入院後、外傷患者はいったい何で死ぬのか?|出血・脳損傷・臓器不全を時間軸で読む

入院後の外傷死亡を出血・脳損傷・臓器不全と時間経過から解説する記事のアイキャッチ

PTD ZERO / TRAUMA CRITICAL CARE

止血できた。その後、何が命を奪うのか。

外傷の初期診療を乗り越え、手術を終えてICUへ入った患者。それでも救命できないとき、主な原因は脳損傷なのか、感染なのか、多臓器不全なのか。死亡の時期と、死亡に至る病態を分けて、原著から整理する。

文献確認日:2026年11月2日。医療者向けナラティブレビュー。研究ごとの対象・時間の起点・死因の判定方法を区別して解説する。

最初に押さえる3点

  • 24時間を超えた死亡でも、頭部外傷は大きな割合を占めうる。「早期は出血、晩期は感染」という一対一の対応では説明できない。[1][2]
  • 遅く亡くなったことと、遅く病態が始まったことは違う。入院時からの臓器障害が遷延して死亡する経過もある。[4]
  • 主死因、死亡に寄与した合併症、治療制限は別々に読む。死因の集計だけで、その死亡が防げたかは判定できない。
目次

「外傷患者の死因」を読む前に、分母と時計をそろえる

「外傷死の何%が出血か」と「ICUへ入った患者の何%が出血で死亡するか」は別の問いである。死亡例だけを集めた研究には生存者の分母がないため、死因の構成割合は分かっても、その病態の死亡リスクは算出できない。

さらに、病院前・救急外来の死亡を含む研究、病棟への入院後だけの研究、ICU患者だけの研究では、観察する患者が変わる。本稿の関心は入院後、とくに初期蘇生を越えた患者にあるが、境界を理解するために早期死亡の研究も参照する。

時間の起点何を表すか読み違えやすい点
受傷時刻外傷発生からの経過搬送・転院の時間も含む
病院到着・入院時刻その病院での診療経過受傷から何時間経っていたかは別に必要
ICU入室時刻集中治療開始後の経過救急外来・手術室で過ごした時間は含まれない

24時間という境界も病態が切り替わる時刻ではない。研究を比較するときは「何を起点に24時間か」「その時点まで生存した患者だけか」を先に確認する。

出血死は早い。それでも、出血の影響は止血後にも続く

ROCのショック/重症TBI試験の二次解析では、登録2,061例中571例が死亡した。死亡までの中央値はTBI群29時間、ショック群2時間、両者を合併する群4時間。死亡例のうち24時間以内に亡くなった割合は、それぞれ46%、82%、72%だった。これは選択された試験集団の結果であり、一般の入院外傷患者全体の死亡率ではない。[3]

より新しいSWAT研究の死亡例解析でも、出血リスクの高い1,051例中176例が死亡し、その74%は入院後24時間以内だった。出血による死亡は主に3時間以内、臓器不全による死亡は48時間を超えることが多かった。対象は早期に輸血・手術または塞栓による止血を要する患者で、全外傷に一般化はできない。[6]

「出血で死ぬ時期」と「出血が後の転帰に影響する期間」は同じではない。臨床的には、止血の達成に加え、循環不全や代謝異常が回復しているかを見続ける必要がある。ただし、後に生じた臓器不全をすべて初期出血の結果と断定することもできない。

24時間を越えても、脳損傷は主要な死因であり続ける

Hadfieldらは、神経外科の紹介機能を持つ英国のICUで、多発外傷後に院内死亡した101例を調べた。ICU入室から24時間を超えて死亡した61例のうち46例、75%が重症脳損傷による死亡だった。遅い死亡群の死亡までの時間は平均7日、範囲2–49日である。[1]

この75%の分母は「ICU入室24時間を超えて死亡した61例」。外傷ICU患者全体の75%が脳損傷で死亡した、という意味ではない。

この研究は2001年の単施設報告で、頭部外傷の紹介による偏りがある。それでも、「晩期死亡の主因は必ず多臓器不全」という理解への、明確な反例になる。[1]

18施設で外傷死亡1,536例を前向きに判定したWTA研究でも、主死因は全体でTBI 45%、失血23%であり、後の時点ではTBIの比重が大きかった。この集団には救急外来死亡も含まれ、45%を入院24時間以降の死因割合に置き換えてはいけない。[2]

「脳損傷死」の中にも、一次損傷の重篤さ、頭蓋内病変の進行、全身状態による二次性脳損傷など、異なる経過がある。生存時間だけから「最初から救命不能だった」「ICU管理で防げた」を決めることはできない。頭部外傷の予後評価には不確実性があり、患者の価値観と合わせて考える必要がある。[9]

多臓器不全は「後から起こるもの」だけではない

英国29外傷センターのORDIT研究では、受傷24時間以内の死亡6例を除いた440例のうち、245例(55.7%)にMODSを認めた。研究上の定義は総SOFA >5で、2臓器以上の障害。MODSありの院内死亡率は22.0%、なしでは0.5%だった。これは関連であり、MODSが死亡を引き起こした割合を意味しない。[4]

