縫合針と縫合糸を徹底解説|RB-1・SH-1、太さ・吸収期間、STRATAFIXと創感染・閉鎖時間

縫合針と縫合糸:RB-1・SH-1、太さ・吸収期間、STRATAFIXと創感染・閉鎖時間。ベルの勉強部屋のノート風アイキャッチ

BELL’S STUDY ROOM / 縫合針と縫合糸

針は「どこを、どう通すか」。
糸は「どれだけの期間、何を支えるか」。

RB-1・SH-1、USPサイズ、抗張力と吸収、STRATAFIX、SSI、閉鎖時間を一つにつなげて理解する。

「3-0のバイクリル、SH-1で」「筋膜はPDS」「ここはSTRATAFIX」。手術室では短い言葉で物品が指定される。しかし、針の型番、針長、針線径、糸の太さ、糸長、材質、支持期間は、それぞれ別の情報である。商品名だけを覚えても、別の組み合わせを渡されたときに選択の理由を説明しにくい。

この記事では、一般外科・救急外科でよく遭遇する製品を中心に、パッケージの読み方から臨床研究までを整理する。製品仕様はメーカー資料と国内電子添文、患者アウトカムは臨床研究に基づき、最後に実際の選び方へつなげる。資料確認日:2026年10月25日。規格・販売構成・使用方法は改訂されるため、実際に使う製品の電子添文と包装表示を優先する。

先に押さえる5点

  1. RB-1・SH-1はEthiconの針の型番。糸の材質や太さを表す番号ではない。
  2. USP 3-0は0.3 mmという意味ではない。針の17 mm・22 mmと、糸の70 cmも別である。
  3. 「完全吸収まで約3か月」と「3か月間、創を支える」は違う。
  4. 有棘構造と抗菌コーティングは別の要素。閉鎖が速いことと、SSIが少ないことも別の評価項目である。
  5. 糸の銘柄だけでなく、拾う層・bite・張力・血流・感染源の管理が閉鎖の成否を左右する。
目次

「時間」を4つに分ける

「創閉鎖にかかる時間」という表現には、術者が縫い終える時間と、患者の創が治る時間が混在しやすい。縫合材料を考えるときは、さらに糸の強さと吸収を分ける必要がある。

時間 何を表すか 判断に使う場面
閉鎖作業時間 筋膜・皮下・皮膚などを縫い終えるまでの分・秒 有棘糸、連続縫合、結節縫合、ステープルの比較
創傷治癒・組織強度の回復 上皮化、コラーゲン形成、組織の再構築 どの層に、どれほど長い支持が必要か
抗張力保持期間 埋植した糸に、どれだけの強さが残るか 早期に支持を失う糸でよいか、遅延吸収糸が必要か
吸収期間 糸の物質が分解・吸収されるまでの期間 長期間の異物残存、触知、糸の露出などの理解

皮膚表面が閉じても、筋膜が十分な強度を回復したとは限らない。糸が残って見えても、機械的な支持力はほぼ失われていることがある。 また、閉鎖時間を短縮した研究から、創傷治癒そのものが早くなるとは結論できない。[1][2]

パッケージを読めると、手術室の指示が理解できる

たとえば「3-0/70 cm/RB-1/17 mm/1/2 Circle」と表示されていれば、以下のように読み分ける。これは表示項目を理解するための例であり、特定の国内製品コードを指定するものではない。

表示 意味 混同しやすい点
PDS、VICRYL、MONOCRYLなど 製品群。材質・構造・吸収特性を確認する入口 商品名だけでは針や糸長までは決まらない
3-0/metric 2 糸の太さの規格 針の太さではない。3-0=0.3 mmでもない
70 cm 糸の長さ 針長17 mmとは別の寸法
RB-1 針の型番 メーカー固有。材質や糸の太さの名称ではない
17 mm 針の長さの表示 糸の直径でも、針の円の直径でもない
1/2 Circle 針の曲率・形状 「針長の半分」という意味ではない
Taper/Reverse cutting 針先・断面の設計 丸針・角針の使い分けに関係する
Dyed/Undyed 着色/無着色 同じ材質でも抗張力保持の表示が異なる場合がある
両端針・ループ・CR等 糸と針の構成、意図された分離機構など ループ糸と有棘糸の始点ループは別の話

針を両端に付けたdouble-armed、1本の針に糸をループ状に取り付けた製品、一定の力で糸針を分離できるCONTROL RELEASEは、それぞれ用途が異なる。「針が糸から外れた」ことが、必ずしも同じ機序の不具合とは限らない。 製品コード・針数・構成まで確認する。[3][4]

