ベルの勉強部屋 / SURGICAL SKILLS
抜けない。詰まらない。皮膚を傷めない。動いてもつらくない。
ドレーン固定は、糸を強く結べば完成する手技ではない。腹腔ドレーン、皮下の閉鎖式ドレーン、胆道・腎瘻カテーテル、胸腔ドレーンでは、形状も、ずれて困る理由も異なる。本稿では固定法の名称と役割を整理し、固定糸の「あそび」、体外チューブの余裕、痛み・不快感を、患者研究と力学実験に分けて解説する。
文献照合・改訂:2026年11月1日。原著図3点をCC BY 4.0に基づき転載。AIを用いて文献・図・公開抄録を照合・編集し、文献ごとの確認範囲を末尾に明示しています。
対象は成人の外科・救急・集中治療に携わる医師、研修医、看護師。小児や脳室ドレーン、血管内カテーテルには、それぞれ固有の手順があり、本稿の固定法を一律に転用しない。
最初に押さえること
- 「皮膚への固定」「チューブの把持」「体外回路の支持」を分ける。いずれかが弱ければ、結び目が残っていてもドレーンはずれる。
- 「あそび」は、どこに設けるかで意味が変わる。糸・皮膚・回路の突っ張りを避ける余裕と、チューブが結び目の中を滑る緩みは区別する。
- 強度と快適さは別の評価項目。改良ヨハネスブルグ法の機械的優位は、疼痛軽減や患者の抜去事故減少を直接証明しない。
- 固定法は、ドレーンの製品・部位・留置期間とセットで選ぶ。胸腔ドレーンの実験結果を、細径の腹腔・胆道カテーテルへそのまま適用しない。
固定を構成する3つの機能
①皮膚へのアンカー:皮膚・皮下組織に縫合糸を掛ける、または粘着パッドなどを皮膚に付ける。ここが破綻すれば、チューブを把持する部分が丈夫でも位置を保てない。
②チューブの把持:巻き付けた糸、固定翼、専用ホルダーなどでチューブの滑りを抑える。皮膚に糸が付いていることと、チューブが滑らないことは別に確認する。
③体外回路の支持:追加のテープ固定やバッグ・吸引球の支持により、回路の重さや移動が挿入部へ直接伝わりにくい状態を作る。これがstrain relief、すなわち牽引を逃がす工夫である。創部の被覆は観察・保護の役割も持つが、被覆材で隠すだけでは位置保持の確認にならない。[1][8][10]
胸腔ドレーンでは、さらに抜去後の創閉鎖を考える。固定用の糸と閉鎖用の糸が別に置かれる場合も、同じ構成の一部が兼ねる場合もある。留置中の保持と、抜去時に何を切り何を残すかを区別して記録する。
固定法の名前を整理する
同じ名称でも、皮膚の拾い方、巻く回数、結び目の位置が異なる報告がある。「二点固定」も、皮膚に独立した2本の縫合糸を置く意味と、挿入部の固定に離れた位置のテープ支持を加える意味がある。名前だけで手順を共有しない。
| 名称 | 構造・主な役割 | あそび・痛みを考える点 |
|---|---|---|
| 単純結節縫合/U字縫合・マットレス縫合 | 皮膚にアンカーを作る。チューブを保持する巻き付けや固定翼との組み合わせが必要。 | 皮膚を絞扼する張力と、チューブの保持力を区別。皮膚への食い込みを「固定が強い」と評価しない。 |
| Roman sandal/Centurion sandal/lattice法 | 靴紐のように糸を交差させてチューブに沿わせる系統。文献間で細部に違いがある。 | 巻き付けの緩みは滑りにつながりうる。長く巻けば常に強い、痛くない、とは限らない。 |
| Double-loop/multiple-loop法 | チューブを囲むループを用いる方法。clove hitch(巻き結び)などの構成も報告されるが、名称だけで同一手技とは扱わない。 | 把持部は滑りを抑える必要がある一方、細い・軟らかいチューブの締めつぶしを避ける。 |
| Purse-string(巾着縫合) | 挿入部の周囲に環状に糸を掛ける。創を寄せる機能と、チューブを保持する機能は別に評価する。 | 周囲を締めることだけでは、十分な把持を保証しない。皮膚の引きつれにも注意する。 |
| Modified Johannesburg/modified Jo’burg(改良ヨハネスブルグ法) | 水平マットレス縫合のループと、チューブへの巻き付け・結紮を組み合わせる。主に胸腔ドレーンで検討。 | 原著のfloating knotの位置と「自由に動ける長さ」を混同しない。詳細は胸腔ドレーンの節。 |
