胸部銃創とER開胸|Alan Lefor講義を読む

胸部銃創と救急室開胸を解説するAlan Lefor講義記事アイキャッチ

BELL’S STUDY NOTE

ひとことで言うと:穿通性胸部外傷の多くは胸腔ドレーンで足りる。心停止に至ったら、胸骨圧迫に時間を使わず、穴をふさいで血液量を戻す。ER開胸が最も効くのは、胸部の穿通性損傷で搬送中に生命徴候を失った患者である。

勉強した日:2022-09-19(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:Alan Lefor先生の講義「Gunshot Wound to the Chest」(オンデマンド配信)

日本で胸部の銃創を診る機会はほとんどない。それでも刺創を含む穿通性外傷は一定数あり、搬入された瞬間に「胸腔ドレーンで足りるのか、手術室へ行くのか、ここで開胸するのか」を決めなければならない。自治医科大学名誉教授のAlan Kawarai Leforは、米国での外傷外科の経験をもとに、胸部銃創の考え方を弾道学、穿通性心損傷、ER開胸、肺・血管損傷の4部で整理した。

本稿は、この講義の録画とスライドをもとに内容を講義の流れに沿って整理し、関連するガイドラインと文献を補って解説する。講師の主張、スライドに示された内容、本稿の補足と解釈を区別して示す。

  • 穿通性外傷
  • 銃創
  • ER開胸
  • 心損傷
  • 講義レポート

医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。

目次

まず押さえる要点

  1. 講師によれば、穿通性胸部外傷の約8割は胸腔ドレーンだけで治療でき、ただちに開胸が必要なのは約5%、待機的な開胸が10〜15%である
  2. 組織の損傷は、弾丸から組織へ移るエネルギーで決まる。運動エネルギーは速度の二乗に比例するため、拳銃とライフルでは損傷の規模がまったく違う
  3. 穿通性外傷後の心停止の原因は、出血か心タンポナーデのどちらかである。講師は、胸骨圧迫と除細動に時間を使わず、気道と換気を確保したうえで「穴をふさぎ、血液量を戻す」ことを優先すると述べた
  4. ER開胸の対象はほぼ穿通性外傷に限られる。現場ではバイタルサインがあり、搬送中に失った患者が最も救命できる。この考え方は、主要なガイドラインの適応とおおむね一致する[1][2]
  5. 外傷性心タンポナーデについて、講師は心膜開窓ではなく、手術室での胸骨正中切開と心筋の修復を勧めた
  6. 弾丸は探しに行かない。手術中に容易に見つかれば取るが、弾丸を取るためだけの手術は原則として行わない
  7. 鎖骨下動脈には左前側方開胸では届かない。講師は、解剖学的に最も制御が難しい損傷の一つとして挙げた

この記事の読み方

本稿は講義レポートであり、系統的な文献レビューではない。講義で示された数値の多くは講師の経験と教科書的な整理に基づくもので、スライドに出典が明記されていないものが多い。そのため、講義の内容は「講師によれば」「スライドでは」と明示し、本稿で原著を確認できた事項だけに文献番号を付けた。

音声は自動で書き起こしたもので、人名や数値に聞き取りの誤りがあり得る。スライドで確認できた数値を優先し、スライドと発言が食い違う箇所は両方を示した。

講義の前提は米国の外傷診療である。米国では外傷の約2割が穿通性で、銃創が日常的にある。講師の推定では、日本の外傷は約99%が鈍的で、穿通性は約1%にとどまる。適応の考え方は共通でも、経験できる症例数と院内の体制は大きく異なる。

1.日本にも穿通性外傷はある

講義は、日本で銃創を学ぶ意味から始まった。講師は、自治医科大学から穿通性外傷の症例集積を報告しており、その多くは自殺企図だったと紹介した。銃創と刺創は管理の原則がほぼ同じであり、穿通性外傷の知識は日本の医師にも必要だという。

