ICU-Acquired Weakness(ICU-AW、ICU獲得性筋力低下)は、ICUでの治療中に生じ、急性疾患とその治療のほかに原因のない、左右対称の全身の筋力低下である。長く人工呼吸を受けた患者の4人に1人前後に起こり、死亡と関連する。早期離床は指針で条件付きに支持されている一方、人工呼吸中の離床をさらに増やした大規模試験(TEAM)は利益を示さず、有害事象が増えた。本稿は診断と危険因子、研究の読み方、開始・中止の基準、脊椎・骨盤・開放創・頭蓋内圧・ドレーンなど外傷に特有の制限を整理する。
医療従事者向け:本記事は教育および一般的な医学情報の提供を目的としています。個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。
まず押さえる要点
- 診断は、覚醒して指示に従える患者の筋力検査で行う。MRCスコア(左右6筋群、0〜60点)の合計48点未満で診断する[1]。覚醒したらすぐ、少なくともICU退室時に測る[2]。人工呼吸7日以上の患者では、覚醒後7日目に25.3%が重い筋力低下を示した[3]。
- 予防の土台は危険因子を増やさないこと。多臓器障害の日数、人工呼吸期間、副腎皮質ステロイドなどが危険因子として報告され[3]、最初の1週間の静脈栄養を控えた群ではICU-AWが少なかった(34%対43%)[4]。浅い鎮静は離床の前提になる。
- 通常より手厚い離床・リハビリは「条件付きで提案」にとどまる。米国集中治療医学会(SCCM)の2025年の指針は条件付き推奨(確実性は中)で、最適な頻度・強度・期間・方法は確立していないと明記する[5]。日本のJ-ReCIP 2023も、プロトコルの導入と1日複数回の実施を弱く推奨する(確実性は非常に低い)[6]。
- 「早いほど、多いほどよい」ではない。人工呼吸中の成人750例のTEAM試験では、積極的な離床を1日平均20.8分(通常群8.8分)に増やしても、180日までの生存退院日数は143日対145日で有意差はなく、離床に関連しうる有害事象は9.2%対4.1%と多かった[7]。
- 外傷では損傷ごとの制限を先に確認する。国内のコンセンサスは、頭部・頸部損傷の不安定期、固定の悪い骨折、活動性出血、制御できない頭蓋内圧亢進などでは、積極的な離床を原則行わないとする[8]。外傷だけを対象にした無作為化試験は見つからず、根拠の多くは一般ICUからの外挿である。
対象と扱わない範囲
対象:ICUで管理する成人の重症外傷患者(人工呼吸中を含む)。ICU-AWの見つけ方、危険因子、早期離床の根拠、開始と中止の基準、損傷ごとの制限、ICU退室後の課題を扱う。
扱わない範囲:小児と熱傷。頸髄損傷のリハビリと手術時期(頸髄損傷・中心性頸髄損傷のリハビリテーション:急性期から機能回復をどうつなぐか)、栄養の投与設計(重症外傷の栄養療法:いつ始め、エネルギーと蛋白質をどう設計するか)、鎮痛・鎮静薬の選択(重症外傷の鎮痛・鎮静:痛みを抑えながら神経評価と早期離床をどう両立するか)、せん妄(外傷ICUのせん妄・睡眠管理:鎮静を減らし、脳と回復をどう守るか)の詳細は各記事に委ねる。嚥下訓練と電気生理検査の方法も扱わない。
読み方:「研究結果」は原著の結果、「指針」は学会の推奨、「本稿の解釈」は本稿の読み方である。本稿は検索方法を記録したナラティブレビューで、系統的レビューではない。外傷患者に限った根拠は5節にまとめた。
1.ICU-AWとは何か:定義と診断
ICU-AWは臨床的な診断名で、四肢に左右対称に、遠位より近位に強く出る弛緩性の筋力低下が特徴とされる[1]。背景には、末梢神経の軸索が障害される重症疾患多発ニューロパチー(CIP)、筋が障害される重症疾患ミオパチー(CIM)、両者の合併があり、合併が最も多い。区別には電気生理検査を用いる[2]。
ベッドサイドでは、MRC(Medical Research Council)スコアで左右の肩の外転、肘の屈曲、手関節の伸展、股関節の屈曲、膝の伸展、足関節の背屈を0〜5点で評価し、合計(0〜60点)が48点未満ならICU-AWと診断する[1]。握力では女性7 kg未満、男性11 kg未満が目安とされる[2]。いずれも覚醒して協力できることが前提である。
研究結果人工呼吸5日以上の患者の5施設の前向きコホートでは、ICU-AWは重症度で調整後も院内死亡と関連し(オッズ比7.8、95%CI 2.4〜25.3)、握力の低下も同様だった(4.5、1.5〜13.6)[9]。ICU-AWは1年死亡にも独立して寄与し、ICU退室時に残っていて重いほど危険が高かったと報告されている[1]。