| 粘着式固定具・皮膚保護材を介した固定 | 皮膚へ直接糸を掛けず、パッドとホルダー等で保持する設計。K-LOCK、Nonahtなどは構造も検証範囲も異なる。 | 局所の牽引痛を減らす可能性がある。粘着性皮膚障害、発汗、浸軟、体表の曲面、製品適合性も評価する。 |
| Ω型・mesentery/omentum tag型のテープ支持 | テープに立ち上がりや接続部分を作り、皮膚とチューブをつなぐ工夫。名称・形状は施設で異なる。 | 動きを吸収し、皮膚への直線的な牽引や屈曲を抑える意図。胸腔ドレーンでは、追加支持を縫合固定の代用としない。 |
縫合構成の分類はHeskinらの比較研究、胸腔の構成はFricke・Ablettら、テープによる補助支持はNSWの公式資料を参照した。方法間の患者転帰を比較したランキングではない。[1][2][4][8]
「あそび」は、どこに作るものか
ここでいう「あそび」とは、皮膚や回路が動いた瞬間に張力が直結しないための余裕である。ただし、ドレーン自体が出入りできる長さを増やすことを目的にはしない。以下の4か所を分けると、指導時のすれ違いを減らせる。
| 場所 | 余裕を考える意義 | 増やしすぎ・緩めすぎの問題 |
|---|---|---|
| 皮膚を拾った糸のループ | 皮膚を過度に締め付けず、浮腫や体動時の食い込みを避ける。 | アンカーそのものが不安定になれば、位置保持が弱くなる。皮膚の蒼白、切れ込み、疼痛も見る。 |
| 皮膚の固定点からチューブの結紮部までの糸 | 皮膚とチューブの位置関係が変わるとき、糸が常に突っ張る状態を避ける。これも「あそび」と呼ばれる。 | 長すぎる自由部分は、チューブが動く範囲を増やしうる。牽引痛軽減と位置保持の両方を評価する。 |
| チューブを囲んで把持する部分 | 目的は、チューブを損傷・狭窄させずに滑りを抑えること。 | この部分の緩みを、快適さのための「あそび」として残すと、糸をすり抜ける可能性がある。 |
| 挿入部から追加固定・バッグまでの体外チューブ | 寝返り、起き上がり、歩行時にも張り切らない余長を確保し、回路を別に支持する。 | 長く垂らすだけでは、引っ掛かり、折れ曲がり、排液の停滞につながりうる。流路と動線を一緒に確認する。 |
糸の余裕が張力を変えるという説明は、構造からの力学的推論を含む。「固定糸は何mm、回路は何cmが最適」と一律に決める比較臨床試験は、今回確認した文献にはない。特に改良ヨハネスブルグ法で記載される「皮膚から約2〜3 cmのfloating knot」は結び目の位置であり、2〜3 cmの自由な滑走を許す指示ではない。原著では張力を保つ操作も含まれる。[4]
体外チューブの余長と追加支持については、NSWの公式資料が牽引の軽減、追加のテープ固定、移乗時の配慮を示している。体位を変えたときに皮膚が引かれないか、深さが変わらないか、流路が折れないかを、患者の訴えとともに確認する、という使い方が実務的である。[8]
腹腔・皮下ドレーンでは何が違うか
腹腔ドレーン:固定部から先端までを一続きに考える
腹腔内のどこに先端・側孔を置く必要があるかを確認したうえで、皮膚面の目盛りなどを基準に位置を記録する。体表で糸が外れていなくても、チューブが滑れば先端の位置は変わりうる。固定の目的は「完全に抜けない」ことだけではなく、必要な場所から排液できる位置を維持することである。
縫合固定には単純な皮膚アンカーと巻き付けの組み合わせ、sandal系、loop系などがある。Heskinらの実験はこれらを比較したが、皮膚の代わりに金属ループを用いたベンチ試験であり、腹腔手術患者における最適法を決めたものではない。[1]
JP・Blakeなどの閉鎖式ドレーン
JP、Blakeはドレーン・排液系の名称であり、固定法の名称ではない。皮下の形成外科領域にも腹腔にも用いられるため、体表の見た目だけで留置部位を決めつけない。軟らかいチューブでは、糸の締め付けによる変形を観察する。吸引球・容器は別に支持し、挿入部の糸に重さをすべて負わせない。
固定部の痛みには、皮膚を拾った糸への牽引、体動時の擦れ、テープの刺激などが関係しうる。患者の快適さを調べたK-LOCK試験は、乳房・腹壁などの手術後のドレーンを対象とする。腹壁形成術のドレーンで得た結果を、腹腔内の感染源コントロール用ドレーンの成績と読み替えない。[5][10]
Penroseなどの開放式ドレーン
