SIRET2025 第11回救急・外傷IVR症例検討会:急性上腸間膜動脈(SMA)閉塞症に対する血栓吸引術の実際とIndigo導入の経緯

急性上腸間膜動脈閉塞症に対する吸引血栓除去術の症例検討記事アイキャッチ

BELL’S STUDY NOTE

ひとことで言うと:急性SMA閉塞症では、コントロール不良のショックや広範な腸管壊死がない限り、IVRによる血行再建を先行させてよいというのが演者の考え(私見と明言)。発症からの時間だけで適応外とするのはもったいないとした。

勉強した日:2025-03-01(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会

医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。

目次

要点

  1. 急性SMA閉塞症では、コントロール不良のショックや広範な腸管壊死がない限り、IVRによる血行再建を先行させてよいというのが演者の考え(私見と明言)。発症からの時間だけで適応外とするのはもったいないとした。
  2. 帝京大学の17例では、中枢閉塞・長時間経過・乳酸高値・腸管壁造影不良など従来は予後不良とされる因子があっても、完全再開通16/17(94%)、腸管切除は6/17(35%)にとどまり、65%は切除を回避できた。
  3. ウロキナーゼ供給停止により術中の遠位塞栓を溶かす手段が失われたため、8Frバルーン付きガイディングカテーテルで近位を遮断したうえで6Fr大口径カテーテルから吸引する同軸システムを用いている。
  4. 血管が開通しても腸管壁の造影効果と静脈還流が得られなければ腸管切除が必要になる。最終造影では血管だけでなく腸管の染まりと静脈相、側副路(IMAからの回り込み)まで評価する。
  5. 手技にこだわって手術のタイミングを逸しないこと。全身管理を統括する「コンダクター」と、こだわりすぎないゴール設定が必要。
  6. Indigoシステムは2023年4月に薬事承認、同年9月に保険収載され、500例の使用成績調査が終了、学会主導の1000例全例登録レジストリへ移行している。

開会と追悼の辞

今回のテーマは「SMA領域の救急・外傷疾患のIVR」。ウロキナーゼが使えなくなったこと、脳血管領域で使われてきた機械的血栓吸引デバイスが普及してきたことが選定理由として述べられた。

近藤先生が、昨年度に逝去された古川顕先生(JSER副理事長を長年務めた救急放射線の指導者)の経歴と思い出を紹介した。急性腹症診療ガイドライン2015の作成で、古川先生が「イレウス」と「腸閉塞」を別のものとして定義し直すことを強く主張し、それが現在は浸透してきたことが語られた。

講義:急性SMA血栓閉塞症に対する血栓吸引術の実際(山本先生)

提示データと症例の多くは、演者が在籍していた時期の帝京大学医学部附属病院のもの。COIなし。

IVRの位置づけと治療戦略

SMA閉塞症の致死率は依然高いが、適切な治療で改善しうる。IVRによる血行再建が手術に勝るとする報告もあるが、重症度の違いや選択・出版バイアスに注意が必要とした。

塞栓症と血栓症の鑑別は治療前に厳密である必要はないが、心房細動や他部位の同時塞栓があれば塞栓症らしい。好発部位はスライドによると、塞栓症はSMA起始部15%・中結腸動脈レベル40%・末梢枝45%、血栓症はSMA起始部80%・中結腸動脈レベル15%・末梢枝5%。

IVRの利点は、全身麻酔が不要で動線がよければ速やかに開始できること、難易度がそれほど高くなく1〜2時間で終えられること、開腹を避けられる可能性があること。欠点は、臨床的意義の乏しい血栓に夢中になること、手技に固執して手術のタイミングを逸すること。

集学的治療が必要で、救急・集中治療医はバイタルと血液ガスの管理、治療に耐えられるかの判断、ヘパリン化・抗凝固を担い、IVR医は適応・手段(吸引かステントか)・どこまでやるかを、外科医は開腹の時期、切除範囲、閉腹かセカンドルックかを判断する。最適な場はハイブリッドER(HERS)だが、各施設でできることを考える必要がある。

腸管壊死の判断

従来は腸管壊死のサインや腹膜炎の有無で血行再建か開腹かを分け、ゴールデンタイム(10時間前後、閉塞部位により異なるとする報告あり)も参考にされてきた。中枢閉塞ほど予後が悪いという報告は多い。

血清学的に不可逆性を確定できる指標はない。乳酸は発症早期には正常のことがあり、白血球は非特異的、Dダイマーは血栓の存在は示しても壊死は分からない。CT所見も読影者間で差があり、造影不良イコール壊死とは限らない。

IVR学会誌の総説(Jpn J Intervent Radiol 37, 2023)の図を引用し、粘膜壊死の段階では固有筋層が保たれ壁が厚く可逆的、筋層まで壊死すると腸管が拡張し壁が菲薄化して不可逆的と説明した。こうした所見が腸管全体に及ぶ場合は開腹優先となる。

