重症外傷では、本人に希望を聞けないまま救命処置が始まることが多い。治療目標の話し合い(goals of care)は、DNARの有無を一度確かめる手続きではなく、救命と並行して本人の価値観を知り、回復の見通しに合わせて繰り返し見直す過程である。ただし外傷患者を対象とした無作為化試験はほとんどなく、よく引用されるACPの無作為化試験は高齢の内科入院患者が対象である。本稿は国内外の指針と、外傷・ICU・内科の研究を対象と結果の違いが分かるように並べ、初療から転院までの判断に落とし込む。
医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。
まず押さえる要点
- ACP・治療目標の話し合い・DNARは別のもの。日本集中治療医学会の勧告は、DNAR指示は心停止時のみに有効で、心肺蘇生の不開始以外はICU入室を含めて通常の医療・看護について別に議論すべきだとしている[1]。DNARを確認しただけでは、治療目標を決めたことにならない。
- 外傷患者での直接の根拠は乏しい。ACPで「本人の希望が把握され尊重された」割合が介入群86%、対照群30%だった(6か月以内に死亡した56人での評価)無作為化試験は、80歳以上の内科入院患者309人の単施設研究である[2]。外傷ICUの研究は前後比較や観察研究が中心で、EAST・AASTの2019年の検討は、高齢外傷患者への定型的な緩和ケアの手順について推奨を出せなかった[3][4]。
- 家族との面談を増やせば家族の負担が減る、とは限らない。ICUの家族支援の無作為化試験は、心的外傷後ストレス症状が減った試験[5]、主要評価に有意差がなかった試験[6]、症状がむしろ多かった試験[7]に分かれる。面談の形式より、内容と進め方が問われる。
- 重症頭部外傷では、早い段階で予後を断定しない。欧州の多施設研究では、ICUで死亡した267例の86%が生命維持治療の中止後の死亡で、中止の51%は受傷72時間以内だった[8]。一方、米国の前向き研究では、重症頭部外傷で機能的転帰が良好な割合(各時点で評価できた例のうち)が受傷2週の12.4%から12か月で52.4%に増えた[9]。判断に迷うときは、期間と評価項目を決めて治療を続ける「期限を区切った治療(TLT)」が選択肢になる[10]。
- 国内の枠組みでは、チームを形成する時間のない緊急時は生命の尊重を基本に医師が判断し、その後チームで検討し直す。厚生労働省の2018年ガイドライン(解説編)と、救急・集中治療の3学会の2014年提言が、本人の意思・推定意思と医療チームによる判断の手順を示している[11][12]。
対象と扱わない範囲
対象:成人の重症外傷患者(高齢者、重症頭部外傷、ICUに入る多発外傷など)について、救急外来の初療から入院中までに行う治療目標の話し合い、DNAR、治療の差し控え・中止、期限を区切った治療(time-limited trial:TLT)。読者は外傷診療に関わる医療者を想定する。
扱わない範囲:
- 小児(代理意思決定の枠組みが成人と異なるため、本稿の対象外とする)。
- 脳死判定と臓器提供の手続き、院外心停止や救急現場での心肺蘇生を望まない傷病者への対応。
- 成年後見や身寄りのない人の手続きなど、法的判断の詳細。本稿は法的助言ではない。
- 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死。厚生労働省のガイドラインも対象としていない[13]。
- 緩和ケアにおける症状緩和の薬物療法の詳細。
1.ACP・治療目標の話し合い・DNARを区別する
厚生労働省は人生会議(ACP)を「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」と説明している[14]。一度署名して終える書類ではなく、本人の考えも病状も変わり得ることを前提にしている。
外傷診療では、受傷前のACPと、受傷後に今の病状で行う治療目標の話し合いが混ざりやすい。次の表は本稿の整理である。
| 言葉 | 主に扱う内容 | 外傷診療で混同しやすいこと |
|---|---|---|
| ACP(人生会議) | 将来に備えた価値観・希望・相談相手の共有。受傷前から始まる | 意識のない人の家族にその場で結論を求めることだけをACPと呼ぶ |
| 治療目標の話し合い(goals of care) | 今の病状で、どこを目指し何を優先するか | 手術の同意やDNARの確認だけで十分と考える |
| 共同意思決定 | 医学的な選択肢と本人の価値観をすり合わせる過程 | 医療者が推奨を示さず、選択を家族に任せきりにする |
| DNAR | 心停止時に心肺蘇生を開始しない指示 | 心停止前の治療まで一括して差し控える |
| 治療の差し控え・中止 | 新たな治療を始めない、今の治療を減らす・終える選択 | DNARと同じ意味だと考える |
| 期限を区切った治療(TLT) | 期間と評価項目を決めて生命維持治療を続け、反応を見て方針を相談する計画 | 期限を自動的な中止日と考える |
突然の受傷の前にACPがあれば、今の判断に生かせる。なかった場合も、本人の暮らし、過去の発言、信頼していた人を確かめながら、治療目標を話し合える。ただし「以前ならどう考えていたか」と「今の状態を説明されたうえでの本人の希望」は、同じとは限らない。
2.初療では、救命と情報収集を並行する
厚生労働省のガイドライン解説編は、どのような状態が人生の最終段階かは本人の状態を踏まえて医療・ケアチームが判断すべき事柄だとしたうえで、「チームを形成する時間のない緊急時には、生命の尊重を基本として、医師が医学的妥当性と適切性を基に判断するほかありませんが、その後、医療・ケアチームによって改めてそれ以後の適切な医療・ケアの検討がなされることになります」と述べている[11]。本人の意思が分からず、待つことで救命の可能性が失われる場面では、必要な処置を進めながら情報を集める。本人の明確な意思や有効な事前の指示がすでにある場合は、その内容、想定していた場面、今の病状との関係を確かめる。年齢や障害だけで治療の上限を決めるものではない。
米国外科学会(ACS)の外傷の質改善プログラム(TQIP)の緩和ケア指針(2017年10月)は、緩和ケアを終末期だけのものではなく、予後にかかわらず傷病の全経過で役立つものと位置づけている[15]。そのうえで次の時間の目安を示す。
