BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:城北病院では2015年にRefeeding症候群予防対策指針を策定し、スクリーニング6項目と1〜4日目の予防輸液セットオーダーを整備した。策定後、ビタミンB1含有注射液の使用者は2.7倍、リン酸Na補正液は10倍、硫酸Mg補正液は13倍に増えた。
勉強した日:2023-06-23(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- 城北病院では2015年にRefeeding症候群予防対策指針を策定し、スクリーニング6項目と1〜4日目の予防輸液セットオーダーを整備した。策定後、ビタミンB1含有注射液の使用者は2.7倍、リン酸Na補正液は10倍、硫酸Mg補正液は13倍に増えた。
- 低栄養患者は入院時に高リン血症を呈することがあり、リンを投与していても1日で低リン血症まで低下する例がある。血清リン高値を見ても補充の継続が必要な場合がある。
- TPN開始後の低リン血症(2.0 mg/dL未満)は、がん患者24.0%、非がん患者27.1%で有意差なし。がん患者ではベースライン血清リンの軽度低下(2.0〜2.5 mg/dL)が有意なリスク因子(オッズ比3.05)。
- Refeeding症候群の病的な水分貯留は、低リン血症・低Mg血症・ビタミン欠乏とは別個に発生し、時に高度の低血糖発作を伴う。インスリン浮腫の関与が示唆される。
- 病的な水分貯留への対応は、水分とナトリウムの制限、利尿薬、低血糖発作例では少量グルコースの持続投与。ASPEN 2020のコンセンサスには水分・塩分制限の推奨がない。
第4席 当院におけるRefeeding症候群発症予防の取り組み(城北病院)
施設は金沢市の300床、地域密着・全科型病院。2021年度の救急車搬入1,614件、NST回診は週2回、2021年度のNST介入は344名。
NICEガイドラインの高リスク基準(1つ以上: BMI 16未満、3〜6か月で15%以上の体重減少、10日以上の絶食、再摂食前の低K・低P・低Mg血症。2つ以上: BMI 18.5未満、10%以上の体重減少、5日以上の絶食、アルコール依存の既往またはインスリン・化学療法・制酸薬・利尿薬の使用)を踏まえ、院内指針では次の6項目に簡素化した。
- BMI 14未満
- 10日以上、栄養摂取がごくわずか、または全くなし
- 絶食で等張維持輸液のみの管理が7日以上
- 血清カリウム、リン、マグネシウムのいずれかが低値
- アルコール依存症による摂食不良
- 神経性食思不振症
予防輸液は末梢維持輸液(ソルデム3号500mL)を1日2本とし、ビタミン剤(リメファー3B: B1 50mg、B6 100mg、B12 1,000μg)、リン酸Na補正液(P 310mg/20mL)、硫酸Mg補正液(Mg 243mg/20mL)を添加する。1日目は糖の追加なしで172kcal、以後50%ブドウ糖液を1本あたり20mLずつ追加して2日目252、3日目332、4日目412kcalと80kcalずつ増量する。リンは1日620mg(2A)の設定。電子カルテに1〜4日目のセットオーダーとして登録した。
2019年4月〜2022年9月にNSTが介入したハイリスク延べ142例のうち、リンを投与しても血清リンが低下したのは42例。高リン血症から低下した例が15例(基準下限以上にとどまった9例、低リン血症に至った6例)。低リン血症に低下した21例の内訳は、高リンから6例、正常範囲から9例、もともと低リンからさらに低下6例。
提示症例1: 80歳女性、肋骨骨折で入院、高度脱水、入院1週間前から食事摂取不能。入院日に糖質フリーの輸液でリン620mgを投与、翌日に血清リン6.1 mg/dLと高値のためリンを310mgに減量して継続したが、その翌日には2.1 mg/dLの低リン血症となった。
アルコール依存症は指針上のリスク疾患だったがNST介入に至っていなかった。リンクナースの協力で入院早期の介入を開始し、2022年度は9月までに26例中17例に介入した。17例の血清リンは、入院時にすでに低値(2.7 mg/dL未満)が4例、入院後に低下した例が11例、入院後に低値となった例が5例。