本稿の解釈外傷ICUではこの前提が崩れやすい。頭部外傷で指示に従えない、四肢の骨折や創外固定で検査できない筋群がある、頸髄損傷で筋力低下の原因が脊髄にある、といった場合、MRCの合計点はICU-AWの評価に使えない。検査できた筋群とできなかった理由を記録し、評価できる時点で繰り返す。筋力低下を見たら、脊髄・末梢神経の損傷、電解質異常など別の原因を先に除く。
指針米国胸部学会(ATS)の2014年のガイドラインは、ICU-AWと診断された患者への理学療法の研究が症例集積1件しかないとし、ICU-AWの患者でリハビリと通常の診療を比べる対照試験を研究課題とした[10]。診断すれば転帰が良くなることは示されていない。
2.頻度と危険因子
研究結果フランスの5つのICU(内科3、外科2)で、神経筋疾患のない人工呼吸7日以上の連続患者を追ったDe Jongheらの研究では、十分に覚醒した95例中24例(25.3%、95%CI 16.9〜35.2%)が覚醒後7日目に重い筋力低下を示し、全例に感覚運動性の軸索障害があった。筋力低下のある患者は、その後の人工呼吸期間も長かった(平均18.2日対7.6日、P=.03)。独立した危険因子は、女性(オッズ比4.66、95%CI 1.19〜18.30)、2臓器以上の障害の日数(1日あたり1.28、1.11〜1.49)、人工呼吸期間(1.10、1.00〜1.22)、覚醒の第1日より前の副腎皮質ステロイド投与(14.90、3.20〜69.80)だった[3]。回復が遅い重症患者でのICU-AWの頻度は、総説で中央値43%(四分位範囲25〜75%)とまとめられている[2]。
総説は、入室時の重症度、敗血症、多臓器不全、長期の不動、高血糖を危険因子に挙げる。ステロイドと筋弛緩薬は、その後の前向き研究(一部は無作為化試験)で関与を確認できず、用量、投与時期、同時の血糖管理などに左右される複雑な関係と考察されている[1]。
本稿の解釈ステロイドとの関連は観察研究で、投与が必要な患者の重症度による交絡を除ききれない。外傷では、脊椎の安定化待ち、骨盤・下肢の骨折、創外固定、頭蓋内圧の管理で不動が長引きやすい。受傷の重症度、大量輸血、繰り返す手術がICU-AWの危険因子になるかを外傷患者で調べた大規模な研究は、本稿の検索では見つからなかった。
3.予防の土台:栄養・血糖・鎮静
研究結果EPaNIC試験(不足する経腸栄養を早期に静脈栄養で補う群と、最初の1週間は静脈栄養を控える群の比較)の副次解析で、覚醒して協力できた600例を評価すると、ICU-AWは遅らせた群105/305例(34%)、早く始めた群127/295例(43%)だった(絶対差−9%、95%CI −16〜−1、p=0.030)。遅らせた群では回復も速かった(p=0.021)[4]。静脈栄養の開始時期の比較で、経腸栄養や蛋白質の量の比較ではない。
指針J-ReCIP 2023は、治療4〜10日目にエネルギー20 kcal/kg/日または消費量の70%以上、蛋白質1 g/kg/日以上の投与を、いずれも弱く推奨する(GRADE 2D)[6]。外傷での開始時期と投与量は栄養療法の記事(重症外傷の栄養療法:いつ始め、エネルギーと蛋白質をどう設計するか)で扱う。
研究結果内科・外科の長期ICU患者でのVan den Bergheらの試験では、インスリンによる厳格な血糖管理がCIP/CIMの電気生理学的所見と長期の人工呼吸の必要を減らした。しかしその後の多施設試験では、厳格な正常血糖を目標にした群で死亡が多かった[1]。本稿の解釈高血糖は放置しないが、ICU-AWの予防を理由に厳格な正常血糖を目標にはしない。ステロイドや静脈栄養の使用中は高血糖が起こりやすく、危険因子が重なる。
鎮静については、早期離床の効果を示したSchweickertの試験(4節)が、両群とも毎日の鎮静の中断を行い、その時間に理学療法を組み込んでいた[11]。国内のコンセンサスの開始基準もRASS −2〜+1を条件とする[8]。鎮痛を先に行い、鎮静を必要最小限にすることは離床の準備である(本稿の解釈)。
4.早期離床の研究をどう読むか
試験は比較対象で意味が変わる。「ほとんど動かさない通常診療」と比べた古い試験と、「すでに早期離床がある通常診療」に上乗せした新しい試験を、同じ問いとして読まない。以下はいずれも一般ICU・外科ICUの試験で、外傷患者の割合は抄録からは分からない。
