BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:ECPRのRCTはARREST(有効)、Prague OHCA(有意差なし)、INCEPTION(差なし)と結果が割れており、いずれも実際のECPR施行数は2桁で、これだけで結論は出せない。海外RCTは心停止からECMOまでの時間が長く(INCEPTIONで74分)、日本の実態とは環境が異なる。
勉強した日:2024-02-06(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- ECPRのRCTはARREST(有効)、Prague OHCA(有意差なし)、INCEPTION(差なし)と結果が割れており、いずれも実際のECPR施行数は2桁で、これだけで結論は出せない。海外RCTは心停止からECMOまでの時間が長く(INCEPTIONで74分)、日本の実態とは環境が異なる。
- 日本の多施設レジストリSAVE-J II(36施設、2013〜2018年、2,157例)では、主解析1,644例で退院時CPC1〜2が14.1%、生存率27.2%。推定心停止時間(low-flow)は中央値55分。合併症は32%で出血性が最多。
- 適応は単一のカットオフでは決められず、年齢・時間・初期波形・目撃/バイスタンダーCPR・一過性ROSC・Signs of life・原疾患などの因子を組み合わせて判断するのが現状の落としどころ。条件を絞ると転帰良好は約3割まで上がるが、症例数は約7分の1になり経験値の維持が課題になる。
- 臨床家が介入できるのは、CPRの質を保ちつつ時間を短縮すること、合併症を最小限にすること、迅速な原疾患治療と蘇生後の神経集中治療。そのために施設・地域ごとのシステム構築と教育が必要。
- 演者施設では初期波形で入室先を分け、VFはカテ室、目撃ありPEAはHybrid ERで機械的胸骨圧迫下にCTを撮り、大動脈解離・くも膜下出血などを除外してからECMOを導入している。
ECPRとは・提示症例
ECPRは、通常の蘇生に反応しない心停止にVA-ECMOを組み合わせる蘇生法。胸骨圧迫では心拍出量が通常の3割程度しか得られず、時間とともに社会復帰率が下がるため、ECMOで臓器灌流を保つ。多くの場合は根本治療ではなく、原疾患治療への橋渡しである。
提示症例は50歳台前半の男性。屋外作業中に気分不良、その後意識消失し同僚がバイスタンダーCPR。初期波形VFで除細動後もVFが持続し、プロトコールに従い血管造影室へ直接搬入。病着後およそ10分でポンプオン(聞き取り不確か)、覚知から33分で循環再開。PCI施行、低体温療法(33℃24時間、復温は0.15℃/時で24時間)。Day3復温完了、Day4 ECMO抜去、Day5 IABP抜去、Day7抜管、Day24にCPC1でリハビリ転院。
歴史とガイドライン
- 1980年代に北海道(札幌)から最初の報告。2000年に日本大学の長尾先生が、難治性心停止に対する人工心肺と低体温療法の併用をJACCに報告。
- 2013年に札幌医大の前川先生らの傾向スコアマッチ研究(転帰良好 ECPR 29.2% [7/24] 対 通常CPR 8.3% [2/24])、2014年にSAVE-J(坂本先生ら、初の大規模前向き観察研究。対象は20〜75歳、初回波形VF/pVT、病着まで45分以内)。
- 2005年の国際ガイドラインに既に記載があり、2015年版の根拠論文5本のうち2本が日本発。JRC蘇生ガイドライン2020では、実施可能な施設で一定の基準を満たした症例に対し、従来のCPRが奏功しない場合の救命治療として弱い推奨(エビデンスの確実性は非常に低い)。
- 一方で人的・物的資源と医療費の負担が大きく、全施設・全CPA症例に行うのは非現実的。
海外RCTの結果と日本との違い
- ARREST試験(米国・単施設、2020年、初期波形VF、30例): 生存 43% 対 7% で有意差あり。実際のECPRは12例。
- Prague OHCA試験(チェコ・単施設、2022年、256例): 早期搬送+ECPRの戦略と現場ACLSの比較。CPC1〜2は31.5% 対 22.0%(p=0.09)で有意差なし。初期波形は混在し、介入群でECPRが行われたのは6割強。
- INCEPTION試験(オランダ・多施設、2023年、134例): CPC1〜2は20% 対 16%(p=0.52)で差なし。除細動は8〜9回行われ、病着からカニュレーション開始16分、カニュレーション時間20分、心停止からECMOまで74分。