本稿の補足として、この報告はIzawaらによるもので、3年間に入院した外傷1,321例のうち穿通性外傷は65例(5%)、原因として最も多かったのは自傷(38%)で、銃創は1例だった[3]。手術を要した外傷患者に限ると、穿通性外傷は23%を占めていた。頻度は低くても、手術に至る患者の中では無視できない割合である。

2.弾道学:損傷を決めるのは速度

銃が発射するものは、弾丸(bullet)と散弾(shot)の2種類である。弾薬は、先端の弾丸、火薬の入った薬莢、後端の雷管でできており、撃鉄が雷管を叩くと火薬が燃え、弾丸だけが飛び出す。

スライド:弾丸の速度

  • 低速:2,000 ft/秒未満
  • 高速:2,000 ft/秒超。最大で10,000 ft/秒に達するものもある
  • 拳銃弾の初速はおおむね600〜700 ft/秒から、速いもので1,400 ft/秒程度
  • ライフル弾はさらに速く、約4,000 ft/秒のものがある

講師は、運動エネルギーの式(E = 1/2 mv²)で速度の項が二乗であることを強調した。800 ft/秒と4,000 ft/秒を比べると、速度の二乗は640,000と16,000,000で、25倍の差になる。講義では、これを「ライフル弾は拳銃弾の約25倍のエネルギーを持ちうる」と説明した。

本稿の補足として、この比は速度だけを比べたもので、弾丸の質量が同じと仮定した場合の値である。実際には弾丸の質量も形状も異なり、体内で弾丸がどれだけエネルギーを失うかによって損傷は変わる。また、2,000 ft/秒は換算すると約610 m/秒、10,000 ft/秒は約3,050 m/秒にあたる。

ライフル、拳銃、散弾銃

  • 軍用ライフルの弾丸は体内で回転(tumble)し、射入口は小さく、射出口は非常に大きくなる
  • 拳銃では、弾丸の速度が損傷の程度を左右する
  • 散弾銃は数十から100個前後の小球を発射する。近距離では破壊力が大きいが、距離が離れると散弾が広がり、速度を失って損傷は軽くなり得る。X線には多数の小球が写るが、深さは命中時のエネルギーによる

弾丸は探さない

スライド:外科医は弾丸をどう扱うか

  • 手術中に容易に見つかれば摘出する
  • 弾丸を取り出すためだけの手術は、ほぼ行わない
  • 容易に見つからなければ探し回らない
  • 例外は皮下の弾丸。時間とともに表面に上がってきて痛みの原因になれば、切開して摘出することがある

講師は、探し回れば出血などのトラブルを必ず起こすと述べた。米国では、摘出した弾丸は証拠として警察に渡す。また、弾丸は高速で高温になるため無菌であり、衣服の断片を体内に持ち込むことは多いが、自身の経験では弾丸が感染の原因になることはまれだと説明した。

本稿の補足として、弾丸が発射によって無菌になるかどうかは、講師の臨床経験に基づく説明として紹介されたもので、本稿では根拠となる原著を確認していない。創の汚染は、弾丸そのものよりも、持ち込まれた衣服や皮膚の組織、消化管損傷の有無に左右される。

3.穿通性心損傷:穴をふさぎ、血液量を戻す

優先順位は、どの外傷とも同じくA(気道)、B(呼吸)、C(循環)から始まる。循環が安定していればFAST、次いで胸部X線を撮る。創の位置にはマーキングをしておく。前胸部中央の領域、いわゆるcardiac boxに創があれば、心損傷を強く疑う。

講師が繰り返したのは、穿通性心損傷後の心停止には、胸骨圧迫と除細動の役割がないという点である。原因は出血か高度の心タンポナーデであり、どちらも胸骨圧迫では解決しない。対談では、「害はないだろうが、血液が失われ心臓が空であれば、押し出すものがない」と補足した。

