BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:純粋な低栄養による心血管合併症(洞性徐脈、低血圧、左室径・心筋重量の減少、心嚢水、僧帽弁逸脱、QT延長)は栄養状態の改善とともに可逆的。Refeeding期はインスリン分泌を起点に低P・低K・低Mg、ビタミンB1欠乏、Na貯留と血管透過性亢進による浮腫が起こる。
勉強した日:2023-06-23(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- 純粋な低栄養による心血管合併症(洞性徐脈、低血圧、左室径・心筋重量の減少、心嚢水、僧帽弁逸脱、QT延長)は栄養状態の改善とともに可逆的。Refeeding期はインスリン分泌を起点に低P・低K・低Mg、ビタミンB1欠乏、Na貯留と血管透過性亢進による浮腫が起こる。
- 浮腫は必発だが血管内volume overloadは少ない。脚気心を忘れない。脂肪乳剤は基質枯渇例の心機能を改善しうるが、過収縮から左室流出路狭窄・ショックを来した症例があり注意して使う。
- 重症神経性食欲不振症では低血糖の遷延こそが脳・心・肝障害の増悪因子。経過中の肝酵素上昇は飢餓による肝のオートファジーが主因と考えられ、投与カロリーを減らさず増やしていく。
- 間接熱量計での実測では、安静時エネルギー消費量は入院時体重×30 kcal/日程度で頭打ち。入院時体重×15 kcal/日から開始し100〜200 kcal/日ずつ増量する方針が示された。
- 日本人の摂食障害では低リン血症のリスクとなるBMIは欧米基準(NICEの16未満)より低く、12.6(目安13未満)。糖質比率を50%(場合により40%)に抑えた食事で低リン血症が減る可能性がある。
座長の導入(清水先生)
鳥取城の兵糧攻め(1581年、信長公記)で開城後に食事を与えられた者の過半数が死亡した記録、1945年ルソン島で捕虜となった日本兵の報告(Ann Intern Med 1951)、44日間の絶食後の再栄養で血清リンの推移を示した報告(NEJM 2005)が歴史的背景として紹介された。自施設のBMI分布では21〜22が最頻だが、BMI 15を切ると死亡率が明らかに高くなる。
体重が20kg台になって院内急変した、ブドウ糖を何度内服しても低血糖が治まらない、リン補正の速度が分からない、肝酵素が高いので栄養を止めるべきか、糖液のボーラスで血圧が下がった、といった経験はrefeedingないし低栄養に伴う一連の病態として説明できる。カロリーは低めから始めるとされるが、十分に入れなければ低栄養から抜け出せない点が課題と述べた。
演題1 Refeeding症候群を疑う患者で留意すべき循環動態(坂本先生)
神経性食思不振症の徐脈は基本的に洞性徐脈で、罹病期間よりも低BMIや最近の体重減少と関連する。迷走神経tonus亢進またはエネルギー節約のための適応と考えられ、夜間は心拍20〜30台まで下がることもあるが、失神などがなければ一時的ペースメーカーは不要で経過観察でよい。低血圧は骨格筋萎縮による静脈還流減少、心拍出量低下、心筋重量減少と関連する。QT延長は電解質異常や薬剤性の二次的要因が大きいとされ、致死的不整脈に注意する。心エコーではEF/FSは比較的保たれるが左室腔は小さく壁は5mm程度まで菲薄化し、心嚢水(低BMI、low T3、ビタミンB1欠乏との関連)や僧帽弁逸脱を伴うことがある。
ハイリスクの定義はNICEではBMI 16未満などだが、英国精神科医学会のMARSIPAN(2023年改訂)はアンダーフィーディングによる死亡への反省も踏まえ、BMI 13未満、心拍40未満、低血圧、低血糖、低K・P・Mg血症を高リスクとしている。循環管理の各ガイドライン比較では、バイタルは1日4回または最初の24時間は4時間おき、電解質は最初の3〜5日は12〜24時間おきに測定・補正、チアミンは100〜200mg/日を5〜10日間とされ、水分・Naについては明確な推奨が乏しい。
症例1は49歳女性、体重28.5kg、BMI 11.8。利尿薬・下剤乱用によりNa 114、K 2.6 mEq/L。初期に輸液2000 mL/日、食塩12 g/日が入り、3日目頃から胸腹水が増加し、ドパミンとフロセミドが開始された。血圧は低くEFは保たれ血管内volumeは多くなく、ビタミンB1がほとんど投与されていなかったため脚気心を疑って補充し、比較的早く改善した(乳酸は未測定)。
症例2は46歳女性、体重23kg、BMI 10.0。10年以上炭水化物を摂らず豆腐・野菜中心で、入院時中性脂肪1 mg/dL、EF 21%のびまん性壁運動低下。栄養開始後に脂肪乳剤を追加したところ収縮期雑音が出現し、15日目にショックとなった。心エコーはEF 70%以上の過収縮、Dd/Ds 19/10mm、IVC 2〜3mm、左室内圧較差93mmHgで、閉塞性肥大型心筋症に類似した左室内閉塞であった。アルブミン投与と脂肪乳剤中止で翌日に血圧・尿量が回復し、圧較差は47mmHgに半減、第40病日には正常化した。エネルギー基質の枯渇が心機能低下の主病態で、脂肪酸投与により収縮能が急激に回復したと考察された。投与速度はゆっくりであったとのこと(具体的数値は聞き取り不確か)。
オーストラリアでは炭水化物54%+脂質29%と炭水化物28%+脂質56%を比較するRCTが進行中と紹介された。
演題2 生体情報モニター一体型の間接熱量計を用いた栄養管理(小島先生)