縫合針の基本:針先、曲率、針長、針線径

丸針と角針は「どちらが上か」ではなく、組織への入り方が違う

針の設計 主な特徴 選択を考える場面・注意点
丸針/taper point 尖端からなだらかに太くなり、組織を押し広げて通る 消化管、血管、筋膜など。硬い組織に抵抗が強いときは無理に押し込まない
通常のcutting 三角形の切刃を持つ 硬い組織の刺通を助けるが、創縁側への切れ込みに注意する
逆三角針/reverse cutting 主な切刃が彎曲の外側にある 皮膚・真皮など。創縁を切り裂かないbiteと張力が必要
Taper-cut 切れる尖端と丸い胴部を組み合わせる 硬い組織への入りやすさと通過後の組織損傷を両立させたい場面
鈍針/blunt point 鋭い針先を避けた設計 適した組織では手袋穿孔・針刺し対策の選択肢。皮膚など、抵抗の大きい組織に無理に使わない

「丸針なら組織を傷つけない」「逆三角針ならcut-outしない」という理解は不十分である。針の穴に加え、糸を締めたときの圧力や、浮腫・脆弱性・虚血が関係する。針の抵抗が大きいときは、先端の摩耗、運針方向、把持位置、針のサイズや設計を見直す。[5]

3/8、1/2、5/8の違い

3/8円は135度、1/2円は180度、5/8円は225度の円弧に相当する。浅い術野では3/8円、深い術野では1/2円や5/8円を検討するが、これは作業空間との関係を理解する目安であり、臓器ごとの絶対的な指定ではない。

針を前方へ直線的に押すのではなく、針の彎曲に合わせて回転させる。深い骨盤のように手や鉗子を動かす空間が少ない場所では、曲率が運針のしやすさに影響する。同じ針長でも、曲率が違えば先端と糸針接合部の距離や占有する空間は違う。[5]

針長は針に沿った長さとして扱われ、先端から接合部までを直線で結ぶ「弦長」や、針が描く円の直径とは区別する。カタログには弦長を別に示す場合もある。17 mmという数字だけで、取りたいbiteの幅を17 mmと決めることはできない。[3]

RB-1、SH-1、SHはどれくらいの大きさか

下表はEthicon公式カタログにある代表的な仕様。型番はメーカー共通の国際規格ではない。 国内での販売構成、針先の追加仕様、製品コード、包装表示を確認して選択する。[3]

針型番の例 代表的な針長 曲率 カタログ上の針先
RB-1 17 mm 1/2円 Taper point
SH-1 22 mm 1/2円 Taper point
SH 26 mm 1/2円 Taper point
CT-2 26 mm 1/2円 Taper point
CT-1 36 mm 1/2円 Taper point
CT 40 mm 1/2円 Taper point
FS-2 19 mm 3/8円 Reverse cutting
FS-1 24 mm 3/8円 Reverse cutting

RB-1→SH-1→SHは針長をイメージする入口になる。一方、SHとCT-2は代表的な針長が同じでも、同じ針だとはいえない。 針長・針先だけでなく、胴部の設計、針線径、合金、コーティング、保持したときの変形しにくさも選択に関係する。

「RB-1の針の太さは何mmか」という疑問では、17 mmは答えにならない。それは針長である。針線径を知りたい場合は、使っている製品コードに対応するメーカー資料を確認する。 型番の数字や、付いている糸の号数から自動的に換算しない。[5]

糸の太さ:3-0、4-0、0号、metricを読み分ける

USP表記は「0の数が増えるほど細い」。6-0→5-0→4-0→3-0→2-0→0→1→2の順に太くなる。0より太い領域では数字が大きいほど太い。日本語の「3号」と「3-0」は別物なので、口頭指示でも省略しすぎない。

以下は、メーカー総合カタログに掲載された合成吸収性縫合糸のUSP直径規格の代表範囲である。規格は材質・分類によって扱いが異なり、有棘糸の公称号数には特別な説明が付く場合がある。[4]

USP Metric 糸の直径範囲の例
6-0 0.7 0.070–0.099 mm
5-0 1 0.100–0.149 mm
4-0 1.5 0.150–0.199 mm
3-0 2 0.200–0.249 mm
2-0 3 0.300–0.339 mm
0 3.5 0.350–0.399 mm
1 4 0.400–0.499 mm
2 5 0.500–0.599 mm

