BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:急性期高血糖は侵襲によるストレス反応に、ステロイド・カテコラミン・経静脈/経腸栄養という治療介入が重なった医原性の側面をもつ。目標血糖は144〜180 mg/dL(J-SSCG2020、弱い推奨)、180 mg/dL以上でインスリン開始(SSCG2021)が現在の落としどころ。
勉強した日:2023-06-23(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- 急性期高血糖は侵襲によるストレス反応に、ステロイド・カテコラミン・経静脈/経腸栄養という治療介入が重なった医原性の側面をもつ。目標血糖は144〜180 mg/dL(J-SSCG2020、弱い推奨)、180 mg/dL以上でインスリン開始(SSCG2021)が現在の落としどころ。
- 消化管不耐症の要因のうち、経腸栄養の開始時期・投与時間・投与経路・蠕動に作用する薬剤・栄養剤の選択は医療者側で対応できる。慎重な経腸栄養管理で回避できる不耐症は少なくない。
- エネルギーもタンパクも急性期初期は控えめにし、状態が改善してから増量する。急性期以降のゴールの目安は25〜30 kcal/kg/日、タンパク1.2〜2.0 g/kg/日。
- 高タンパク投与はリハビリテーション(電気刺激など)を併用して初めて筋量維持に効く。リハビリも初期から高強度にすればよいわけではない。
- 栄養療法マニュアルと多職種カンファレンスの導入後、FIM利得と在院日数が改善した(兵庫医大の前後比較)。今後は病態に合わせた個別化(テーラーメイド)が課題。
1. 集中治療患者の血糖管理(江木先生)
急性期高血糖(surgical diabetes)は手術・外傷・感染などによる重症化で生じるストレス反応であり、そこにステロイド投与、カテコラミン投与、経静脈・経腸栄養が加わって生じる。強いストレスホルモンによるインスリン抵抗性で、2型糖尿病に近い病態とされる。
NICE-SUGAR試験(NEJM 2009、4カ国、6022例)は強化インスリン療法(80〜110 mg/dL)と通常管理(144〜180 mg/dL)を比較し、死亡率は通常群24.9%(751/3012)に対し強化群27.5%(829/3010)、p=0.03で、強化群の絶対死亡率が2.6%増加した。以後、ガイドラインはIITを推奨していない。
残った論点は「150 mg/dL以下を目指す派」と「180 mg/dL以下で許容する派」の対立だが、両者を直接比較したRCTは症例数100未満しかない。そこでネットワークメタ解析(Intensive Care Med 2017、35 RCT、18,098例)で4つの血糖帯(110未満、110〜144、144〜180、180超)を比較した。死亡率と感染発生率はいずれも有意差に至らないが、110〜144と144〜180が良好で180超は不利な傾向。低血糖は目標が低いほど多い。ハードアウトカムに差がないなら、低血糖が少なく現場の負担も小さい144〜180 mg/dLが妥当という結論になった。180という数字は10 mmol/L(1 mmol/L=18 mg/dL)に由来する。
重症患者は鎮静・人工呼吸下で低血糖症状を訴えられず、気づかないうちに重篤な低血糖に進むことが最大の問題である。また栄養投与とインスリン投与は「アクセルとブレーキを同時に踏む」関係で、栄養の量とタイミングがインスリン量を左右する。
質疑での演者の実践(本人いわくオリジナルプラクティス):初期48時間は栄養を多く入れない。TPNは48時間以降にゆっくり増やし、インスリンが3単位/時を超えるようなら糖が利用できていないと判断して経静脈ブドウ糖を減らし、アミノ酸中心に切り替える。糖尿病患者(HbA1c 8%程度など)はインスリン開始で低血糖を起こしやすい危険な集団で、250 mg/dL程度までは害が出ないとする研究が多く、HbA1cの高い患者は200〜220 mg/dL程度とやや緩めに管理している。
2. 消化管不耐症は誰のせい?(巽先生)
経腸栄養の利点(消化吸収機能と腸管免疫の維持、bacterial translocationの軽減、少ない水分で効率的なエネルギー・タンパク投与、微量元素や食物繊維の投与)は、問題なく消化管が使えることが大前提である。不耐症の要因のうち、侵襲後の蠕動低下、消化器手術、化学療法・放射線、抗菌薬などは避けにくいが、以下の5項目は医療者側で対応できる。
