CVポート留置の完全解説|大胸筋筋膜上のポケット、頸胸部トンネリング、局所麻酔と神経解剖

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CVポート留置を「層」と「痛み」から理解する

大胸筋筋膜上のポケット/内頸静脈からのトンネリング/局所麻酔の組成・量/皮神経支配/合併症回避

「大胸筋上に置く」と言われても、浅筋膜上なのか、深筋膜上なのか、筋膜の下なのかは曖昧なままになりやすい。頸部穿刺は痛くないのに胸部のポケット剥離で強く痛む患者もいる。さらに、トンネルに生理食塩水を入れるのか、キシロカインを混ぜるのか、どれほどの量を使うのかは教科書で整理されにくい。

本稿では胸壁留置型の完全皮下埋込型中心静脈ポート(CVポート)、特に内頸静脈穿刺・前胸部ポケット法を中心に、術野解剖、麻酔、トンネリング、留置・閉創、困ったときの判断を検討する。日本IVR学会のガイドラインと海外の近年の手技提案を基盤とするが、個々の薬液配合・注入量には統一された推奨がない点を明確にする。最終更新:2026年10月24日。

最初に4つの結論

① 通常の胸部ポートは大胸筋筋膜(深筋膜)の表側にある皮下組織に置く。② 胸部の「浅筋膜」は個人差が大きく、腹壁のScarpa筋膜をそのまま対応させない。③ 内頸静脈からのトンネルは鎖骨上神経(C3–4)と前胸部の肋間神経皮枝(主にT2–5)の領域を通る。④ hydrodissectionは生食単独も局麻薬併用もあり得るが、麻酔薬の総mgと分布、筋膜側までの鎮痛が重要である。

目次

ポートは「大胸筋上」のどの層に埋めるのか

皮膚から深部へ、①表皮・真皮、②浅い皮下脂肪と線維性隔壁、③深い皮下組織、④大胸筋筋膜(pectoral fascia)、⑤大胸筋の順に考える。大胸筋を包む大胸筋筋膜は深筋膜である。筋膜の表面に形成する皮下ポケットは、大胸筋の実質に入らず、ポートを支える強固な床を得やすい。日本のガイドラインは「皮下ポケット」を基本とし、必要時には皮下脂肪や大胸筋筋膜への固定を記載している[1]。

図1|前胸部ポートの「深さ」を断面で理解する皮膚(表皮)真皮皮下脂肪・線維性隔壁浅筋膜系(胸部では不定)深部皮下組織:ポート本体大胸筋筋膜=深筋膜大胸筋(筋実質)基本:深筋膜の上、筋肉には入れない
模式図。浅筋膜系の層は胸部では必ずしも明瞭でなく、実際の皮下厚・筋膜の見え方には個人差がある。

「浅筋膜上」か「深筋膜上」か、という問いへの答え

剥離面 評価 理由と注意点
浅筋膜より表層/真皮直下 通常は浅すぎる 皮膚の緊張、圧迫壊死、露出の懸念。浅筋膜自体の境界は一定でない。
大胸筋筋膜より表層の皮下 標準的な考え方 適切な皮膚被覆と穿刺しやすい深さを両立。深筋膜を床として利用できる。
大胸筋筋膜の下・大胸筋表面(subfascial) 選択的な変法 高度るい痩などで被覆不足を補う目的。通常皮下法より必ず優れると示されたわけではない。
大胸筋筋内・大胸筋下 特殊な再建・例外 筋損傷や穿刺困難、疼痛などを踏まえる必要がある。通常の初回留置と同一視しない。

前胸部には皮下脂肪を分ける線維性膜が存在するが、腹壁のCamper・Scarpaを胸部に機械的に当てはめるべきではない。乳房では浅筋膜系の前葉・後葉や乳腺後隙が記述され、その解剖は部位・性別・乳房の発達によって変わる[2]。手術では名称よりも、皮膚側に残る組織厚、ポートに触れやすいか、筋膜の強度、出血する穿通枝があるかを重視する。