太い糸は一般に強度を確保しやすいが、組織を通す異物量や結節の体積も増える。一方、細くすれば常に良いわけではなく、破断や組織への食い込みが問題になる。必要なのは、組織と手技に必要な支持を確保できる範囲で、過大な糸を避けることである。[3][2]

同じ3-0でも、材質、モノかブレイドか、有棘加工、結節の有無によって実際の支持は変わる。「号数が同じだから、結紮後の強度や組織保持力も同じ」とは扱わない。

材質を理解する:吸収性/非吸収性、モノ/ブレイド

モノフィラメントとブレイド

モノフィラメントは1本の線状構造、ブレイドは複数の細い線維を編んだ構造である。ブレイドはしなやかで扱いやすく、結びやすい製品が多い。モノフィラメントは組織を通る際の滑らかさや毛細管現象の少なさが利点となる一方、製品によっては巻き癖、滑りやすさ、結節の作りにくさがある。

「ブレイド=感染する、モノ=感染しない」と単純化しない。構造は細菌付着や液体の移動に関係するが、臨床のSSIは手術創分類、汚染、血流、デッドスペース、患者因子、予防策の影響を受ける。材質を変えただけの効果と、縫合法まで同時に変えた効果を分けて読む。[3][2][6]

合成吸収糸と天然由来の糸

PDS、VICRYL、MONOCRYLなどの合成吸収糸では、主として加水分解によって強さが低下し、物質が吸収される。天然由来の腸線などでは分解機序や組織反応が異なる。吸収性という大分類だけで、支持期間や反応性を同一視しない。[1]

また、「非吸収性」は永久に同じ強度を保つという意味ではない。シルクやナイロンは長期的な強度低下を考慮する必要がある。表皮の一時的な縫合と、長期の荷重を担う再建・固定では要求される特性が違う。[3]

主要な吸収糸:抗張力と吸収期間の早見表

数値は参照資料の代表的な概算値であり、ヒトの各患者で同じ日付に同じ強さになることを保証するものではない。染色、号数、実験条件、基準値が異なるため、百分率だけで別製品の優劣をつけない。[1][7][8][9]

製品・材質 構造 抗張力保持の代表値 吸収の代表期間
VICRYL/VICRYL Plus:polyglactin 910 ブレイド 約2週75%。6-0以上は3週50%、4週25%。7-0以下は3週40%の表示 約56–70日
VICRYL RAPIDE:polyglactin 910 ブレイド 約5日50%、10–14日でほぼ0% 約42日
MONOCRYL無着色:poliglecaprone 25 モノ 約1週50–60%、2週20–30% 約91–119日
MONOCRYL着色 モノ 約1週60–70%、2週30–40% 約91–119日
PDS II/PDS Plus:polydioxanone、3-0以上の太いもの モノ 約2週80%、4週70%、6週60% 約182–238日
PDS II/PDS Plus、4-0以下の細いもの モノ 約2週60%、4週40%、6週35% 約182–238日
Biosyn:glycomer 631 モノ 約2週75%、3週40%〔USP/EP最小結節強度に対する表示〕 約90–110日
Maxon:polyglyconate モノ 約2週75%、3週65%、4週50%、6週25% 約180日

VICRYLの3週・4週の表示には号数による条件がある。PDS Plusの国内電子添文では、3-0以上と4-0以下を分けて表示している。同じPDSでも、細い糸のデータを太い糸へ、あるいはその逆へ一律に当てはめない。[1][7]

「3か月で吸収するから、3か月支える」は誤り

MONOCRYLは物質として約91–119日で吸収される一方、無着色の抗張力は2週で約20–30%に低下する。VICRYL RAPIDEも、吸収完了より先に強さがほぼ失われる。短期間の支持が目的の製品を、長期の張力がかかる層へ、吸収期間だけを根拠に選ばない。[10][1]

PDSのような遅延吸収糸は、治癒に時間を要する層での支持を考える選択肢である。ただし、長く残ればどの層でも良いわけではない。浅い層に大きな結節を置いた場合の触知や露出、局所反応なども考える。真皮縫合の目的と筋膜縫合の目的は異なる。

抗菌糸の「Plus」は何を加えているか

VICRYL PlusやPDS Plusでは、トリクロサンによって糸の表面での細菌のコロニー形成を抑える設計が追加される。抗菌糸は感染創を治療する薬剤の代わりではない。 デブリードマン、排膿、感染源の制御、適切な周術期抗菌薬などを行った上での補助策として考える。[11][7]

