BELL’S STUDY NOTE
ひとことで言うと:血管内皮表面のグリコカリックスは敗血症・AKI・外傷・ARDSだけでなく、高血圧・糖尿病・動脈硬化・加齢などでも障害され、脱落すると血栓形成と血管透過性亢進(アルブミン・水分の漏出)を来して微小循環障害に至る。
勉強した日:2024-01-29(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会
医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。
要点
- 血管内皮表面のグリコカリックスは敗血症・AKI・外傷・ARDSだけでなく、高血圧・糖尿病・動脈硬化・加齢などでも障害され、脱落すると血栓形成と血管透過性亢進(アルブミン・水分の漏出)を来して微小循環障害に至る。
- CRT(毛細血管再充満時間)は費用ゼロで微小循環障害を疑える指標で、3秒を超えると28日死亡率や敗血症の割合が上がり、SOFAスコア・乳酸値とも関連する。
- 敗血症では好中球がNETs(好中球細胞外トラップ)を放出し、内因系・外因系の両方の凝固が活性化する。局所の血栓は感染を封じ込める生体防御(immunothrombosis、免疫血栓)だが、局所で抑えきれず全身に波及した状態がDICである。
- 敗血症にDICを合併すると死亡率は約2倍(28日死亡 16%→31%、院内死亡 22%→38%)。診断基準は目的で使い分けるが、どれを使うかよりも、診断基準で繰り返しスコアリングしてDICを認識することが重要。
- 治療の第一は原疾患(敗血症)の治療。抗凝固療法はDICと診断された症例、重症例(SOFA 13〜17点)で有用性が示唆され、日本版敗血症診療ガイドライン2020ではアンチトロンビンとリコンビナント・トロンボモジュリンが弱く推奨されている。
- 鑑別として薬剤性血小板減少とTMA(血栓性微小血管症)を必ず考える。
グリコカリックスと微小循環障害
グリコカリックスは血管内腔に「毛が生えた」ように見える構造で、虚血再灌流障害、ARDS、加齢、高血圧、糖尿病、輸液負荷、動脈硬化、高血糖、高ナトリウム、敗血症、昇圧薬の使用、外傷、AKIなど多くの要因で障害される(スライド)。電子顕微鏡像では、障害後は内腔の毛が抜け落ちたような状態になる。
正常ではグリコカリックスがあるため白血球などが内皮に付着して血栓を作ることはないが、脱落すると血栓ができやすくなり、また細胞間に隙間ができてアルブミンや液体成分が血管外へ漏出する。その結果として微小循環障害が生じる。
CRT(Capillary Refill Time、毛細血管再充満時間)
指先(爪)を5秒間圧迫して離し、赤みが戻るまでの時間をみる。3秒以上かかる場合は末梢の微小循環障害を示唆する。
Critical Care Medicine誌掲載の研究(スライド表題: Association of Sublingual Microcirculation Parameters and Capillary Refill Time in the Early Phase of ICU Admission)では、CRTを1.5秒未満、1.5〜3秒、3秒超の3群に分けて検討している。
- 1.5秒未満と1.5〜3秒では死亡率は大きく変わらないが、3秒を超えると28日死亡率や敗血症の割合が一気に増える。
- CRTが延長するほどSOFAスコアが高く、乳酸値ともある程度相関する。
- CRT 3秒以上(微小循環障害あり)の群は生存予後が明らかに不良であった。
敗血症とNETs
敗血症はDICの3大基礎疾患(敗血症、急性白血病、固形癌)の一つで、最も多い。
病原微生物が侵入すると、好中球が活性化して貪食する。戦況が厳しい、あるいは相手の数が多いと、好中球は自らの中から網状の構造物を放出して戦う。これがNETs(Neutrophil Extracellular Traps、好中球細胞外トラップ)で、DNAを骨格とし、ヒストンや好中球エラスターゼなどが散りばめられている。病原微生物の捕獲と殺菌に重要な役割を持つ。NETsは敗血症だけでなく、動脈硬化、糖尿病、癌の転移、自己免疫性疾患などにも関与しており、急性期以外の領域でも研究が進んでいる。