開始時期:絶食が長引くほど腸管機能の回復は遅れる。難治性嘔吐、腸閉塞、重篤な下痢、腸管壊死・短腸、消化管出血、大量の昇圧剤を要するショックなどを除けば、原則として消化管は使える。腹部術後も、切除部位・吻合部の有無、吻合部より口側のストーマ、肛門側の空腸瘻の有無を順に確認し、イレウス所見がなければ少量から開始する。循環についてはカテコラミンインデックス(CAI)10未満なら経腸栄養剤を投与、10以上は慎重投与とし、5%糖液を25 mL/時で流して腸管内容の停滞を防ぐ(250 mLを10時間で2回、問題なければ翌日から栄養剤へ)。大量昇圧剤下では非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)に注意する。開始していない日は、開始できないか毎日確認する。
投与時間:重症患者では下痢・嘔吐・血糖変動が少ない持続投与が推奨される。速度(12時間ごとに10 mL/時ずつ増量など)で決めると1日量が分かりにくく廃棄も出るため、札幌医大では本数で決める。1本200 mLの栄養剤を初日2本で開始し、毎日1本ずつ増量。2本なら10時間投与+2時間休み(1時間クランプ、1時間開放)を2回、3本なら6時間投与+2時間休みを3回。10〜12時が必ず休止時間になり、検査や処置に充てやすい。目標量に達して安定したら間欠投与へ移行する。
投与経路:入室早期から腸蠕動改善薬・下剤を投与し、24時間以内に経鼻胃管から20〜25 mL/時で開始する。胃管排液量が300 mL/日未満なら緩徐に増量、300〜800 mL/日なら六君子湯を投与して継続、800 mL/日以上なら経鼻空腸チューブを留置して経空腸で継続する。内視鏡下に空腸チューブを挿入した106例の検討では、先端が空腸または十二指腸上行脚にあれば造影剤の胃内逆流はほとんどなく(空腸では3/57、5%)、水平脚より手前では逆流が多かった。先端は少なくとも十二指腸上行脚、できればTreitz靱帯を越えて留置する。
蠕動に作用する薬剤:入室早期からラクツロースとソルビトール、胃が動かなければ六君子湯、小腸が動かなければ大建中湯。どこが動かないかを確認してから使い、効かない薬は中止・変更する。薬剤で下痢を作らないよう、排便コントロール基準をプロトコール化している。メトクロプラミドやモサプリドはほとんど使っていないとのこと。
栄養剤:下痢のときはペプチド系栄養剤や水溶性食物繊維(グアーガム分解物)配合の製剤を用いる。ペプチドは酵素分解がほぼ不要で成分栄養より浸透圧が低い。抗癌剤投与ラットではペプチドの吸収は保たれるがアミノ酸の吸収は半減する。PPIなどで胃内pHが上がるとペプシンが働かずタンパク消化不良の一因となるため、胃酸分泌抑制薬使用中、上部消化管術後、膵術後、空腸投与ではペプチド系への変更を考える。下痢で安易に経腸栄養を中止せず、1〜2日で栄養剤を次々変えることもしない。
質疑:鎮静下での腸管虚血は、腹部の硬さ、表情、循環不全がないのに上昇する乳酸値(数値の基準は聞き取り不確か)を手がかりにCTを検討する。吸収の評価は便量・性状(不消化便)や血糖の動きを目安にし、吸収不良なら経腸は少量で流し続けて静脈栄養で補う。
3. 集中治療領域における至適エネルギー・タンパク投与戦略(矢田部先生)
集中治療後症候群(PICS)はICU生存者の多くに生じ、運動機能障害(ICU-AW)は4日以上の人工呼吸患者の25〜80%、敗血症患者の50〜75%にみられる。2週間の重症病態で第3腰椎レベルの腸腰筋は約6割に減少した例が示された。
本邦13 ICU・389例の観察研究では、ICU滞在中のリハビリ開始と、3日目の少ないエネルギー摂取(10 kcal/kg/日程度)がICU退室時の良好な身体活動状況に関連した。タンパクも「初期1〜3日は少なく、その後に多く」が最も予後良好とする報告がある。高タンパク(1.8 g/kg/日)対 対照(0.9 g/kg/日)のRCTでは、電気刺激(EMS)を併用した場合にのみ高タンパクで大腿筋量の減少が抑えられた。一方、早期からの高強度リハビリは退室時の筋力に差がなく、ICU死亡は高強度群でやや多い傾向だった。
J-SSCG2020は急性期に経腸栄養を消費エネルギーより少なく、タンパクは1 g/kg/日未満とすることを弱く推奨し、急性期以降(あるいは1週間程度以降)は25〜30 kcal/kg/日、タンパク1 g/kg/日以上が望ましいとしている。
NUTRIREA-3(フランス61 ICU、人工呼吸+昇圧薬使用のショック患者):最初の7日間を低投与(6 kcal/kg/日、タンパク0.2〜0.4 g/kg/日)と標準投与(25 kcal/kg/日、タンパク1.0〜1.3 g/kg/日)で比較。90日死亡に差はなく、低投与群でICU退室可能までの日数が短く、嘔吐・下痢などの合併症が少なかった。
EFFORT Protein(16カ国85 ICU):高タンパク群(目標2.2、実際1.6 g/kg/日)と標準群(目標1.2、実際0.9 g/kg/日)で60日死亡率は34.6%対32.1%と改善なし。栄養開始時に急性腎障害のある患者やSOFA 9点以上の患者では、高タンパク投与が60日死亡と関連した。