非吸収糸をどう使い分けるか

材質・製品例 代表的な構造 選択の要点
シルク 天然由来、ブレイドが一般的 結紮操作に慣れやすいが、体内では異物。汚染、長期残存、組織反応を考慮する
ナイロン:ETHILON、MONOSOF等 モノが代表的。NUROLON、SURGILON等の編糸もある 表皮縫合で広く用いられる。抜糸計画と結節の安定性を考える
ポリプロピレン:PROLENE、SURGIPRO等 モノ 長期支持や血管縫合などで用いられる。滑りやすさを踏まえて結節を形成する
ポリエステル:ETHIBOND、TICRON等 ブレイドが代表的 長期の固定などで用いられる。被覆の有無、目的、感染時の異物残存を確認する

商品名と化学名、構造をセットで覚えると、別メーカーの製品に置き換わっても比較しやすい。「ナイロンだからモノ」と決めつけず、製品を確認する。[3][9]

STRATAFIXとV-Loc:有棘糸は「結ばない糸」以上の設計である

表面の返しやアンカーが組織を保持し、糸の逆戻りを抑える。連続縫合中の張力保持や糸送りを助け、結紮操作を減らせることが利点である。一方、引きすぎたときに戻しにくいこと、返しを組織外へ露出させたときの影響など、通常糸と違う管理が必要になる。

SymmetricとSpiralを同じものとして説明しない

製品群 構造・始点の考え方 抗張力・吸収の表示例
STRATAFIX Symmetric PDS Plus コア、アンカー、固定用タブを一体成形。単方向のデバイス 国内添文:14日75%、28日65%、42日55%。約210日で吸収
STRATAFIX Spiral PDS Plus〔単方向〕 螺旋状のバーブ。始点ループを用いる構成 国内添文:3-0以上は14日80%、28日80%、42日40–70%。4-0は14日67%、28日50%、42日37%。約210日で吸収
STRATAFIX Spiral PDS Plus Bidirectional 中央から両方向へ進める構成。単方向製品と使用方法が異なる 当該製品の国内電子添文で号数別の表示を確認
V-Loc 90 単方向有棘糸。90は製品系列名 吸収性。メーカー資料では吸収は約90–110日
V-Loc 180 単方向有棘モノ、polyglyconate 吸収性。代表的な吸収は約180日

SymmetricとSpiralの上記数値は、それぞれの国内電子添文に記載されたもの。Spiralでは残留抗張力がUSP結節抗張力規格値に対する比率と説明されており、通常糸の「元の強度に対して何%残るか」と同じグラフに並べて比較することはできない。[12][13][14][15]

さらに、単方向Spiral PDS Plusの国内添文では、糸の直径は公称号数より1サイズ上のUSP規格に適合すると説明される。これは有棘加工後の強度規格との関係で理解するべき事項であり、「有棘糸はすべて1号数上」「有棘3-0は通常3-0と全く同じ直径」という共通則にはしない。[13]

始め方・終わり方は製品ごとに覚える

Symmetricの固定用タブ、SpiralやV-Locの始点ループ、Bidirectionalの中央部からの運針は、同じ手順ではない。終点の返し縫い、回数、糸を切る位置、組織内への収納も製品・縫合対象によって異なる。国内添文ではSymmetricとSpiralで具体的な操作がそれぞれ示されている。「どの有棘糸も、とりあえず2針戻して切る」と一般化しない。[12][13]

従来糸の結び目をそのまま追加すれば安全性が上がるとも限らない。V-Locでは結節によるバーブ損傷を避けるための注意が示されている。手技の記憶を別製品へ移す前に、その製品の説明を確認する。[15]

腹腔内に露出した糸端は独立したリスクになる

有棘糸の露出した糸端やバーブが小腸・腸間膜に引っ掛かり、腸閉塞や捻転、穿孔に至った症例報告がある。症例報告だけから頻度は推定できないが、吸収性だから、露出した糸端を残しても問題ないとはいえない。 国内のSymmetric・Spiral添文にも、小腸や腸間膜への引っ掛かり等に関する注意がある。[16][12][13]

腹膜・TAPP・骨盤内縫合などでは、閉鎖直後に糸端が腸管に接触していないか、組織の動きで露出しないかまで確認する。尾部を短く切る、収納するなどの処理は当該製品の手順に従う。特定の尾部長や追加操作を、すべての製品に共通する安全基準として示すことはできない。

創感染のエビデンス:抗菌性と有棘構造を分けて読む

抗菌糸はSSIを減らすのか

2025年のメタ解析は31件のRCT、17,968人を統合し、トリクロサン含有糸でSSIが少ないことを報告した。統合RRは0.75(95% CI 0.65–0.86)、確実性は中等度である。一方、手術、創分類、縫合層、SSIの評価などには違いがある。[6]