薄い皮下組織ではどうするか

高度るい痩の患者に通常のポートを浅く置くと、角が浮き上がり、皮膚が菲薄化して潰瘍・露出につながり得る。低背のポートを選ぶ、皮下被覆が得られる別位置を選ぶ、上腕ポートを検討するなどの工夫が先になる。2026年の単施設後ろ向き研究ではBMI18.5未満かつ予定部位皮下脂肪厚5mm以下の188例に、大胸筋表面の筋膜下ポケットを作成し、露出2例(1.06%)、ポケット感染4例(2.13%)と報告した。ただし比較対照群がなく、追跡6〜12か月の観察研究であり、標準術式を置き換える根拠とはいえない[3]。

ポケットの「位置・深さ・サイズ」を決める

穿刺する医師ではなく、後日Huber針を扱うスタッフと患者の生活を想像して位置決めする。平坦で指で触れやすい、衣類やシートベルトの持続圧迫を受けにくい、頸部からのカテーテルが急角度で折れない、手術創・感染・放射線照射部位を避けられる、という条件を考える。鎖骨下の数cm付近を候補とすることが多いが、骨格や乳房、皮下厚により定型的距離に拘泥しない。

皮膚側の被覆を厚く保ち過ぎると穿刺困難となり、薄過ぎると皮膚障害や露出が増える。単一の理想の「皮下何mm」という値はすべての器材・患者に適用できない。上海コンセンサスではポケットの被覆厚0.5〜1cmを一つの目安としているが、普遍的な最適値を検証した比較試験ではない[4]。形状に対して過剰に広いポケットは回転・移動や漿液腫を招く。器材と一致する大きさで剥離し、必要ならデバイスの縫合孔から大胸筋筋膜・丈夫な皮下組織に固定する(固定の必要性と方法は製品指示に従う)。

女性の乳房発達、乳癌術後・腋窩郭清後、照射、ペースメーカー、胸部瘢痕、凝固異常、予定の胸部手術などを確認する。内頸静脈経由なら頸部創からポケットまでの軌道も、静脈穿刺前に皮膚上で描いておく。

頸部〜胸部の痛みは、どの神経が運ぶのか

皮膚麻酔の届く範囲と剥離痛は必ずしも一致しない。局所麻酔を設計するときには、皮膚切開部、皮下トンネル、筋膜直上のポケット床を分けて考える。

図2|頸部・鎖骨周囲・前胸部:どこが痛むか頸部の皮膚C2–C3 など鎖骨~上胸部C3–C4 鎖骨上神経前胸部主に T2–T5 肋間神経● 内頸静脈穿刺部━━ 皮下トンネル■ ポートポケット神経支配は重なり、境界線は固定ではない「皮膚だけの局麻」ではポケット剥離痛が残る
前面模式図(内頸静脈経由の例)。皮膚知覚領域を概念的に着色しており、正確なデルマトーム境界を示すものではない。
部位 主に関与する神経 実際に気にする痛み
頸部穿刺部 頸神経叢の皮枝(横頸神経C2–3、周辺は鎖骨上神経C3–4など) 穿刺・皮膚切開、皮下拡張。深部の血管周囲操作痛は皮膚支配だけでは説明できない。
鎖骨・鎖骨直下 鎖骨上神経C3–4(内側・中間・外側枝) トンネル作成時の引きつれ、皮下の鈍い剥離痛。
前胸部ポケット 主に肋間神経T2–5の前皮枝・外側皮枝(上部ではC3–4との重なり) 切開、皮下脂肪・線維隔壁の剥離、筋膜面を牽引する痛み。
大胸筋筋実質・深部 内側・外側胸筋神経(主に運動性、侵害受容線維もあり得る)等 筋膜下へ深く進む場合の筋・筋膜の痛み。胸筋神経を皮膚知覚の主役と誤認しない。

この分布は絶対的な線引きではない。鎖骨の下をすべて「肋間神経領域」と考えると、鎖骨上神経の関与を見落とす。逆に、浅頸神経叢ブロックをしたから胸部ポケットまで完全に無痛になるわけではない[5]。

神経ブロックを使う価値は?

