BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:ネキソブリッドは出血が少なく低侵襲で、壊死組織を選択的に除去でき、真皮成分を残せれば植皮の回数・面積を減らせる。1回15%TBSA、2回で計30%TBSAまで処置可能。鎮痛・鎮静下ならベッドサイドでも実施できる。
勉強した日:2024-01-24(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- ネキソブリッドは出血が少なく低侵襲で、壊死組織を選択的に除去でき、真皮成分を残せれば植皮の回数・面積を減らせる。1回15%TBSA、2回で計30%TBSAまで処置可能。鎮痛・鎮静下ならベッドサイドでも実施できる。
- 治験成績(完全除去およそ9割、ほぼ1日で除去)と実臨床には差がある。治験には焦げたようなIII度熱傷がほぼ入っておらず、受傷後84時間以内という早期に使用していたことが主な理由と考えられる。
- 成否を分けるのは、酵素が働く環境づくり。表皮(ケラチン)や乾燥した痂皮の完全除去、十分なpre-soaking(受傷から日数が経った創は前日夕方から一晩)、薬剤を創面に留める工夫(ワセリンの土手と閉鎖性被覆)が要点。
- 銀・ヨード含有の薬剤や被覆材は酵素反応を阻害しうるため、ネキソブリッドを使う部位では避ける。ヨード含有ドレープ(イソジンドレープ)も使わないほうがよい。
- 除去直後とpost-soaking後に必ず写真を撮り、経時的に比べてpseudoeschar(偽痂皮)を見分ける。pseudoescharは浅い創(SDB〜DDB)にできやすく、原則切除せず自然剥離を待つ。
- 最もよい適応はDDB。平面でワセリンの土手を作りやすい四肢・体幹前面はうまくいきやすく、腰背部など体重がかかり薬剤が流れる部位は難しい。
臨床的メリットと治験成績
スライドでは臨床的メリットとして、出血が少なく低侵襲、壊死組織選択的なデブリードマン、それによる植皮回数の減少(不必要な植皮がなくなる)、15%TBSA/1回・1日で30%TBSAまで、必ずしも手術室で施行する必要はない(鎮痛・鎮静は必要)が挙げられた。
第III相試験のまとめ(スライド)では、国内試験(KMW-1-02)で壊死組織が完全除去された被験者88.6%、対象創ごとの除去面積割合97.1%、完全除去までの期間1.0日、除去による出血量155.7mL、自家移植実施割合(III度を除く)52.0%。米国試験(MW2010-03-02)では本剤群の完全除去93.33%、完全除去までの期間は本剤群1.02日に対し標準治療群3.83日、出血量は本剤群14.17mLに対し標準治療群814.51mL、自家移植実施割合は19.0%対32.4%であった。
講師自身も国内第III相試験に参加し、問題なくデブリードマン、植皮、上皮化が得られたが、治験の対象は広範囲重症熱傷ではなく比較的小さめの熱傷が多かったと述べた。
治験と実臨床の差、Spanish Consensus 2023
実臨床で「これほどは取れない」と感じる原因として、治験には炭化したようなIII度熱傷が入っていないこと、治験プロトコールが受傷後84時間以内の使用であったことの2点を挙げた。かなり深い熱傷は別のやり方を考える必要があり、早期に使えない場合はpre-soakingの時間を長くしなければならない。湿潤した痂皮になっていないと酵素は効かない。
2023年のSpanish Consensus(スライド)の要点として、ケラチンが残っていると効かないこと、最低2時間のpre-soakingが必要なこと、酵素的デブリードマンは受傷5日目までに行うこと、遅れて使用する場合は表層の機械的除去など十分な創の準備と湿潤ドレッシングが必要なこと、消毒薬系の溶液が望ましいこと、汚染・感染創は推奨されないこと、凝固異常は使用前に補正することが紹介された。講師はこのコンセンサスが陥りやすいピットフォールをよく押さえていると評価した。
使用手順と工夫