研究 対象・比較 主な結果 読み取る際の限界
Jalalzadehら、2025 31 RCT、17,968人。トリクロサンあり/なし SSI:RR 0.75、95% CI 0.65–0.86 異質性I²=43%。特定の術式・層で同じ効果とは限らない
FALCON、2021 低・中所得国の腹部手術、計5,788人。抗菌糸/非抗菌糸 準清潔:14.7%対16.3%、RR 0.90(0.77–1.06)。汚染・不潔:29.4%対30.7%、RR 0.98(0.87–1.10) 各層で優越性を示さず。日本の手術環境へ一律には置き換えられない

メタ解析が有利でも、大規模RCTが一様に陽性というわけではない。FALCONで有意差がないことは「効果が絶対にゼロ」と同義ではなく、メタ解析で全体の効果が示されたことも「すべての患者で必ず効く」とは異なる。[17]

絶対効果は元のリスクに依存する。 以下はRR 0.75がそのまま適用できると仮定した計算例で、特定施設の実測結果ではない。SSIリスク10%なら7.5%となり、絶対差2.5ポイント、NNTは約40。元のリスク2%なら1.5%、絶対差0.5ポイント、NNTは約200となる。

国内では『消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2025』のCQ7-2が、筋膜閉鎖における抗菌吸収糸と非抗菌吸収糸の比較を扱っている。本記事では公開資料で確認できた臨床研究を示しており、同ガイドライン本文の推奨強度を推定して転記してはいない。[18]

STRATAFIXなら通常糸より感染が少ないのか

緊急腹部手術のRCTでは、Symmetric、PDS Plus、PDSを比較した。解析対象は各47、45、47例で、切開創SSIは6.4%、8.9%、23.4%であった。SymmetricとPDS Plusの間ではSSIに有意差は示されていない。抗菌性の有無と、有棘構造の有無を分けて考える必要がある。[19]

この研究は小規模で、主解析がper-protocol、追跡は30日である。創離開等の有利な結果も報告されたが、長期ヘルニア予防や、あらゆる緊急手術での優越性まで確定するものではない。

一方、2026年のTKAを対象とした5 RCT・1,035人のメタ解析では、有棘糸で閉鎖時間が短い一方、表在感染が多い結果が報告された〔OR 2.33、95% CI 1.07–5.05〕。術式や使う層が違うため、これをそのまま腹部筋膜に当てはめることもできない。「有棘」という分類全体に、安全・危険のどちらか一つのラベルを付けない。[20]

閉鎖時間はどれくらい変わるのか

有棘糸の時間短縮は、糸を保持する補助や結紮の省略などが関係すると考えられる。ただし、多くの比較は「通常糸から有棘糸へ」だけでなく、結節から連続へ、糸の本数、針、bite、術者の慣れまで同時に変わっている。

研究・閉鎖する層 比較 報告された時間 適用時の注意
大腸手術の筋膜、2026年の後ろ向き比較 トリクロサン有棘糸/従来の結節縫合 中央値6.8分/8.6分、p=0.002 背景差のある観察研究。有棘糸単独の効果とは断定できない
TKAの関節切開部、60人のRCT〔2020年オンライン公表〕 有棘連続/通常糸結節 平均3±2分/13±5分 小規模。皮膚や腹部筋膜に同じ短縮幅は期待できない
STITCH、待機正中切開 Small bites/large bites 平均14±6分/10±4分 良いアウトカムの手技が、必ず速いとは限らない
日本の待機大腸癌手術、1,264人のRCT 皮内縫合/皮膚ステープル 皮内縫合が約5分長い 30日SSIは8.7%/9.8%、p=0.576。速度とSSIは別の評価

出典:[21][22][23][24]

2026年の大腸手術研究での中央値の差は1.8分であり、「STRATAFIXなら常に10分速い」とは説明できない。一方、小さな時間差でも、多数の症例、助手の糸保持、針の受け渡し、本数の削減などを含めれば現場の意味は変わる。費用を考える際も、糸の単価だけでなく、実際に減った手術室時間や資源を施設ごとに評価する。

なお、筋膜の閉鎖時間、皮下の縫合時間、皮膚閉鎖時間、総手術時間は別である。「closure timeが短い」と書かれた論文では、測定の開始点・終了点と、対象の層を確認する。創長が違う研究間で、分数だけを横並びにしない。