注目したいのは、MODSの94.3%が入院当日から存在したことだ。SOFAの推移には、早く改善する経過と、改善までに時間を要する経過があった。「数日後に感染し、そこから初めて臓器不全になる」という経過だけでは説明できない。[4]

最初から障害がある初期損傷・循環不全に伴う臓器障害を把握する。
回復が止まっている悪化の有無だけでなく、改善しない経過を捉える。
新しい問題が加わる感染や再出血など、新規の悪化要因を探す。

上の3項目は臨床経過を整理するための編集上の枠組み。ORDIT研究の3クラスターの名称や分類を再現した図ではない。

SOFAには神経系の成分も含まれる。TBIや鎮静の影響を考慮せず、「高SOFA=頭部以外の臓器不全」と読むことも避けたい。

感染・敗血症は重要。ただし、晩期死亡に占める割合は一様ではない

インドの単施設で外傷死亡186例を調べた2025年の報告では、受傷24時間を超えた死亡の44.4%が多臓器不全、24.4%が敗血症と分類された。死亡登録・診療録・死亡診断関連の記録による後ろ向き判定である。[5]

一方、前述のROC試験では、敗血症と多臓器機能障害は全死亡の2%だった。分母が「晩期死亡」か「全死亡」かも異なるため、この数字を横並びで優劣比較してはいけない。さらに対象の選択、重症頭部外傷の割合、搬送体制、死因の定義が違う。[3][5]

感染と多臓器不全は互いに排他的な病態ではない。たとえば、腹腔内感染から敗血症性ショック、呼吸・腎機能障害へ進んだ場合、研究によって主死因を「敗血症」とするか「多臓器不全」とするかが変わりうる。分類表の項目だけで病態を理解せず、判定規則まで読む必要がある。

「何で死んだか」と「どのように最期を迎えたか」を分ける

WTA研究は主死因と寄与病態に加えて、治療目標・治療制限も収集した。救急外来を除き入院後に死亡した患者の62.5%で、comfort careへの移行が記録されていた。これは「入院死亡の62.5%は、治療撤退がなければ助かった」という結果ではない。[2]

記録する軸例区別する理由
主たる致死的病態TBI、制御困難な出血、感染に伴うショック死亡につながる中心病態を表す
寄与した病態呼吸不全、腎障害、併存疾患など複数が同時に存在しうる
治療目標・最終経過DNAR、治療の非増強、生命維持治療の撤退、脳死判定互いに同義ではなく、主死因とも別の情報

ACSの2024年TBI指針は、早すぎる生命維持治療の撤退が予後を自己成就させる可能性に注意を促している。一方、患者の価値観や事前意思を踏まえた治療目標の共有も必要である。予後予測モデルの集団の推定値を、個人の確定的な予後に変換しない。[9]

海外研究の治療撤退の頻度を、そのまま日本の診療の頻度とみなすこともできない。死亡時刻には、病態の進行と治療目標の決定の双方が関係する。

主要研究の比較:同じ「外傷死亡」でも見ている集団が違う

研究対象・観察の起点この問いへの位置づけ
Hadfield 2001 [1]ICU入室後の多発外傷院内死亡101例/ICU入室24時間を超える死亡の死因を直接検討。古い紹介施設のデータ
Tisherman 2015 [3]ショック・重症TBIの院外介入試験/受傷後経過早期出血死とTBI死の時間差。試験選択の影響あり
Callcut 2019 [2]18施設の成人外傷死亡/救急外来到着日をday 0主死因・寄与病態・治療制限を分けた前向き判定
Cole 2020 [4]受傷24時間以内の死亡を除く外傷ICU患者/日ごとのSOFA死因の内訳ではなく、臓器障害の経過と転帰
Thokaloath 2025 [5]単施設の外傷死亡/受傷時刻24時間超のMOF・敗血症死。診療録等による後ろ向き分類
SWAT死亡例解析 2025 [6]早期止血介入を要する出血高リスク患者/入院重症出血集団での現代の死亡時期・死因

異なる分母・時間起点・判定方法を持つため、割合を単純に合算して「外傷患者の標準的死因分布」を作ることはできない。

MIMICが教えてくれること、まだ判定が必要なこと

MIMIC-IIIの外傷患者5,400例を扱った2022年の研究は、バイタル・検査値を使って死亡リスクを逐次評価した。これは「死に近づく生理学的変化」を扱う研究で、出血死・TBI死などを確定した死因研究ではない。[7]

2026年のMIMIC-IV/eICU研究は、血圧が目標範囲に入った時点の後にも残る代謝・体温・凝固異常と死亡の関連を検討した。MIMIC-IVでは6時間のランドマーク時点で評価可能だった428例中、その後108例が死亡し、残存異常の負担が大きいほど死亡との関連が強かった。血圧の改善だけでは回復を捉えきれない可能性を示すが、観察研究であり、異常の補正による救命効果を示したものではない。ここでの時計は入院時刻ではなく、研究で定めた血圧到達時点とランドマークに基づく。[8]