使用当日のスケジュール(スライド)は、洗浄(水疱の除去)、浸漬2時間以上、ネキソブリッド塗布4時間、舌圧子で除去、浸漬2時間、有効性評価の順。疼痛管理は塗布開始前と被覆材除去前に開始する。当日浸漬なら9時開始で評価が17時30分、前日(日勤終わり16時)または日勤前(7時)から浸漬する場合は9時塗布、13時除去、15時30分評価となる。講師の施設では全例、前日夕方からpre-soakingを始めて翌日に塗布している。
塗布前の注意:銀やヨウ素を含む薬剤・被覆材は確実に除去する。できれば使わないほうがよく、講師の施設では使っていない。III度熱傷では炭化した表皮を擦り取る。表皮が残ると薬剤が浸透せずデブリードマンできない。火炎やアークによる熱傷では表皮部分が乾いたように見えることがあり、そこも十分に擦り取る。本当に炭化した熱傷は、先に表層だけ通常の方法で落としておくほうがよいという意見も多い。
pre-soakingの時間(スライド):受傷6時間以内の新鮮で清潔な熱傷は、生食や消毒薬で洗浄して湿潤させ、鎮痛下であれば直ちに塗布してよいという考えもある。汚染創や前処置された創は最低2時間の浸漬が必要。受傷3日未満は洗浄に最低2時間、それでも汚染が残れば12時間の洗浄サイクルを追加。7日を超える創は最低2時間に加え、清潔に見えるまで12時間の洗浄サイクルを追加する。塗布直前に生食を創面に振りかけて湿らせる。講師の施設では包帯の上から点滴ラインで夜間に生食または消毒薬を滴下して浸漬していた。
塗布・閉鎖:熱傷創の周囲にワセリンで土手を作る(創縁から2〜3cm外側、高さ3〜10mm、幅3〜10mm程度)。ワセリンが壊死組織に付かないようにする。平面でない部位ではワセリンを事前に冷蔵庫で冷やして固めにしておく、カテーテルチップに入れて冷やしておき絞り出すのもよい(冷やしすぎると扱いにくい)。閉鎖性被覆材(3M Steri-Drapeなど)で覆い、その上を柔らかい厚めの被覆材か包帯で緩めに固定する。薬剤が創面に留まることが重要で、流れてしまうと効かない。
除去:舌圧子で擦り取り、滅菌乾燥ガーゼやスポンジで念入りに拭く。創面がピンク色で点状出血が見える真皮・皮下組織、正常に近い層が出るまで十分に擦り取る。ここで必ず写真を撮る。
post-soaking:主に創感染に関する有害事象を防ぐ目的で、できるだけ消毒薬で行う。講師の施設は0.05%クロルヘキシジンを使用。post-soaking後にも写真を撮る。
植皮の時期:欧州コンセンサスでは処置後少なくとも2日空けての植皮が推奨されているが、添付文書には時期の規定はなく、薬剤がきちんと除去されていれば早期から可能という意見も多い。開発者のRosenberg先生は、きちんと取れていれば直後に植皮してよいという意見。講師も当日植皮でおそらく問題ないと考えている。欧州コンセンサスでは植皮までの被覆に同種皮膚が勧められているが日本では難しく、植皮までの被覆をどうするか、早めに植皮するかは今後の課題。
コンパートメント症候群とpseudoeschar
イスラエルの症例として、burn induced compartment syndromeで内圧が75あった上肢に使用し、壊死組織が除去されて内圧が下がり(20〜25程度と発言、聞き取り不確か)、減張切開をせずに済んだ例が紹介された。受傷早期で表皮がきちんと落ちていればpre-soakingは短くて済み、減張切開の回避に使える可能性がある。
pseudoescharは、処置後に一時的に創面に付着する層で、薬剤の残渣と創部からの滲出液タンパクが混じってできるとされる(Hirche Cらの欧州コンセンサス、Burns 2017)。市販後に「うっ血帯(zone of stasis)の壊死ではないか」という意見も出たが、滲出液による付着物と理解するのがよいと講師は述べた。治癒過程の一部で自然に脱落するため切除は不要。浅い創(SDB〜DDB)にできやすい。ヨードや銀との反応でも生じうる。剥離後はステロイド軟膏が有効とされる。