研究結果Schweickert 2009:大学病院2施設で、人工呼吸開始から72時間未満、さらに24時間以上の継続が見込まれ、入院前に自立していた成人104例を、鎮静の中断中に早期から運動と離床を行う群(49例)と鎮静の中断と主治医チームの指示による療法の群(55例)に割り付けた。退院時に自立していた割合は59%対35%(p=0.02、オッズ比2.7、95%CI 1.2〜6.1)、せん妄の期間は中央値2.0日対4.0日(p=0.02)、28日間の人工呼吸離脱日数は23.5日対21.1日(p=0.05)だった。重篤な有害事象は498回の実施中1件(酸素飽和度80%未満)、不安定による中止は4%だった[11]。
研究結果SOMS 2016:オーストリア・ドイツ・米国の5施設の外科ICUで、人工呼吸開始から48時間未満の成人200例を、多職種の双方向の情報共有とSOMSアルゴリズム(外科ICUの離床段階の目標)による目標設定型の早期離床の群(104例)と通常診療(96例)に割り付けた。ICU在室中に到達した離床段階の平均(主要評価項目)は2.2対1.5(p<0.0001)、ICU在室日数は7日対10日(p=0.0054)、退院時の機能(mmFIM)は8対5(p=0.0002)だった。有害事象は25件(2.8%)対10件(0.8%)で重篤なものはなく、院内死亡は16%対8%、3か月死亡は22%対17%だった(抄録に検定の記載なし)[12]。
研究結果TEAM 2022:侵襲的人工呼吸中の成人750例を、鎮静を最小限にして毎日理学療法を行い早期の積極的な離床を増やす群と、各ICUの通常の離床の群に割り付けた。主要評価項目の180日までの生存かつ退院している日数は中央値143日(四分位範囲21〜161)対145日(51〜164)で有意差はなかった(絶対差−2.0日、95%CI −10〜6、P=0.62)。離床の時間は1日平均20.8分対8.8分、両群とも77%が立位に到達し、到達までの中央値は3日対5日だった。180日死亡は22.5%対19.5%(オッズ比1.15、95%CI 0.81〜1.65)で、生存者の生活の質、日常生活動作、認知機能などは同程度だった。重篤な有害事象は7例対1例、離床に関連しうる有害事象(不整脈、血圧の変動、酸素飽和度の低下)は9.2%対4.1%だった(P=0.005)[7]。
研究結果電気刺激とエルゴメータ:フランスの1施設でICU患者314例を、通常の早期リハビリにベッド上の下肢エルゴメータと大腿四頭筋の電気刺激を加える群と通常のみの群に割り付けた試験では、ICU退室時のMRCスコアは中央値48対51で有意差はなかった(差−3.0点、95%CI −7.0〜2.8、P=.28)[13]。一方、J-ReCIP 2023は、神経筋電気刺激(GRADE 2B)、ベッド上エルゴメータ(2D)、併用(2B)をいずれも弱く推奨する[6]。
研究結果メタ解析:早期離床と電気刺激の無作為化試験9件(841例)の統合では、ICU-AWのオッズ比は0.63(95%CI 0.43〜0.92)で、著者は信頼区間が広く質の高い試験が必要とした[14]。人工呼吸中の成人の試験12件(1,304例)の系統的レビューでは、ICU-AWの相対リスクは「体系的な早期離床と遅い離床」で0.62(0.38〜1.03)、「体系的な早期離床と通常の早期離床」で0.90(0.63〜1.27)で、確実性は非常に低い〜低く、利益は結論できないとされた[15]。
指針SCCMの2025年の指針(PADISの部分改訂)は「ICUに入室した成人に、通常より強化した離床・リハビリを行うことを提案する」とした(条件付き推奨、確実性は中)。強化とは施設の通常より多いもの(サイクリング、ステッピング、早期の開始、1日2回、プロトコル化、時間の延長のいずれか)を指す[5]。
本稿の解釈Schweickertの対照は主治医チームの指示による療法で、早期から組織的に離床する介入はなかった。一方、TEAMの通常群は立位到達が中央値5日と、すでに早期離床があった。指針が支持するのは「少ない状態から組織的に取り組む」こと、TEAMで利益が示されなかったのは「取り組んでいる状態から、さらに早く多く」である。TEAMとSOMSの死亡の数値は、信頼区間が広い、あるいは検定がなく、害とも無害とも結論できない。電気刺激・エルゴメータは、骨折・創外固定・下肢の創がある外傷患者では使えないことが多い。