帝京大学17例の成績

穿刺までの時間は中央値8.5時間、乳酸は中央値3.3 mmol/L。治療は血栓吸引のみ13例、血栓溶解併用4例。手技時間は30〜181分(中央値92分)。完全再開通16/17(94%)、腸管切除6/17(35%)。合併症はスライド上、SMA解離1例と腸間膜血腫1例で、後者は28日以内に死亡したが血腫が死因ではないと説明された。

全部は救えなくても切除範囲を減らすことに意義がある(短腸症候群の回避)。回盲部が残るかどうかで短腸症候群の起こりやすさが変わるため、回結腸動脈は頑張って再開通させる価値があるとした。

デバイスとシステム

遠位塞栓対策として、8Frシース、8Frバルーン付きガイディングカテーテル(OPTIMO)、6Frガイディングカテーテル(FUBUKI)、4Frインナーカテーテルの同軸システムを使用。バルーンで順行性血流を遮断すると、破砕された小血栓が末梢へ飛びにくくなり、吸引効率の上昇、遠位塞栓の減少、再灌流までのセッション数と時間の短縮が脳血管領域で報告されている。

吸引効率は内腔断面積に比例し、4.2Frと6Frでは約2.7倍の差がある。大きすぎると合併症が増えるため6Fr程度が適当。IndigoならCAT6が相当し、OPTIMOにも適合する。CAT3は細い分枝に使えるが吸引力は劣る。

同軸システムの利点は、頻回の出し入れの時間短縮と合併症減少、SMA外(下肢)への血栓飛散の予防、8Frが閉塞したときに備えたシースの確保。

帝京大学でのシステム例:シース8〜9Fr 25cm、OPTIMO 8Fr 90cm、FUBUKI 6Fr 110cm、シェファードフック型カテーテル4Fr、コブラ型カテーテル4Fr、Radifocusガイドワイヤー0.035インチ、バックロックシリンジ20cc。Indigoがない施設ではバックロックシリンジで吸引する。通常のシリンジで引いて「ブブブ」と中途半端に引ける感触があれば血栓に近いので、そこでバックロックシリンジに替えて陰圧をかける。

手技の実際

  • シェファードフック型カテーテルで造影し、ワイヤーを適宜回しながら血栓を通過させる。押すだけだとカテーテルがたわんで跳ねるので、テンションがかかったら引き戻して方向を変える。急性閉塞ならワイヤーが通過できないことはほぼない。
  • ワイヤーを残し、4Frコブラ、FUBUKI、OPTIMOの順に追従させる。太いほど進みにくいので、ワイヤーや内側のカテーテルを先進させて芯にし、慎重に進める。
  • バルーン閉塞下に吸引し、各分枝を順に吸う。細すぎる枝に入れすぎると合併症が増える。
  • 造影のタイミングは「引けなくなったら」。バルーン閉塞のまま軽く造影し、良さそうなら解除して造影する。
  • 回盲部への枝(回結腸動脈)を目標に、術前CTの立体画像で閉塞部の走行をイメージしてからワイヤー操作を行う。

提示症例

  • 81歳女性、SMA近位閉塞、穿刺まで8時間。完全再開通、腸管造影と静脈還流良好、手技時間90分、腸管切除なし。
  • 91歳男性、近位閉塞、16.5時間。手技時間95分。中結腸動脈の描出は不良だったがIMA造影で側副血流を確認し、腸管切除なし。
  • 87歳男性、SMA中間部閉塞、8.5時間。手技時間130分、血管は完全再開通したが腸管造影効果と静脈還流がなく、回腸から横行結腸を切除。
  • 起始部が急峻で石灰化のある例:通常のワイヤーでは追従せず、カテーテルを奥まで入れてから硬めのワイヤーに交換して追従させた。対策は、硬いワイヤーへの交換、マイクロシステムを先進させて硬いワイヤーに交換、アングル形状のガイディングシース、上肢アプローチ。上肢からは血栓の飛散が脳梗塞につながる点に注意。総説の図を引き、わざと大弯側に向けてねじるように進める方法も紹介。
  • バイパス術後例:左外腸骨動脈からのバイパスを経由してSMAへ到達。カテーテルがかかりにくく、人工血管がたわむため支持性の確保が難しかった。
  • OPTIMOが血栓で詰まった場合:抜去時に血栓飛散のリスクがあるため、陰圧をかけたまま抜去し、大腿動脈を用手圧迫する。腎動脈や下腸間膜動脈へカテーテルを入れて保護することも検討。
  • 反省症例(小倉記念病院):吸引を繰り返しても改善せず、狭窄が残存。心房細動がなく血栓症の要素が強いと考えステントを留置した。
  • Indigo症例(小倉記念病院初):盲腸癌術後の患者のSMA閉塞。同じ同軸システムでIndigoを用い約1時間で終了。開腹時にICG蛍光でスキップ状の灌流不良を認めたが、30〜40分ほど温めて待つと改善し腸管切除なし。翌日に脳底動脈閉塞を起こして血栓回収が行われ、約1週間後のCTでSMA再閉塞(無症状)。振り返ると術前CTで左房内血栓が写っており、動脈相では気づきにくく平衡相で明瞭だった。