- 指針入院時に緩和ケアの評価を始め、24時間以内に終える。内容は、主な家族・支援者と意思決定者の確認、事前指示や以前の意向の確認、損傷・年齢・併存症からの予後の見積もり、損傷の程度と機能・認知への影響の説明、心理的・情報面の支援である[15]。
- 指針重症外傷患者では、構造化した家族面談をできるだけ早く、遅くとも入院72時間以内に行い、その後も3〜5日ごとに行う。緩和ケアの手順を始める契機として、死亡・永続的な障害・予後の不確実さの見込み、「この患者が12か月以内に亡くなったら驚くか」という問い(驚かない場合に手順を始める)、フレイルの存在を挙げている[15]。
この指針は推奨の強さを格付けしておらず、文献と専門家の意見にもとづくベストプラクティスである。2026年9月25日時点でも、ACSのウェブサイトに緩和ケアの版として掲載されているのはこの2017年版である[15]。
本稿の解釈初療チーム全員が家族対応に集まる必要はない。説明の窓口を決め、救急隊や紹介元から、受傷前の日常生活動作、認知機能、重い基礎疾患、普段の暮らし、事前指示、相談していた医療者を確かめる。今すぐ決めなければならない止血手術と、経過を見ながら相談できる長期療養の問題は、時間軸を分けて伝える。抗凝固薬内服中の患者や、ダメージコントロール手術で段階的に治療する患者では、初回の説明で「次にいつ何を判断するか」を具体的に示すと、その後の話し合いにつながりやすい。
3.本人の意思を確かめるための土台
厚生労働省のガイドラインは、本人による意思決定を基本としたうえで医療・ケアを進めることを最も重要な原則とし、医療・ケアの内容は医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性をもとに慎重に判断すべきだとしている[13]。
本稿の解釈意思決定能力は、ある・ないの固定した区分ではない。痛み、せん妄、鎮静、聴覚や言語の問題を整えたうえで、その決定について理解し、比べ、意向を伝えられるかを確かめる。高齢や認知症の診断だけで、本人を話し合いから外さない。
本人の意思を確認できない場合の手順は、解説編に次のように示されている[11]。
- 家族等が本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
- 家族等が本人の意思を推定できない場合は、本人にとって何が最善かを、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更などに応じて、この過程を繰り返す。
- 家族等がいない場合や、家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
ここでいう「家族等」は、法的な意味での親族関係のみを意味せず、本人が信頼を寄せる親しい友人なども含み、複数人いることも考えられる[11]。話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとされている[11]。
家族等には「あなたなら何を選びますか」より先に、「ご本人は何を大切にしていましたか」と尋ねる。家族は本人をよく知る重要な存在だが、医学的な見通しを伝える責任まで家族に移るわけではない。なお、このガイドラインは人生の最終段階についての指針であり、どの状態が最終段階かはチームが判断する事柄とされている[11]。重症外傷であることだけを理由に「終末期」と判定する根拠にはならない。
4.「何をしますか」より先に「どこを目指しますか」
治療名だけを並べると、家族は人工呼吸器、透析、手術の意味を比べられない。わかっている損傷、治療で期待できる利益、負担、回復までの時間、まだわからないことを一組で説明する。ACSの指針も、損傷の程度と、受傷前の健康状態にもとづく転帰の幅を家族に伝えることを求めている[15]。
次の問いかけは、文献の考え方を現場で使うための会話例である。効果が検証された質問票ではない。
- 「受傷前は、どのような一日を過ごしていましたか」
- 「ご本人が特に大切にしていることは何でしょうか」
- 「長い治療や介助が必要になる場合について、話したことはありますか」
- 「今の説明を、どのように受け止めましたか」
- 「現時点ではこの治療を勧めます。理由は……です。心配な点を一緒に確認させてください」
予後は、最良の経過だけでも最悪の経過だけでも伝えない。「命が助かる可能性」と「本人が望む生活に戻れる見通し」は分けて話す。回復に幅があるときは、その幅を狭めるために必要な観察や検査と、次に説明する時期を伝える。
会話の枠組みの位置づけ
- Serious Illness Conversation Guide:Ariadne Labsが、患者にとって最も大切なことを理解し尊重するための話題を探る枠組みとして公開している[16]。これを含むプログラムを外来の進行がん患者で検証したクラスター無作為化試験(患者278人、腫瘍科の臨床医91人)では、共同主要評価(本人の目標に沿ったケア、終末期の穏やかさ)に有意差はなく、中等度以上の不安・抑うつの割合は14週時点で介入群のほうが少なかった[17]。外来の慢性疾患での検証であり、外傷の急性期にそのまま当てはまるとはいえない。
- Best Case/Worst Case-ICU:毎日の回診で、過去24時間の出来事と、回復の最良・最悪のシナリオをチームで話し合い、図にして家族との面談に使う道具である。米国の外傷センター8施設で導入を評価した研究では、外傷外科医・集中治療医・フェローら208人が研修を受け、約1,300の患者家族に届き、施設ごとの実施率は45〜100%だった[18]。これは導入の可否を評価したもので、効果の検証ではない。高齢の重症外傷患者(50歳以上、外傷ICUに3日以上)を対象に、家族が評価するコミュニケーションの質を主要評価とする段階的導入の無作為化試験が行われているが[19]、本稿の検索範囲では主要評価の結果の公表を確認できなかった。
どちらも英語圏で作られた枠組みで、日本語版の妥当性や国内の外傷診療での効果は、本稿の確認範囲では検証されていない。
5.DNARは「何もしない」ではない
日本集中治療医学会の勧告(2016年12月公表)の主な項目は次のとおりである[1]。
- 指針DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は、集中治療室入室を含めて、通常の医療・看護について別に議論すべきである。
- 指針DNAR指示と終末期医療は同義ではない。それぞれの合意形成は別個に行うべきである。