筋膜閉鎖:糸を変える前に、small bitesと張力を確認する

EHS/AHSの2022年ガイドラインは、待機手術の正中切開に対し、遅延吸収糸による連続small-bites閉鎖を提案している。筋膜・腱膜を適切に拾い、糸長/創長比を確保し、組織を締め潰さないことが重要になる。[2]

STITCHでは5 mm幅・5 mm間隔のsmall bitesと、10 mm幅・10 mm間隔のlarge bitesを比較し、1年の切開創ヘルニアは約13%対21%であった。small bites群は閉鎖に約4分長くかかっていた。針や糸の構成も異なっており、biteの幅だけを切り離した実験ではない。[23]

2026年の長期追跡では、13年の累積ヘルニア発生は34%対49%、HR 0.61(95% CI 0.43–0.86)。中央値の観察期間は8年で、全員を13年間同じ方法で撮像した結果ではない。死亡などの競合リスクを考慮した解析であり、長期にsmall bitesの利点が支持された一方、ヘルニアを完全に防げたわけではない。[25]

緊急開腹ではWSESの2023年指針も、遅延吸収糸、連続縫合での糸長/創長比4:1以上、small bitesを提案する。ただしsmall bitesについては待機手術からの外挿を含む。浮腫、脆弱な筋膜、汚染、再開腹、開放腹部、閉鎖時の腹腔内圧などを評価し、待機手術の条件を機械的に当てはめない。[26]

有棘糸でヘルニアを防げると確定しているか

KGOG 4001は婦人科の待機正中切開におけるRCTで、174人が割り付けられ、138人が解析された。有棘群と通常糸群のヘルニア発生は1年0%対1.4%、2年0%対3.4%で、有意差はなかった。イベントが少なく、脱落もあるため、同等性や長期の優越性を断定できない。メーカーからの研究費支援も開示されている。[27]

日本の大腸小切開を対象とするHIBISCUSは、Symmetricによる連続閉鎖とPDS Plusによる結節閉鎖を比較する多施設RCTのプロトコルが公表されている。プロトコルは結果ではない。 有棘構造だけでなくbiteや縫合法も違うため、今後の結果も「どの閉鎖方法全体を比較したか」を踏まえて読む必要がある。[28]

どの層に何を選ぶか:判断の順序と具体例

以下は学習用の選択例であり、特定の銘柄・号数を全例に推奨する表ではない。組織の厚さと脆弱性、創長、張力、感染、患者背景、電子添文、施設の手順を合わせて考える。

場面 まず決めること 針・糸選択の考え方
表皮縫合 真皮で減張できているか、抜糸可能か 皮膚に適した逆三角針等と細い糸を検討。部位に必要な支持を確保し、糸痕を増やさない
真皮埋没・連続皮内 どの深さで張力を分担するか 合成吸収糸を候補に、短期/中期支持、触知しやすさ、結節量、針の取り回しを考える
待機正中切開の筋膜 拾う層、bite、糸長/創長比、張力 遅延吸収糸とsmall bitesを基礎にする。有棘糸を選ぶ場合も、適切な層と張力が前提
脆弱な消化管 血流、張力、拾う層とbite、吻合部の口径 組織を裂きにくい針・号数と必要な支持を選ぶ。速さを理由に一律に有棘糸へ変更しない
血管縫合 血管径、壁の状態、針穴出血、長期支持 微細な針、適切な材質・号数、製品の適応を確認。皮膚用糸の延長で選ばない
汚染・感染創 感染源制御、壊死組織、閉鎖の可否 一次閉鎖するかから検討。抗菌糸を使うことだけで閉鎖の適応は決まらない
腹膜閉鎖・腹腔内での有棘糸 製品の適応、糸端と腸管の位置関係 運針しやすさに加え、始終点の固定と糸端露出を確認する

筋膜閉鎖の基本は上記ガイドライン、材料と有棘糸の扱いはメーカー資料・添文をもとにした臨床的な整理である。[2][26][12][13]

例1:RB-1では取りたい範囲に届きにくい

「SH-1へ変える」は候補になるが、針を大きくすれば解決するとは限らない。まず、取りたい層とbite、視野、持針器での回転、組織の牽引を確認する。針長を大きくした結果、狭い術野で針先を見失ったり、意図しない深い層を拾ったりするなら、その変更は利点にならない。

例2:MONOCRYLを使った後、「糸はまだ残るのに開いた」

残っていることと支持力があることは違う。必要だった支持期間、糸の号数、真皮での減張、感染や虚血、創への反復した負荷を見直す。吸収期間の長短だけを原因にせず、材料と手技の両方を評価する。