提示症例2: 68歳男性、アルコール性ケトアシドーシス。入院前は酎ハイ1日1Lで食事はほとんど摂れていなかった。入院時の血清リン6.5 mg/dLでリン投与なし、翌日に1.3 mg/dLへ低下。Refeedingとアシドーシス補正の両方が関与したと考察。
結語: 予防対応指針の策定が危険な低リン血症の予防に寄与したと考えられる。アルコール依存症は早期に経口摂取が可能になることが多く、入院早期の予防対応が必要。
第4席 質疑
- 低栄養なのに高リン血症が多い理由: 糖質が入らず代謝回転が落ちると細胞内のリンが不要となって血管内へ移り、見かけ上一時的に高くなるという文献上の考察を紹介。
- BMIが保たれたアルコール依存症例でも補正するか: 酒と糖質程度しか摂れていない例が多くリンが消費されているため、アルコール依存症の病名があれば注意喚起し予防を提案している。投与による高リン血症と非投与による低リン血症を天秤にかけると、投与する方が安全と当院では考えている。
- リン酸NaとMgの配合変化: ソルデム500mLに両方を1Aずつ混注している。添付文書上の注意はあるが、濁りなどは経験していない(濃度の問題で濁らずに済んでいるのではとの見解)。
- リン投与量の基準: 明確な基準はなく、食事摂取量(約800mg)などを参考に620mgで設定した。最近は1日1Aで十分ではないかと考え始めており、今後検討する。
第5席 がん患者におけるTPN開始後の低リン血症(NTT東日本関東病院)
背景: がんはRefeeding症候群のat riskの一つとしてASPEN 2020コンセンサスにも明記されているが、制吐薬など支持療法が進歩した現在、TPN開始後の低リン血症にどの程度注意すべきかは明らかでない。
方法: 診療録による後方視的観察研究。2014年4月〜2020年3月にTPNを開始した患者が対象。目標サンプルサイズはα=0.05、検出力0.8、発現率の差10%として各群87例。除外基準は血清リン濃度モニタリング非実施(ベースライン、Day1-3、Day4-7に各1回以上の測定がない)、ベースラインの低リン血症、経腸栄養併用、透析中。低リン血症はDay1-7の血清リン2.0 mg/dL未満(中等症以上)と定義。
結果: TPN開始2,093例から328例を組み入れ(がん129例、非がん199例)。低リン血症発現率はがん24.0%、非がん27.1%(p=0.606)。傾向スコアマッチング後(各群112例)も有意差なし。がん患者は固形がん約6割、血液がん約4割、治療は化学療法が約半数、手術17.8%、BSC 35.7%。多変量ロジスティック回帰では「ベースライン血清リン軽度低下あり(2.0〜2.5 mg/dL)」のみが有意なリスク因子(オッズ比3.05、95%信頼区間1.09〜8.57、p=0.034)。クレアチニンクリアランス30 mL/min未満は単変量で有意だったが多変量では有意でなかった(オッズ比3.80、p=0.062)。
限界: 体重減少率と絶食期間は調査できていない。TPN増量スケジュール、Refeeding以外の低リン血症の要因、測定バイアス(血清リンのモニタリング実施率は約25%)がある。
結論: TPN開始時は「がん患者だから」ではなく、標準対策として血清リン濃度をモニタリングすることが有用である可能性がある。
質疑: モニタリング頻度について、投与エネルギーの増量が終わるまでは継続し、少なくとも1〜2日ごとに測定、推移を見ながら間隔を緩めるとの回答。経腸栄養で同じことが言えるかは、摂取量の把握が難しく未検討。印象としては、リスク因子が多数あるというより一つ突出した因子がある例で起こりやすい。
第6席 Refeeding症候群 病的な水分貯留に対するStrategy(上尾中央総合病院 大村先生)
1951年の日本人戦争捕虜の低栄養に関する報告(Schnitker MAら、Ann Intern Med)では、Discussion 139行のうち82行(59%)が浮腫の機序に充てられていた。当時の治療食は肉340gを含む3,400kcal/日、蛋白質170g/日で、酵母製剤、塩酸チアミン10mg、硫酸鉄がすでに併用されていた。醤油を追加すると喫食量は改善したが、塩分のため浮腫が出現・悪化し、浮腫は利尿薬に反応したと記載されている。近年は関心が低リン血症などの代謝障害に移っている。