- 指針DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行い、その妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返し話し合って評価すべきである。
- 指針心肺蘇生の一部だけを行う指示(例:胸骨圧迫は行うが気管挿管はしない)である「Partial DNAR」指示は行うべきではない。
同じ学会の会員医師への調査(2017年報告)では、DNR(DNAR)指示のもとで蘇生手技以外の治療の差し控え・中止が多いこと、医師が一人で、あるいは多職種ではなく医師のみで決めることが多いことが問題として指摘された[20]。2020年に報告された再調査では、蘇生以外の医療を差し控えると答えた医師は2016年より有意に少なく、とくに勧告を読んだ回答者で少なかった。一方で、各ガイドラインの理解は十分ではなかった[21]。
したがってDNARがあっても、鎮痛、酸素投与、輸血、抗菌薬、ICU入室、心停止前の気管挿管が自動的に不適応になるわけではない。心停止前の気管挿管や昇圧薬などを行うかどうかは、DNARとは別に、治療目標の話し合いとして決めて記録する。「急変時DNAR」という書き方だけでは、心停止前の呼吸不全や出血性ショックへの方針が伝わらない。何を行い、何を行わないか、いつ見直すかを、想定される場面と結びつけて書く。
手術を受ける患者では、ACSの指針が、ACSと米国麻酔科学会(ASA)の「必ず再検討する(required reconsideration)」方針、つまり手術の前後でDNR/DNIの扱いを見直す方針を紹介している[15]。「手術中は必ず解除」「入院前の指示を機械的に適用」のどちらにも固定せず、手術・麻酔に伴う可逆的な問題、処置の目的、本人の希望を踏まえて周術期の扱いを決め、記録する。
6.治療の差し控え・中止と、期限を区切った治療
3学会の提言が示す手順
日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会の2014年の提言は、救急・集中治療における終末期を「集中治療室等で治療されている急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期」とし、次の4つの状況を挙げる[12]。
- 不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後などを含む)であると十分な時間をかけて診断された場合
- 生命が人工的な装置に依存し、生命維持に必須な複数の臓器が不可逆的機能不全となり、移植などの代替手段もない場合
- その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても近いうちに死亡することが予測される場合
- 回復不可能な疾病の末期(例:悪性腫瘍の末期)であることが、積極的治療の開始後に判明した場合
この判断とその後の対応は、主治医個人ではなく、主治医を含む複数の医師(複数科が望ましい)と看護師らからなる医療チームの総意であることが重要とされる[12]。延命措置への対応の選択肢として、①現在の治療を維持する(新たな治療は差し控える)、②現在の治療を減量する(すべて減量する、または一部を減量あるいは終了する)、③現在の治療を終了する(すべてを終了する)、④これらのいずれかを条件付きで選択する、が示されている[12]。「心停止時に心肺蘇生を行わない」は、この選択肢を実行する方法の一つとして挙げられている。ACSの指針も、生命維持治療の中止は「ケア」の中止を意味しないと明記している[15]。
期限を区切った治療(TLT)
米国胸部学会(ATS)の公式ワークショップ報告(2024年)は、文献の構造化検索、学際的な100人の関係者による修正デルファイ法、委員会の議論を経て、重症患者のTLTを「医療者と、患者または代理意思決定者が協働して立てる計画で、生命維持治療を決めた期間行い、その後の治療への反応をもとに、回復を目指すケアの継続、苦痛の緩和だけに焦点を当てたケアへの移行、または期間の延長を決めるもの」と定義した。16の必須要素を、検討・計画・支援・再評価の4段階に整理している[10]。これは合意にもとづく定義であり、報告自身が、TLTの効果についての根拠には大きな欠落があり、不十分に実施されれば意図しない害を生み得ると述べている[10]。
効果を示唆する研究は内科のICUのものである。カリフォルニア州の公立大学病院3施設の内科ICUで、進行した内科疾患により無益な治療を受けるおそれのある患者209人(介入前113人、介入後96人)を対象にした前後比較の質改善研究では、医師がTLTを標準の面談方法として使うよう研修を受けた後、ICU在室日数の中央値は8.7日から7.4日に短縮し(P=.02)、人工呼吸は85.8%から72.9%に減った(P=.02)。院内死亡率は58.4%と58.3%だった(P=.99)[22]。無作為化されておらず、外傷患者は対象ではない。
実際の記録にTLTが残ることは少ない。21病院の重症入院患者の治療目標の定型記録5,475件のうち、TLTへの言及は69件(1%)だった[23]。これは記録上の割合で、実際の話し合いの頻度とは同じではない。外傷患者だけを対象にTLTの効果を検証した研究は、本稿の検索範囲では見つからなかった。
次の表は、ATSの4段階を外傷診療の記録に置き換えた本稿の整理である。
| 決めておく項目 | 記載の例・考え方 |
|---|---|
| 治療の目的 | 可逆的な呼吸・循環不全の改善を見込む、意識の回復の兆しを待つ、など |
| 続ける治療 | 今行っている治療と、追加する介入(再手術、透析、気管切開など)をどこまで検討するか |
| 改善・悪化を判断する指標 | 治療への反応と、本人の目標に関係する指標を選ぶ。鎮静薬などの影響を除いて評価する |
| 再評価の時期 | 病態の評価に必要な期間を踏まえて決める。頭部外傷では早すぎる設定を避ける(7節) |
| 説明の担当と参加者 | 窓口を決め、家族と医療チームをつなぐ。看護師や医療ソーシャルワーカーも加える |
| 再評価後の選択肢 | 回復を目指す治療の継続、期間の延長、苦痛の緩和を中心とするケアへの移行を相談する |
期限は自動的な治療中止日ではない。ATSの定義には期間の延長が含まれている[10]。神経学的な予後のように、評価に時間がかかり、鎮静薬などの影響を除く必要がある問題を、都合のよい短い期間で決着させない。新しい情報や本人の回復があれば、計画そのものを見直す。