5.外傷患者に限った根拠
研究結果東海大学医学部付属病院の救命救急ICUで、ISS 9以上の成人外傷患者を、多職種の早期離床・リハビリのプロトコル(ICU入室後48時間以内に開始し、毎日の回診で5段階の離床レベルを決める)の導入前(2021年7月〜2022年6月、254例)と導入後(2022年7月〜2023年8月、298例)で比べた後ろ向き研究がある。熱傷、心肺停止後、医師が対象外と判断した患者は除外した。傾向スコアで219組をマッチングした解析で、自宅退院は52.1%対41.1%(差11.0%、95%CI 1.7〜20.2%)と導入後に多かった。抄録では、退院時のBarthel Index(中央値95対80)とICU在室日数(5日対7日)も導入後に良好だった。安全に関わる事象の発生率は、マッチング後で導入後2.4%、導入前3.6%(P=0.10)だった[16]。単施設の前後比較で、時期による診療の変化を除けない。損傷ごとの離床の上限は補足資料にあり、本稿では確認していない。
研究結果重症頭部外傷(GCS 11未満)38例の無作為化試験では、傾斜台による早期の起立を4週間毎日行う群で、計画の74%(95%CI 52〜89%)を実施でき、有害事象に群間差は認められなかった。臨床転帰は探索的な扱いである[17]。脳神経外科ICUの頭部外傷患者で、早期離床を行った前向きの群(86例)と過去の対照(199例)を傾向スコアで調整した研究では、肺炎は35.0%対61.9%(p<.001)だった[18]。過去の対照との比較で、頭蓋内圧への影響は抄録に記載がない。
本稿の解釈外傷患者だけを対象に早期離床を無作為化した大規模試験は見つからなかった。一般ICUの試験の結果は、試験で除外されやすい患者(不安定な脊椎・骨盤骨折、頭蓋内圧の管理中、開腹管理中)にはそのまま当てはまらない。
6.始める前の安全確認
指針日本集中治療医学会の2017年のエキスパートコンセンサスは、早期リハビリを「疾患の新規発症、手術または急性増悪から48時間以内に開始される」機能の維持・改善・再獲得を支援する一連の手段と定義し、禁忌・開始基準・中止基準を示した[8]。J-ReCIP 2023も開始・中止の基準の案を示し、医療チームがこれを参照して総合的に判断するとする[6]。いずれも推奨の強さを付けた推奨ではなく、参照して総合的に判断するための目安である(コンセンサス2017は専門家の合意)。
| 項目 | コンセンサス2017 開始基準 | J-ReCIP 2023 開始基準の案 | 中止の目安(2017/J-ReCIP) |
|---|---|---|---|
| 鎮静・痛み | RASS −2〜+1、NRS 3以下など | RASS −2〜+1、NRS 3以下など | 意識障害・危険行動の出現 |
| 呼吸 | 呼吸数35回/分未満、SaO2 90%以上、FIO2 0.6未満、PEEP 10 cmH2O未満 | 呼吸数5〜40回/分、SpO2 88%または90%以上、FIO2 0.6未満、PEEP 10 cmH2O未満 | 呼吸数5回/分未満・40回/分超、SpO2 88%未満(J-ReCIPは88%または90%未満) |
| 循環 | 心拍数50〜120拍/分、平均血圧65 mmHg以上、ドパミン・ノルアドレナリンが24時間以内に増量されていない | 心拍数40〜130拍/分、平均血圧60〜100 mmHg、昇圧薬の開始・増量が直前にない | 心拍数40拍/分未満・130拍/分超、平均血圧65 mmHg未満・110 mmHg超(J-ReCIPは60 mmHg未満・100 mmHg超) |
| 外傷に関わる項目 | 出血傾向がない、動くと危険なラインがない、頭蓋内圧20 cmH2O未満 | 頭蓋内圧20 mmHg未満で直前の上昇がない、活動性出血がなくHb 7 g/dL以上、不安定な骨折がない、血栓塞栓症が管理されている | 活動性出血の示唆、創離開のリスク、ドレーン排液の性状の変化、デバイス抜去の危険 |
コンセンサス2017は、開始基準の表で頭蓋内圧を「20 cmH2O未満」、禁忌の表で「20 mmHg以上」と記し、数値は経験的でさらに議論が必要と注記している[8]。施設で採用する基準を1つに決め、単位をそろえる(本稿の解釈)。国際的には、理学療法士17人・集中治療医5人・看護師1人(19人がオーストラリア)の専門家パネルが2014年に、ベッド上・ベッド外の積極的な離床の安全性を項目ごとに緑(離床してよい)・黄(さらに検討したうえで可能)・赤(有害事象の危険が高く慎重さが必要)で判定する方式を示した。気管挿管自体は禁忌ではないこと、昇圧薬の量と組み合わせには合意が得られなかったこと、最も慎重に判定された項目をほかのすべてに優先させることが述べられている[19]。