薄く軟らかい形状、開放された排液経路という特徴があり、円筒の胸腔ドレーンを強く把持する方法をそのまま当てはめない。外への脱落と創内への迷入の両方を考え、採用製品・術式ごとの固定手順、外に出ている部分の記録、ガーゼ交換時の確認を共有する。今回紹介する実験から、Penroseに適した結紮力や最良の固定法は決められない。
胆道・腎瘻・膿瘍ドレーンなどへの応用
| 種類 | 固定で区別したい点 | あそび・不快感の見方 |
|---|---|---|
| 胆道・腎瘻・経皮的膿瘍ドレーン | ロッキングpigtail、固定翼、専用固定具などの有無を製品ごとに確認。体内の保持機構と体外固定を別に扱う。 | 呼吸・体位変換・バッグの重さによる牽引を評価。単に糸を長くすることで解決したと判断しない。 |
| 長期留置の外瘻・小腸栄養チューブ | 外瘻・栄養チューブは排液ドレーンと機能が異なるが、長期の皮膚固定という共通課題がある。 | 日々の痛み、皮膚障害、瘢痕まで評価する。Nonahtのパイロット研究がこの領域の一部を扱う。 |
| 経鼻の胆道・消化管チューブ | 鼻翼・頬の固定と、体外回路の支持を分ける。皮膚を穿刺する胸腔用の結紮法の対象ではない。 | 鼻翼への圧迫、顔を向けた際の張り、皮膚剥離を観察。器具・施設ごとの管理手順に従う。 |
| 脳室ドレーン等の専用管理が必要なもの | 固定に加え、基準高や排液条件など固有の管理がある。 | 本稿の余長の説明だけで配置・高さを変更しない。専門領域の手順を優先する。 |
この表は構造に基づく整理と実務上の確認項目であり、これら全種類を比較した試験の推奨ではない。製品ごとの添付文書を優先し、チューブへの穿刺、切り込み、非医療用結束材などを一般的な補強として追加しない。
胸腔ドレーンに特有の固定
胸腔ドレーンでは、側孔が胸腔外へ移動すると排気・排液不良や皮下気腫につながりうる。BTSの2023年声明は胸腔ドレーンをholding sutureで固定することを示す。NSWも縫合による固定と、回路を支える追加のテープを区別している。固定法と、挿入深さ・側孔位置・回路機能を一緒に評価する。[7][8]

改良ヨハネスブルグ法:皮膚のループとチューブの把持を組み合わせる
Ablettらの改良法は、水平マットレス縫合の体外ループを利用し、皮膚面付近の巻き付けと、その先の結紮を組み合わせる。原著の流れは、①チューブを挟む水平マットレスと体外ループを作る、②皮膚面付近でチューブに巻く、③張力を保って糸端をループの下へ通す、④皮膚から約2〜3 cmの位置にfloating knotを置き、その先で再び巻いて結紮する、という構成である。[4]
この要約だけで結び方を再現せず、著者が公開した原著Fig. 2の糸の経路と照合する。原著図は転載条件を確認できなかったため、リンクで示す。
この方法における「あそび」:floating knotという名称は「緩く結ぶ」という意味ではない。皮膚から離れた結び目の位置と、完成した固定がどの程度動けるかは異なる。痛みを避けるために把持部分を緩めるのではなく、皮膚の食い込み、チューブの変形、回路からの牽引を別々に評価する。最適な自由長や疼痛軽減効果は未確立である。

巾着縫合・Roman sandal・細径pigtail
巾着縫合の創を寄せる機能だけでは、チューブの把持を保証しない。Roman sandalも完成形の見た目に加え、糸が滑らない構成になっているかを確認する。方法名の優劣だけでなく、術者が再現できること、抜去時に糸の役割が分かることが重要である。
細径pigtailの固定は、20〜28 Chの通常型胸腔チューブと別の問いである。2025年掲載のモデル研究では、皮膚に独立した2本の単純結節縫合を置く構成が、1本の縫合やU-stitchより約40%高い破断荷重を示した。しかし患者の抜去事故や疼痛を測った研究ではなく、抄録から試行総数・信頼区間は確認できなかった。ロック機構や固定翼のある製品を含め、一律に同じ縛り方を追加する根拠にはしない。[9]
「抜けにくさ」のエビデンスをどう読むか
以下の強度研究は患者試験ではない。引き抜きに耐えた荷重、繰り返し負荷への耐久性、臨床での事故率を分けて読む。
| 研究・デザイン | 主要所見 | 限界と臨床への意味 |
|---|---|---|
| Heskinら:2018年オンライン/2019年掲載。5法×各10回、計50回のベンチ試験。1/4インチPVC、皮膚の代わりに金属ループ。[1] | 30 Nの反復負荷。破綻までのサイクル数に有意差なし(p=0.71)。破綻時の平均変位は、sandal+結束材1.0 mm、sandal単独3.6 mm、multiple-loop 6.8 mm。 | 全手技を1人が実施。皮膚・疼痛・発汗を再現しない。変位の小ささと耐久性は同じ指標ではない。実験用の結束材をそのまま臨床へ導入する推奨ではない。 |