7.重症頭部外傷:予後の早すぎる断定を避ける
重症頭部外傷は、治療の中止の判断が死亡に強く関わる領域である。観察研究から次のことが分かっている。
- 研究結果カナダの6施設(Turgeon 2011):重症頭部外傷720例の院内死亡率は31.7%(95%CI 28.4〜35.2%)で、施設により10.8〜44.2%と差があった。死亡の70.2%(160/228)は生命維持治療の中止に伴うもので、その約半数は治療開始から3日以内だった。施設による死亡の調整オッズ比は0.61〜1.55(p<0.001)、中止の頻度のオッズ比は0.42〜2.40(p=0.001)とばらついた[24]。
- 研究結果欧州のCENTER-TBI(van Veen 2021):ICUに入った16歳以上の頭部外傷2,022例でICU死亡は13%(267例)、そのうち229例(86%)が生命維持治療の中止後の死亡だった。中止の51%は受傷72時間未満で、早期の中止は片側(OR 4.0、95%CI 1.3〜12.4)・両側(OR 5.8、95%CI 2.6〜13.1)の対光反射消失などと関連した。著者らは、予後に少しでも疑いがあれば早期の中止に慎重であるべきだと述べている[8]。
- 研究結果米国のTRACK-TBI(McCrea 2021):18のレベル1外傷センターの中等症〜重症頭部外傷484例(重症362例、年齢中央値35.5歳)で、重症例のうちGOSE 4〜8の良好な転帰の割合は、受傷2週の12.4%(36/290)から12か月で52.4%(142/271)に増えた。2週時点で植物状態だった79例のうち62例(78%)が12か月までに意識を回復した。著者らは、受傷後2週以内に予後を話し合う際、予後不良や生命維持治療の中止を示唆する早期の断定的な説明には特に慎重であるべきだとしている[9]。
- 研究結果米国TQIP(Russell 2026):2021〜2023年に生命維持治療が中止された16歳以上の41,990例のうち55%が中等症〜重症頭部外傷で、中止までの日数の中央値は頭部外傷群4日(IQR 2〜9)、非頭部外傷群6日(IQR 3〜12)だった。中止が遅れる確率は合併症の数とともに上がった。著者らは、合併症が治療目標の話し合いの実用的な契機になり得ると述べている[25]。
指針も、頭部外傷の予後予測には大きな不確実さがあることを認めている。神経集中治療学会(NCS)の2024年の指針(GRADE法、41研究)は、入院時の両側の対光反射消失(薬剤や損傷による交絡がなく正確に評価できる場合)だけを、6か月の機能的転帰または院内死亡について代理意思決定者に説明する際に「中等度に信頼できる」予測因子とした。CRASH・IMPACTの予測モデルも「中等度に信頼できる」とされ、これらを使うときも予後には「かなりの」不確実さがあると認めるべきだとしている[26]。
一方、EASTの2012年の高齢者外傷の指針は、「65歳以上でGCS 8未満の患者で、受傷72時間以内にGCSの実質的な改善が得られない場合、それ以上の積極的な治療介入を制限することを考慮すべきである」としている[27]。これは「考慮」を求める推奨で、抄録では推奨の強さを確認できなかった。TRACK-TBIの対象は若年が中心で、この推奨の対象(65歳以上)とは異なる。それでも、NCSの指針が示す予後予測の不確実さを踏まえると、72時間という区切りを自動的な判断点として使うことは勧められない、と本稿は考える。
ACSの指針は、頭部外傷ではGCS 12未満を、より詳しい緩和ケアのスクリーニングの契機とし、早期の治療制限が「自己成就的予言」になる懸念があっても、現実的な治療目標を定める客観的な話し合いは行うべきだとしている[15]。単施設の外傷ICUの研究では、24時間以降の死亡、施設・ホスピスへの退院、気管切開・胃瘻の造設を「本人の価値観に合わない可能性のある転帰」とし、50歳以下では受傷3日目のGCS 11以下が早期の緩和ケアの話し合いの対象を示す客観的な契機になると報告された(AUC 0.88、50歳超では0.77)[28]。
本稿の解釈頭部外傷では、「話し合いを始める時期」と「治療を制限する判断の時期」を分けて考えるとよい。話し合いは早く始め、本人の価値観を確かめておく。制限の判断は、鎮静や全身状態の影響を除いて再評価したうえで行い、TLTの形で期間と評価項目を家族と共有する。頸髄損傷を伴う場合の見通しは急性脊髄損傷の初期診療と集中治療も参照。
8.外傷患者の研究は何を示し、何を示していないか
この分野でよく語られる主張の多くは、外傷以外の患者の研究や専門家の合意に支えられている。外傷患者を対象とした研究を、内科やICUの試験と分けて読む。
外傷患者を対象とした研究
- 研究結果外傷ICUの前後比較(Mosenthal 2008):外傷ICUに入院した連続患者で、入院時からの家族への悲嘆支援・予後と本人の意向の評価(第1部)と、72時間以内の多職種家族面談(第2部)を通常の診療に組み込んだ。第1部は83%、第2部は69%の患者に行われ、回診での治療目標の話し合いは患者日数の4%から36%に増えた。抄録は、介入期間の死亡率(14%)、DNR(43%)、治療の中止(24%)の割合は「変わらなかった(unchanged)」と記載し(比較の統計量の記載はない)、DNRと中止は入院経過のより早い時期に行われ、死亡した患者ではICU在室日数が短くなった[3]。抄録には例数と信頼区間の記載がない。
- 研究結果EAST・AASTの系統的検討(Aziz 2019):65歳以上の外傷患者に定型的な緩和ケアの手順を行うかという問いに、観察研究9件を検討し、「推奨を出すことができない」と結論した。死亡を直接評価したのは4件のみで、退院先と長期の機能予後を評価した研究はなかった。早期の緩和ケア相談は、在院日数の短縮などの副次的な転帰と概ね関連していた(例:1研究では、入院2日目までに相談を受けた患者の外科ICU在室日数は平均6.4日で、比較群の11.8日より短かった)。文献検索は2017年8月31日までである[4]。
- 研究結果高齢の重症外傷患者の後ろ向きコホート(Hoffman 2025):米国の地域医療システムに重症外傷で入院した66歳以上の1,267入院(年齢中央値82歳)で、自然言語処理で記録を調べると、DNRなどの蘇生方針の制限、治療目標の話し合い、ホスピスの話し合い、緩和ケア相談、代理人の指定のいずれかが81%で記録されていた。これらの記録は、1年間の入院日数・在宅日数・救急受診・ICU日数の差と有意な関連がなく、その後のホスピス利用と関連した[29]。