手背の症例では、除去直後に指背・手背は細かい点状出血(DDB相当)、手関節部は大粒の出血(より深い)であった。post-soaking後に手背にはpseudoescharができ、2週間後に上皮化した。pseudoescharができなかった手関節部は深く、結局植皮を要した。一方、pseudoescharが付いたままその上に植皮すると生着しないため、植皮する場合はその部分を除去する必要がある。
治療戦略と自験例(手掌III度熱傷、RECELL併用)
治療戦略(スライド):深達性II度・III度混在の10%TBSAでは、深度の見極めを待たずに早期からデブリードマンでき、DDBでは植皮を回避できる可能性がある。III度50%TBSAでは、全身管理中の超早期から本剤によるデブリードマン(15%を2回)を行い、追加の外科的デブリードマンと植皮につなげる。出血が少なく全身管理への影響が小さいことが広範囲熱傷での大きなメリット。講師は、II度(DDB)中心の混在熱傷での低侵襲治療が初期の成功例になりやすいと考えている。
自験例は28歳男性、右手掌の接触熱傷(大部分がIII度、一部DDB)。知覚消失、pinprickで疼痛なし、ビデオスコープで創中央は血流なし。手掌皮膚の特殊性を温存するため、酵素的デブリードマンで健常組織を最大限残し、小指球から採皮してRECELLの懸濁液を作成する方針とした。動画では、前日16時からpre-soaking(熱傷創を十分に洗浄後、0.05%クロルヘキシジン100ccで浸漬)、翌日9時に神経ブロック(手関節ブロック)下で塗布、冷やしておいたワセリンで創周囲に厚めの土手を作りフィルム材で密閉、13時に除去してpost-soaking(0.05%クロルヘキシジンを浸したガーゼで2時間)、15時終了。post-soaking後は点状出血良好で、フィブラストスプレー、白色ワセリン、トレックスで被覆し挙上。採皮部が浸軟すると採皮しにくいため翌日は銀を含まない被覆材(メピレックスボーダー)に変更し、2日後にRECELLを実施した。4か月後、植皮なしで良好な結果が得られた(J Wound Care 2023に報告とスライドに記載)。
学び・実践へのポイント
- 治験の成績は「受傷後84時間以内」「炭化創を含まない」条件のもの。受傷から日数が経った創や深い創では、同じやり方では取れないと考えて準備する。
- 受傷後数日以上経過した創では、前日夕方から一晩のpre-soakingを基本とする。浸漬液は生食または消毒薬(講師は0.05%クロルヘキシジン)。周囲皮膚が白っぽく浸軟する程度を目安にする。
- 塗布前に表皮・乾燥痂皮を徹底的に擦り取る。炭化創は表層を先に落とす。
- 銀・ヨード含有の外用薬、被覆材、ドレープは塗布部位で使わない。院内にヨード非含有の大判フィルムがあるか事前に確認しておく。
- ワセリンは冷やして土手を作り、閉鎖性被覆と緩めの固定で薬剤を創面に留める。体重がかかる腰背部や体位保持が難しい部位、暴れる小児では薬剤が流れて失敗しやすい。
- 除去直後とpost-soaking後に必ず写真を撮る。点状出血の細かさで深度を推定し、後からpseudoescharかどうかを判定する材料にする。pseudoescharは切除せず自然剥離を待つが、植皮する場合はその部分を除去する。
- 最もよい適応はDDB。SDBは処置後に赤黒い内出血様になる。III度が主体なら追加の外科的デブリードマンや2回施行を見込む。
- post-soakingは薬剤除去と感染予防が目的で2時間でよく、長時間の延長は不要。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
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確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


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