MIMICでは入院・ICU入室・院内死亡の時刻は取得できる。一方、請求用の診断コードは死因ではなく、退院サマリーを読んでも死因を確定できない例が残りうる。死因研究には、事前定義、複数の評価者、不明例の扱いを含む判定手順が必要となる。[10]

ICUとM&Mで、問いをどう変えるか

「何日目に亡くなったか」だけで検討を終えず、次の順番で経過をたどると、改善すべき点が具体的になる。以下は各研究を踏まえた実務上の整理であり、妥当性検証済みのPTD判定スコアではない。

  1. 初期の致死的損傷は何だったか。出血と脳損傷の双方を、解剖学的損傷と生理学的重症度から確認する。
  2. 止血・蘇生後に、どの障害が残ったか。単一の正常値より、循環・呼吸・腎・神経・凝固の回復経過を見る。
  3. 新しい悪化を説明できるか。再出血、感染源、見逃し損傷、血栓塞栓症、処置関連合併症など、個別に検証する。
  4. 治療目標は、いつ、何を根拠に共有されたか。予後の不確実性、患者の意思、家族との対話を分けて記録する。
  5. 変えられた診療過程はあったか。死亡という結果から逆算して過失や予防可能性を決めず、その時点で得られた情報に基づいて検討する。

PTD ZEROの視点:初期蘇生を乗り越えた後も、脳損傷、回復しない臓器障害、新たな合併症を追い続ける。死亡時刻は結果であり、改善の対象はそこに至る診療過程にある。

参考文献と確認範囲

  1. Hadfield RJ, Parr MJ, Manara AR. Late deaths in multiple trauma patients receiving intensive care. Resuscitation. 2001;49:279–281. DOI/PubMed。確認:公開抄録。
  2. Callcut RA, et al. The Why & How Our Trauma Patients Die: A Prospective Multicenter Western Trauma Association Study. J Trauma Acute Care Surg. 2019;86:864–870. DOI/本文。確認:公開本文の方法・結果・治療制限の該当箇所。補足資料の全項目照合は未実施。
  3. Tisherman SA, et al. Detailed description of all deaths in both the shock and traumatic brain injury hypertonic saline trials of the Resuscitation Outcomes Consortium. Ann Surg. 2015;261:586–590. DOI/PubMed。確認:公開抄録、公開本文の死因区分に関する記載。
  4. Cole E, Gillespie S, Vulliamy P, Brohi K; ORDIT study collaborators. Multiple organ dysfunction after trauma. Br J Surg. 2020;107:402–412. DOI/本文。確認:公開本文の対象・MODS定義・発症時期・転帰。
  5. Thokaloath RS, Samuel S, Kumar BPV. Temporal Patterns of Trauma Mortality and Causes of Death in a Level 1 Trauma Center: Implications for Improved Trauma Care. J Orthop Case Rep. 2025;15(5):240–247. DOI。確認:出版社公開本文。死因の独立判定・一致度の詳細は確認できず。
  6. Timing of trauma deaths due to uncontrolled bleeding have not changed in three decades: A multicenter study of patients in hemorrhagic shock. Am J Surg. 2025;250:116510. DOI/PubMed。確認:公開抄録。
  7. Tsiklidis EJ, Sinno T, Diamond SL. Predicting risk for trauma patients using static and dynamic information from the MIMIC III database. PLOS ONE. 2022;17:e0262523. 本文。確認:公開本文の対象・予測課題。
  8. Shen K, et al. Beyond the first target-range blood pressure: persistent multidomain physiologic abnormalities and mortality in trauma-associated shock. Sci Rep. 2026. DOI。確認:出版社公開抄録(早期公開版)。詳細な交絡調整・欠測処理は未照合のため、機序や介入効果には踏み込まない。
  9. American College of Surgeons. Best Practices Guidelines: The Management of Traumatic Brain Injury. 2024. 公式PDF。確認:Prognostic Assessment and Family Communicationの該当記載。
  10. MIT Laboratory for Computational Physiology. MIMIC-IV documentation: admissions、icustays、diagnoses_icd、MIMIC-IV-Note。公式データ仕様を確認。

検索・編集:2026年11月2日までに、PubMed、PMC、出版社、ACS、MIMIC公式資料を検索・照合。「trauma late death causes 24 hours ICU」「trauma cause of death withdrawal」「MIMIC trauma mortality」等を使用。提示論文を起点としたナラティブレビューであり、網羅的な系統的レビューではない。AIによる文献整理・執筆補助を使用。独立した専門医査読を実施したという意味ではない。掲載数値は研究ごとの値で、日本の自施設の死因割合を示さない。

更新履歴:2026年11月2日 初版作成。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

コメント

コメントする

目次