外傷に特有の制限
コンセンサス2017が積極的な離床を原則行わないとする15項目のうち、外傷に直接関わるのは、頭部損傷や頸部損傷の不安定期、固定の悪い骨折、活動性出血、制御できない頭蓋内圧亢進(20 mmHg以上)、制御できない疼痛、固定が不十分で事故抜去の危険が高いカテーテル・ラインである[8]。損傷ごとに確認することを次にまとめる(本稿の整理。損傷ごとの離床条件を比べた研究はなく、主治医・整形外科・脳神経外科の指示を優先する)。
| 損傷・状態 | 確認すること | その間にできること |
|---|---|---|
| 脊椎損傷(固定前) | 安定性の評価、許される体位と頭部挙上の角度、装具 | 許される範囲での関節可動域訓練・上肢の運動、呼吸理学療法 |
| 頸髄損傷 | 呼吸筋の障害、起立性低血圧、徐脈、血圧の目標 | 段階的な頭部挙上、呼吸理学療法(頸髄損傷のリハビリの記事) |
| 骨盤骨折・長管骨骨折 | 固定の方法、左右別の荷重の可否、牽引の有無、再出血の徴候 | 固定されていない関節と健側・上肢の運動 |
| 開腹管理・大きな開放創 | 閉腹の時期、陰圧閉鎖療法の装置、創離開の危険 | ベッド上の運動。ベッド外は外科医と相談 |
| 重症頭部外傷 | 頭蓋内圧が目標内で安定しているか、脳室ドレーンの開閉、頭部挙上の角度 | 安定していればポジショニングと関節可動域。上昇中は始めない |
| 胸腔・腹腔・脳室ドレーン | 固定と長さ、移動時のクランプの手順、排液の量と性状 | 固定を確認して離床。排液の変化は中止の目安 |
| 止血直後・凝固障害 | 止血の完了、Hbの推移 | 活動性出血の間は積極的な離床を原則行わない |
外傷で離床を始める前に:脊椎の安定性、骨盤・四肢の荷重の可否、頭蓋内圧の管理の有無、止血の完了、ドレーン・ラインの固定を、その日の担当医が明示する。「安静度の指示がない」ことを「動かしてよい」と読まない。頭部・頸部損傷の不安定期、固定の悪い骨折、制御できない頭蓋内圧亢進、活動性出血がある間は、積極的な離床を原則として行わない[8]。
本稿の解釈J-ReCIP 2023の開始基準の案には「血栓塞栓症が管理されている」が含まれる[6]。外傷では出血の懸念から薬物によるVTE予防が遅れやすいが、離床は予防の代わりにはならない。離床中の急な酸素化の悪化や頻脈、新たな下肢の腫脹では中止して評価する(外傷後VTE予防:出血を恐れて待つ間に、何を再評価するか)。
毎日の進め方(本稿の整理):入室日に損傷ごとの安静度を記録して共有し、毎日、開始基準と外傷の制限からその日の上限(ベッド上、端座位、立位、足踏み、歩行)を決める。離床できない日も関節可動域、ポジショニング、呼吸理学療法は行える。中止基準に当たれば中止して記録し、強度を上げること自体を目標にしない。覚醒したらMRCスコアと握力を測り、ICU退室時に再評価して、筋力、到達した段階、残る安静度の制限を病棟に引き継ぐ。
7.PICSとICU退室後
指針集中治療後症候群(PICS)は、ICU退室後の長期転帰に関する関係者会議の報告(2012年)で、「重症疾患の後に生じ、急性期の入院を越えて続く、身体・認知・精神の健康状態の新たな、または悪化した問題」と定義され、生存者にも家族にも使える[20]。ICU-AWは身体面にあたる。急性肺傷害の生存者では、臨床的な筋力低下が1年後に14%、2年後に9%に残ったと報告されている[2]。
研究結果ICU退室後に始める運動リハビリの無作為化試験6件(483例)の系統的レビューは、試験間の違いが大きく統合できず、運動耐容能は3件で改善、3件で効果が示されず、生活の質は評価した2件とも群間差を報告しておらず、確実性は非常に低いとした[21]。TEAMでも、ICUで離床を増やした群で180日の生存者の生活の質や認知機能は同程度だった[7]。
本稿の解釈効果が示された退院後のプログラムがないことは、何もしなくてよいという意味ではない。外傷患者では損傷による痛み、四肢の機能障害、頭部外傷による認知障害が加わり、ICU管理による影響と分けにくい。退院時に筋力、歩行、ADL、認知、気分を評価して記録し、整形外科・脳神経外科の外来、リハビリ、かかりつけ医に引き継ぐ。高齢者では入院前の生活機能を入院時に聞いておく(高齢者外傷の初期診療と回復支援:年齢・血圧・フレイルをどう読むか)。