| Frickeら:2026年1月。ブタ胸壁360試験、3固定法、20・24・28 Ch、PVC/シリコーン。[2] | 改良ヨハネスブルグ、Roman sandal、巾着縫合の順で高い引き抜き抵抗(群間p<0.0001)。破綻は糸断裂78.9%、チューブ破断11.1%など。 | 強化すれば別の構成部分が破綻しうる。数値は過負荷試験の割合であり、患者の事故率ではない。反復牽引・創傷治癒・疼痛を評価していない。 |
| Frickeら:2026年10月26日公開。ブタ胸壁320試験、16条件×20回。改良法/巾着、20/28 Ch PVC、Mersilene/絹、USP 1/2-0。[3] | 破断荷重の推定周辺平均:改良法125.0 vs 巾着66.4 N、Mersilene 114.6 vs 絹76.9 N。USP 1が2-0より高値(各p<0.001)。糸断裂303/320回。 | 単回・一方向牽引。術者割り当ての記録に限界。交互作用があり、1個の平均値で全構成を代表させない。Roman sandal群は含まない。材質の比較を感染・痛みの優劣へ読み替えない。 |
10月研究のチューブ径の影響は小さく、一貫しなかった。これは同等性の証明ではなく、固定だけを目的に太いドレーンを選ぶ根拠にもならない。上表の荷重比較の95%信頼区間は確認できた報告値から補わず、p値と推定値を示した。

本稿の暫定評価:特定条件での力学的優位には一貫した所見がある。一方、これらから推定する「患者の偶発抜去・皮膚障害を減らす効果」の確実性は非常に低い。これは原著の正式なGRADE評価ではなく、臨床転帰への間接性などに基づく本稿の評価である。
固定糸の選択も、方法とセットにする
10月研究の糸径はUSP 1とUSP 2-0。「1」「0」「1-0」を曖昧に置き換えない。材質・構造・製品・USPサイズを記録する。Mersileneは試験された非吸収性編みポリエステルであり、すべてのポリエステル糸や編み糸の性能を代表しない。ナイロン・ポリプロピレンとの優劣もこの研究では比較していない。[3]
固定構成を変える場合は、施設で採用するチューブと糸で模型練習を行い、留置中の皮膚・緩み・疼痛と抜去時の扱いやすさを評価する。研究の破断荷重は、患者で引いてよい力の目安ではない。
痛み・不快感は、どこまで研究されているか
まず「どこが、いつ痛いか」を分ける
挿入部の疼痛、皮膚固定糸の突っ張り、テープの刺激、チューブが体内組織に接触する痛みは同じではない。安静時・体位変換時・歩行時・処置時・抜去時を分け、場所と強さを尋ねる。固定の「あそび」で改善しうるのは機械的な牽引の一部であり、すべてのドレーン関連痛を説明できない。
新しい強い痛み、発赤・腫脹、発熱、呼吸状態や排液の変化があれば、位置異常や感染などを含めて再評価する。「糸がきついだけ」と決めつけない。[7][10]
K-LOCK:小規模RCTで患者の使用感を比較
Duetら(2025年)は単施設の成人21人を対象に、左右に留置したドレーンの片側をK-LOCK、反対側を縫合固定とする患者内ランダム化比較を行った。乳房手術、腹壁形成術などが対象で、平均留置9日。患者はデバイス側の使用感を支持し、固定時間も短かったと報告された。固定失敗は両側とも認めず、盲検評価による発赤・水疱に有意差はなかった。[5]
原著の数値について:固定時間のp値は抄録で0.0008、本文で0.008と不一致があり、発赤・水疱のp値も抄録と本文で異なる。このため本稿では、これらの正確なp値を採用せず、著者が報告した差の方向と有意差の有無にとどめる。[5]
限界:患者は盲検化できず、使用感の質問票は未検証。1人に術後質問票の欠測があり、例数は提供された器具数で決まった。メーカーが器具を無償提供し、著者は金銭的利益なしと申告している。少数例で事故がなかったことは、同等性や優越性を証明しない。本稿の暫定評価は使用感改善について低い確実性、抜去予防について結論保留である。
Nonaht:日本の消化器外科からのパイロット研究