救命センターに来る重症例は若年女性、BMI 15未満、起立や階段昇降も困難で、血糖40〜50でも会話ができる。グリコーゲン・脂肪を使い果たし、筋蛋白の分解でかろうじてATPを得ている低インスリン・低カテコラミン状態である。注意すべきは栄養不足による低血糖の合併症と、栄養開始後のrefeeding症候群の二つ。脳はブドウ糖とケトン体、心筋は遊離脂肪酸とブドウ糖が基質で、いずれも枯渇しているため低血糖の遷延は不可逆的脳障害や心機能低下につながり、低血糖に対するカテコラミン分泌亢進でたこつぼ型心筋症も起こりうる。
Harris-Benedict式は重度栄養障害では約30%過大評価となる。各国ガイドラインの初期投与量は英国10〜20、ESPEN 5〜15、ASPEN 10〜20 kcal/kg/日で、段階的に増量する。
症例は39歳女性、身長159cm、体重25.8kg、BMI 10.2。入院前の摂取は1日300 kcal程度。入院時AST 218、ALT 636、TG 3、P 2.0。精神科で286〜486 kcal/日を投与中、第7病日に肝逸脱酵素上昇のため175 kcal/日に減量され、その後低血糖が頻回となり、傾眠、血圧低下、視覚異常の訴え、眼球上転を経て、第15病日にアンモニア上昇、PT-INR上昇、血小板低下を伴い救命センターへ転科した。
人工呼吸器回路に装着する一体型間接熱量計で連続測定すると、投与カロリー増加に伴いエネルギー消費量も増えるが、入院時体重×30 kcal/日程度で頭打ちとなった。呼吸商は約0.9で糖代謝が主体であった。
当センターの方針は、ICU管理、入院時体重×15 kcal/日で開始、100〜200 kcal/日ずつ増量し30 kcal×入院時体重/日を目標、肝障害が出ても投与量は減らさない(必要ならFFPやアルブミン)、脂肪多めの経腸栄養を早期に開始し経静脈栄養を併用、電解質は連日測定・補正、血糖は最低6時間ごとに測定、である。
質疑では、肝酵素上昇で栄養を下げたところASTが3000台まで上昇した経験がフロアから示され、オートファジーによる肝障害では栄養を上げることが治療になるとの見解で一致した。座長から肝生検でオートファジー所見を示したフランスの報告が補足された。末梢輸液のみではカロリーが足りないため、最初の3日程度は末梢静脈栄養でもよいが早期から経腸栄養を導入するとの回答であった。
演題3 摂食障害のRefeeding症候群に対するリスクと糖質制限食(吉内先生)
肝障害について、低体重期はオートファジー、再栄養期は脂肪肝様変性と病態が異なるとの報告がある。肝合成能低下でトロンボポエチンが低下し血小板が減少するため、PT-INRの経時的測定が指標になる。スライドでは低リン血症は2.0を切らないよう補正し、1.0を切ると危険とされた。
教育的症例として、神経性やせ症(過食・排出型)の20代女性で、経鼻胃管から少量で開始していたが予想に反して経口摂取が進み2000 kcal/日を超える日が続き、リン補充が追いつかず、心不全と心嚢水貯留を合併した例が示された。脈拍数の急上昇が見逃されており、バイタルの毎日の確認が強調された。
自施設の低体重摂食障害158名(入院時BMI 13.2±2.1)の解析では、NICEのBMI 16では低リン血症を判別できず、ROC解析でカットオフはBMI 12.6、これ未満でリスクは約6倍であった(Int J Eat Disord 2019)。20歳代女性の平均BMIは米国27.6、日本20.8であり欧米基準をそのまま当てはめにくい。この結果は英国の新ガイドラインに引用され、より低いBMI基準が採用された。
また神経性やせ症188名の観察研究で、食事中の糖質比率が58.4%を超えると低リン血症のリスクが約8倍であった(Int J Eat Disord 2021)。現在は糖質50%、患者により40%の食事から開始している。蛋白質の割合は変えず、その分脂質が増える。英国ガイドラインでも炭水化物制限が推奨として取り上げられている。
演題4 当院におけるRefeeding症候群発症予防の取り組み(本田先生)
金沢市の300床の地域密着型病院(2021年度救急車搬入1614件、NST回診週2回、NST介入344名)で、2015年に予防対策指針を策定しハイリスク例にNSTが介入している。指針の内容、策定前後のビタミンB1・リン・Mg含有注射液の使用者数、リン投与でも血清リンが低下した症例、アルコール依存症例を報告する予定であったが、録画は導入部で終了している。
学び・実践へのポイント
- 極度の低栄養患者の徐脈・低血圧・小さな左室は適応の結果であり、症状がなければ過剰に介入しない。一方QT延長、電解質、脈拍数の急上昇は毎日確認する。
- 浮腫や胸腹水を見たら、volume overloadと決めつけず、心エコーで血管内volumeと心機能を評価し、ビタミンB1欠乏(脚気心)を鑑別する。初期のNa・水分負荷に注意する。
- 脂肪乳剤開始後の新たな収縮期雑音は過収縮・左室内閉塞のサイン。血管内脱水の補正と脂肪乳剤の中止で改善しうる。
- 再栄養中の肝酵素上昇や低血糖頻発を理由に栄養を減量しない。集中治療管理下で電解質を連日補正しつつ、入院時体重×15 kcal/日から30 kcal/日へ早めに増量する。
- 日本人ではBMI 13未満を高リスクの目安とし、経口摂取可能なら糖質50%程度の食事から開始することが選択肢になる。予想外の摂取量増加にも注意する。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
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確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


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