損傷部位と所見

  • 損傷部位は右室、左室、右房、左房、大血管。左室は筋層が厚いため出血は比較的少なく、壁の薄い右室のほうが出血しやすい
  • 心尖部から入り中隔を横切る経心臓性の銃創はまれで、ほぼ致死的である。講師自身は数例を経験したが、救命できた例はないという
  • 無症状のこともある。心タンポナーデの所見はBeckの三徴(頸静脈怒張、血圧低下、心音減弱)、奇脈、Kussmaul徴候だが、後の二つは救急室の騒がしさの中では判定が難しい
  • 診断は心エコーで行う。FASTで不確かなら経食道心エコーを使う

心膜開窓ではなく胸骨正中切開

スライドに示されたアルゴリズムでは、循環が不安定ならER開胸、安定していれば心エコーを行い、陽性なら手術室で開胸する。エコーが疑わしい場合に剣状突起下の心膜開窓を行う流れになっていたが、講師はこれに同意しないと述べた。外傷性タンポナーデでは、小さな開口から損傷を修復することはできない。まず輸液で前負荷を上げ、診断がつけば手術室で胸骨正中切開を行い、心筋と血管の損傷を修復するというのが講師の方針である。

合併症には、刺激伝導系、冠動脈、弁の損傷がある。冠動脈の損傷を疑えば、心臓外科医を呼んでバイパスを依頼し、自分では扱わないという。

本稿の補足として、心膜開窓を診断手段として使うかどうかは、施設と状況によって考え方が分かれる。講義の主張は、タンポナーデと診断がついた外傷患者を「窓」だけで治療しようとしない、という点にある。心膜切開と心縫合の具体的な手順は、当サイトの外傷性心損傷:PericardiotomyとCardiorrhaphyで扱っている。

4.ER開胸の手順

胸部への到達法には、胸骨正中切開、側方開胸、trap door切開などがある。講師が救急室で行ってきたのは左前側方開胸で、心臓と肺に素早く到達できる。

スライド:ER開胸の流れ

  • 準備:気管挿管、胃管、確実な静脈路と急速輸液、仰臥位で左上肢を挙上し広く消毒
  • 切開:第5肋間(または乳房下溝)で、胸骨から広背筋まで
  • 開胸器をかけ、開胸心マッサージを行う
  • 横隔神経を避けて心膜を切開し、再び心マッサージ
  • 下行大動脈を遮断する(用手またはクランプ)
  • 損傷部位を探して方針を決める
  • 出血を制御し、心縫合や血管修復を行う。心臓を持ち上げて後面も確認する
  • 出血源を制御し十分に輸液したうえで、直接除細動。遮断をゆっくり解除し、手術室へ移る

肺を牽引すると、心臓全体と肺門が露出する。肺や肺血管からの出血には、肺門にクランプをかけて制御できる。講師は、損傷がすぐに見つからないと時間を失うと注意した。

症例:搬送中に心停止した42歳男性

講師自身の約20年前の症例が紹介された。左胸部の単発の銃創で、救急車内では意識と自発呼吸があったが、病院到着の約5分前に心肺停止となった。到着後は胸骨圧迫も除細動も行わず、数秒で挿管して酸素化を確保し、静脈路2本から大量輸液を行いながら、ただちに左前側方のER開胸を行った。

損傷は心臓ではなく肺で、全血液量に近い血液が胸腔内にあった。出血による心停止である。肺を修復し、輸液で血液量を戻すと心拍が再開した。心停止が数分にとどまったため、神経学的な後遺症なく生存したという。講師は、脳にとっては心停止から5分が分かれ目だと述べた。

本稿の補足として、この症例は、穿通性の胸部単独損傷、現場で生命徴候があった、心停止から短時間、という条件がそろっている。ER開胸で最も成績が良いとされる患者像そのものである。日本の手技の実際は、当サイトの蘇生的開胸術:適応・器具・左前側方開胸から心膜切開・大動脈遮断までで扱っている。