2019年の前向き無作為化比較研究(100例)では浅頸神経叢ブロック+超音波穿刺群と、局所浸潤+ランドマーク穿刺群を比較し、疼痛VASは2.62対4.04だった。一方、静脈穿刺法や所要時間も異なり、ブロックだけの効果を分離できない。合併症はむしろブロック群が多く、手技を無条件に推奨する結果ではない[6]。通常のCVポートでは各操作部位への段階的な局所浸潤が実用的で、特殊な高疼痛症例では麻酔科と区域麻酔を検討する。深い頸神経叢ブロックは横隔神経麻痺などの別のリスクを伴うため、単純な代用法ではない。

トンネリング時に何を、どこへ、何mL注入するか

ここが最も「施設の流儀」が混在する部分である。局所麻酔薬による鎮痛と、液体で皮下組織を開くhydrodissection(液体による剥離補助)を区別する。生理食塩液だけなら液体剥離にはなるが鎮痛作用はない。局所麻酔薬を薄めて流すと、トンネル全体への広がりが期待できる。ただし、どちらが優れるか、何mLが最適かを比較した質の高いCVポート特異的な試験は乏しく、配合は施設で統一したプロトコルを優先する。

海外のIVR麻酔実践レビューではポート/トンネルカテーテルに、ポケットとルートを含め30mL以上の局麻液を使用する施設例が紹介され、エピネフリン添加リドカインを止血目的で用いると記載されている[7]。近年のSIC-Port手技では、局麻薬または生理食塩液でhydrodissectionを行い、鈍的にポケットを形成することを提案している[8]。いずれも「30mLの1%キシロカインを入れるべき」という意味ではない。

組成・投与量の計算例(成人、エピネフリン無添加)

術者が局所麻酔量をイメージするための一例として、内頸静脈穿刺部に1%リドカイン3mL、胸部切開・皮下ポケットに1%リドカイン7mL、トンネルに1%リドカイン5mL+生理食塩液15mL(計20mL、0.25%)という配分を考える。頸部30mg+胸部70mg+トンネル50mg=総量150mgで、注入液は計30mLとなる。この配分はRCTで検証された推奨処方ではなく、患者の体格、刺入経路、皮下組織厚、剥離範囲、実際の疼痛により増減する。0.25%で十分な鎮痛が得られるかも部位によって異なる。

図3|希釈と総量の計算:30 mL使っても150 mgに収める例頸部3mL胸部ポケット7mLトンネル 0.25%:20mL1% 5mL+生食15mL30 mg70 mg50 mg合計 1%製剤15mL分=リドカイン150 mg/注入液合計30 mL成人での計算例であり、ポート留置の標準処方・一律の推奨量ではない。低体重・高齢・肝障害等ではさらに減量を検討。浸潤部位ごとに必要量を判断する。
薬液量ではなくリドカインの総mgを計算する。生理食塩液で希釈しても投与したリドカインmgは減らない。
液体の選択 使い方と位置付け 注意点
生理食塩液のみ 局麻を別に施してから皮下に少量ずつ注入し、剥離補助を期待。 痛みは取れない。多量注入は腫脹し位置が見えにくくなる。
希釈リドカイン+生食 トンネルの鎮痛と剥離補助を両立する考え方。 濃度が薄過ぎれば鎮痛不足、総mgは累積計算。
エピネフリン含有リドカイン 血管収縮による術野の出血抑制・作用時間延長を目的に使われる。 製剤ごとの添付文書、患者の循環器リスク、禁忌・相互作用を確認。必須ではない。

日本でのリドカイン投与量の落とし穴

日本のエピネフリン無添加キシロカイン注射液は、1回200mgを基準最高用量とする製剤がある。1%は10mg/mLなので20mL=200mg、0.5%なら40mL=200mgである[9]。海外の資料には体重あたりの上限や総量300mgを提示するものがあるが、国内で使用する製剤の添付文書を優先する。肝機能障害、低体重、高齢、心疾患、既存の他局麻薬投与がある場合は一層保守的に判断する。エピネフリン含有製剤は異なる上限が規定されており、無添加製剤と一律に扱わない。

注入前には必ず血管内への誤注入を疑って吸引確認し、位置を確かめながら少量ずつ投与する。耳鳴り、口周囲のしびれ、金属味、興奮・痙攣、不整脈、低血圧があれば局所麻酔薬全身性中毒(LAST)を考え、投与中止・気道循環管理・救急対応と脂肪乳剤の準備を行う[10]。