- 研究結果外科患者全体の系統的レビュー(Lilley 2016):外科患者への緩和ケア介入の研究25件(介入22種類、8,575人)を検討し、根拠は乏しく方法上の欠陥もあると結論した[30]。
内科・ICUの無作為化試験との違い
よく引用されるDeteringらの試験は、メルボルンの大学病院1施設で、法的に判断能力のある80歳以上の内科入院患者309人を、通常のケアと、ACPの支援(目標・価値観の振り返り、将来の治療の希望の検討、代理人の指名、文書化)を加える群に割り付けた。6か月以内に死亡した56人で、希望が把握され尊重された割合は介入群25/29(86%)、対照群8/27(30%)だった(P<0.001)。死亡した患者の家族のストレス、不安、抑うつも介入群で少なかった[2]。本人が話せる時点で時間をかけてACPを行った研究であり、意識のない重症外傷患者の代理意思決定とは状況が異なる。
ICUの家族支援の無作為化試験は結果が分かれる。仏国の22のICUで死が近い患者126人の家族を対象にした試験では、事前に計画した終末期の面談と遺族向け冊子により、死亡90日後の心的外傷後ストレス症状(IES)の中央値が介入群27、対照群39(P=0.02)と低かった[5]。一方、7日間の人工呼吸を要した内科ICUの患者の家族で、緩和ケア専門家が主導する面談を2回以上行った試験では、3か月後の不安・抑うつ(HADS)に有意差がなく(介入群12.2、対照群11.4、差0.8、95%CI −0.9〜2.6)、心的外傷後ストレス症状は介入群で高かった(IES-R 介入群25.9、対照群21.3、差4.60、95%CI 0.01〜9.10)[7]。死亡リスクの高い患者1,420人の家族を対象に、ICUチームが行う多面的な家族支援を段階的に導入した試験では、6か月後のHADSに有意差はなく(介入群11.7、対照群12.0、β −0.34、95%CI −1.67〜0.99)、家族が評価するコミュニケーションの質(69.1対62.7)とICU在室日数(6.7日対7.4日)は介入群のほうが良好だった[6]。
本稿の解釈ここから言えるのは、外傷ICUで早期の構造化した話し合いは実施でき、前後比較では死亡率に変化がみられなかったと報告された、という範囲までである(例数・統計量は抄録に記載がなく、死亡率が変わらないことを示したものではない)。本人の目標に沿ったケアが増えるか、家族の心理的負担が減るかは、外傷患者では検証されていない。在院日数の短縮は、生命維持治療の中止が早まった結果でもあり得るため、それだけで患者の利益とは言えない。評価したいのは、本人の価値観が理解されたか、家族が必要な情報を得て相談できたか、治療目標が引き継がれたかであり、実施した面談の件数だけでは質を測れない。
9.意見が分かれたときと、退院後への引き継ぎ
医療者同士、家族同士、家族と医療者の見方が一致しないことがある。まず、病状の理解の違い、本人の価値観の捉え方、治療への期待、感情的な負担を分けて確かめる。厚生労働省のガイドラインは、①医療・ケアチームの中で心身の状態などにより医療・ケアの内容の決定が困難な場合、②本人と医療・ケアチームとの話し合いで妥当で適切な医療・ケアの内容について合意が得られない場合、③家族等の中で意見がまとまらない場合や、家族等と医療・ケアチームとの話し合いで合意が得られない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を別に設け、医療・ケアチーム以外の者を加えて方針の検討と助言を行うことが必要だとしている[13]。
3学会の提言は、家族が積極的な治療の継続を希望する場合、家族の意思を再確認するまでは現在の措置を維持することを原則とし、再確認しても希望が変わらないときは、医療チームが引き続き状況の理解を得る努力をするとしている[12]。結論を急がず、多職種のカンファレンスや臨床倫理の支援を使う。
本人が意思を表せるようになったら、代理で検討していた方針を本人と確かめ直す。急性期を越えた後のACPでは、次の入院への備えだけでなく、回復期のリハビリテーションや生活の目標も話し合える。転院・退院時に引き継ぐのはDNARの有無だけではない。本人が大切にしていること、説明した見通し、合意した方針、未解決の問い、相談相手、次に見直す時期を伝える。
根拠の比較表
表はスマートフォンでは横にスクロールして読む。外傷患者を対象とした研究と、ICU・内科の研究を分けて示す。数値は抄録に記載された範囲に限った。「限界と診療への意味」の列には、原著が挙げた限界と本稿の解釈が混在する(原著の記載は本文に出典とともに示した)。
外傷患者を対象とした研究
| 出典(年) | デザイン | 対象 | 介入・比較 | 主な結果 | 限界と診療への意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| Mosenthal(2008)[3] | 前向きの前後比較(観察) | 外傷ICUに入院した連続患者 | 入院時の家族への悲嘆支援と予後・意向の評価、72時間以内の多職種家族面談を組み込んだ期間と、その前の期間 | 回診での治療目標の話し合い 患者日数の4%→36%。死亡14%・DNR 43%・中止24%は「不変」と記載(統計量の記載なし)、DNRと中止が早まった。死亡例のICU在室日数が短縮 | 非無作為化。例数・信頼区間は抄録になし。在室日数の短縮は中止が早まった結果でもあり得る |
| Aziz/EAST・AAST(2019)[4] | 系統的検討(GRADE) | 65歳以上の外傷患者(観察研究9件) | 定型的な緩和ケアの手順あり対なし | 推奨を出せない。早期の緩和ケア相談は在院日数の短縮などと概ね関連 | 無作為化試験なし。死亡を評価したのは4件、機能予後・退院先は0件。検索は2017年8月まで |
| Hoffman(2025)[29] | 後ろ向きコホート(電子カルテ+メディケア請求) | 66歳以上の重症外傷1,267入院(2016〜2018年) | 緩和ケアの過程の記録が1つ以上ある対ない(自然言語処理で判定) | 記録あり81%。1年間の入院・在宅・救急受診・ICU日数と有意な関連なし。ホスピス利用と関連 | 記録の有無は話し合いの質を表さない。交絡が残る |