5.ER開胸の適応を文献と照らす

スライド:ER開胸の適応

  • 胸部の穿通性損傷である
  • 現場でバイタルサインがあり、搬送中に失った患者が最も成績が良い
  • 鈍的外傷による心停止では、ほぼ適応にならない

講師は鈍的外傷について「絶対にないとは言わないが、ごく限られる」と述べた。この整理を、公表されたデータと照らしてみる。

Rheeらは、過去25年間に報告された24研究・4,620例のER開胸を集計した[4]。全体の生存率は7.4%で、生存者の92.4%は神経学的に正常だった。受傷機転別では穿通性8.8%、鈍的1.4%。穿通性の中では刺創16.8%、銃創4.3%だった。主な損傷部位別では胸部10.7%、腹部4.5%、多部位0.7%で、心損傷が19.4%と最も高かった。病院到着時に生命徴候があれば11.5%、なければ2.6%、現場で生命徴候がなければ1.2%だった。

ER開胸後の生存率(Rheeら、24研究・4,620例の集計)
条件生存率
全体7.4%
穿通性外傷8.8%
 刺創16.8%
 銃創4.3%
鈍的外傷1.4%
心損傷19.4%
到着時に生命徴候あり11.5%
到着時に生命徴候なし2.6%
現場で生命徴候なし1.2%
数値は抄録による[4]。

Western Trauma Association(WTA)の2012年のアルゴリズムは、病院前の心肺蘇生の時間で適応を区切っている[1]。鈍的外傷では10分未満、体幹部の穿通性外傷では15分未満、頸部や四肢の穿通性外傷では5分未満、そして治療に反応しない重度のショックである。開胸後に心静止でタンポナーデがなければ、蘇生を終了する。

Eastern Association for the Surgery of Trauma(EAST)の2015年のガイドラインは、GRADEの手法で系統的レビューを行い、脈が触れない状態で搬入された患者を、受傷機転と生命徴候の有無で分けて推奨を示した[2]。胸部の穿通性外傷で、脈は触れないが生命徴候がある患者が、ER開胸の利益が最も大きい群とされている。

本稿の解釈として、講師の「穿通性、胸部、搬送中に失った」という3条件は、これらのデータとガイドラインが示す方向と一致する。一方で、ガイドラインは鈍的外傷を一律に除外してはおらず、心肺蘇生の時間が短い場合には適応を残している。講師の表現は、救命できる可能性が現実的にある患者に絞って教えるための整理と読むのがよい。

6.経験のない外科医が心損傷を救命した:ATOMコース

Advanced Trauma Operative Management(ATOM)は、外傷外科医向けの1日コースである。午前は講義、午後は麻酔をかけた生体のブタを使い、5つの外傷シナリオを手術する。その一つが穿通性心損傷である。講師によれば、日本では2008年に始まり、国内6施設で開催されている。

講義では、日本で報告された心損傷4例が紹介された。鈍的外傷2例と心刺創2例で、いずれもATOMを受講した外科医が治療し、4例とも神経学的後遺症なく生存した。4人のうち3人は、それまで心損傷を治療した経験がなかった。

本稿の補足として、これはNagataらの症例集積で、講師も共著者である[5]。4例は別々の4施設で治療されており、うち1例は心停止で搬入され、ER開胸で右室の裂創を修復している。論文の時点で、国内の研修施設は6か所、インストラクターは50人以上、受講者は約300人とされる。著者ら自身が述べているとおり、4例の報告からコースの効果を証明することはできない。それでも、国内で心損傷を一度も経験しないまま当直に入る外科医が多いことを考えると、手を動かす訓練の意味を示す報告といえる。

講義で紹介された心損傷の修復法(ATOMの実習)