「どこに」効かせるかが量以上に重要

  1. 内頸静脈穿刺部:皮膚だけでなく穿刺針が通る皮下・筋膜表層まで、超音波で針先・血管との位置を確認して適切に浸潤する。
  2. 頸胸部のトンネル:あらかじめ描いたルートに沿って、筋膜より浅い皮下層へ数か所に分けて浸潤。鎖骨上の狭い部分は特に皮神経の分布と曲がりを意識する。
  3. ポート皮膚切開線:真皮・浅い皮下に麻酔を置く。早過ぎる大きな膨隆はマーキングの目印を消す。
  4. ポケットの床:大胸筋筋膜直上の剥離する面に適切に浸潤し、皮膚だけが無痛でも深部剥離時に痛くなる事態を避ける。

注射液の温度、注入速度、待機時間、繰り返しの吸引確認も患者の苦痛と安全性に影響する。麻酔が効く前のトンネラー進行は避け、痛みが強ければ停止・位置確認をして局麻追加を検討する。麻酔を増やしても抵抗が異常に強い場合は、誤った剥離層・カテーテル走行をまず確認する。

内頸静脈経由・前胸部ポート:術式を頭から順に

Step 0:術前評価・説明

留置適応(反復化学療法、長期間の静脈栄養、末梢確保困難など)と、予定使用頻度、見込まれる留置期間を確認する。感染徴候、血管閉塞・既存カテーテル、抗血栓薬、出血傾向、皮膚病変、胸部手術歴、照射歴などを整理。頸胸部超音波で候補静脈の開存と動脈・胸膜との位置を確認する[1,8]。

Step 1:体位、静脈とポケットのマーキング

仰臥位で頸部と前胸部を広く露出し、必要に応じて適度なTrendelenburg位を取る。過度な頸部回旋は内頸静脈と頸動脈の重なりを増すことがあるため注意。頸部刺入点、ポート位置、トンネルの弧を一連の線として描く。乳房、鎖骨、皮下脂肪量に合わせて無理のないルートを選ぶ。

Step 2:無菌操作と局所麻酔

十分な手指衛生、キャップ・マスク・滅菌ガウン・滅菌手袋・全身を覆うドレープ・超音波プローブの滅菌カバーを使用。皮膚消毒は禁忌がなければアルコール含有消毒薬が選択肢となる。皮膚・皮下・穿刺経路を段階的に麻酔する[1]。麻酔量の総計を記録する。

Step 3:超音波ガイド下の静脈穿刺

穿刺針先端を連続的に可視化し、動脈と静脈・胸膜を識別して穿刺する。血液逆流の色だけに頼らず、必要に応じ圧波形・血液ガス・超音波で位置を確認する。ガイドワイヤーは無抵抗で進むことを確かめ、抵抗があれば強く押さない。拡張・シース操作前にワイヤーの静脈内走行を確認する。空気塞栓を防ぐため開放系を放置しない。

Step 4:ポケットを作成

前胸部皮膚を切開し、厚みを確認しながら皮下脂肪を鈍的に進める。適切な深さで大胸筋筋膜表面を床とするポケットを器材に合わせて形成する。貫通する皮膚穿通枝や脂肪内の出血点は確実に止血する。ポートが皮膚を押し上げず、胸壁に落ち着き、触診できることを試す。過大ポケットを避ける。

Step 5:頸部→胸部のトンネル形成

局麻または生食によるhydrodissectionを必要に応じ行い、鈍的トンネラーを皮下組織内に沿わせて進める。皮膚を薄く持ち上げるほど表層を通ると皮膚損傷、深すぎると筋膜・筋や血管近傍損傷を招く。鎖骨をまたぐ部分は鋭角の屈曲や圧迫を避け、カテーテルが滑らかに弧を描くよう確認する。穿刺創近くの折れ返りも注意する。

Step 6:カテーテル留置と先端位置の確認

シースやガイドワイヤーの操作は製品IFUに沿い、カテーテル先端は上大静脈下部〜上大静脈右房接合部(CAJ)を目標に、透視・IC-ECG等の利用可能な方法で留置中に位置を確認する。日本のガイドラインでは透視による確認が手順に含まれ、国際的にはIC-ECGやエコーガイドを重視する考え方もある[1,8]。極端に高位の先端や深すぎる心房内留置は避ける。