- メタ解析ではECPR優位の結果だが、症例数が少ない。センターボリュームが大きいほど成績が良いという解析もある。
- ECPRの報告は日本・韓国・台湾など東アジアが圧倒的に多い。SAVE-J IIでは覚知からECMOまで56分で、地理・システム・技量・患者因子などが異なる海外データをそのまま日本に当てはめるのは慎重であるべき。
SAVE-J II研究の結果
- 国内36施設の後ろ向き多施設レジストリ。2013年1月〜2018年12月に院外心停止でECPRを受けた2,157例。事前の施設間調査で、適応基準・体温管理・モニタリングが施設ごとに大きく異なることが分かった。
- 主解析(推定心原性など1,644例): 年齢中央値60歳、男性が多い。目撃あり78.7%、バイスタンダーCPR 58.2%。覚知〜病着32分、病着〜ECMO 22分、推定心停止時間55分。
- 初期波形はShockableが約7割だが、PEA(22.6%)、心静止(8.0%)にも行われていた。波形は初期波形のみで分類。
- 転帰: 退院時CPC1〜2は14.1%、生存率27.2%。波形別の転帰良好はShockable 16.7%、PEA 9.2%、心静止 3.9%(スライド値)。多変量解析では年齢、バイスタンダーCPR、波形、時間が強い因子。
- 合併症は全体で32%。カニュレーション部出血など手技関連の出血が最多で、臓器出血もある。
- 7割以上が死亡。死亡例の1割強はICU入室前、大半は1〜2日以内に死亡している。
SAVE-J II二次解析
- 治療の差し控え・中止(WLST): 対象の約3割で指示が出ており、多くは早期。理由は神経学的転帰が見込めないが最多。SOFAスコア、乳酸値などが関連。
- Low-flow time: 転帰はほぼ直線的に低下し、40分以上の群で不良。
- 一過性ROSC: 約2割に認め、全くROSCのない群より転帰が良い。
- Signs of life(GCS運動スコア、対光反射、自発(あえぎ)呼吸): 1つでもあれば無い群より明らかに転帰良好。VFでもSigns of lifeが無ければ厳しく、PEA・心静止でもあれば良い。ただし蘇生中の評価は容易ではない。
- 出血: 輸血や介入を要した出血・CTでの脳出血を定義とすると約2割に発生し、その約2割にIVRまたは手術を要した。カニュレーション関連は入院直後、その他は入院後しばらくしてからも起こる。来院時血小板数が関連。
- ほかに鎮静薬、筋弛緩薬、肺炎、distal perfusionなどの二次解析が出ている。distal perfusionは生命予後を変えなかった。
体温管理とこれからの研究
- TTMのRCTは多数あるが、ECPRはほぼ対象外でエビデンスがない。ECMOは熱交換器で迅速・安定した体温管理ができ呼吸循環も安定する反面、出血リスクが高い。
- SAVE-J IIでは当初の設定は34℃が最多だが、循環維持困難・出血・治療撤退などで最終的には平温管理が増える。低体温で完遂できた群は平温群より転帰が良かったが、後ろ向きデータである。
- 計画中のECPR-TTM RCT: ECPRを施行した内因性院外心停止を対象に、低体温(33〜34℃)対 平温(36℃)。施設をクラスターとしたクラスターランダム化クロスオーバー試験、Bayesian adaptive design。参加施設を募集予定。
- 2018年以降のデータと、不足していた項目(機械的補助循環、心臓の評価など)を集めるSAVE-J IIIを計画中。SAVE-J IIではCKなど心機能の指標やCPC以外のアウトカムを取っておらず、頭は保たれたが心臓が立ち上がらなかった症例の割合は答えられない。
適応と原疾患
- SAVE-J IIデータでの条件別の転帰良好率: 全体15.0%(2,157例)、推定心原性で来院時・ECMO時ROSC除外14.1%(1,644例)、年齢18〜75・推定心停止時間60分未満・Shockable・心原性で20.3%(616例)、さらに目撃・バイスタンダーありを加えると29.5%(302例)。
- 原疾患別: 心原性は全体に良い。非心原性では大動脈解離・中枢神経疾患は厳しく、肺塞栓は比較的良い。外因では外傷・溺水は厳しいが、偶発性低体温は転帰が期待できる。
- オランダでは病院前ECPRのRCT(ON-SCENE trial)が進行中で、日本でも病院前導入の取り組みがある。
演者施設(兵庫県災害医療センター)の実際
- 独立型の高度救命救急センター(30床)。ドクターカーとHybrid ERを持ち、初療室・Hybrid ER・手術室・血管造影室が徒歩10秒圏内。隣接する神戸赤十字病院の循環器内科と連携。