質疑・討論

  • 循環器内科の医師:ステントを置くと抗血小板薬2剤併用が必要になり、その後の開腹がやりにくくなるので吸引で済ませる方針に賛同。IVUSやOCTで血栓かプラークか石灰化かを評価すれば、ステントが必要な病変の判断の助けになる。
  • 脳神経外科の医師:吸引だけの限界を質問。演者は、経験例では吸引で足りているが、難しい場合はステントリトリーバー併用の報告もあると回答。
  • ステントリトリーバーをSMA領域で使用している施設(倫理委員会を通した臨床研究として実施)からは、新鮮で柔らかく石灰化のない血栓には有効だが、1回では取りきれず分枝に弱い、成績は吸引とほぼ同等という印象が述べられた。別の医師は、ステントリトリーバーは血管内皮損傷を伴い、腹部での使用は保険適用外である点に慎重であるべきと指摘。
  • 承認審査に関わった医師:ステントリトリーバーの腹部適応は企業任せでは進まない。学会主導でニーズを上げ、臨床研究の結果を成功例だけでなく全例で、信頼性の担保されたデータとして報告することが承認につながる。
  • 別の医師:方法はほぼ同じだがバルーンは使っていない。術前CTでSMAに石灰化や狭窄が疑われる場合は、ワイヤーを通したまま吸引できるデバイスを用いる。

ミニレクチャー1:適正使用指針とIndigo国内導入の経緯(田島先生、録画は途中まで)

急性SMA閉塞症のIVRは血栓溶解剤の局所動注から始まった。1990年の日本医科大学の第1例は、発症4時間後にウロキナーゼ60万単位を60分で動注し造影上改善、さらに2万単位/時を9時間持続動注したが、翌日下血のため開腹し、盲腸部の浮腫と粘膜下血腫に対し回盲部切除となった。

その後、パルススプレーなど特殊デバイスによる局所血栓溶解の時代が続いた。埼玉医科大学の症例では、6Frガイディングと4Frファウンテンでウロキナーゼ6万単位を4回(保険上の上限24万単位)注入したが血栓が残存し、他の吸引カテーテルでは引けず、最終的にFUBUKI 6Frで多量の白色血栓を吸引できた。

大口径カテーテルによる血栓除去は専用デバイスがなくパワー不足で、血栓溶解療法の併用を前提とした、いわば名人芸の治療だった。ウロキナーゼは2022年に供給停止となり、t-PAの保険適用は脳・冠動脈・肺動脈に限られるため各領域で困る状況となった。

これに対し関連学会が2022年8月に厚生労働省へ要望書を提出、同年12月に関連協議会を設立し、2023年4月にIndigoシステムが薬事承認、9月に保険収載された(それまでは評価療養制度で使用)。2024年11月30日に約130施設・500例の市販後調査が終了し、現在は学会主導の1000例全例登録レジストリに入っており、すでに250例程度が登録されている。録画はここで終了している。

学び・実践へのポイント

  • 時間経過、乳酸値、CTでの腸管壁造影不良だけで血行再建を諦めない。ただしコントロール不良のショックや広範な壊死所見(腸管拡張と壁の菲薄化が全体に及ぶ)では開腹を優先する。
  • 最終造影は血管の開通だけで終わらせず、腸管壁の造影効果、静脈還流、IMAなどからの側副路を確認し、所見が乏しければ開腹の根拠とする。
  • 血栓溶解薬が使えない現状では、バルーンによる近位遮断と大口径吸引の同軸システムで遠位塞栓を減らす工夫が有用。
  • 吸引しても改善しない場合は血栓症による狭窄を考え、ステント留置へ切り替える。術前CTでSMA起始部の石灰化や狭窄を確認しておく。
  • 開腹時はICG蛍光で灌流を評価し、灌流不良がスキップ状のときは温めて時間をおいて再評価することで切除を回避できる場合がある。
  • 術前・術後のCTは塞栓源(左房内血栓など)や他部位の塞栓まで含めて読影する。動脈相だけでなく平衡相も確認する。
  • 手技にこだわりすぎず、全身管理の統括者を置いて外科・救急と状況を共有しながら進める。

自分用メモ

(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)

確認の範囲

このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。

このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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