熱傷勉強会「熱傷専門施設に送るまでに何をすればいいのか?」(中京病院 救急科 黒木雄一先生)

熱傷患者を専門施設へ搬送するまでの初期対応の記事アイキャッチ

BELL’S STUDY NOTE

ひとことで言うと:初療での問診が専門施設での方針決定を左右する。火炎は屋内か屋外か・汚染水への曝露、高温液体は電気ケトルの湯か、化学は安全データシート(SDS)、電撃は電圧・直流か交流か・周波数を必ず聞く。

勉強した日:2023-10-24(録画を2026-10-14に見直し) / きっかけ:録画した講演・勉強会

医療従事者向け:本記事は教育・一般的な医学情報のための記事です。個々の患者の診断・治療を代替しません。

目次

要点

  1. 初療での問診が専門施設での方針決定を左右する。火炎は屋内か屋外か・汚染水への曝露、高温液体は電気ケトルの湯か、化学は安全データシート(SDS)、電撃は電圧・直流か交流か・周波数を必ず聞く。
  2. 熱傷面積の過大評価が多い。I度熱傷は面積に含めない。散在する熱傷や10%前後の熱傷は手掌法(患者の手掌=1%)で評価する。
  3. 気道熱傷を疑っても全例挿管ではない。中京病院の検討では、熱傷面積27%未満・COHb 4%未満・頸部熱傷なし・嗄声なしの4条件をすべて満たした例は全員挿管不要だった。
  4. 初期輸液は細胞外液。ABLSの式は 2mL×体重×熱傷面積(小児は3mL+維持輸液)、尿量0.5mL/kg/時を目標。計算に手間取るなら簡易法(14歳以上500mL/時など)でよく、転送を遅らせない。
  5. 創処置は初期はII度でもIII度でもワセリン+ガーゼでよい。ゲーベンクリームをII度熱傷に使わない。予防的抗菌薬は原則不要だが、小児と汚染水曝露例には投与している。

導入

松七五三先生は半田病院で研修ののち倉敷中央病院で外傷外科に従事し、前年に3か月間中京病院で熱傷を研修した縁で本会を企画した。中京病院は、焚き火で全身約80%の熱傷を負った男児に230人が皮膚を提供して救命された出来事を機に熱傷の病院として知られ、熱傷のDPC症例数は10年以上全国1位(2位の約2倍)。愛知県内のほか三重県、岐阜県からも搬送がある。

1. 来院時の情報収集

熱傷は火炎熱傷、高温液体熱傷、高温固体熱傷(接触熱傷)、化学熱傷、電撃傷に分類され、火炎と高温液体が多い。

火炎熱傷では屋内か屋外かを確認する。閉鎖空間での受傷は気道熱傷のリスクが高い(J Bras Pneumol 2013)。汚染水(川、池、農業用水などの淡水)で消火・冷却していないかも重要で、Aeromonas hydrophila による壊死性軟部組織感染を起こしうる。車両炎上後に農業用水に浸かった50歳代男性で筋膜・筋まで壊死した報告(前橋赤十字病院、熱傷 2022)が紹介された。

高温液体熱傷は小児に圧倒的に多い。中京病院の小児入院例の集計では、電気ケトルが0歳で1位、1歳で2位、2歳以上で3位。受傷原因別のロジスティック回帰では電気ケトルの湯だけが手術を要する有意な危険因子で、手術が必要になる頻度は他の原因の約6倍(スライド)。90度以上の湯であること、湯こぼれ防止機能のない機種があることが理由。

化学熱傷は労災が多い。事業所は安全データシート(SDS)を持っているので、救急要請を受ける時点で持参を依頼する。忘れた場合も薬品名が分かれば厚生労働省「職場のあんぜんサイト」で検索できる。

電撃傷は、1000V以上が高電圧電撃傷で重篤な損傷が多い(高圧線6600V、低圧線200V、家庭用は多くが100V)。直流より交流が危険(持続的な筋収縮で電源から手が離せなくなる)。周波数は低いほうが危険で、40〜100Hzで心室細動が起こりやすい。