Kaiboriら(2021年オンライン公開/2022年掲載)は、腹腔ドレーン、小腸栄養チューブ、胆道ドレナージチューブについて、絹糸による皮膚固定とNonahtを比較した。公開抄録では、腹腔ドレーン抜去時の固定部疼痛中央値は絹糸1.0、Nonaht 0(p<0.001)。長期留置チューブでは、術後14日・1か月の絹糸群の疼痛中央値が2.0・1.0、Nonahtでは0と報告された。[6]
確認範囲は抄録のみ。全体の割り付け方法、群ごとの総数、疼痛尺度の詳細、欠測処理を本文で確認できていないため、RCTとは表記しない。抄録中の28例・10例は瘢痕評価の記載であり、研究全体の例数として扱わない。小さな絶対差の臨床的意味、抜去予防・感染予防効果も断定できない。本稿の暫定評価は非常に低い確実性だが、長期留置で「抜けないこと」以外の転帰を評価する意義を示す。
これらの患者研究は、皮膚に直接掛かる糸を避ける設計を評価したものであり、糸のあそびを何mm増やせば痛みが減るかを検証した研究ではない。また、腹部・皮下ドレーンのデバイスを、胸腔ドレーンの縫合固定に代えてよいとする根拠にはならない。
固定後の評価と、施設で共有したい記録
以下は文献と固定の機能を踏まえた本稿の実務提案であり、検証済みのチェックリストではない。
- 位置:基準となる皮膚面の目盛り・外に出た長さ、側孔や先端の意図した位置を記録する。
- 皮膚と把持:糸の経路、緩み、皮膚の蒼白・食い込み、チューブの扁平化・折れを確認する。
- 回路の余裕:バッグ・吸引球を支持し、起き上がりや移乗で張らない配置を確認する。引っ掛かりも取り除く。
- 機能と快適さ:排液・排気、回路接続、痛み・引っ張られる感じ、皮膚障害を確認する。
- 再評価:移乗後・体位変換後・ドレッシング交換時に位置と機能を見直す。抜去時に切る糸と、閉鎖に使う糸を共有する。
部位・用途:__/製品・材質・サイズ:__/皮膚面の基準:__
固定法:__/糸の材質・USPサイズ:__/固定具・ロック機構:__
皮膚への食い込み・把持部・屈曲:__/回路支持と体動時の張り:__
痛む場所・安静時/体動時の程度:__/排液・排気:__
抜去時の解除方法・残す閉鎖糸:__
「少し抜けたかもしれない」とき
皮膚に糸が残っていることだけで位置を保証しない。症状、記録した深さ、回路の開存を再評価し、必要な画像と再処置を判断する。外に出た部分を押し戻して締め直すだけで解決したと扱わない。胸腔ドレーンが機能せず新たな挿入を要する場合、BTSは既存の経路を避けるとしている。[7]
日本での適用:手順名より、観察項目を共有する
今回確認した文献から、改良ヨハネスブルグ法や特定のあそび量をJATECの必須標準とは位置づけられない。救急外来・CT・手術室・ICU間の移動、一般病棟での離床、退院後の管理まで、固定と回路支持を継続して評価することが施設内検討の出発点になる。
新しい器具を採用する際は、国内での入手性、使用目的、対象径・材質、添付文書、交換方法を製品ごとに確認する。本稿ではK-LOCK等のPMDA承認・保険適用は確認していない。施設内評価では偶発抜去だけでなく、再固定、皮膚障害、疼痛、患者の活動、留置日数も追う。
関連する記事
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参考文献と確認範囲
- Heskin L, et al. A new adaptation for a secure surgical drain placement and a comparison with four common drain fixation methods. Ann R Coll Surg Engl. 2019;101:60–68. 2018年10月17日オンライン公開、2019年1月掲載号。DOI/全文。PMID 30328703。全文確認。
- Fricke JJ, et al. Modified Johannesburg technique sets the standard – superior biomechanical stability in chest tube fixation. Eur J Trauma Emerg Surg. 2026;52:27. 2026年1月22日公開。doi:10.1007/s00068-025-03071-7。PMID 41572069。出版社全文・図・ライセンス確認。