敗血症における血栓形成とimmunothrombosis
NETsは血中に放出されると血液を固める作用を持ち、内因系凝固を活性化する。一方、敗血症では組織因子が大量に血中へ放出されるため外因系凝固も活性化される。両方のカスケードが活性化され、血栓形成の方向に進む。
ただし敗血症における血栓は、生体防御反応の一つとして働いている面がある(「血栓は敵か味方か」)。スライドでは次の4つが示された。
- 封じ込め: NETsの網の隙間から病原微生物が逃げないよう、周囲を血栓(フィブリン、血小板)で覆う。
- 拡散を防ぐ: 局所の血管を塞ぎ、病原微生物が全身へ散らばるのを防ぐ。
- 白血球の活性化: 血栓ができることで白血球が活性化し、病原微生物と戦う力が上がる。
- 区画化: 戦う場所を限局させ、白血球や抗菌タンパクの濃度が薄まらないようにする。
この生体防御反応をimmunothrombosis(免疫血栓)と呼ぶ。カブトガニも、病原微生物が体内に入ると自身の血液を凝固させて対応する同様の仕組みを持つことが紹介された。
局所で封じ込められなかった場合、炎症が全身に波及し、全身の血管内皮細胞やグリコカリックスがさらに障害され、全身に血栓が多発する。これがDIC(播種性血管内凝固症候群)である。
DICの予後
DICは予後不良で、「Death Is Coming」とも言われる。
- 敗血症の死亡率(スライド): DIC非合併では28日死亡率16%、院内死亡率22%。DIC合併では28日死亡率31%、院内死亡率38%と約2倍。
- 山川先生らの全国観察研究(JMA Journal、2010〜2017年): DIC全体の死亡率は右肩下がりに改善している。敗血症に伴うDICの死亡率は、スライドでは2010年43%から2017年37%(口頭では2010年を47%と述べているように聞こえるが、スライド表記は43%)。
- それでも現時点で37%が死亡する。
- PICS(集中治療後症候群: ICU在室中または退室後に生じる身体障害、認知機能障害、精神障害)の関連因子としてもDICが挙げられている。
敗血症性DICの診断基準
講演時点では日本版敗血症診療ガイドライン2020が最新(2024年版が出る予定と言及)。1979年の旧厚生省DIC診断基準に始まり、複数の診断基準がある。ガイドライン2020(CQ15-1)では、診断基準間の優劣を判断することは困難であり、目的に応じて使い分けるとされている。2019年には国際血栓止血学会(ISTH)がSIC(Sepsis-induced coagulopathy、敗血症性凝固障害)診断基準を提唱した。
3つの基準は性格が異なる(スライドはJournal of Intensive Careの総説の図を引用)。
- ISTH overt-DIC診断基準: 非代償性の進行したDIC、すなわち重症DIC症例の特定に用いる。
- 日本救急医学会 急性期DIC診断基準(JAAM-DIC): より早期にDICを見つけて早く治療するための基準。
- ISTH SIC診断基準: 急性期DIC診断基準よりさらに早く凝固障害を捉えるための基準。
何を見たいかによって使い分ければよい。初学者はどの基準を使ってもよく、DICを認識することのほうが重要である。日本の多施設研究では、ICU入室後に診断基準を用いて繰り返しスクリーニングを行った患者のほうが、ISTH overt-DIC基準でも急性期DIC基準でも予後が良かった。
急性期DIC診断基準(スライドの表、4点以上でDIC)は次のとおり。
- SIRS: 0〜2項目は0点、3項目以上は1点。
- 血小板数(/μL): 12万以上は0点、8万以上12万未満または24時間以内に30%以上の減少は1点、8万未満または24時間以内に50%以上の減少は3点。
- PT比: 1.2未満は0点、1.2以上は1点。
- FDP(μg/mL): 10未満は0点、10以上25未満は1点、25以上は3点。
主催企業が提供するスマートフォン用のスコア計算ツールが紹介された。
敗血症性DICの治療と抗凝固療法
最も重要な治療は原疾患の治療、今回であれば敗血症そのものに対する治療である。そのうえで抗凝固療法を検討する。
抗凝固療法の対象について、山川先生らの研究が紹介された。