小児では虐待スクリーニングを行う。BuRN tool(Burns Risk assessment for Neglect or abuse tool)は7項目で、児童相談所への相談・通報歴3点、III度熱傷あり2点、親の説明が不審(発達段階に合わない、受傷状況と部位・大きさが矛盾、浴室での受傷)2点、5歳未満2点、親の監視が不十分1点、非典型的な受傷部位(背部、殿部、鼠径部、毛髪内)1点、一側でなく両側の手や足の受傷1点。合計3点以上で児相への介入依頼を考慮する。

症例: 1歳5か月男児。加湿のため床に置いた熱湯入り洗面器をひっくり返し、背部・殿部・両下肢に22%TBSAのII度熱傷。BuRN toolは5点。児相に連絡し通報歴なしを確認。明らかな虐待は疑わなかったが母の育児ストレスが強く、支援が必要と判断した。入院3日目から児相派遣の養母が付き添いを代行し、母は3歳の姉の育児に専念できた。腰部に残った潰瘍に16病日に分層植皮、22病日に退院(スライド)。児相への連絡は親を疑うためではなく公的支援を引き出す手段であり、早めの連絡がよいとされた。

2. 熱傷深度の評価

I度は表皮内(日焼けと同程度)で熱傷面積に含めない。浅達性II度(SDB)は真皮浅層まで、薄いピンク色で水疱を形成し、多くは手術なしで治る。深達性II度(DDB)は真皮深層まで、紅色で、上皮化に1か月ほどかかり手術を要することが多い。III度は皮膚全層の壊死で白色調、手術が必要。IV度は脂肪・筋・骨に及び、切断を要する場合がある。

肉眼だけでの深度判定は難しく、受傷機転と合わせて判断する。深さは「温度×時間+患者因子」。温度は火が湯より高く、電気ケトルの熱湯はカップのお茶より高い。時間は熱からの逃避の遅れ(高齢者、受傷時のてんかん・CO中毒・脳卒中などの意識障害)で長くなる。皮膚の薄い高齢者・小児、血流の悪い高齢者の膝下は深くなりやすい。質疑では、初療でSDBかDDBかまで判定する必要はなく「おそらくII度」「白いのでIII度と思う」程度でよいと回答された。

3. 熱傷面積の評価

成人は9の法則、小児は頭部の比率が大きいことを考慮した法則、専門施設ではLund & Browderの法則を用いる。熱傷が飛び地状に散在する場合や10%前後の場合は手掌法が使いやすい。

症例: 2歳男児、カップの熱湯で体幹前面と背部に帯状の熱傷。前医で20%と評価され転送されたが、手掌法では5%程度で入院不要と判断し帰宅、翌日の形成外科では2%程度の評価だった。オーバートリアージの容認は原則だが、遠方からの搬送後に説明が食い違うとトラブルになりうる。救急隊の過大評価も多い。

4. 気道熱傷と挿管

気道熱傷(吸入損傷)は、上気道の浮腫による気道閉塞、下気道の損傷による肺炎・急性肺障害に加え、CO中毒とシアン中毒を伴う。身体所見はABCDで見る。A: 嗄声、鼻毛の焼失、鼻・口腔内のスス、顔面熱傷。B: 頻呼吸、努力呼吸、陥没呼吸。C: 熱傷性ショックによる頻脈、合併外傷の検索。D: CO・シアン中毒による意識障害、脳卒中が先行した可能性。

診断の標準は気管支鏡(喉頭の腫脹、気管内のスス、粘膜の壊死)。CTでは気管分岐部から2cmの気管支壁の厚さが人工呼吸期間や肺炎発症と相関したとの報告がある(山村ら、Crit Care 2013)。COHbは喫煙の有無で異なるが、おおむね5〜10%以上を高値とみる。シアンは直接測定が難しいので乳酸で代用し、8mmol/L(72mg/dL)以上でシアン中毒を疑う。病院前では酸素投与、CO中毒で徐呼吸ならマスク換気をしながら搬送する。入院後は酸素投与、気管挿管・人工呼吸、吸痰、吸入療法、抗菌薬、肺理学療法。