| Wylie(2026)[28] | 単施設後ろ向きコホート(予測モデル) | レベル1外傷センターの外傷ICUの成人。導出2,272例、検証923例 | 価値観に合わない可能性のある転帰の予測因子 | 該当転帰35.7%。50歳以下は受傷3日目のGCSのみが予測因子(AUC 0.88、GCS 11以下)。50歳超はAUC 0.77。検証での陽性的中率64.9%・陰性的中率93.0%(50歳以下) | 転帰の定義(気管切開・胃瘻など)が本人の価値観と一致するとは限らない。単施設 |
| Russell(2026)[25] | 後ろ向きコホート(TQIP) | 生命維持治療が中止された16歳以上41,990例(2021〜2023年) | 中等症〜重症頭部外傷あり対なし | 中止までの中央値 4日(IQR 2〜9)対6日(3〜12)。合併症が多いほど中止が遅れる | 中止された患者だけの解析で、中止の妥当性は評価していない |
| van Veen/CENTER-TBI(2021)[8] | 前向き多施設コホート(欧州) | ICUに入った16歳以上の頭部外傷2,022例 | 中止の時期(72時間未満対以降) | ICU死亡267例(13%)の86%が中止後。中止の51%が72時間未満。対光反射消失(OR 4.0・5.8)と関連 | 観察研究。早期中止による自己成就的予言を除けない |
| Turgeon(2011)[24] | 後ろ向き多施設コホート(カナダ6施設) | 重症頭部外傷720例(無作為抽出) | 施設間の比較 | 院内死亡31.7%(95%CI 28.4〜35.2%、施設差10.8〜44.2%)。死亡の70.2%が中止に伴い、約半数が3日以内 | 施設の方針の差が死亡率の差に関わる可能性を示す |
| McCrea/TRACK-TBI(2021)[9] | 前向き多施設コホート(米国18施設) | GCS 3〜12の頭部外傷484例(重症362例、年齢中央値35.5歳) | 受傷2週〜12か月の機能的転帰の推移 | 重症例の良好転帰(GOSE 4〜8) 12.4%(2週)→52.4%(12か月) | 若年中心で高齢者とは異なる。各時点の分母は評価できた例 |
| Fritz(2025)[18]/Stalter(2024)[19] | 段階的導入の無作為化試験の中での導入評価/試験計画 | 米国の外傷センター8施設。50歳以上で外傷ICUに3日以上の患者の家族 | Best Case/Worst Case-ICU 対 通常のケア | 医師ら208人が研修、約1,300家族に到達。施設の実施率45〜100% | 効果(家族が評価するコミュニケーションの質)の結果は未確認 |
ICU・内科の研究(対象の違いに注意)
| 出典(年) | デザイン | 対象 | 介入・比較 | 主な結果 | 限界と診療への意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| Detering(2010)[2] | 単施設無作為化試験(豪州) | 法的に判断能力のある80歳以上の内科入院患者309人、6か月追跡 | ACPの支援+通常ケア 対 通常ケア | 死亡56人で希望の把握・尊重 介入群25/29(86%)、対照群8/27(30%)、P<0.001。介入群で遺族のストレス・不安・抑うつが少ない | 外傷・救急ではない。本人が話せる時点でのACP。主要結果は死亡した56人に限った評価 |
| Bernacki(2019)[17] | クラスター無作為化試験 | 外来の進行がん患者278人、腫瘍医91人 | Serious Illness Care Program 対 通常ケア | 共同主要評価(目標に沿ったケア、穏やかさ)に有意差なし(評価64人)。14週の中等度以上の不安・抑うつは介入群で少ない | 外来の慢性疾患。急性期の代理意思決定とは異なる |
| Lautrette(2007)[5] | 多施設無作為化試験(仏国22ICU) | ICUで死が近い患者126人の家族 | 事前に計画した終末期面談+遺族向け冊子 対 通常の面談 | 死亡90日後のIES中央値 介入群27、対照群39(P=0.02)。PTSD関連症状 45%対69%(P=0.01) | 死が近いと判断された後の介入。外傷患者の割合は抄録に記載なし |
| Carson(2016)[7] | 多施設無作為化試験(内科ICU 4施設) | 7日間の人工呼吸を要した21歳以上の患者256人の代理意思決定者365人 | 緩和ケア専門家主導の面談2回以上+冊子 対 冊子+ICUチームの通常の面談 | 3か月後HADS 介入群12.2、対照群11.4(差0.8、95%CI −0.9〜2.6)。IES-R 25.9対21.3(差4.60、95%CI 0.01〜9.10) | 面談を増やしても負担は減らず、PTSD症状が増えた可能性。内科ICUの慢性重症患者 |
| White/PARTNER(2018)[6] | 段階的導入のクラスター無作為化試験(5ICU) | 死亡リスクの高い患者1,420人と代理意思決定者 | ICUの多職種チームによる家族支援 対 通常のケア | 6か月後HADS 介入群11.7、対照群12.0(β −0.34、95%CI −1.67〜0.99)。コミュニケーションの質 69.1対62.7、ICU在室6.7日対7.4日(IRR 0.90、95%CI 0.81〜1.00) | 主要評価は有意差なし。外傷患者の割合は抄録に記載なし |
| Chang(2021)[22] | 前向きの前後比較(質改善、内科ICU 3施設) | 進行した内科疾患の患者209人(113人対96人) | 研修前 対 TLTを標準とする面談の研修後 | ICU在室中央値 8.7日→7.4日(P=.02)、人工呼吸 85.8%→72.9%、院内死亡 58.4%対58.3% | 非無作為化。外傷は対象外 |
| Piscitello(2025)[23] | 後ろ向き横断研究(21病院) | 重症入院患者の治療目標の定型記録5,475件(2021〜2023年) | TLTの記録の有無 | TLTの記録 69件(1%) | 記録の頻度であり、実施の頻度や効果は分からない |
評価時点について:Deteringは6か月以内の死亡例、Lautretteは死亡90日後、Carsonは3か月、Whiteは6か月、Bernackiは14週の値である。外傷の観察研究は入院中または1年の転帰で、時点がそろっていない。家族の心理的負担の尺度(IES、IES-R、HADS)も試験ごとに異なるため、数値を直接比べない。