Step 7:接続・通水確認・固定

体位による距離変化を念頭にカテーテル長を調整してポートへ接続し、ロック機構の完全嵌合を確かめる。Huber針による容易な血液吸引・抵抗のない生食注入、漏出のないことを確認。ポートに可動性が大きい場合は器材指示に従い丈夫な組織へ固定。接続部やトンネルの急角度、皮膚の局所圧迫、捻転を確認する。

Step 8:止血・閉創・終了前チェック

ポケットを洗浄し(薬液は施設標準に従う)、血腫の原因になる滲出を確実に止め、皮膚へ過剰な張力をかけずに閉じる。深部真皮結節埋没と連続皮内埋没は有用な選択肢で、表層の段差・牽引による局所虚血を避ける。閉創の層と運針は「体表の縫合を徹底解説」と併せて読む。必要な画像・超音波で気胸、迷入、カテーテル屈曲や断裂を否定し、デバイス種類と使用可能時期、フラッシュ方法を記録する。

なぜ近年は「内頸静脈以外」のアクセスも議論されるのか

右内頸静脈は超音波での評価が容易で、ポートの頸部→前胸部トンネルを直感的に作成しやすい。一方、鎖骨上をまたぐルートではトンネル長、屈曲、局所疼痛、皮下での目立ちやすさが問題になることがある。

2025年にオンライン公開されたSIC-Portプロトコルは、可能なら超音波ガイド下腋窩静脈アクセスを優先し、前胸部ポートまでの鎖骨越えのトンネリングを避ける戦略を提案する[8]。これは全例の正解を示すRCTではなく、施設の画像ガイド、術者の習熟、局所の解剖、血管径、患者背景で選択する。古典的な鎖骨内側の盲目的穿刺は動脈・胸膜損傷、カテーテルのpinch-offなどを生じ得るため、鎖骨下静脈と腋窩静脈を「同じ鎖骨下穿刺」と雑にまとめないことが重要である。

術中・術後に起こりやすい失敗と対処

場面 まず考えること 予防・再評価
頸部は無痛、ポケットだけ痛い 胸部T2–5皮枝・筋膜直上への浸潤不足 作業停止、剥離層を確認、局麻を追加し待機
トンネルで強い抵抗 浅過ぎる/深過ぎる走行、線維束、向き不良 無理に貫通せず、ルート・層を取り直す
皮膚が白く強く盛り上がる 過度の皮下圧、浅いポケット、局所虚血 ポートサイズ・深さ・皮膚の血流再評価
ポケットの腫脹・血腫 不十分な止血、抗血栓療法、過剰死腔 創閉鎖前の止血、止血困難例は方針を再検討
逆血なし/注入抵抗 先端迷入、屈曲、接続不良、血栓・フィブリンシース 無理に圧入せずポート・カテーテルの構造と画像を確認
化学療法投与時の痛み・腫れ 針の逸脱・接続部漏出・血管外漏出 直ちに投与中止、使用薬に沿う漏出対応
発熱/ポケット発赤 局所感染・ポート関連血流感染 培養と全身評価、使用停止や抜去適応を判断

予防的抗菌薬は全例で投与すべき?

日本IVR学会ガイドラインでは、通常のCVポート留置における一律の予防的抗菌薬は推奨しない(弱い推奨・エビデンス中等度)。早期感染予防効果を示す頑健なデータが乏しく、薬物有害事象や耐性菌を考慮する。ただし高度免疫抑制など個別のリスクでは施設方針と感染制御チームの意見を踏まえて検討する[1]。

術後の使用と管理

ポート穿刺はノンコアリング(Huber)針で行い、最初の使用前に穿刺しやすさ、逆血、漏出のないことを確認する。ロックには生理食塩液またはヘパリン加生食が選択肢となり、製品IFUと使用状況、施設手順を優先する。高圧注入可能かどうかはポート本体と使用針の両方を確認する。術後初期の皮膚虚血・血腫・創部痛と、長期の感染・血栓・先端位置異常を区別してフォローする。

疑問に即答:FAQ

Q. 大胸筋上に置く=大胸筋筋膜の下を剥離すること?

いいえ。通常の胸部ポートは「大胸筋筋膜の表側の皮下ポケット」が基本。筋膜下(筋肉表面)は選択的変法で、同義ではない。

Q. 皮下トンネルには生食だけでいい?

生食はhydrodissectionの補助にはなるが、痛みを取らない。術野の鎮痛が十分なら生食のみを併用する考え方は成立する。トンネルにリドカインを希釈して使う方法もあるが、最適な配合比・液量は確立していない。