指針の比較表
| 指針・合意(年) | 対象 | 推奨・記載 | 強さ・確実性 | 注意 |
|---|---|---|---|---|
| SCCM PADIS 部分改訂(2025)[5] | ICUの成人 | 通常より強化した離床・リハビリを提案 | 条件付き、確実性 中 | 頻度・強度・期間・方法は未確立と明記 |
| J-ReCIP 2023[6] | 重症患者 | プロトコル導入、1日複数回、電気刺激、エルゴメータ、併用、4〜10日目の栄養量 | いずれも弱い推奨(2Bまたは2D) | 開始・中止基準は推奨の強さを付けずに案を提示 |
| 日本集中治療医学会 コンセンサス(2017)[8] | 集中治療の患者 | 定義(48時間以内に開始)、禁忌15項目、開始・中止基準 | 専門家の合意 | 数値は経験的と注記 |
| 専門家の合意(2014)[19] | 人工呼吸中の成人 | 積極的な離床の安全性を項目ごとに3段階で判定 | 専門家の合意 | 昇圧薬の量は合意なし。19/23人がオーストラリアのパネル |
| ATS(2014)[10] | 成人のICU-AW | 診断の利益と負担を検討し、治療の対照試験を研究課題とした | 抄録に記載なし | 抄録のみ確認 |
根拠の比較表
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| 出典(年) | デザイン | 対象 | 介入・比較 | 主な結果 | 限界と意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| De Jonghe(2002)[3] | 前向きコホート | 人工呼吸7日以上、覚醒した95例 | — | 覚醒後7日目の筋力低下25.3%。ステロイドのオッズ比14.90 | 観察研究。外傷の割合不明 |
| Hermans(2013)[4] | RCTの副次解析 | 覚醒した600例 | 第1週の静脈栄養を控える vs 早期に補う | ICU-AW 34% vs 43%(差−9%、−16〜−1) | 静脈栄養の開始時期の問い |
| Schweickert(2009)[11] | RCT(2施設) | 人工呼吸72時間未満の104例 | 早期の運動・離床 vs 鎮静中断+主治医の指示による療法 | 退院時の自立 59% vs 35%(オッズ比2.7、1.2〜6.1) | 対照に早期の組織的な離床なし |
| SOMS(2016)[12] | RCT(外科ICU 5施設) | 人工呼吸48時間未満の200例 | 目標設定型の早期離床 vs 通常 | 離床段階2.2 vs 1.5、ICU在室7日 vs 10日 | 死亡の数値は介入群で多い(検定なし) |
| TEAM(2022)[7] | 多施設RCT | 人工呼吸中の750例 | 積極的な離床の増加 vs 通常 | 180日の生存退院日数143 vs 145日(差−2.0、−10〜6)、有害事象9.2% vs 4.1% | 通常群にも早期離床あり |
| Fossat(2018)[13] | RCT(1施設) | ICU患者314例 | エルゴメータ+電気刺激の上乗せ vs 通常 | 退室時MRC 48 vs 51(差−3.0、−7.0〜2.8) | 上乗せの効果は示されず |
| Menges(2021)[15] | 系統的レビュー | RCT 12件、1,304例 | 体系的早期 vs 遅い/通常の早期 | ICU-AW 相対リスク0.62(0.38〜1.03)/0.90(0.63〜1.27) | 確実性 非常に低い〜低い |
| Ichikawa(2025)[16] | 単施設 前後比較 | ISS 9以上の成人外傷(マッチング219組) | プロトコル導入後 vs 前 | 自宅退院52.1% vs 41.1%(差11.0%、1.7〜20.2) | 外傷に限る。時期の影響を除けない |
評価時点:De Jongheは覚醒後7日目、Schweickertと Ichikawaは退院時、SOMSはICU在室中と退院時、TEAMは無作為化から180日、FossatはICU退室時。
日本で実施するとき
- 集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜(2017):定義、禁忌、開始・中止基準(6節)。学会のサイトに本体と2018年のダイジェスト版がある[8]。