以上から、状態が改善するまでは栄養もリハビリも控えめ(6〜10 kcal/kg/日程度でもよいかもしれない)にし、改善したら攻めに転じる。「状態の改善」の明確な指標はまだなく、SOFAスコアの低下、CRPのピークアウト、空腹感の訴え、表情が穏やかになることなどを目安にしている。ICU-AWを予測するマーカー(titinなど)による個別化、退室後の病棟での栄養戦略、ICUで行っていた鎮痛・不眠・排便対策を病棟へ引き継ぐことが今後の課題である。
4. 重症患者へのプロトコールを用いた栄養療法の理想と現実(白井先生)
兵庫医大救命救急センターでは2017年に栄養療法マニュアルを作成(2018年にリハビリを追記)、2019年にリハビリカンファレンス、2020年にNST合同の多職種カンファレンスを開始した。毎朝8時30分の定期カンファレンスで栄養とリハビリの進捗を確認し、毎週木曜にリハビリ・栄養合同カンファレンスとNST回診を行う。
入院前ADLが軽介助以上で7日以上栄養療法を行った患者を、導入前168例(2016年4月〜2017年4月)と導入後347例(2018年1月〜2022年1月)で比較。導入後はCOVID-19の影響で肺炎が多く外傷が少ない、昇圧剤・ステロイド使用が多いなど背景が異なる。
- 目標エネルギー(25 kcal/kg/日)充足率は7日目以降、体重あたりタンパク投与量は5日目以降、導入後で有意に高い(タンパクは7日目で約1.2 g/kg/日)。
- 48時間以内の経腸開始率 50.6%→60.8%、昇圧剤使用中の経腸施行率 13.1%→24.5%(いずれもp<0.05)。経腸開始までの時間は中央値32時間で差なし。
- 経口摂取開始まで 14日→12日、リハビリ介入なし 6.0%→1.7%、リハビリ介入までの時間 34時間→24時間。
- 経腸を48時間以上中止した率は25.0%→29.4%で改善せず。
- 人工呼吸期間・死亡率(16.1%対15.3%)は差なし。在院日数 32日→28日(p<0.05)、FIM利得 38点→48点(p<0.001)。
アルブミンは導入後に上昇したがBUNも上昇した。演者は、初期1週間はエネルギー25 kcal/kg/日以下、タンパク1.2 g/kg/日以上を目安としつつ(口頭では別の数値にも言及、聞き取り不確か)、最初の72時間はショック期として無理に入れず、離床が進む患者は増量、呼吸器離脱が進まず浮腫が強い患者は1週間後も控えめにするなど個別に調整すると述べた。低BMIの患者ではrefeedingに注意し、電解質だけでなく肝機能やBUNもモニタリングする。
総合討論・クロージング
西田先生(集中治療医学会):栄養投与そのものがストレスになりうる。同化に回るかどうかの変曲点を見誤らないことが集中治療の役割で、その前提として疼痛・不安・感染を取り除く集中治療そのものを確実に行う。RCTのプロトコールは個々の患者には必ずしも当てはまらない。
小谷先生:投与するタンパクの種類(BCAAなど)も今後の研究課題。重症からの回復には栄養とリハビリが不可欠で、多職種のチームで介入すべきである。
学び・実践へのポイント
- 血糖は144〜180 mg/dLを目標とし、180 mg/dL以上でインスリンを開始する。低めを狙うほど低血糖が増える。糖尿病でHbA1cが高い患者は一段緩める考え方がある(演者の意見)。
- インスリン必要量が多いときは、ブドウ糖が利用できていない可能性を考えて糖負荷を減らす。
- 経腸栄養は24時間以内に少量から。CAI 10以上では栄養剤は慎重投与とし、開始できない日は毎日再評価する。
- 胃管排液量300 mL/日・800 mL/日を区切りに、六君子湯、経鼻空腸チューブへと段階的に進める。チューブ先端は十二指腸上行脚より先に置く。
- 下痢で経腸栄養を安易に止めず、ペプチド系などへ栄養剤を変更する。蠕動薬で下痢を作らない。
- 急性期初期はエネルギー・タンパクとも控えめにし、回復の兆し(SOFA低下、CRPピークアウト、空腹感、表情)を捉えて25〜30 kcal/kg/日、タンパク1.2〜2.0 g/kg/日へ増量する。AKIやSOFA高値の患者への早期高タンパクは害になりうる。
- 高タンパクはリハビリと組み合わせて初めて意味をもつ。マニュアルと多職種カンファレンスで、経腸の再開忘れやリハビリ未介入を減らす。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
あわせて読みたい
確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


コメント