- ISTH overt-DIC基準、急性期DIC基準のいずれで判定しても、DICでない患者に抗凝固療法を行っても効果は乏しかった。
- DICと診断された患者では、抗凝固療法により予後が改善する可能性が示唆された。
- SOFAスコアで軽症から超重症まで4群に分けると、SOFA 13〜17点の重症群で抗凝固療法の有用性が示唆された。
日本版敗血症診療ガイドライン2020の推奨(スライド)は次のとおり。
- CQ15-3 アンチトロンビン補充療法: 行うことを弱く推奨(GRADE 2C)。
- CQ15-4 ヘパリン・ヘパリン類: 標準治療として行わないことを弱く推奨(GRADE 2D)。
- CQ15-5 リコンビナント・トロンボモジュリン製剤: 投与することを弱く推奨(GRADE 2C)。
- CQ15-6 タンパク分解酵素阻害薬: 標準治療としては行わないことを弱く推奨(GRADE 2D)。
基礎疾患別の薬剤使用の推移では、敗血症でリコモジュリン(2008年発売)の使用が年々増え、アンチトロンビン(製剤の発売は1987年)は横ばいからやや減少している。演者の施設ではこの2剤を抗凝固療法として用いている。
症例でのスコアリング
74歳男性、肺炎で入院中。既往歴は高血圧、糖尿病。体温38.4℃、心拍数115回/分、呼吸回数30回/分、白血球数15,000/mm3、Hb 14(スライドの単位表記はmg/dL)、血小板数50,000/mm3、PT比1.2、FDP 25 μg/mL。
ツールに入力すると、SIRS項目で1点、血小板数8万未満で3点、PT比1.2以上で1点、FDP 25以上で3点となり、JAAM-DICスコア8点。4点以上でDICのため、DICと診断できる。
DICの鑑別疾患
薬剤性血小板減少: 血小板減少だけで急性期DIC診断基準の点数が付いてしまうため、薬剤の影響を必ず確認する。スライドに挙げられた薬剤は救急・集中治療でよく使うものばかりである。
- 抗菌薬: ペニシリン系、セフェム系、ST合剤、リネゾリドなど。
- 糖尿病薬: スルホニル尿素(SU)薬。
- 利尿薬: フロセミド、サイアザイド系。
- 抗てんかん薬: フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸。
- H2受容体拮抗薬、PPI: ファモチジン、ランソプラゾール。
TMA(Thrombotic Microangiopathy、血栓性微小血管症): DICと同様に全身に血栓が多発するが、機序が全く異なり、治療法も異なる。詳細は本講演では扱わず、次回(2月26日、秋田大学 佐藤先生)に引き継ぐと述べられた。
学び・実践へのポイント
- CRTは5秒圧迫して3秒以内に戻るかをみるだけの簡便な評価で、3秒超は微小循環障害と予後不良のサインとして扱う。
- 敗血症の血栓は本来は感染を局所に封じ込める防御反応であり、それが全身化したものがDICであるという病態理解を持つ。
- 敗血症患者では診断基準(まずは急性期DIC診断基準: SIRS、血小板数、PT比、FDPの4項目、4点以上)を用いて繰り返しスコアリングし、DICを早期に認識する。
- 抗凝固療法は原疾患治療を行ったうえで、DICと診断された症例・重症例を対象に考える。ガイドライン2020で弱く推奨されているのはアンチトロンビンとリコンビナント・トロンボモジュリンである。
- 血小板減少をみたらDICと決めつけず、薬剤性血小板減少とTMAを鑑別する。
- 本講演は製薬企業主催のセミナーであり、紹介されたツールや薬剤使用の動向はその文脈で示されたものである点に留意する。
自分用メモ
(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)
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確認の範囲
このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。
このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。


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