挿管の目的は気道閉塞の回避、確実な酸素投与、効率のよい吸痰だが、鎮静薬と陽圧換気による循環抑制から過剰輸液につながること、人工呼吸器関連肺炎という害がある。顔や鼻毛がススで汚れているだけで挿管するのは避ける。中京病院では気管支鏡で、喉頭の腫脹が声門上に及ぶか、気管内に大量のススがあるかを基準にしてきた。

一方、入院時の気管支鏡施行群で肺炎(OR 2.72)、死亡(OR 1.26)が多く、入院日数、ICU日数、人工呼吸器装着期間も長かったというマッチング研究(Burns 2019)があり、気管支鏡にも害がありうる。中京病院では直送された熱傷患者80例(挿管34例、非挿管46例)で気管支鏡以外の所見を比較した(Acute Medicine & Surgery 2017)。有意差があったのは熱傷面積、顔面熱傷、頸部熱傷、呼吸補助筋の使用、COHbで、鼻毛の焼失には有意差がなかった。決定木では第1分岐が熱傷面積27%(以上で86%、未満で25%が挿管)、第2分岐がCOHb 4%(以上47%、未満15%)、第3分岐が頸部熱傷、第4分岐が嗄声で、4条件をすべて満たす例は全員挿管なしで経過した。

考察: 熱傷面積が大きいと血管透過性亢進で気道を含め全身が浮腫になりやすい(転送する広範囲熱傷は挿管しておくのが無難)。COHb高値は意識低下による気道閉塞、頸部熱傷は浮腫で喉頭が前方から圧排されること、嗄声は喉頭浮腫による声帯運動の制限を示す。

5. 重症度評価

指標は熱傷面積、Burn Index(III度面積+II度面積×1/2)、PBI(年齢+Burn Index)。気道熱傷はDPCデータの解析で、存在だけでは死亡率に有意差がなく、挿管を要する場合に差が出たとのこと。一般に熱傷面積30%以上(文献により20%以上)、Burn Index 15以上、PBI 100以上を重症とする。中京病院の2011〜2020年のデータではPBI 110を超えると死亡率が6割を超え、130以上では生存例がなかった(翌2021年にPBI 135の救命例あり)。救命救急センター評価上の重症熱傷は、II度30%以上、III度10%以上、顔面・手・足の熱傷、気道熱傷の疑い、軟部組織損傷や骨折の合併。

6. 初期輸液

従来のBaxter式(4mL×体重×熱傷面積、尿量0.5〜1mL/kg/時)は過剰輸液につながるとされ、米国熱傷学会のABLSは 2mL×体重×熱傷面積を推奨(半量を最初の8時間、残りを16時間で投与する点は同じ)、尿量目標は0.5mL/kg/時。小児は 3mL×体重×熱傷面積に、4-2-1ルールの維持輸液を加える。

練習問題: 88歳女性、仏壇のろうそくで受傷し1時間後に来院、20%TBSA、体重50kg、高血圧あり。製剤は細胞外液(乳酸リンゲルか重炭酸リンゲルかにはこだわらない)。高張乳酸食塩水(HLS)は塩分負荷が大きく、高齢・高血圧例では避ける。速度は 2×50×20=2000mL、その半量1000mLを残り7時間で入れるので約143mL/時。

ABLSの簡易法は5歳以下125mL/時、6〜13歳250mL/時、14歳以上500mL/時。計算に時間をかけて転送が遅れるより、簡易法で開始して送ってよい。

7. ドレッシングと外用剤

ドレッシングは開放性ドライ(ガーゼ、サラフィット、メロリン、エクスドライ)、開放性ウェット(サンドガーゼ、モイスキンパッド、ズイコーパッド、ハイドロサイト)、閉鎖性ウェット(サランラップ、オプサイト、デュオアクティブ)に分けて考える。迷ったら乾いたガーゼでよいが、創面に固着して痛いのでワセリンを伸ばす。開放性ウェットは単独で使える。閉鎖性ウェットは初期の短時間の被覆にはよいが、貼りっぱなしにすると細菌が増殖する。小児の肩・頸部周囲の熱傷にはポンチョ型に加工した被覆材が便利(夏井睦先生の紹介例)。