例3:STRATAFIXを使って閉鎖が速くなった

次に確認するのは、同じ創長・同じ層で比較したか、縫合法や術者が変わっていないか、締め込みや創離開、SSI、糸端の問題が増えていないかである。時間短縮を記録するときも、安全性を同時に追跡する。

上の3例は説明のための仮想例であり、患者データではない。

安全な取り扱い:針の損傷、糸の損傷、結節

針は先端や糸針接合部を避け、製品の説明に沿った胴部を把持する。針先をつまめば刺通性の低下、接合部を傷めれば針抜け等につながる。変形した針を無理に戻して使い続けず、抵抗が増した場合は針の状態と運針を見直す。[12][13]

糸を鉗子で強く挟む、繰り返し擦る、持針器の歯で傷めると、糸本来の性能を期待できなくなる。特にモノフィラメントや有棘糸では、糸の損傷と表面構造の変化に注意する。

結紮は「何回結べば、どの糸も安全」という共通回数で説明しない。材質、太さ、結び方、組織の動き、湿潤条件、メーカーの推奨を踏まえる。結節の安定性を得ることと、組織を強く締めることは別である。強く締めすぎて血流を落とせば、強い糸を使っていても創は保てない。

適切な組織での鈍針の使用は、針刺し対策の選択肢になる。RCTを統合したCochraneレビューでは手袋穿孔や自己申告の針刺しの減少が報告されているが、すべての組織を鈍針で縫えるわけではない。針の受け渡し、カウント、器械での把持など、基本的な安全対策と組み合わせる。[29]

手術室へ入る前のチェックリスト

  • 層:表皮、真皮、筋膜、消化管、血管のどこを支えるのか。
  • 時間:必要な支持は短期か、数週以上か。吸収日数だけを見ていないか。
  • 材質と構造:吸収/非吸収、モノ/ブレイド、抗菌、有棘を区別できるか。
  • 号数と長さ:USP、metric、糸長、ループ・両端針を確認したか。
  • 針:針先、曲率、針長、必要なら針線径を確認したか。
  • 手技:bite、層、血流、張力、デッドスペースは適切か。
  • 有棘糸:始点・終点の固定、引きすぎ、糸端露出を確認したか。
  • 評価:閉鎖時間だけでなく、SSI・離開・長期ヘルニア・疼痛まで見ているか。

針と糸の選択は、商品名を当てる問題ではない。必要な組織支持を、必要な期間だけ、安全な手技で得るための設計として考えると、RB-1やSH-1、PDSやSTRATAFIXの位置づけがつながる。

参照資料と読み方

製品仕様・取り扱いはメーカー資料と国内電子添文、患者への効果はRCT・観察研究・メタ解析を参照した。メーカーの強度試験や動物試験は、患者のSSI・創離開・長期ヘルニアを直接証明するものではない。推奨する号数や針を一律に固定せず、製品の国内適応と実際の組織条件に合わせて選択する。