低栄養患者が高リン血症で入院してくる理由について、脱水によるAKI(BUN・クレアチニン上昇)で血清リンが高く、補液で細胞内取り込みと利尿による尿中喪失が同時に起こり、半日で基準下限を切ることも珍しくないと説明。
症例1: 52歳女性。神経性食思不振症(スライド上ANと表記)、12〜13年前にCPAの既往、低血糖で2回の入院歴。自室で倒れているところを発見され搬送、血糖は測定器でLo、採血で9 mg/dL。体温31.5℃、BUN 87.8、Cr 1.47、AST 392、ALT 384、BNP 272、P 5.3、Mg 3.5。PNを開始し、経過中に問題となる低リン血症・低Mg血症はほとんどなかったが、著明な両側胸水と軟部の浮腫をきたし、敗血症で死亡(剖検でも死因は敗血症)。体重は6月3日30.5kg(身長163cm、BMI 11.5)から6月13日36.5kg、6月15日40.5kgへ約10kg増加。6月13〜14日の48時間で水分4,600mL、Na 334mEqが投与され、尿量は490mLだった。
症例2: 50歳女性。アルコール性肝障害、甲状腺機能障害。1年で20kgの体重減少があり他院で神経性食欲不振症と診断、精神科入院時29kg。700kcal/日の食事で低血糖発作を繰り返し呼吸停止も認めた。本人希望で退院(36kg)、退院後も低血糖発作が頻回でブドウ糖液(グルコース20g/回)を飲用。下腿浮腫と水疱形成で受診し、重度の肝機能障害(AST 1,651、ALT 936)と大量腹水、BUN 53.1を認めた。治療は糖質80g/日の24時間持続投与、アミノ酸40g/日、脂質20g/日(第5病日から追加)、水分1,600mL/日以下、Na 17.5mEq/日、フロセミド+スピロノラクトン。K・P・Mgは基準値を切った時点で補充。AST・ALTは第5病日に著明に改善し第55病日に正常化。体重は第1病日50.4kg、第11病日40.8kg、第61病日27.6kgまで減少し、胸水・腹水は消失、歩行可能となり退院した。
考察: Refeeding症候群の浮腫にはインスリン浮腫が関与している可能性がある。インスリン浮腫はインスリン療法の開始・強化時にみられる稀な合併症で、インスリンは尿細管でNa/Kポンプを介したNa再吸収を増加させる。治療開始後の体重増加は「脱水の是正」と解釈されやすい点に注意が必要。
ASPEN 2020コンセンサス(ANを除くリスク症例)は、最初の24時間は糖質100〜150g/日または10〜20kcal/kg/日、1〜2日おきに目標量の33%ずつ増量としているが、水分制限・塩分制限については推奨なし。演者はこの点を問題とし、学会のプロジェクトチームで定義・診断基準・治療指針の検討が始まったと紹介した。
質疑: 低血糖の機序はインスリン等を測定しておらず不明だが、糖新生の材料となる蛋白が枯渇し糖新生が追いつかなかったと推測。利尿薬はループ利尿薬とスピロノラクトンを使用。
学び・実践へのポイント
- 低栄養・脱水・アルコール依存症の入院時高リン血症は安心材料にならない。補液と栄養開始後1日で低リン血症に転じうるため、翌日の再検とリン補充の継続を検討する。
- スクリーニング項目を簡素化し、予防輸液(ビタミンB1・リン・Mg添加、80kcal/日ずつ増量)をセットオーダー化すると、NST介入前から予防が実施されやすくなる。
- TPN開始時は基礎疾患(がんの有無)よりも開始前の血清リン値を見る。2.0〜2.5 mg/dLの軽度低下があれば低リン血症発現に備え、増量が終わるまで1〜2日ごとに測定する。
- 重度低栄養の栄養開始後は毎日の体重測定と適宜の胸部X線で水分貯留を拾う。体重増加を脱水の是正と決めつけない。
- 病的な水分貯留を疑ったら水分とNaを制限し利尿薬を使う。低血糖発作を伴う例では栄養を止めず、少量グルコースを持続投与する。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
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確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


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