  • 損傷孔にFoleyカテーテルを挿入し、バルーンを膨らませて出血を一時的に制御する
  • 皮膚用ステープラーで仮に閉鎖する
  • プレジェットつきの縫合で修復する

講師は、受講料が高い理由として、受講者1人が動物1頭を手術すること、受講者4人に対して25〜30人のスタッフが必要であることを挙げた。指導者は全員が無報酬だという。

7.肺損傷と血管損傷:多くは胸腔ドレーンで足りる

心損傷を疑う領域の外、つまり側胸部の銃創や刺創では、ABCとFAST、安定していれば胸部X線の後、胸腔ドレーンを入れて排液量を監視する。排液量が多ければ手術、循環が不安定なら開胸である。気胸は銃創の後にはまれで、刺創の後のほうがはるかに多いという。

講師は、穿通性胸部外傷の約80%、現在はおそらく85〜90%が、手術をせず胸腔ドレーンだけで治療されていると述べた。ただし、該当するスライドの文言は「胸腔ドレーンのみで治療される患者は減った」と読めるもので、発言と向きが合っていない。本稿では発言を採ったが、どちらが正しいかは原資料で確認できていない。

血管損傷の例としては、胸部に撃たれた弾丸が大動脈の中に入り、末梢へ流れた弾丸塞栓のX線が示された。胸部の血管損傷は、解剖学的に到達と制御が難しい。講師は、その中では壁が厚く到達しやすい大動脈がむしろ扱いやすいと述べた。

胸腔ドレーンの挿入と管理は、当サイトの胸腔ドレーンの手技と緊急脱気で扱っている。

8.対談から:鎖骨下動脈、REBOA、外傷システム

鎖骨下動脈損傷は側方開胸では届かない

対談では、2022年に国内で起きた銃撃事件に関連して、鎖骨下動脈の損傷について質問があった。講師は、直接の情報は持っていないと断ったうえで、一般論として答えた。鎖骨下動脈は外科的な制御がきわめて難しく、自由に出血している場合は、仮に救急室の目の前で受傷しても、5分以内に止血して循環を戻すことはほぼ不可能だという。出血が周囲の組織に抑えられ、血液量が保たれたまま搬送された場合にだけ、救命の可能性が残る。

到達法として講師が挙げたのは、鎖骨の上を切開し、胸骨正中切開を下り、肋間へ外側に延ばして前胸壁を開くtrap door切開である。左前側方開胸では鎖骨下動脈には届かない。講師自身は、この切開を救急室で行ったことはないと述べた。

銃創と刺創、腹部の穿通性外傷

銃創と刺創の管理の原則は同じである。違いは、弾丸が体内で予測できない動きをして複数の臓器を損傷するのに対し、刃物は通常まっすぐ進む点にある。腹部の穿通性外傷は、かつては全例が開腹の対象とされたが、CTなどの評価法が進み、講師の見立てでは開腹に至るのは50〜60%程度になった。

REBOAは胸部には使いにくい

REBOAについて、講師は自身に使用経験はないと断ったうえで、主に腹部の大出血で役立つと考えると述べた。バルーンは大動脈を横隔膜の高さで閉塞するため、それより上にある胸部の損傷にはおそらく役立たない。腹部でも全例ではなく、適応は今後の整理が必要だという。REBOAの適応と手技は、当サイトのREBOAの手技とREBOAのエビデンスヒストリーで扱っている。

日本に足りないのは外傷システム

日本の外傷診療の最大の問題として、講師は外傷システムがないことを挙げた。患者が十分な治療のできない病院へ運ばれたり、手術室が空くのを待たされたりする。米国のレベル1外傷センターでは、24時間いつでもすぐに使える手術室が要件になっている。日本でも、重症外傷が専用の施設へ自動的に搬送される体制を作ってほしいと訴えた。

本稿の解釈として、これはER開胸の適応と表裏の関係にある。講師が示した症例は、開胸の後に手術室へ電話一本で直行できる体制があって初めて成り立つ。手技を覚えることと、その先の手術室、輸血、人員を用意しておくことは、切り離せない。