- 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023):14のCQに、GRADEによる10の推奨と4つの背景疑問の解説を示す[6]。ICU退室後の集中的なリハビリ(CQ13)の推奨文は本稿では取得できず、未確認である。
- JATECと日本版敗血症診療ガイドライン2024:ICUでの離床やICU-AWの記載の有無と内容は、本稿では確認していない(未確認)。
- 早期離床・リハビリテーション加算:厚生労働省の令和4年度(2022年度)改定の説明資料では、500点(1日につき、14日まで)。対象を特定集中治療室管理料1〜4に加え、救命救急入院料1〜4、ハイケアユニット入院医療管理料1・2、脳卒中ケアユニット入院医療管理料、小児特定集中治療室管理料に広げ、関わる職種に言語聴覚士を加えた[22]。未確認令和6年度・令和8年度の改定での点数・対象・算定要件・施設基準の変更の有無は、告示・通知の該当部分を取得できず確認していない。算定は施設の医事部門と最新の告示・通知で確認する。
- 国内の外傷のデータ:5節の東海大学の研究は、ICU入室後48時間以内の開始と、多職種の毎日の回診で離床レベルを決める運用だった[16]。施設で取り入れる場合は、開始・中止基準を1つに統一し、損傷ごとの安静度を担当医が毎日更新して、リハビリ担当者が参照できる場所に記載する(本稿の提案)。
まだ分からないこと
- 外傷患者での早期離床の効果と安全性(外傷だけの無作為化試験は見つからなかった)。
- 離床の開始時期・時間・回数・強度の最適値[5]。
- 電気刺激・エルゴメータの位置づけ(指針は弱く推奨[6]、上乗せの効果が示されなかった試験もある[13])。
- 不安定な脊椎・骨盤骨折、頭蓋内圧の管理中、開腹管理中に、どこまで動かしてよいか。
- 受傷の重症度、大量輸血、繰り返す手術がICU-AWの危険因子になるか。
まとめ
ICU-AWは覚醒してからMRCスコアと握力で見つける。予防は、深い鎮静・早すぎる静脈栄養・高血糖を避けることと、動かすことの組み合わせである。組織的な早期離床は指針で条件付きに支持されるが、すでに早期離床がある状況で量をさらに増やしても利益は示されず、有害事象が増えた。外傷では、脊椎・骨盤・四肢・頭蓋内圧・創・ドレーンの制限を毎日確認し、その日の上限を決めて進める。
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医学的内容の最終確認日・確認範囲
文献ごとの確認範囲を開く(最終確認日:2026年9月26日)
医学的内容の最終確認日:2026年9月26日(著者確認)。文献照合日:2026年9月26日(日本時間)。PubMedの抄録(NCBI BioC)、PubTator3の検索と書誌、PMCの公開本文(NCBI BioC)、Crossref、出版社・学会・公的機関の公式ページとPDF、J-STAGEを直接開いて確認した。Europe PMC、OpenAlex、Semantic ScholarとNCBIの一部には接続できない時間帯があった。数値・用量・適用条件を含む医学的内容は、2026年9月26日に著者(医師)が確認した。検索記録は編集部で保管している。
- 本文を確認:[1](PMCの公開本文。定義、MRCスコア、危険因子、血糖・静脈栄養・ステロイド・筋弛緩薬、1年死亡の記述)、[2](PMCの公開本文。CIP/CIMの区別、握力の閾値、評価の時期、頻度、長期の筋力低下)、[16](出版社の公開本文の一部。施設、除外基準、マッチングの組数、安全に関わる事象。損傷ごとの制限を示した補足資料は未確認)、[19](出版社の公開本文。方法、3段階の定義、気管挿管と昇圧薬の記述。項目ごとの基準は図として掲載されており、文字として取得できなかったため数値は使っていない)。
- 本文の一部を確認:[6](学会のPDFとPMCの英語版本文。CQ1〜3・5・6・9・10の推奨文、CQ7・CQ8の開始・中止基準の案の表。CQ13の推奨文は取得範囲外で未確認)、[8](学会サイトのダイジェスト版で、定義、禁忌の表1、開始基準の表2、中止基準の表3を確認。本体PDFは途中までしか読めなかった)。