  1. メーカー資料
    Ethicon. Suture Strength Retention/Suture Chart. 生体内抗張力保持と吸収の製品資料(2020年表記). 原文・製品資料
  2. 診療指針
    Deerenberg EB, et al. Updated guideline for closure of abdominal wall incisions from the European and American Hernia Societies. Br J Surg. 2022;109:1239–1250. 原文・製品資料
  3. メーカー資料
    Ethicon. Product Catalog. Needle index、製品別の針長・曲率・材質・構成(UK版). 原文・製品資料
  4. メーカー資料
    Medtronic. 縫合糸製品 総合カタログ. パッケージ、USP直径規格、縫合針の種類、国内製品構成. 原文・製品資料
  5. メーカー資料
    Johnson & Johnson MedTech. Ethicon Suture Needles. 針の設計・選択に関する製品情報. 原文・製品資料
  6. メタ解析
    Jalalzadeh H, et al. Triclosan-Containing Sutures for the Prevention of Surgical Site Infection: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Netw Open. 2025;8:e250306. 原文・製品資料
  7. 国内電子添文
    PDS プラス 電子添文. 2024年3月改訂第5版. 承認番号22300BZX00333000. 原文・製品資料
  8. メーカー資料
    Medtronic. Biosyn Monofilament Absorbable Suture. 材質、強度保持、吸収、使用上の注意. 原文・製品資料
  9. メーカー資料
    Medtronic. Surgical Sutures Portfolio. Maxonの強度保持と吸収に関する製品情報. 原文・製品資料
  10. メーカー資料
    Johnson & Johnson MedTech. MONOCRYL/Wound Closure Catalog. Poliglecaprone 25の強度保持と吸収期間. 原文・製品資料
  11. メーカー資料
    Ethicon Surgical Solution Japan. PDS PLUS. 抗菌コーティングの製品情報. 原文・製品資料
  12. 国内電子添文
    STRATAFIX Symmetric PDS プラス 電子添文. 2019年11月改訂第2版. 承認番号22800BZX00272000. 原文・製品資料
  13. 国内電子添文
    STRATAFIX Spiral PDS プラス 電子添文. 2019年11月改訂第2版. 承認番号22900BZX00123000. 原文・製品資料
  14. 国内電子添文
    STRATAFIX Spiral PDS プラス Bidirectional 電子添文. 2022年1月第1版. 承認番号30400BZX00016000. 原文・製品資料
  15. メーカー資料
    Medtronic. V-Loc Wound Closure Device. 製品系列、適応、結節と糸端に関する注意. 原文・製品資料
  16. 症例報告
    Bowel obstruction and perforation secondary to barbed suture after minimally invasive inguinal hernia repair: report of two cases and literature review. Surg Case Rep. 2021. 原文・製品資料
  17. RCT
    NIHR Global Research Health Unit on Global Surgery. Reducing surgical site infections in low-income and middle-income countries (FALCON): a pragmatic, multicentre, stratified, randomised controlled trial. Lancet. 2021;398:1687–1699. 原文・製品資料
  18. 国内指針の公開目次
    日本外科感染症学会編. 消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2025. 診断と治療社. CQ7-2の収載は出版社公開目次で確認(本文の推奨強度は本記事では未転記). 原文・製品資料
  19. RCT
    Ruiz-Tovar J, et al. Incisional Surgical Site Infection after Abdominal Fascial Closure with Triclosan-Coated Barbed Suture vs Triclosan-Coated Polydioxanone Loop Suture vs Polydioxanone Loop Suture in Emergent Abdominal Surgery: A Randomized Clinical Trial. J Am Coll Surg. 2020;230:766–774. 原文・製品資料
  20. メタ解析
    Babtain HW, et al. Barbed versus traditional sutures in primary total knee arthroplasty: systematic review and meta-analysis of clinical outcomes and wound-related complications. J Orthop Surg Res. 2026. Published 28 June 2026. 原文・製品資料
  21. 後ろ向き比較
    Efficacy of Triclosan-Coated Barbed Sutures for Fascial Closure in Colorectal Surgery. J Surg Res. 2026;322:171–177. PMID:41985238. 原文・製品資料
  22. RCT
    Sundaram K, et al. Barbed sutures reduce arthrotomy closure duration compared to interrupted conventional sutures for total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Musculoskelet Surg. 2021;105:275–281. Online 2020. 原文・製品資料
  23. RCT
    Deerenberg EB, et al. Small bites versus large bites for closure of abdominal midline incisions (STITCH): a double-blind, multicentre, randomised controlled trial. Lancet. 2015;386:1254–1260. 原文・製品資料
  24. RCT
    Kobayashi S, et al. Randomized clinical trial of skin closure by subcuticular suture or skin stapling after elective colorectal cancer surgery. Br J Surg. 2015;102:495–500. 原文・製品資料
  25. RCT長期追跡
    van den Berg R, et al. Small Bites vs Large Bites for Closure of Abdominal Midline Incisions: A Randomized Clinical Trial. JAMA Surg. 2026;161:566–573. 原文・製品資料
  26. 診療指針
    ECLAPTE: Effective Closure of LAParoTomy in Emergency—2023 World Society of Emergency Surgery guidelines for the closure of laparotomy in emergency settings. 原文・製品資料
  27. RCT
    Lee YJ, et al. Effect of fascial closure using barbed sutures on incisional hernias in midline laparotomy for gynecological diseases: A multicenter randomized controlled trial (KGOG 4001). PLoS One. 2025;20:e0337036. 原文・製品資料
  28. 試験計画
    HIBISCUS trial (hernia incidence with continuous barbed vs interrupted suturing in colorectal surgery with small incisions): a contemporary study protocol for a multicenter randomized controlled trial. BMC Surg. 2026. jRCT1040250129. 原文・製品資料
  29. 系統的レビュー
    Blunt versus sharp suture needles for preventing percutaneous exposure incidents in surgical staff. Cochrane Database Syst Rev. 2011. PMID:22071864. 原文・製品資料
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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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