Q. 1%キシロカインを30mL使っていい?

無添加1%なら300mgとなり、日本の該当製剤で示される基準最高用量200mgを超える。投与したリドカインの総mgを必ず計算する。希釈液総量30mLと「1%液を30mL」はまったく違う。

Q. ポケット剥離で疼痛が強いのはなぜ?

前胸部では肋間神経の皮枝が関わり、深い剥離では筋膜や結合組織の侵害受容を伴う。皮膚切開線だけの局麻では不足することがある。筋膜直上に麻酔が届いているか、剥離層が適切かを再評価する。

Q. ルートが鎖骨にかかるなら、腋窩静脈経由に切り替えるべき?

腋窩静脈経由は鎖骨越えトンネルを避けられる利点があるが、静脈径・血栓・体形・エコー環境・術者の経験を含め総合判断する。すべての症例で優れていると断定しない。

このテーマのエビデンスはどこまであるか

確度が比較的高い:超音波ガイド穿刺、無菌操作、留置後の機能・先端位置確認。比較データが限られる:ポケットの最適な筋膜面・皮下厚、局麻薬と生食の最良の混合比、患者属性別のhydrodissection量。したがって、局所解剖に基づく安全な判断とデバイスIFU、国内添付文書の用量遵守を結びつけるのが現実的である。

この記事は術者向け教育資料であり、手技の指導・施設手順・各器材の添付文書を代替しない。特に局所麻酔薬の配合例は標準オーダーではなく算術上の具体例である。

参考文献・一次資料

  1. Sugawara S, et al. Guidelines for Central Venous Port Placement and Management. Interv Radiol. 2023;8:105–117. DOI: 10.22575/interventionalradiology.2022-0015 / 日本IVR学会 日本語ガイドライン.
  2. Rehnke RD, et al. Anatomy of the Superficial Fascia System of the Breast. Plast Reconstr Surg. 2018;142:1135–1144. DOI: 10.1097/PRS.0000000000004948(胸部浅筋膜の個体差・乳房の層構造).
  3. Yang D, et al. Supra-pectoralis major implantation of totally implantable venous access ports in emaciated oncology patients. Front Oncol. 2026. DOI: 10.3389/fonc.2026.1836109.
  4. Ding X, et al. Shanghai expert consensus on totally implantable access ports 2019. J Interv Med. 2019. DOI: 10.1016/j.jimed.2019.10.008.
  5. Chin KJ, et al. Ultrasound-guided fascial plane blocks of the chest wall: a state-of-the-art review. Anaesthesia. 2021. DOI: 10.1111/anae.15276.
  6. Akelma H, et al. Local Anesthesia for Port Catheter Placement in Oncology Patients: a prospective randomized study. J Oncol. 2019. DOI: 10.1155/2019/2585748.
  7. Li X, Trerotola SO. Local Anesthesia in Interventional Radiology. Semin Intervent Radiol. 2022;39:381–386. DOI: 10.1055/s-0042-1757342(トンネル・ポケットの浸潤麻酔とhydrodissectionの実践例).
  8. Brescia F, et al. A GAVeCeLT bundle for chest-port insertion: The SIC-Port protocol. J Vasc Access. Online 2025; vol.27, 2026. DOI: 10.1177/11297298251375833.
  9. 厚生労働省 診療報酬情報:キシロカイン注ポリアンプ1% 用法・用量、PMDA 添付文書検索(使用時点で最新情報を確認).
  10. Neal JM, et al. ASRA Local Anesthetic Systemic Toxicity checklist: 2020 version. Reg Anesth Pain Med. DOI: 10.1136/rapm-2020-101986.

本文の図1–3は、公開文献を踏まえて本記事用に新規作成した模式図であり、臨床解剖の完全な再現図ではない。

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この記事を書いた人

外科医・救急科専門医。外傷外科、Acute Care Surgery、救急・集中治療領域の診療と研究に従事しています。外傷性凝固障害、出血性ショック、止血蘇生、大量輸血、腹部外傷を中心に、臨床で使えるエビデンスを解説します。

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