- 公式要約のみ:[5](SCCMの公式ページで推奨文、確実性、「強化」の定義、頻度・強度・期間が確立していない旨を確認。原著の本文とエビデンスの表は未取得)、[22](厚生労働省の説明資料34頁)。
- 抄録のみ確認:[3] [4] [7] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [17] [18] [20] [21]。本文中の数値は抄録にある範囲に限った。TEAMの参加国、外傷患者の割合、除外基準は本文を取得できず扱っていない。MRCスコア48点未満の基準は[1]の本文で確認した。
- 未取得:TEAMとPADIS 2025の本文、ATS 2014の本文、ICU-AWの分類の枠組み(Stevens 2009)の本文、血糖管理とCIP/CIMのCochraneレビュー(2014)の抄録、令和6年度・令和8年度の診療報酬の告示・通知の該当部分、JATEC改訂第6版、日本版敗血症診療ガイドライン2024の該当部分。
- 訂正・撤回:TEAM(Crossref)は訂正・撤回の登録なし(2026年9月26日確認)。そのほかの文献は、アクセス制限により個別には確認できていない。
- 改訂前の記載の扱い:改訂前の版の文献3は著者を「Zhang L, et al.」としていたが、PubMedとCrossrefで著者はAnekwe DEら(Physiotherapy 2020;107:1-10)と確認し、訂正した[14]。
更新履歴
更新履歴を開く(全3件・最新:2026年9月26日)
- 2026年9月26日(著者確認):著者(医師)が数値・用量・適用条件を含む医学的内容を確認した。確認日の表記を更新した。あわせて、確認範囲の記載を読者向けの表現に改め、関連記事と分野の一覧へのリンクを加えた(医学的内容は変えていない)。
- 2026年9月26日(改訂):初回公開の版は本文が短く、根拠の比較表が空欄で、文献は3件、本文に文献番号の引用がなかったため、全面的に書き直した。主な変更は次のとおり。(1)ICU-AWの定義と診断(MRCスコア、握力)、頻度と危険因子(De Jonghe 2002、Ali 2008、総説2本)、静脈栄養・血糖・鎮静との関係(EPaNICの副次解析)を加えた。(2)早期離床の研究をSchweickert 2009、SOMS 2016、TEAM 2022、Fossat 2018、メタ解析2本に広げ、比較対象の違いで結果の意味が変わることを示した。TEAMは主要評価項目の群別の値と例数を加えた。(3)外傷患者に限った研究(国内の前後比較研究、重症頭部外傷の研究2本)を分けて示し、一般ICUからの外挿であることを明記した。(4)日本集中治療医学会のエキスパートコンセンサス2017とJ-ReCIP 2023の開始・中止基準、外傷に特有の制限の表、PICSと退院後の根拠、早期離床・リハビリテーション加算(令和4年度の説明資料で確認。以降の改定は未確認)を加えた。(5)改訂前の文献3の著者名の誤り(Zhang L→Anekwe DE)を訂正した[14]。文献は22件になった。
- 2026年9月26日(初回公開):SCCM PADIS 2025の部分改訂とTEAM試験を軸に、「早く強く動かせばよいわけではない」ことと、外傷で離床の安全条件と量を見極める必要を短く述べた解説として公開(文献3件)。
本記事は医療従事者への教育および一般的な医学情報の提供を目的としており、個々の患者に対する診断・治療を代替するものではありません。実際の診療では、各施設のプロトコルおよび最新の診療ガイドラインをご確認ください。
利益相反:本記事に関連して開示すべき利益相反はありません。


コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 早期離床・リハビリテーションの方法と中止基準。ICU-Acquired Weaknessと早期離床:重症外傷の筋力低下をどう防ぐかを参照。 […]
[…] 本稿の解釈外傷の蛋白質の目標を1.2〜1.5g/kg/日程度に置き、腸管の耐容性・腎機能・臓器障害を見ながら数日かけて近づけるのが、上の指針と試験のどちらとも矛盾しにくい。開腹管理中や大量の排液がある患者で1.5〜2g/kg/日を考える場合も、急性腎障害やSOFAスコアの高い時期に一律で上乗せしない。回復期に目標を引き上げることの効果は、外傷ではまだ確かめられていない。筋力低下と早期離床はICU-Acquired Weaknessと早期離床:重症外傷の筋力低下をどう防ぐかで扱う。 […]