外用剤は初期はII度でもIII度でもワセリン(プロペト)でよい。ワセリン基剤のアズノール、バラマイシンも可だが、バラマイシンに含まれるフラジオマイシンが耐性緑膿菌を誘導したという報告がある。エキザルベは混合死菌浮遊液を含み意義がはっきりせず、ステロイドを含むため初期には勧めず、過剰肉芽や治癒過程の痒みに使う。ゲーベンクリームはIII度熱傷が適応で、II度に使うと治癒を遷延させ、手術不要だった創が深くなることがある(クリーム基剤は界面活性剤で組織障害性があるとの説明)。

8. 予防的抗菌薬

熱傷に対する予防的抗菌薬を支持するエビデンスはなく、原則として行っていない。例外として、小児は感染に弱く、予防投与がToxic shock syndromeの発生を抑えたという単施設研究や自施設でのTSS死亡例の経験から、セファゾリン(静脈路あり)またはセファレキシン(ケフレックス、内服)を投与している。汚染水への曝露が疑われればAeromonas対策としてニューキノロン系を投与する。第3世代セフェムも有効とされるが、セフトリアキソンは耐性のことがある。

質疑

  • 経過中に呼吸状態が悪化して挿管・転送となった気道熱傷例について: 初期評価では嗄声の有無などを重視する。大丈夫そうに見えても1日は入院で経過観察することが重要。
  • 4条件を満たす場合の実際: 当時の検討は全例に気管支鏡を行い、その所見で挿管を決めたうえでの後ろ向き比較。現在は担当医の判断によるが、黒木先生は4条件がそろえば気管支鏡も行わず経過を見ている。
  • 体表熱傷がほとんどない気道熱傷の輸液: 決まったものはない。挿管していればそれなりの量が必要。非挿管なら維持量より少し多め(維持80mL/時なら100mL/時程度)で、尿量を指標に調整する。
  • アルブミン: 最近は肯定的な報告が増えている。公式どおりに始め、尿量確保に公式の3倍程度の輸液が必要になる場合に併用している。

学び・実践へのポイント

  • 救急要請の電話の時点で、屋内か屋外か、汚染水の使用、電気ケトル、SDSの持参、電圧を確認する。
  • 面積はI度を除外し、小範囲・散在例は手掌法で数える。深度は大まかな記載で足りる。
  • 挿管の判断はススの有無ではなく、熱傷面積、COHb、頸部熱傷、嗄声で考える。広範囲熱傷の転送時は挿管が無難。挿管しない場合も1日は入院で観察する。
  • 血液ガスでCOHbと乳酸を確認する(乳酸8mmol/L以上はシアン中毒を疑う)。
  • 輸液は細胞外液をABLSの式か簡易法で開始し、創はワセリンとガーゼで覆って早く送る。ゲーベンは初期に使わない。
  • 小児ではBuRN tool 3点以上で児相への相談を考える。小児には第1世代セフェム、汚染水曝露にはニューキノロン系の予防投与を検討する。

自分用メモ

(迷ったところ、自施設での運用、次に調べたいこと)

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確認の範囲

このノートは、録画の音声の自動文字起こし(Notta)とスライドの画像から作成した要約である。音声認識の誤りは文脈とスライドで補ったが、数値や固有名詞には聞き取りの誤りが残り得る。演者の発言とスライドの内容を整理したもので、言及された論文やガイドラインの原著とは照合していない。

このノートは外傷外科医ベル個人の勉強メモです。演者の見解を記録したもので、実際の診療では最新のガイドラインと各施設の方針を確認してください。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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