- プロトコール(2023年版): 適応は虚脱/発見から病着まで45分以内(ポンプオンまで60分が見込める)、かつ初期波形VF(目撃問わず)またはPEA(目撃あり)。除外は初期波形心静止、来院時心静止、15歳以下または76歳以上、DNR希望・元々のADL/PS低下。絶対的なものではなく、低体温・若年・一過性ROSCなどがあればコマンダー判断で実施できる。バイスタンダーCPRの有無にはこだわっていない。
- 入室先は救急隊の初期波形で決める。VFは心原性が多いのでカテ室へ。PEAは解離・脳出血・肺塞栓などが混在するのでHybrid ERへ入れ、機械的胸骨圧迫(CLOVER、ガントリーに当たらない)を作動させたままCT。搬入からおよそ1分半でCTに入り、くも膜下出血、解離、大量の血胸・腹腔内出血などがあればECMOを導入しない。
- カテ室症例では胸部X線は撮らず、解離の評価はエコーのみ。ポンプオン後(カテ室症例はPCI後)、ICU入室前に必ずCTを撮り、原因検索と合併症検出を行う。ICU入室前チェックリストでカニューレ位置や下肢虚血(ドップラーと触診)を確認。
- CEの手順(スライド): 初期設定はポンプ流量3L/分、酸素流量2L/分、酸素濃度100%。目標はpH 7.3〜7.5、pCO2 35〜45mmHg、pO2 80〜200mmHg、熱交換器33.0℃、ACT 200〜300秒。
- アクションカード、物品配置の固定、日勤帯版・夜間版のシミュレーションで多職種の役割を明確化。夜間は救急3名+循環器1名の最小4名と技師で開始し、応援が加わる。
- 神戸市のMCでは、除細動プロトコールの中にECPRに関する文言を入れ、適応がありそうな症例はECPR可能施設へ搬送する体制を作っている。静脈路確保のための現場滞在はさせず、声門上デバイス(LT)も搬送の妨げにならない範囲で行う。
質疑での主な回答
- 院内心停止には明文化した基準はなく、その場で判断。通常の治療経過中の心停止は基本的に導入する方向。
- 抗凝固: ECMOのためのヘパリンはCTで合併症を確認してから。ICU入室まで入れないことが多く、翌日まで無しのこともある。PCIを行う場合はその時点で入る。
- Distal perfusionはルーチンではないが敷居は低く、下肢虚血が疑わしければ4Frシースで入れる。
- 穿刺は医師の裁量だが、搬入前にシースを開けておき先に留置し、来院時波形と第一印象で最終判断してからECMOキットを開けることが多い。カニューレは成人で基本17Frと21Fr。
- ICU管理は通常の蘇生後管理に準じ正常範囲を目標。33℃管理なのでCO2の下がりすぎに特に注意。低血圧は避け、導入直後はノルアドレナリンを使うことが多い。
- シバリングはBSASで評価。33℃を基本とするため筋弛緩薬を持続投与し、復温開始と同時に中止する(無気肺などより、シバリングを起こさないことを優先)。
- 肺動脈カテーテルはルーチンでは入れていない。IABPは当初から入れている。
- 縊頸・溺水など外因性のPEAには原則行わない。偶発性低体温が先行したと考えられる場合は検討する。
- SAVE-J(初回研究)の「病着から15分以内に導入開始」は15分かけてよいという意味ではなく、搬送や処置を妨げない範囲で最低限の情報を集め、可及的速やかに導入する。
学び・実践へのポイント
- ECPRは「やれば助かる」治療ではない。海外RCTの結果を鵜呑みにせず、自施設の時間経過(覚知〜病着、病着〜ポンプオン)と転帰を把握する。
- 適応は年齢・時間・波形に加え、一過性ROSCやSigns of life、原疾患を組み合わせて判断し、迷わないための目安を施設プロトコールとして共有しておく。
- 時間短縮、CPRの質、合併症(特に出血)の回避は介入可能。導入後早期のCTとチェックリスト、合併症を確認してからの抗凝固開始は参考になる。
- PEAは非心原性の除外が鍵。Hybrid ERがなくても、解離・脳出血をどう除外するかを決めておく。
- 症例数が減る中で技量とスピードを保つには、アクションカード、物品配置の固定、定期的なシミュレーション、地域MCとの共通認識づくりが重要。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
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確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


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