指針の比較表
| 指針(発行主体・年) | 対象 | 主な内容 | 推奨の強さ・根拠 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ACS TQIP 緩和ケア(2017年10月)[15] | 外傷患者 | 入院時に評価を始め24時間以内に完了。重症外傷では72時間以内に家族面談、以後3〜5日ごと。フレイル、頭部外傷のGCS 12未満などを契機とする。周術期のDNR/DNIは再検討 | 格付けなし(文献と専門家の意見) | 2026年9月時点でACSが掲載する緩和ケアの版は2017年版のまま |
| EAST・AAST(2019)[4] | 65歳以上の外傷患者 | 定型的な緩和ケアの手順について推奨を出せない | GRADE。観察研究9件 | 検索は2017年8月まで |
| EAST 高齢者外傷(2012)[27] | 65歳以上の外傷患者 | GCS 8未満で72時間以内に実質的な改善がなければ、積極的治療の制限を考慮 | 抄録では強さを確認できず | GRADE以前の指針。TRACK-TBIなど後の知見を反映していない |
| ATS ワークショップ報告(2024)[10] | 重症患者(ICU) | TLTの定義と16の必須要素(検討・計画・支援・再評価) | 修正デルファイ法による合意(推奨の格付けではない) | 効果の根拠の欠落と、不十分な実施による害の懸念を明記 |
| NCS 頭部外傷の予後予測(2024)[26] | 中等症〜重症頭部外傷の重症成人 | 入院時の両側対光反射消失と、CRASH・IMPACTモデルのみを「中等度に信頼できる」と判定 | GRADE | 「中等度」の予測因子でも予後にはかなりの不確実さがある |
| 厚生労働省(2018年3月改訂)[11][13] | 人生の最終段階の医療・ケア(疾患を問わない) | 本人の意思決定が基本。推定意思、最善の方針、話し合いの場。チームを形成する時間のない緊急時は生命の尊重を基本に医師が判断し、その後チームで検討 | 行政の指針(格付けなし) | 最終段階かどうかはチームが判断する |
| 3学会の提言(2014年11月)[12] | 救急・集中治療の急性重症患者 | 終末期の4つの状況、医療チームの総意、延命措置の選択肢①〜④、家族の意思への対応 | 学会の提言(格付けなし) | 「終末期」の判断とその後の対応は、主治医を含む複数の医師(複数科が望ましい)と看護師らからなる医療チームの総意が重要とする |
| 日本集中治療医学会 DNAR勧告(2016年12月公表)[1] | DNAR指示全般 | DNARは心停止時のみ有効。終末期医療と同義ではない。Partial DNARは行わない | 学会の勧告 | 心停止前の治療は別に話し合う |
日本で実施するとき
国内の指針の使い分け
- 厚生労働省のガイドライン(2018年改訂):疾患を問わない意思決定の手順の土台。緊急時の判断と、その後のチームでの再検討の関係を示している[11][13]。
- 3学会の提言(2014年):救急・集中治療の場で、終末期の判断、延命措置の選択肢、家族の意思への対応を具体的に示す[12]。
- 日本集中治療医学会のDNAR勧告(2016年公表):DNARの適用範囲を心停止時に限る[1]。
- JATEC:外傷初期診療ガイドライン改訂第6版がACPや治療目標の話し合いをどう扱っているかは、本文を取得できず未確認である。日本外傷学会による外傷患者のACP・治療の差し控えに関する独立した指針は、本稿の検索では見つからなかった。
国内のデータ
外傷患者に限ったDNAR・ACP・治療の差し控えの国内研究は、J-STAGEでの検索では見つからず未確認である。関連する国内の報告として、1施設の救命救急センターで2017年に救急ICUで治療された後期高齢者200例のうち、治療の差し控えは45例で行われ、差し控え群は搬入前の全身状態が不良で、30日・90日生存率が低かった[31]。外傷に限らない単施設の後ろ向き研究で、差し控えが予後を悪くしたという因果を示すものではない。日本集中治療医学会の医師会員への調査は、DNAR指示のもとで蘇生以外の治療が差し控えられる運用が問題になってきたことを示している[20][21]。
診療報酬上の扱い
2024年度(令和6年度)の診療報酬改定は、「人生の最終段階における適切な意思決定支援を推進する観点から、当該支援に係る指針の作成を要件とする」として、入院基本料等の見直しに意思決定支援の指針の作成を加えた[32]。令和6年度改定の医科点数表の入院料等の通則(通則7)にも、意思決定支援に関する基準を満たすことが入院基本料等の算定の条件として書かれている[33]。対象から除かれる入院料、経過措置、2026年度(令和8年度)改定後の要件、ICUでの家族支援に関わる加算の要件は、今回原文を確認できず未確認である。
施設体制
- DNARの欄と、心停止前の治療(挿管、昇圧薬、透析、再手術など)の方針の欄を、記録様式の上で分ける。
- 緩和ケアの評価と家族面談の目安(例:ACSの評価24時間以内・家族面談72時間以内)を施設で採用するかを決め、誰が窓口となり、誰が同席するか(看護師、医療ソーシャルワーカーなど)を決める。
- 緩和ケアチームや臨床倫理の相談を依頼する契機を文書にする。厚生労働省のガイドラインが求める「複数の専門家からなる話し合いの場」を、夜間・休日も含めてどう開くかを決めておく[13]。
- 高齢者ではフレイルの評価を話し合いの契機にする[15]。評価の方法は高齢者外傷の初期診療と回復支援を参照。
- 転院先に、DNARの有無だけでなく、本人の価値観、説明した見通し、合意した方針、次に見直す時期を伝える様式を用意する。
まだ分からないこと
- 外傷患者で、治療目標の話し合いへの介入が患者・家族にとっての転帰を改善するか。本人の目標に沿ったケアや家族の心理的負担を主要評価とした外傷患者の無作為化試験の結果は、本稿の確認範囲にない。Best Case/Worst Case-ICUの試験の結果が待たれる[19]。
- 外傷でのTLTの適切な期間と評価項目。内科ICUの前後比較はあるが[22]、外傷患者、とくに頭部外傷での検証はない。
- 重症頭部外傷の早期の中止がどれだけ死亡を増やしているか。施設差と早期中止の多さは示されているが[8][24]、自己成就的予言の大きさは観察研究では確定できない。高齢者の回復の経過も若年者とは異なり得る[9][27]。