- Fricke JJ, et al. Chest tube fixation strength depends on suture caliber and fixation technique rather than tube diameter: a biomechanical cadaver study. Eur J Trauma Emerg Surg. 2026;52:331. 2026年10月26日公開。doi:10.1007/s00068-026-03369-0。PMID 42931906。出版社全文・図・ライセンス確認。
- Ablett DJ, et al. The modified ‘Jo’burg’ technique for securing intercostal chest drains. J R Army Med Corps. 2017;163:319–323. 2017年6月26日オンライン公開、10月掲載号。DOI。PMID 28652316。抄録・著者公開Fig. 2の手技記述を確認。出版社全文は未取得。
- Duet ML, et al. First-in-human Testing of a Novel Sutureless Drain Securement Device: A Randomized Clinical Trial. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2025;13:e6888. 2025年6月23日公開。DOI/全文。PMID 40552068。本文・ライセンス確認。2023年の学会抄録と重複計上しない。
- Kaibori M, et al. Prospective Study to Evaluate the Safety and Efficacy of a New Surgical Tube Fixation Method: A Pilot Study. World J Surg. 2022;46:542–549. 2021年11月12日オンライン公開、2022年3月掲載号。DOI/PMID 34773134。抄録のみ確認。
- Asciak R, et al. British Thoracic Society Clinical Statement on pleural procedures. Thorax. 2023;78(Suppl 3):s43–s68. DOI/学会公開資料。固定・側孔の皮下移動・再挿入に関する記述を確認。
- Agency for Clinical Innovation, NSW. Pleural Drains in Adults: Secure the drain and connections/Pleural drain complications。公式Consensus Guidelineの該当ページ確認、2026年10月30日閲覧。
- The Catheter Fell Out. Ann Thorac Surg Short Rep. 2025;3:281–285. doi:10.1016/j.atssr.2024.07.009。PMID 40098836。出版社抄録のみ確認。2025年は掲載号年であり、本稿では初回オンライン日を未確認。
- Memorial Sloan Kettering Cancer Center. Caring for Your Jackson-Pratt Drain;University Hospitals Sussex NHS Foundation Trust. Going home with a wound drain。公式患者教育資料の該当記述を確認、2026年10月30日閲覧。比較試験ではない。
論文図の転載条件
掲載した原著図は3点。図1は文献2のFig. 2、図2・3は文献3のFig. 1・3。それぞれCC BY 4.0であり、各図に第三者の別条件の表示は確認されなかった。著者、原著、ライセンス、変更なしをキャプションに明記し、原図の内容を変更せず掲載した。
Heskinらの図はAll rights reserved、K-LOCK論文はCC BY-NC-ND 4.0のため、本記事では転載せず原著へリンクする。Ablettらの手技図、Nonaht論文の図、NSW資料内のBMJ転載図も、今回の再転載条件を確認できなかったため掲載していない。無料で読めることと、自由に転載できることは異なる。


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