まとめ 手技より先に、誰に行い、次にどこへ運ぶかを決めておく

講義の筋は単純である。穿通性の胸部外傷はABCから始め、安定していればFASTと胸部X線、不安定なら開胸する。多くは胸腔ドレーンで足り、開胸が必要な患者は一部にすぎない。心停止に至った患者では、胸骨圧迫に時間を使わず、出血を止めて血液量を戻す。その手段がER開胸であり、最も救命できるのは、胸部の穿通性損傷で、搬送中に生命徴候を失った患者である。

日本では、この場面に出会う頻度が低い。だからこそ、適応を事前に決め、器具の場所を知り、開胸の後に患者をどこへ運ぶかをチームで確認しておく必要がある。講義で紹介された4例の心損傷は、経験のない外科医でも、訓練と準備があれば救命できることを示している。一方で、鎖骨下動脈損傷のように、どれだけ準備しても救命が難しい損傷があることも、講師は率直に語った。できることとできないことの線引きを知っておくことも、準備の一部である。

自分用メモ

(ここに自施設の開胸セットの場所、ER開胸の院内基準、開胸後の搬送先と連絡手順などを書く)

あわせて読みたい

参考文献

  1. Burlew CC, Moore EE, Moore FA, et al. Western Trauma Association critical decisions in trauma: resuscitative thoracotomy. J Trauma Acute Care Surg. 2012;73(6):1359–1363. doi:10.1097/TA.0b013e318270d2df.
  2. Seamon MJ, Haut ER, Van Arendonk K, et al. An evidence-based approach to patient selection for emergency department thoracotomy: a practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma. J Trauma Acute Care Surg. 2015;79(1):159–173. doi:10.1097/TA.0000000000000648. PubMed
  3. Izawa Y, Suzukawa M, Lefor AK. Self-inflicted injuries are an important cause of penetrating traumatic injuries in Japan.(掲載誌・巻号は本稿で未確認。PubMed)
  4. Rhee PM, Acosta J, Bridgeman A, Wang D, Jordan M, Rich N. Survival after emergency department thoracotomy: review of published data from the past 25 years. J Am Coll Surg. 2000;190(3):288–298.
  5. Nagata T, Akahoshi T, Sugino M, et al. The importance of simulation education for the management of traumatic cardiac injuries: a case series. Surg Case Rep. 2019;5:202. doi:10.1186/s40792-019-0762-y. PMC

文献確認の範囲

講義の内容は、録画の音声の自動書き起こしとスライドの画像から再構成した。スライドで確認できるものはスライドを優先し、発言とスライドが食い違う箇所(胸腔ドレーンのみで治療される患者の割合)は本文で両方を示した。

参考文献は、書誌情報と著者抄録で確認した。文献3は抄録の内容(1,321例中65例、自傷38%、銃創1例、手術例の23%)を確認したが、掲載誌と巻号は確認できていない。文献1、2、4の数値は抄録と公開されている要約によるもので、本文の推奨の細部までは確認していない。

次の項目は本稿で原著を確認できず、講義とスライドの記載にとどめた:穿通性胸部外傷で胸腔ドレーンのみ・緊急開胸・待機的開胸となる割合、米国と日本の穿通性外傷の割合、弾丸の速度区分と各銃器の初速、弾丸が無菌であるという説明、腹部穿通性外傷で開腹に至る割合、ATOMコースの受講者数(講義では250人以上、文献5では約300人)と国内導入の経緯。対談で触れられた国内の事件については、講師自身が直接の情報を持たないと述べているため、個別の経過は記載していない。

このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモを兼ねた講義レポートです。講師の見解と本稿の解釈を区別して記載しましたが、講義内容の正確な記録が必要な場合は、配信元の公式資料を参照してください。実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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