- 指針の更新。ACS TQIPの緩和ケア指針は2017年版のままである[15]。ACSの2024年の頭部外傷の指針には予後の評価と家族への説明の節があるが、内容は今回取得できず未確認である。
- 国内の実態。外傷患者でのDNAR、治療の差し控え・中止、TLTの頻度や経過を示す国内の多施設データは確認できなかった。
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文献
- 日本集中治療医学会 倫理委員会. Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告. 日本集中治療医学会雑誌. 2017;24(2):208-209(学会ウェブサイトでの公表は2016年12月16日). doi:10.3918/jsicm.24_208. 学会公開版:https://www.jsicm.org/publication/kankoku_dnar.html(2026年9月25日閲覧).
- Detering KM, Hancock AD, Reade MC, Silvester W. The impact of advance care planning on end of life care in elderly patients: randomised controlled trial. BMJ. 2010;340:c1345. doi:10.1136/bmj.c1345. PMID: 20332506.
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医学的内容の最終確認日・確認範囲
文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月26日)
医学的内容の最終確認日:2026年9月26日(著者確認)。文献照合日:2026年9月25日(日本時間。文献検索も同日)。検索エンジンは使用できなかったため、書誌と抄録はNCBI(PubMedの抄録を返すBioC、PubTator3)、OpenAlex、Crossref、Semantic Scholar、J-STAGE、学会・行政・出版社の公式サイトで確認した。PMCと一部のサイトは、開けないか、接続できない時間帯があった。検索記録は編集部で保管している。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月26日に著者(医師)が確認した。
- 全文(公式PDF・公式ページ)を確認:[1] 日本集中治療医学会の勧告(学会ページとPDF)、[4] EAST・AASTの系統的検討(EAST公開PDF)、[11] 厚生労働省ガイドライン解説編、[12] 3学会の提言、[13] 厚生労働省ガイドライン本文、[15] ACS TQIP 緩和ケア指針(本文の該当箇所を抽出して照合)。
- 抄録のみ確認:[2] [3] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29] [30] [31]。本文中の数値は抄録にある範囲に限った。[4] の中の個別研究(Kupenskyら)の数値は、[4] の記載による。
- 公式ページ・公式資料の一部を確認:[14] 厚生労働省の人生会議のページ、[16] Ariadne Labsのページ、[32] 令和6年度診療報酬改定の個別改定項目(該当の1文)、[33] 医科点数表(入院料等の通則の該当部分)。
- 未取得:Deteringの本文(除外基準、家族の心理評価の尺度と分母)、ACSの頭部外傷指針(2024年)の予後の節と高齢者外傷指針の本文、JATEC改訂第6版の本文、Best Case/Worst Case-ICU試験の主要評価の結果、2026年度診療報酬改定の該当部分。
- 講演について:改訂前の版は、第40回日本外傷学会総会・学術集会(2026年6月11・12日)の教育講演3(EL3)「外傷診療とAdvance Care Planning」(演者:上村夏生〔新潟大学医歯学総合病院 高次救命災害治療センター〕)の提供資料を構成の出発点としていた。演題名と演者は学会の公式プログラム(https://www.congre.co.jp/jast2026/program)で確認した。本改訂では講演資料を参照しておらず、講演の図表・症例・逐語的な文章は用いていない。改訂前の版から引き継いだ節の構成と、出典を付けていない記述(会話例、「本稿の解釈」など)が講演の内容とどこまで重なるかは照合できていない。研究・指針・制度についての記述は公開文献と公式資料で照合した。演者による監修や確認は受けていない。
更新履歴
更新履歴を開く(全4件・最新:2026年9月26日)
- 2026年9月26日(表記):確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
- 2026年9月26日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。
- 2026年9月25日(改訂):原著照合にもとづき全面改訂。外傷患者を対象とした研究(外傷ICUの前後比較、EAST・AASTの系統的検討、高齢の重症外傷患者のコホート、重症頭部外傷の生命維持治療の中止と長期転帰の研究、Best Case/Worst Case-ICU)を追加し、内科・ICUの無作為化試験と対象・結果・限界を比べる「根拠の比較表」と「指針の比較表」を加えた。ACS TQIPの緩和ケア指針が2017年版のままであること、EASTの推奨、ATSのTLTの定義、神経集中治療学会の予後予測の指針、3学会の提言、診療報酬上の扱い、冒頭の要点、対象と扱わない範囲、「日本で実施するとき」「まだ分からないこと」、文献ごとの確認範囲を追加した。日本集中治療医学会の勧告の年を「2016年公表・2017年掲載」と明記した。理由:主要な根拠が高齢の内科患者の単施設試験に偏り、外傷患者での根拠、研究を比べる表、指針の版と検索範囲の記載が不足していたため。
- 2026年9月20日(初回公開):ナラティブレビューとして公開(文献7件、文献確認日2026年9月20日)。
本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。


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