期ごとの設計の表、根拠の比較表、「日本で実施するとき」(日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024、早期栄養介入管理加算)、文献ごとの確認範囲を加え、文献を4件から20件に増やした。ASPEN 2022の本文の数値(蛋白質の比較の統合値など)は本文を再取得できなかったため削除した。理由:開始時期・腸管損傷・refeeding・血糖・国内の指針と加算の記載がなく、外傷の根拠と一般の重症患者からの外挿の区別が不十分だったため。
- 2026年9月26日(初回公開):「重症外傷の栄養療法:いつ始め、エネルギーと蛋白質をどう設計するか」として公開(文献確認日の表記は2026年9月25日、文献4件:ESPEN 2023、ASPEN 2022、EFFORT Protein、PermiT)。早期経腸栄養の優先、PermiTによるエネルギーの設計、EFFORT Proteinによる高用量蛋白質への注意、指針の比較表を含む。
本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。


コメント
コメント一覧 (3件)
[…] 重症外傷の栄養療法 […]
[…] 本稿の解釈 高齢、気管切開、経鼻胃管のある頸髄損傷では、経口摂取を始める前に言語聴覚士の評価を依頼し、必要なら嚥下造影や内視鏡検査で確かめる。経口摂取が不十分な間の栄養は重症外傷の栄養療法の記事を参照する。 […]
[…] AKIの診断と腎代替療法の開始時期は外傷後AKIと腎代替療法:いつ疑い、いつRRTを始めるか、栄養の水分量とエネルギー設計は重症外傷の栄養療法:いつ始め、エネルギーと蛋白質をどう設計するかを参照。 […]